↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なぜか北条早雲こと伊勢盛時になってしまったが、大樹の無茶振りがひどすぎて正直しんどい  作者: 水源
文明9年(1477年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/172

しばらくは経済力をつけつつ様子見かな

 さて、そもそも俺が駿河へ派遣された理由を考えてみれば、今の俺の立場がいかに危ういのかがよく分かる。


 足利義政は、今川義忠の死によって駿河国内の情勢が不安定になったことを警戒していた。


 そして何より、関東管領上杉家の勢力が駿河以西にまで伸びてくることを恐れていたのだろう。


 だからこそ、今川龍王丸の叔父である俺を駿河へ送り込み、東駿河と伊豆を制圧させる。


 そのうえで、古河公方・足利成氏の東海道西進を阻止する。


 それが、俺に与えられた役目だった。


 ――問題は、その役目を果たしすぎてしまったことだ。


 堀越公方の足利政知についてもそうだ。


 政知は自分の子を次の将軍に就けようとする計画を企てていた。


 それが現将軍である足利義政から討伐命令を出された理由とされている。


 だが、その裏で糸を引いていたのは、おそらく日野の兄妹だろう。


 将軍家の権力闘争に、俺まで巻き込まれている。


 そして関東では、長尾景春が反乱を起こした。


 武蔵や相模の国人たちまで長尾景春に同調し、山内上杉顕定と扇谷上杉定正は上野へ逃れるほどの大騒乱になった。


 ところが――。


 その反乱を、太田道灌がほぼ独力で鎮圧してしまった。


 結果として足利成氏は幕府と和睦し、長きにわたって続いた享徳の乱も、ひとまず終結へ向かうことになった。


 ここまでなら、めでたしめでたし……と言いたいところなのだが。


 俺には、どうにも引っかかるものがあった。


「長尾景春にせよ、太田道灌にせよ……結局、上に立つ者が実力を持ちすぎた家臣を恐れた結果なんだよな」


 俺が呟くと、大道寺重時が黙ってこちらを見る。


 俺はそのまま考えを続けた。


 足利義満は、九州探題として赴任させた今川貞世を最終的には遠江の半国守護にまで引き上げた。


 だが、その今川貞世もまた、最終的には中央から警戒される存在になった。


 そして足利義教も、足利義満のやり方を見習うように功臣を粛清している。


 力を持ちすぎた家臣は、主君にとって頼もしい存在であると同時に、恐ろしい存在にもなる。


 そして今、上杉定正によって太田道灌は殺された。


 名目は上杉家に対する謀反。


 だが、本当の理由は――。


 道灌の功績と影響力が大きくなりすぎたからだろう。


「……俺も他人事じゃないな」


 俺がそう呟くと、大道寺重時が苦笑した。


「関東の戦乱を鎮圧し、あれだけの功績を挙げた太田道灌は、最後には主君に殺された。名目こそ謀反だがな」


「ああ」


 俺は頷く。


「それを考えれば、俺もいつ同じ目に遭うか分からん」


「いや」


 大道寺重時は、そこで苦笑を深めた。


「今のお前さんだって、十分にやばいんじゃないか?」


「……やっぱりそう思うか?」


「思うも何も」


 重時は指を折るように数え始めた。


「将軍直属の奉公衆」


 一つ。


「今川龍王丸の叔父であり、その後見人」


 二つ。


「そのうえ駿河守護代として、駿河東部から伊豆まで実効支配している」


 三つ。


「さらに古河公方と対立し、堀越公方まで潰している」


 四つ。


「……そして今や、伊豆の国人までお前さんの麾下だ」


 最後の言葉に、俺は頭を抱えた。


「改めて並べられると、洒落にならんな」


 風魔小太郎も、横で静かに頷いた。


「しかも殿は、今の関東で名を上げている太田道灌に勝るとも劣らぬほどの御仁」


「いや、俺と道灌を比べるのはやめてくれ」


 思わずそう返したが、小太郎は首を横に振った。


「そうは申されましても、周囲から見れば同じようなものかと」


「……」


 否定できない。


 むしろ、俺の場合は道灌より立場がややこしい。


 将軍直属の奉公衆でありながら、今川龍王丸の後見人。


 さらに駿河守護代でもある。


 つまり、将軍の家臣でありながら今川家の一門でもある。


 しかも、俺自身の領国とも呼べる伊豆まで持っている。


 ――これで功績まで積み上げている。


 確かに、主君から見れば警戒されてもおかしくない。


「まあ……そう考えると、関東の戦乱が終わった瞬間に『もう用はない』と粛清される可能性もあるか」


 俺が冗談めかして言うと、小太郎は真顔で答えた。


「その可能性を完全には否定できませんな」


「おい」


 冗談じゃなかったのか。


