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レグナント・オンライン ~崩壊する理不尽デスゲーム、囚われた 元・最強の『軍団長』は【絶対的隷従】で盤面を支配する~  作者: 水引 結


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第27話 狂騒の幕開け

 激闘から一夜。

 巨大な古代竜の頭骨の内部は、ガジェッドの権能【超弩級兵装工場ミリタリー・ファクトリー】による突貫工事を経て、異様な熱気を帯びた拠点へと作り替えられていた。

 この頭骨の内部はシステムが定義する「不可侵領域」。いかなる魔物の攻撃も届かない絶対的な安住の地だ。ガジェッドはその特性を最大限に活かし、領域の境界線ギリギリに、外敵を迎え撃つための水晶の砲台陣地を構築。そして、その不可侵の境界を守る楔として、【竜骸(ロード)玉座(オブ)スケルトン】を配置していた。


「……信じられないわね。システムが保証する安全圏を、ここまで軍事要塞化しちゃうなんて」


「へへっ、外の魔物からすりゃ、ここは手出しできないのに一方的に撃たれる、クソゲーエリアの完成ってわけだ」


 マキナとガジェッドが軽口を叩き合う中、カイは境界線の内側から、スケルトンの知覚を通した索敵情報の同期と、上級エリアの複雑なマナ濃度の解析を黙々と進めていた。

 その視界に、黄金色のシステムウィンドウがポップアップした。


『 ワールドアナウンス:【南の門】がプレイヤー【ジーク】によって攻略されました 』

『 上級エリア【焦熱の溶岩地帯】へのアクセスが解放されます 』


 鳴り響く、世界全体へのファンファーレ。


「……上がってきたか。あのジークなら当然だな。刀真(トウマ)の奴も、明日あたりには東の門を開ける頃合いか」


 カイはマップ上に「焦熱の溶岩地帯」の情報を書き込み、即座に次の作業へ意識を移す。この過酷な上級エリアで生き残るには、一秒の停滞も許されない。

 それから数時間。カイが要塞の各セクションの動作チェックを終えようとしていた、その時だった。

 視界の全てを覆い尽くすほどの、血のようにどす黒い警告ウィンドウが割り込んできた。



『 警告:プレイヤー【(サカイ) 刀真(トウマ)】が、淘汰者(プレデター)Nullヌル】の攻撃により死亡ロストしました 』



「は……?」


 カイの思考が、一瞬完全に停止した。


 あの、一切の隙がない刀真がPKプレイヤーキルされた? それに…淘汰者(プレデター)?プレイヤーではなく?

 だが、絶望の通知はそれだけでは終わらなかった。


『 加害者:【 Nullヌル】 』

『 該当者への【大逆のペナルティ】を執行――

 ……ガ……ジ、ジジッ……ザガガガガッ!

 エラー。加害者ノシステムIDハ【生存律(ルール)】適用外デス。

 【淘汰律プレデター・ルール】ニ基ヅク正当ナ処理ヲ確認。ペナルティ処理ヲ破棄シ、対象ヘノステータス・アイテムノ継承ヲ許可シマス 』


「……待ってよ。嘘でしょ、おかしいわ!!」


 マキナが血の気を引かせた顔で、悲鳴のような声を上げた。


「最初の【生存律(ルール)】のアナウンスで、システムは『あのレイドイベントを生き残った生存者は15名』って明確に言っていたじゃない! なのに、この【Null(ヌル)】なんて奴、あの時どこに存在していたのよ!? しかもペナルティ無し、ステータス継承って……こんなの、ただの殺人鬼バグじゃない!!」


