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なぜか北条早雲こと伊勢盛時になってしまったが、大樹の無茶振りがひどすぎて正直しんどい  作者: 水源
文明2年(1470年)

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政治と酒宴は切っても切り離せない理由がよくわかったよ

さて、年が明けた。


 文明二年――一四七〇年の元旦である。


 そして今年から、俺は殿上人の隅の隅ではあるものの、正式に殿上公家として扱われることになった。


 そのため、元日の小朝拝にも参加することになった。


「……本当に俺が、ここにいていいのか?」


 思わず、そんな言葉が漏れる。


 清涼殿が使えないため、今年の小朝拝は花の御所で行われている。


 今上陛下は御椅子に着座され、大臣から六位蔵人までが官位・位階に応じて三列に並ぶ。


 大臣。


 公卿。


 そして四位、五位、六位の殿上人たち。


 その中に俺もいる。


 もちろん、末席も末席だ。


 俺の前には、これまで歴史の教科書でしか名前を見たことのないような人物が並んでいる。


 そんな場所に自分がいるというのだから、いまだに現実感がない。


 やがて大臣から蔵人頭を通じて、参内した者たちが奏上される。


 そして母屋の御簾が垂れ、今上陛下が出御される。


 御椅子に着座された陛下へ、最前列の公卿から順に拝謁していく。


 これが小朝拝。


 それが終われば、元日節会へと移っていく。


 まず行われるのは「諸司奏」。


 諸国から届けられた豊作の吉兆などを奏上する。


 続いて陰陽寮が七曜暦を献上し、宮内省による氷様が行われる。


 氷室に納めておいた氷を取り出し、その厚さを確認する儀式だ。


 厚ければ厚いほど吉兆。


 さらに腹赤贄という、鱒を用いた儀式が続く。


 そして今上様が出御され、群臣が饗座につく。


 三献の儀を終えれば――。


 ようやく宴の始まりだ。


「……長い」


 思わず心の中で呟いた。


 だが、本当に大変なのはここからだった。


「これはこれは、駿河介六位蔵人殿」


「今年もよろしくお願いいたしますぞ」


「さあ、一献」


「どうぞ、こちらも」


「いや、私は……」


「遠慮なさらず」


 次から次へと、公家たちがやって来る。


 そして、そのたびに酒を勧められる。


 どう考えても、俺はこの中では一番下っ端だ。


 本来なら、誰からも見向きされない。


 ところが――。


 今回の元日節会を実質的に復活させるために動いたのが俺だということが知られている。


 そのせいで、あちこちから声がかかる。


「駿河介六位蔵人殿、こちらへ」


「いやいや、こちらにも一献」


「ぜひとも今度、我が邸へお越しください」


 ……酒が減らない。


 むしろ増えている。


 俺は酒を飲むために来たわけではない。


 なのに、気がつけば死ぬほど酒を飲まされていた。


 だが――。


 こういう場では、酒そのものが目的ではない。


 酒宴と政治は、切っても切れない関係にある。


 酌をしながら軽く話をする。


 その話がきっかけになって、自邸へ招かれる。


 あるいは寺や遊郭など、公界――政治的なしがらみから少し離れた場所で、改めて話をする。


 そうやって少しずつ、人間関係を作りながら政治を動かしていく。


 特に今の京では、それが重要だった。


 たとえば日野家と三条家。


 あるいは近衛家。


 それぞれに思惑があり、決して仲が良いわけではない。


 だからこそ、俺を自分の側へ引き込もうとしてくる。


 そんな中で、日野勝光が俺のところへやって来た。


「駿河介六位蔵人殿、今年もよろしく頼むぞ」


「こちらこそ」


 互いに酒を口にしたところで、俺は声を落とした。


「実は、細川右京大夫様は、もう戦を終わらせたいと考えられているようです」


「……ほう」


 日野勝光の目が細くなる。


「それは良いことである」


「ですので、今上様より正式な和議の勧告を行っていただければと思っています」


「うむ」


 勝光は少し考えてから頷いた。


「その話、しかと伝えておこう」


「ありがとうございます」


 これで一つ。


 だが、まだ足りない。


 俺は西軍側にも同じ話を持ちかけた。


 相手は正親町三条公治。


「赤入道様も、もはや争いを終わらせたいとお考えのようです」


「ふむ」


 公治は杯を置いた。


「争いが長引くのは、我々とて好むところではない」


「ですので、こちらも今上様より正式な和議の勧告を行っていただければと」


「うむ。話はしておこう」


 こちらも、話は通った。


 細川勝元も。


 山名宗全も。


 少なくとも、戦そのものを終わらせたいという意思はある。


 ならば――。


 あとは、公家たちが動いてくれればいい。


 俺が双方の意向を伝えることで、


「それならば、今上様にお伝えしよう」


 という流れになってくれた。


 これは助かった。


 だが。


「……問題は、その後なんだよな」


 俺は小さく呟いた。


 戦が終われば、それで全部解決するわけじゃない。


 むしろ――。


 そこからが本当の戦いになる。


 政治的には東軍が有利。


 軍事的には西軍が有利。


 どちらも、戦後の主導権を簡単に手放すとは思えない。


 となれば、和議そのものよりも、その後の政治のほうが難しい。


 俺はため息をついた。


 政治というのは、本当に面倒だ。


 そもそも、なぜ政治家が密室の料亭や寺、遊郭などで話し合うのか。


 理由は単純だ。


 誰と誰が会ったのか。


 そして、どれくらいの時間話していたのか。


 それを全部知られてしまえば、政治的な調整ができなくなるからだ。


 だから、あえて人目につかない場所を使う。


 寺や遊郭には部屋がいくつもある。


 同じ建物の中で、別々の部屋を使って複数の会合を開くこともできる。


 宴の途中で席を抜け、別の部屋で話をして、何食わぬ顔で元の宴へ戻る。


 そんなこともできる。


 逆に、自邸で堂々と会えば、


「この二人は同じ派閥だ」


 と見られてしまう。


 それでも構わない場合なら自邸で会えばいい。


 だが、まだ利害関係を調整している段階なら、そんなことはしない。


 政治なんて、そんなものだ。


 ある案件では協力できる。


 だが、別の案件では絶対に協力できない。


 敵だからといって、何もかも敵とは限らない。


 味方だからといって、何もかも味方とも限らない。


 結局のところ政治とは、人それぞれの欲望や希望をどうやって調整するかという作業なのだ。


「……本当に面倒臭いな」


 酒の入った頭で、俺はしみじみと思う。


 だからこそ――。


 間に入れる人間が必要になる。


「まあまあまあ。そういきり立たないでください」


 そんなことを言って、


「お互いに妥協できるところを探しましょう」


 と話を続けられる人間。


 そういう調整型の公家が、きちんと間に入ってくれれば。


 ひょっとすると、この戦は終わらせられるかもしれない。


 ただし――。


 戦を終わらせることと、戦後の政治をまとめることは、まったく別の話だ。


 俺は空になった杯を見つめた。


「……今年も、忙しくなりそうだな」

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