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なぜか北条早雲こと伊勢盛時になってしまったが、大樹の無茶振りがひどすぎて正直しんどい  作者: 水源
文明元年(1469年)

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京都市街が主戦場ではなくなってきたから神社の復興に取りかかるか

 相国寺の戦いをはじめとする市街戦によって、内裏や花の御所、公家・守護の屋敷、寺社が立ち並ぶ上京は壊滅的な被害を受けた。


 しかし、今川義忠らが駿河へ帰国する頃になると、京の市街で大規模な戦闘はほぼ終息していた。


 もちろん戦が終わったわけではない。洛外ではなお両軍が睨み合い、小競り合いも続いている。


 それでも、市中で兵が陣地を築くために家屋を打ち壊したり、燃やしたりすることはなくなった。


 焼け跡から立ち上る煙も減り、人々はようやく恐る恐るではあるが市へ戻り始める。


 ……だが、それは京の景気が戻ることを意味しなかった。


 戦乱によって公家や富裕商人は各地へ避難し、武士たちも戦場へ出払っている。


 遊郭の客足は目に見えて減っていた。


「そろそろ、遊郭だけでは駄目だな」


 俺は帳面を閉じながら小さく息を吐いた。


 遊女屋の利益だけでは、京の復興を支えるには限界がある。


 ならば――京そのものを動かす産業を押さえるしかない。


 そう考えた俺は、伊勢貞親と細川勝元へ面会を願い出た。


「伊勢伊勢守様、細川右京大夫様。本日は一つお願いがございます」


 二人が頷くのを確認してから、俺は用意していた案を広げる。


「現在、応仁の乱によって各地の職人が離散しております。


 そこで、石清水八幡宮が本所である大山崎油座をはじめ、六波羅蜜寺の紙漉座、祇園社の材木座・綿座・錦座、三条の釜座、魚座、織物座など、京の座を順次復興させたいと考えております。


 もちろん、その見返りとして各本所の寺社には勧進復興を行い、社殿や伽藍の再建資金を優先的に充てます。


 その代わり、座の管理権限を伊勢家へお認めいただきたいのです」


 伊勢貞親は腕を組み、静かに頷いた。


「なるほど……。」


 しばらく考え込んでいたが、やがて口元に笑みを浮かべる。


「職人を呼び戻し、資材を優先的に確保できるのであれば、京の復興にも幕府にも利益は大きい。


 御所様へ話を通してみよう。」


 細川勝元も同意する。


「うむ、悪くない。


 戦は兵だけでは続けられぬ。


 紙も油も材木も鉄も、すべて必要だからな。


 わしも協力しよう。」


「ありがとうございます。」


 深く頭を下げた。


 実際、座を押さえることは単に商売をするという話ではない。


 例えば釜座。


 名前だけ見れば釜職人の集まりのように思われるが、実際には寺社の梵鐘や鰐口、灯籠、水盤、塔九輪、擬宝珠、露盤などの仏具・神具から、鍋、釜、鉄瓶、茶道具、銚子燗鍋といった生活用品まで幅広く鋳造している。


 戦で職人が堺や奈良へ逃げたままでは、京は生活必需品すらまともに作れない。


 紙も油も木材も同じことだ。


 京の復興には、まず職人を呼び戻さなければ始まらない。


 さらに、座には莫大な利権が付随している。


 例えば大山崎油座なら、石清水八幡宮へ奉仕し、神事用の油を納める代わりに、関銭や津料の免除、荏胡麻の優先買付権、定期市での独占販売権などが認められていた。


 本来なら、これを無視して京で勝手に油を売ろうものなら、神人たちが押しかけ、営業など到底できない。


 だが今は違う。


 石清水八幡宮も焼け落ち、神人も散り散りとなり、そんな権利を守る余裕すら失っている。


 伊勢貞親は幕府内での権勢回復に追われ、細川勝元は東軍を立て直すため朝廷工作や諸将の調略に忙しい。


 細かな経済行政まで手が回る状況ではない。


 だからこそ、俺へ任せるという判断になったのだろう。


 数日後、正式な沙汰が下った。


「御所様より許しが出た。


 今後、座の管理は伊勢家へ任せる。


 ただし運上金は従来どおり幕府へ納めること。」


 伊勢貞親がそう告げる。


「承知いたしました。」


 これで京最大の経済再建事業が始まる。


 まず向かったのは石清水八幡宮だった。


「本日より八幡油神人は伊勢家が保護する。


 朝廷・幕府への献上は従来どおり行う。


 荏胡麻輸送の警護はこちらで請け負い、津料・関料の免除も改めて保証する。


 さらに利益は社殿復興へ優先して充てるものとする。」


「承知いたしました。」


 神人たちは安堵したように頭を下げた。


「それと、油搾りの道具はこちらで新しいものを用意する。」


「新しい……道具ですか?」


「今までの何倍も効率がいい。」


 数日後、完成したのは木製の大型スクリュー式搾り器だった。


 太いねじを回すだけで、従来よりはるかに強い圧力をかけられる。


 神人たちは半信半疑だったが、実際に荏胡麻を搾ると、その表情は驚愕へ変わった。


「おおっ!」


「こんなに油が……!」


「まだ搾れるのか!」


 これまで一日がかりだった作業が半日で終わる。


 しかも搾り残しがほとんどない。


 生産量は飛躍的に増え、売上も倍近くまで伸びた。


 その利益は社殿の修復へ回され、荒れ果てていた石清水八幡宮は徐々に活気を取り戻していく。


 昨年は戦乱で中止された石清水放生会も、今年は無事に執り行われることとなった。


 京を離れていた神人たちも次々と戻り始める。


 続いて紙漉座では製法を改良し、楮だけでなく笹なども用途に応じて利用することで生産量を増やした。


 材木座では各地から材木を集め、京の再建用資材を優先供給する。


 釜座では生活用品や農具の生産を再開し、市場へ流通させていった。


 一方、北野麹座を酒座として復活させた際には、延暦寺が強く反発した。


「酒造は山門の権益である!」


 使者はそう主張した。


 だが俺は静かに問い返す。


「仏門は酒を慎むべきものではありませんでしたか?」


「……。」


「僧が酒を醸し、それを売って利を得ることが、本当に仏法にかなうのでしょうか。」


 その一言で使者は返答に窮した。


 結局、延暦寺は京市中での酒造については譲歩せざるを得なくなり、北野酒座は正式に復活した。


 これに合わせ、幕府は禅寺に対して酒造だけでなく飲酒そのものを厳しく戒めるよう命じた。


「坊主が酒を造って飲むなんて、本来おかしな話だからな。」


 この頃の臨済宗は幕府との結び付きが強く、かなり腐敗していたと言われている。


 多少の引き締めは必要だったのだろう。


 こうして俺は、石清水八幡宮、北野天満宮、上御霊神社をはじめ、戦乱で荒廃した寺社の復興を次々と進めていった。


 その結果――。


「伊勢殿は八幡大菩薩の化身らしい。」


「いや、天神様の加護を受けておるそうだ。」


「神が降りておるに違いない。」


 ……などという、妙な噂が京中へ広まることになった。


「いやいや。」


 俺は苦笑する。


「確かに転生者ではあるけど、八幡様でも天神様でもないからな……。」


 そう呟いても、その噂が収まることはなかった。

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