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なぜか北条早雲こと伊勢盛時になってしまったが、大樹の無茶振りがひどすぎて正直しんどい  作者: 水源
文明3年(1471年)

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しばらくは駿河の小川城で焼津の発展を手助けするか

 さて。


 今川義忠の不慮の討ち死にから始まった家督争い――後に「文明の内訌」と呼ばれることになる騒動も、ひとまずは収まった。


 現在、龍王丸と、その母である俺の姉・北川殿は、駿河の小川城に滞在している。


 もっとも、小川城と言っても、後世の人間が想像するような立派な城ではない。


 元々は「法永長者屋敷」と呼ばれていた程度の場所である。


 そんな場所で、俺は龍王丸母子を保護してくれた人物と向き合っていた。


「この度は、我が姉と甥を保護していただき、ありがとうございました」


 俺が頭を下げると、法永長者こと長谷川政宣は穏やかに笑った。


「いえいえ。これも御仏の導きというものでございましょう。林双院の住職は、そちら様の身内のようなものでございますゆえ」


 長谷川政宣。


 “山西の有徳人と聞えし”と評されたほどの有力国人であり、財力もかなりのものを持つ人物だ。


 そんな彼が危険を顧みず龍王丸母子を保護してくれたのは、林双院の住職である賢仲繁哲から頼まれたからだという。


 そして、この賢仲繁哲という人物がまた面白い。


 備中伊勢氏と類縁の人物。


 つまり、俺たちの親戚筋にあたる。


 彼が出家した備中の草壁庄にある洞松寺と、備中伊勢氏の氏寺である法泉寺は、どちらも曹洞宗大源派。


 こうして考えてみると、人の縁というものは本当に不思議なものだ。


 ――まあ、さらに言えば。


 長谷川政宣の子孫には、後世に『鬼平犯科帳』で有名になる長谷川平蔵がいる。


 ……なんとも妙な縁である。


「それにしても、少し見ない間に随分と偉くなったのね」


 そんなことを考えていると、姉上が龍王丸を抱きかかえたまま、こちらを見て笑った。


「まあ、元服してから京で色々やりましたからね」


 俺が苦笑すると、姉上は龍王丸の顔を覗き込む。


 龍王丸は、そんな大人たちの話など知ったことではないと言わんばかりに、すやすやと眠っていた。


「それにしても、この辺りは思っていたより随分と栄えているのですね」


「ええ。ここは色々なものが重なっている場所みたいね」


 姉上の言葉に、俺も改めて周囲を見渡した。


 焼津。


 ここは、かなり面白い土地だ。


 まず、焼津湊。


 駿河湾は岸近くから比較的水深が確保できるため、漁業だけではなく海運の中継地点としても利用しやすい。


 さらに瀬戸川、小石川、黒石川などの中小河川が流れている。


 水が確保できるということは、農業にも向いているということだ。


 そして焼津神社。


 その歴史は非常に古く、古代からこの地に存在している。


 加えて東海道沿いに位置しているため、人や物が行き交う宿場としての機能もある。


 港。


 漁業。


 農業。


 街道。


 そして門前町。


 これだけの条件が揃っているのだから、豊かになる土台は十分にある。


「なるほどな……」


 俺は思わず呟いた。


 ここは、まだまだ伸びる。


 だったら――。


「ともかく、この場所の発展には俺も協力しましょう」


「そうしてもらえると助かるわね」


 姉上はそう言って、眠っている龍王丸を見た。


「この子のためにも」


「……そうですね」


 今はまだ、誰も知らない。


 この腕の中ですやすや眠っている幼子が、将来、今川家の勢力を大きく伸ばすことになるなど。


 おそらく、ここにいる人間の中で分かっているのは――。


 母親である姉上と、俺くらいだ。


 だからこそ。


 この子が成長するまでに、できるだけ強い土台を作っておきたい。


 そう考えると、やることはいくらでもある。


 残念ながら、焼津は大阪のような入浜式塩田には向いていない。


 塩田による収益を期待するのは難しいだろう。


 だが、木綿栽培なら可能性がある。


 農地を広げる余地もある。


 河川を整え、湿地や荒地を開発することもできる。


 港を整備して物流を増やすこともできる。


 つまり――。


 まだまだ、この土地は豊かにできる。


「まずは治水開墾から始めるとするか」


 俺がそう言うと、横にいた大道寺重時も頷いた。


「まあ、それが無難だろうな」


「水を治めて農地を増やす。食料が増えれば、人も増える」


「そして食料が確保できれば、兵の維持も楽になる」


「そういうことだ」


 俺は頷いた。


 戦国の世において、兵を集めるにも、兵を養うにも、結局のところ必要になるのは食料だ。


 米。


 麦。


 雑穀。


 大豆。


 木綿。


 それらを安定して生産できる土地を増やす。


 そして余った物を港から外へ運び、必要な物資を買い入れる。


 その循環ができれば――。


 焼津は、ただの一地方の湊町では終わらない。


「さて……まずは、この辺りの地形を調べるところからだな」


 俺がそう呟いた、その時だった。


「地形を調べる?」


 大道寺重時が怪訝そうな顔をする。


「まさか、また何か妙なことを考えているのではあるまいな?」


「妙なこととは失礼な」


「京でも大阪でも、似たようなことを言って大工事を始めただろうが」


「……」


 反論できない。


 姉上もそんな俺たちを見て、くすくすと笑っている。


「まあ、あなたが動くと、何かが大きく変わるのはいつものことでしょう?」


「姉上まで……」


 俺はため息をついた。


 だが、すぐに笑みが浮かんだ。


 せっかく与えられた機会なのだ。


 龍王丸が成長するまでに、この土地を少しでも豊かにしておく。


 それが、今の俺にできることだ。


「よし。まずは川を見に行こう」


 こうして。


 駿河・焼津の本格的な開発が、始まることになった。

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