 だが、小太郎はそこで言葉を続けた。


「とはいえ、まだ関東の戦火は収まりそうにありません」


「……そうだな」


 俺は頷いた。


 太田道灌を謀殺したことで、むしろ関東は新たな火種を抱えている。


 道灌の子である太田資康。


 道灌によって服属させられていた国人たち。


 そして次は自分たちが粛清されるのではないかと恐れる上杉家の家臣たち。


 彼らの多くが扇谷上杉家から離反し、山内上杉顕定のもとへ走った。


 その結果――。


 扇谷上杉定正は、すでに苦境に立たされている。


「普通なら、ここで遠交近攻だよな」


 俺は地図へ視線を落とした。


 敵対している山内上杉と手を組み、扇谷上杉を叩く。


 それが一番分かりやすい。


 だが――。


「俺には、それができない」


 理由は単純だった。


 俺はすでに、山内上杉の守護領国だった伊豆を奪っている。


 守護代の宇佐美貞興――いや、定興だったか。


 それに下田代官の関戸吉信。


 彼らを討ち取るか、自害に追い込んでまで伊豆を制圧した。


 山内上杉から見れば、俺は自分たちの領地を奪った仇敵そのものだ。


 しかも、国力を比べれば話にならない。


 山内上杉の領国と、俺が支配する伊豆では規模が違いすぎる。


 そんな相手と組めば――。


「扇谷上杉が滅んだら、次に狙われるのは俺だろうな」


「その可能性は高いでしょう」


 小太郎が即答した。


 だからこそ、俺は腹を決める。


「結局、史実と同じように扇谷上杉を助けるしかないか」


 山内上杉と戦うために、扇谷上杉を利用する。


 いや。


 利用されるのは、こちらも同じだろう。


 互いに相手が必要だからこそ、手を組める。


 それならば、今のうちに準備しておくしかない。


「まずは伊豆をもっと豊かにする」


 俺は地図の伊豆半島へ目を向けた。


 幸い、伊豆には鉱山がある。


 金。


 銀。


 銅。


 これらを本格的に採掘し、貨幣として流通させる。


 そして駿河や相模だけではなく、遠くの地域とも交易する。


 兵を増やすだけでは駄目だ。


 戦には兵糧が必要で、兵糧を買うには金が必要だ。


 金があれば武器も買える。


 船も造れる。


 城も築ける。


 つまり――。


「戦争に勝つためにも、まずは金を稼がないとな」


 俺がそう言うと、大道寺重時が呆れたような顔をした。


「天下取りの話をしていたと思ったら、結局は金の話か」


「当たり前だろ」


 俺は即答した。


「金がなければ戦はできん」


 綺麗事だけでは国は守れない。


 太田道灌ほどの名将がいても、主君との関係が崩れれば殺される。


 ならば俺は、同じ轍を踏まない。


 軍事力だけではなく、経済力を持つ。


 俺を消せば、その利益まで失う。


 そう思わせるくらいの力を持たなければならない。


「……まあ、そういう意味では、まだまだ俺にはやることがあるな」


 伊豆の鉱山開発。


 貨幣の鋳造。


 交易路の整備。


 港の発展。


 そして軍備の増強。


 やることはいくらでもある。


 ――もっとも。


「場合によっては、東より先に西へ行くことになるかもしれんが」


 俺は駿河の西へ視線を移した。


 今川家にとって、遠江奪還は悲願だ。


 そして遠江のさらに西には、東三河がある。


 今川家の勢力拡大を考えれば、こちらへの出兵を求められる可能性も十分にある。


「伊豆で山内上杉と戦う前に、遠江や東三河へ出兵……なんてことになったら、本当に休む暇がないな」


 俺がぼやくと、重時が笑った。


「お前さんの場合、今さらじゃないか?」


「……まあ、それもそうか」


 俺は苦笑する。


 関東の戦乱。


 今川家の内紛。


 古河公方。


 山内上杉。


 扇谷上杉。


 そして伊豆と遠江。


 俺の周囲には、いくらでも戦の種が転がっている。


 だからこそ――。


 太田道灌のように、功績を積みすぎたから殺される。


 そんな結末だけは避けたい。


 そのためにも、俺は力を持たなければならない。


 軍事力だけではない。


 金も。


 領地も。


 交易も。


 そして、俺が消えれば困ると思わせるだけの利を生み出す。


「……粛清される側ではなく、残る側にならないとな」


 俺はそう呟き、再び伊豆の地図へ目を落とした。


 戦国の世で生き残るために必要なのは、強さだけではない。


 ――強すぎても、危険なのだ。


 ならば。


 俺は、強さを見せながらも、消せない存在になればいい。


 そのための戦いは、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。