第18話 カイ VS 八頭腐毒蛇(前編)
『ギルルルルゥゥゥッ……!!』
八つの首がそれぞれに別々の咆哮を上げ、鼓膜を破らんばかりの音圧が谷の最深部を震わせた。
「八頭腐毒蛇」。レベル30超えの中級エリア・レイド級ボスだ。
「……まずは確認だ。蜂共、視界を潰せ」
カイが虚空を弾くと、赤いノイズと共に十匹の暗殺蜂が実体化し、毒蛇の巨大な八つの頭部へ向かって特攻を掛けた。
だが、レイドボスはただの図体だけの的ではない。中央の最も巨大な首が、大きく息を吸い込む予備動作を見せた。
「ブレスが来るぞ! そこから離れろ!」
カイの号令と同時に、多頭蛇の口から超高濃度の紫色の毒霧が扇状に吐き出された。空を飛んでいた暗殺蜂たちは、その霧に触れた瞬間に羽が溶け落ち、文字通り一瞬で消滅する。
『隷従個体【暗殺蜂】×10 が死亡しました。ステータス還元バフが低下します 』
「チッ、やはり広範囲の全体攻撃持ちか」
僅かなステータスの低下による虚脱感を覚えながらも、カイは冷静にガジェッド特製の防護マントで身を覆い、紫電狼の背に伏せて毒霧をやり過ごした。マントの表面がジュウジュウと音を立てて溶け始めるが、間一髪で耐え切る。
「だが、これで攻撃モーションと射程は把握した。騎士、前へ。ヘイトを固定しろ」
毒霧が収まった直後の隙を突き、二体の死霊騎士が毒沼の上を滑るように前進した。
侵入者へ向けて、毒蛇の3つの首が同時に噛み付きにかかる。巨大な牙が死霊騎士の身体を捉えた……かに見えたが、死霊騎士は物理攻撃をすり抜け、巨大な牙は泥を跳ね上げるだけだった。
「巨魔、前へ! 騎士のカバーに入れ!」
さらにカイは、腐毒の巨魔を投下する。
死霊騎士にヘイトを集中させつつ、漏れた物理攻撃を巨魔で受け止める強固な防衛陣形。
「紫電狼、最大出力だ。前衛が抑えている首に雷撃を叩き込め!」
カイが騎乗している一匹と、新たに呼び出したもう一匹。二匹の紫電狼が同時に咆哮し、極太の雷撃が毒蛇の濡れた鱗を直撃した。水と毒の沼に浸かったボスの巨体は、雷属性の魔法攻撃を面白いように通す。バチバチと紫電が弾け、八つの首のうち三つが痙攣して力なく沼に落ちた。
「そこだッ!」
紫電狼の加速により、カイの長剣が流星のような軌跡を描き、麻痺して垂れ下がった毒蛇の首を、根本から完璧に斬り飛ばした。
ドサァッ、と巨大な頭部が沼に落ち、赤黒い毒の血が間欠泉のように噴き出す。だが、斬り飛ばされた首の断面が異様に泡立ち、そこから新たな肉と骨が凄まじい速度で隆起し始めた。
再生した首の口元には、先ほどの毒霧とは違う、赤黒い不吉な魔力の光が収束し始めていた。
「魔法属性のブレスか……! 全員、退け! 」
カイの警告と同時に、魔法の力が込められた毒炎が放たれる。そして、逃げ遅れた一体の死霊騎士の影の肉体を激しく焼き焦がした。
『ギ、ギァァァァッ!!』
死霊騎士がHPの大部分を削り取られてダウンする。
ヘイト管理が崩れ、暴れ始めたヒドラの首。カイは長剣を構え直し、荒れ狂うレイドボスを見据えた。
ただ首を落とすだけでは勝てない。ジリ貧になれば削り殺される。圧倒的な瞬間火力が必要だ。カイは長剣の柄を強く握り込み、自らの頭脳をフル回転させ始めた。




