風魔に蕎麦栽培の技術指導とまずは駿河の市場での蕎麦の調理販売許可をだして抱えこむ事に成功したぜ
さて、伊豆の国人の切り崩しとともに足柄の風魔を傘下に入れるのは大事だろう。
駿河国内では清水や沼津の湊の整備を焼津の小川湊同様に行い、そういった場所の権利の根本は俺自身が握りつつも、地元の国人に実際の津料や市座料の徴収を代行させて、一部は彼らの利益とすることや緑茶栽培を行う土地を広げさせて、茶葉を買い付けて上方に送ることで、地元の国人に俺に従うメリットを作り上げたことで、駿河については問題なく治まっている。
ここで国人の権利を取り上げて直轄地化してしまったほうが後々は楽かもしれないが現状では中央から派遣されてきたよそ者の俺がそうしようとすればあっという間に国人はみな敵に回るだろう。
もし直属の武力が十分であれば無理すればそれも出来ないこともないかもしれないが、今度は代官などが全くいない状態であれば統治できる場所が減るだけでメリットがあるとも思えないしな。
伊豆半島も駿河東部同様に富士や箱根、伊豆大島などの火山灰土が主な土地な上に平地が殆どないから農業には向かないという点では足柄とさほど変わらないとも言えるが、伊豆の場合は周囲が海なのでまだ漁業や交易中継点として発展可能という点では、山奥で一応東海道ではあるものの現状では箱根峠ほど主要な場所ですらない足柄よりはまだだいぶましだ。
もっとも建武2年(1335年)におこなわれた足利尊氏と新田義貞の合戦である箱根・竹ノ下の戦いの竹ノ下側の主戦場になっていたりすることでもわかるが、この時代では足柄峠は、箱根峠よりも道が緩やかで通行しやすいので比較的まだ利用されているのだが。
そして足柄は駿河と相模の境界でもあり軍事的にもここを抑えることは重要である。
「とりあえず足柄は先に押さえておこう」
「うむ、美味い蕎麦も出来たしな」
というわけで俺は護衛の兵を率いて足柄の風魔を傘下にひき入れるべく現地へ赴いた。
「おい、お前らとまれ」
そして峠の関所らしき場所でそう声を投げかけてきた者がいたがおそらく風魔の一党だろう。
「うむ、俺は駿河の守護代である伊勢盛時だ。
風魔の長と話をしたくここへ参った」
「なんだと?
しばし待つがいい」
そう言うと他の男が奥へ走って行ってやがて戻ってきた。
「小太郎様がお会いになるそうだ」
「わかった」
俺達が案内役の男の後についていくと比較的大きな屋敷に案内された。
「駿河の守護代様がこんな山奥に一体何のようだ?」
「うむ、お前さん達に俺の下についてもらいたいと思っいてな。
無論それなりの見返りは用意する」
「その見返りって言うのは一体何なんだ?」
「この土地でもおそらく育つ蕎麦の適切な栽培方法と、それを美味しく食べるための方法。
そして駿河の市や近くの戦場での蕎麦の販売許可だ」
「ふむ、俺たちに飯の種をくれるってのか」
「うむ、どうしても従いたくないというのであれば、また他の方法を考えざるをえないが」
「………。
そうすることによって女子供が食うに困らねえようになるなら、あんたに従ってもいい」
「うむ、そう言ってくれるなら助かるよ」
彼らは生活のために狩猟や採取もしているが、実際は足柄を通る者たちからの通行料を取るという山賊稼業がメインだろうしな。
この時代の海賊や湖賊が強制的に通行料を取る代わりにある程度は道中の安全を保証するように山賊も通行料を取る代わりに道中でそいつらからさらに金を取るようなことは基本的にはしない。
それをやれば誰も人が通らなくなるからな。
だからこそそれに変わる飯の種が有れば従いやすくもなるのだと思う。
風魔はおそらく定住することなく狩猟採集によって生活する山窩の系譜、または古墳時代に渡来して帰化した農耕騎馬民族系大陸民族の系譜であるともいわれている。
もともとは修験道から生まれた戸隠流忍術やその系譜である伊賀忍術や甲賀忍術に比べると薬草知識などはあまりなく、風魔は放火、流言飛語、偵察、掠奪などの荒事が得意であったらしい。
風魔は基本的には隠密的な諜報員ではなく派手な破壊工作員だったわけだな。
まあそういう要員もたしかに必要だが、流れ巫女のような草も大事なのでそれはそれで育てていこうと思う。




