A.D.2040.消えゆくオレンジ
オレンジ色の光が消えていく。全てが真っ黒に塗りつぶされる。
それは視覚ではなく、身体の全てが感じる、未来への不安感。
七海には未来を予感する力があった。
それは形ではなく、色彩の姿をとる。
ために予言のレベルには達していない。
具体的に起こることを言い当てたりはできない。
だが、その感じる吉凶の予感のイメージは、時を迎えた時に確実に七海にデジャブを見せた。
そして、どんなつらいことが待っていても、色が光が消える事はない。
不安の色の先に新しい色が、心が抱くどんな不純物でも消してくれる。
未来に起こる出来事は、不吉だと察知したイメージも何とかなると。
でも今日は……なぜか、心が落ち着かない。
「どうしたんだろう私。ふぅ、もう少しだけ。ここにいようかな」
予感を感じた時、七海は家から少し離れた海辺の小さな崖に、歩いて来るのがいつもの事だった、
七海は急速に闇に包まれる自分、震える身体を抱きしめるように、海風の寒さと不安に耐える。
初夏にさしかかる夕方、いくら海風が強いと言っても、凍える季節ではなかった。
房総にある大きな砂浜はいつも穏やかな風を与えてくれるのに、今日は体を揺さぶり心を凍らせる。
そして太平洋は真っ黒に閉ざされ、沖まで見渡す事が出来ない。
「この先に何が起こるというの……私では手におえない未来は」
凍り付き立ち尽くす七海に暖かさを与える声が聞こえた。
「さがしたぞ七海。やっぱりここにいたか」
哲士の声だった。
いつもならすぐに「お帰りなさい」って言えるのに、七海は数分間動けなかった。
暗い海を見ている七海を見守る哲士の暖かな視線。
ただ黙って後ろに立つ、世界で最も愛しい存在。そのおかげで自由を取り戻す七海。振り返り笑顔で言えた。
「お帰りなさい哲士。よく、ここが分かったわね」
「ふ、匂いを追って七海の居場所を見つける。俺は肉食恐竜だからな」
七海が見せたぎこちない笑顔を感じたのだろ、いたって明るく哲士は最愛人に素直な笑みを見せた。
「ふふ、沙耶に言われた事を根に持っているの? ……また、感じたの。ごめん。いつも、こんな事言われても困るよね。具体的でない色彩の予感なんて」
七海の体に流れる陰陽師の血なのか、時々、感じる未来への予感。それは予知と言えるほどの情報はない。だが、先に起こる事が七海にどんな感情をもたらすか。それだけはちゃんと分かった。
「光が色が見えなくなるの。とっても暗くて凍えるほど寒い。初夏で房総はこんなに暖かいのに。真っ暗な海は先が見えない」
「七海!」
哲士が七海の名前を呼ぶ。それだけで落着くのは、やっぱり彼が好きだから。
自分を呼ぶ声に振り返り、すがるように手を差しのばす七海。
「気持ちを伝えて。私も同じだと思えるように。遠い未来に、今が幸せだった思い出せるように」
哲士が七海を見つめる。
「余計な事は言わないぞ」
「うんうん」頷く七海。海の音に混ざってかすかな泣き声が周囲に散らばる。
「二千年先でも七海と一緒にいる」
哲士の言葉に涙を拭き、予感について話を続ける七海。
「私たちは一人になる」
七海の二人の別れの予感に哲士は大きく首を振った。
「一人? 俺たちはずっと二人でいると、そう決めただろう?」
「ええ、心は共にある、そう思いたい。ならば……どんな困難も乗り越えられる。二人なら……ね」
途中まで話した七海は我慢できなくなり、哲士の元に走りこむ。
太い腕と厚い胸が七海を囲み、心に一筋の希望を与えてくれる、決心も。
七海は深く自分の心に刻むように言葉を繋いだ。
「もし……あなたを失ったら、私は取り戻す。どんな方法でも。それが世界を滅ぼすものだとしても」