「……コイツは、最初から俺たちとは違うゲームをやらされてたってことかよ」


 ガジェッドも恐怖に顔を歪める。

 あの刀真が、まともな戦闘で負けるはずがない。理不尽極まりない暗殺権能や、絶対不可避の攻撃でも受けない限り。


「……この世界の前提ルールが、完全に崩壊したぞ」


 カイが忌々しげに長剣の柄を握りしめた、その時だった。

 境界線の外側を監視していたマキナが、弾かれたように外を指差した。


「カイ! 北の門の方角から、誰か来るわ! ……待って、あれはギルツとメイヴィじゃない!?」


「レグナント時代に名を馳せていたあのコンビか。刀真(トウマ)が死んだ直後に、あの二人が……ッ!」


 カイが立ち上がり、不可侵領域の境界へと視線を走らせる。

 ルール崩壊の混乱が波及した中級エリアから逃れてきたのか。灰の嵐の中、死に物狂いで頭骨の方角へと走ってくる二つの人影。

 だが、彼らの背後には、空を這うように滑空してくる無数の影、レベル40前後の【灰燼(アッシュ)飛竜ワイバーン】が、十数体もの大群となって迫っていた。


「……クソッ、ルールの異常を考えるのは後だ。今はあいつらを中に入れることに集中しろ!」


 カイが無理やり思考を切り替え、鋭い怒声を飛ばす。


「マキナ、援護しろ! ガジェッド、境界から砲撃開始!!」


「任せてッ! ――『絶対零度(コキュートス)氷雨フォール』!!」


 要塞内部の【演算空間】から、マキナが極大魔法を行使する。

 絶対零度(コキュートス)により、空中の水分を瞬時に凍結。降り注ぐ無数の巨大な氷柱が、二人を食い殺そうと急降下してきた飛竜の群れを次々と串刺にする。しかし、生き残った飛竜たちはなおも標的を変えず、執拗にギルツとメイヴィの背中へと殺到する。


「へっ、俺の作った特製砲台を拝ませてやるよ! ――全基、一斉掃射開始ッ!!」


 ガジェッドがガントレットを振り下ろすと同時に、頭骨の牙に設置された数基の水晶砲台が駆動音を上げた。

 不可侵領域という絶対的な安全圏から吐き出される無数の弾幕。マキナの氷柱を躱して二人に迫ろうとした飛竜たちを、青白い閃光が面で制圧していく。爆風と衝撃が灰の嵐を吹き飛ばし、飛竜たちの翼を強引に引き裂いた。


『 グギャャアアァァァァァッッ!! 』


 立て続けの迎撃を受け、飛竜たちが怒り狂った咆哮を上げる。だが、彼らの狙いはブレなかった。不可侵領域には手出しできないことを本能で理解している飛竜たちは、領域へ逃げ込まれる前に獲物を仕留めようと、さらに速度を上げてギルツとメイヴィへ突っ込んでくる。

 二人の背中に巨大な顎が迫る。だが、その射線を塞ぐように、スケルトンが一歩手前で立ちはだかった。


 ガギィィィンッッ!!!


 二人を喰らおうと殺到した飛竜たちの痛撃を、黒炎の大剣で完璧に受け止める。


「今だ、早く中に入れ――ッ!」


 カイの怒声。

 メイヴィが、システムによる絶対守護が保証された「不可侵領域」の内側へと転がり込む。

 ギルツも、彼女を逃がすために最後まで殿を務め、境界線を越えようとした。


 あと一歩。

 指先が領域に触れる、その瞬間だった。


『 ――キィィィンッ!! 』


 灰の嵐に紛れ、上空から音もなく急降下してきた飛竜の群れ。

 ガジェッドの砲撃による死角を突いたその狙いは、最後尾のギルツ一人に絞られていた。飛竜たちは、二人を物理的に引き離せば、その強固な連携が崩れることを本能的に理解していた。


「――しまっ、」


 カイが手を伸ばす。だが……間に合わない。

 飛竜の巨大な鉤爪が、ギルツの胴体を鷲掴みにし、そのまま上空へと一気に引きずり上げた。


「ガハァッ……!?」


「ギルツッ!」


 遥か上空。そこは、手の届かない空の彼方。

 孤立したギルツへと、待ち構えていた十数体の飛竜が一斉に襲い掛かる。

 だが、かつてトップ層に君臨していた男の意地が、空中で爆発した。


上級魔物バケモノどもが……舐めるなァァァッ! 【奪命双刃フェイタル・ドレイン】ッ!!」


 ギルツは双剣を嵐のように振るい、空中で数体の飛竜を強引に切り裂く。

 だが、格上の十数体による波状攻撃の前には、権能による自己回復の速度すら追いつかない。彼のHPバーが、致命的な速度で削られていく。


「ギルツッ! 戻って! ――【因果拒絶(パラドクス)秒針ヒール】ッ!!」


 要塞の中からメイヴィが必死に手を伸ばし、対象の状態を「指定した時」へと巻き戻す権能を放つ。

 しかし、彼女の視界にポップアップしたのは、残酷なエラーメッセージだった。


『 対象が射程圏外です 』

『 スキルの発動に失敗しました 』


「嘘でしょ……届か、ないっ!?」


「ガ、アアアァァァァァッ!!」


 ギルツの絶叫が響き渡った直後。

 上空で真っ赤なポリゴンが弾け飛び、光の粒子となって灰の空へと散った。


『 ワールドアナウンス:プレイヤー【ギルツ】が、【灰燼の飛竜】の攻撃により死亡ロストしました 』


「あ……ああ、ギルツ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 メイヴィが悲痛な絶叫を響かせる。


 理不尽なルールの崩壊と、上級エリアの暴力。かつてレグナント・オンラインの頂点に君臨したプレイヤーたちの命は、あまりにも呆気なく、そして残酷に散っていった。



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