第13話 電光の騎乗獣
ガジェッドが軍門に下ってから数日が経過した。
機能停止していた【超弩級兵装工場】は、カイが集めてきた「新たな素材」と「労働力」によって、急ピッチでその息を吹き返しつつあった。
「オラッ、もっと右だ! そこで支えとけ!」
ガジェッドの怒声が工場内に響く。
彼の指示に従って、ひしゃげた鉄骨を軽々と持ち上げているのは、カイが森で新たに隷従させてきた2体の岩塊熊と、5体のホブゴブリンだった。
「……随分と板についてきたな、現場監督」
「誰のせいだと思ってんだ。お前が次から次へとバカでかい魔物を連れてくるから、資材の運搬ラインから設計し直す羽目になってるんだぞ」
コンソールから顔を出したガジェッドが、目の下に隈を作りながら悪態をつく。
本人自身の戦闘力は決して高くはないガジェッドだが、彼の持つ権能の真価は「システム化された創造」にある。カイの手駒である怪力持ちの魔物たちを重機代わりに使い、森の資源と魔物のドロップ品を独自のラインで加工し、工場を強固な要塞へと作り変えていた。
「文句を言うな。それより、頼んでいたものは出来たか?」
「ああ、こっちだ」
ガジェッドは溜息をつきながら、作業台の上に置かれた「それ」の布を取った。
鈍い光沢を放つ、黒い革製の馬具……いや、大型獣用の『鞍』だ。
ただの革ではない。表面には複雑な金属の紋様が織り込まれており、足を通す鐙の部分まで分厚く補強されている。
「お前が新しく狩ってきた大蛇の耐酸・耐熱の皮をベースに、工場の合成ゴムと絶縁素材を何層も編み込んだ【特注の絶縁鞍】だ。おまけに、俺の権能で衝撃吸収のダンパー機構も組み込んである。……言わずもがな、乗る相手は『あいつ』なんだろ?」
ガジェッドは、かつて自身の最高傑作をスクラップにされた苦い記憶を思い出すように、引き攣った笑いを浮かべた。
「ご明察だ。表に待たせている」
カイが工場の外を顎でしゃくると、ガジェッドはさらに顔を歪ませた。
工場のゲート前。そこには、絶えずバチバチと紫電を迸らせ、周囲の空気をジリジリと焦がしている体長3メートルの漆黒の獣『紫電狼』が、牙を剥き出しにして「2体」鎮座していたのだ。
「……マジかよ。あのバケモノ、もう一匹捕まえてきやがったのか」
「拠点の防衛と、俺自身の足だ。索敵に蜂を使っているが、大型モンスターの迎撃には直接出向く必要があった。だが、こいつらを遊撃要員にすれば、この一帯の魔物や並のプレイヤーでは拠点に近付くことも難しくなるだろう」
カイは、紫電狼の行動パターンと弱点を完全に把握していたため、手駒との連携によって、今回は犠牲を出すことなくスムーズにシステム領域へと収めていた。
(現在、編成している手駒の総コストは『78』。最大統率力にはまだ余裕があるが……)
「質の高い手駒で盤面を固めるには、これが最適な選択だ」
カイはガジェッドから絶縁鞍を受け取ると、1匹目の紫電狼の背に、それを手際よく装着した。
『グルルッ……』
紫電狼の体毛から常時放たれている電流。その狂暴なエネルギーを完全に遮断していた。
カイが鞍に跨り、手綱を握っても、ステータス異常の警告はおろか、静電気の痺れすら一切感じない。
「……完璧だな。ガジェッド、お前のクラフト能力は最高だ」
「ハッ、俺を誰だと思ってる。言ったろ、素材さえあれば何でも造るってな」
得意げに鼻を鳴らすガジェッドを見下ろし、カイは手綱を軽く引いた。
「少し、試運転をしてくる。その間、新しく入れた2匹目の紫電狼に拠点の周囲を警戒させておけ」
「了解だ、軍団長殿。あんまり遠出して、死ぬなよ」
ガジェッドの言葉を背に受け、カイは紫電狼の腹を軽く蹴った。
『――ウォォォォンッ!!』
凄まじい遠吠えと共に、紫電狼が大地を蹴った。次の瞬間、カイの視界が文字通り「線」になった。
(速い……ッ!!)
プレイヤーの敏捷性を遥かに凌駕する雷光の如き疾走。
紫色の木々が、流線型の残像となって後ろへと吹き飛んでいく。肉体を押し潰すような本物の暴風が襲い掛かるが、ガジェッドが組み込んだダンパー機構のおかげで、騎乗しているカイへの振動や負担は驚くほど少ない。
これまでの徒歩での探索が嘘のような、圧倒的な機動力。
他のプレイヤーが恐る恐る森を探索している間に、カイはこの機動力を活かして、広大なエリアの情報を一瞬で掌握できる。
「いい感じだ。情報が何一つない以上、まずはこの世界の地形を把握することが最優先だからな。これなら、他の連中を置き去りにして圧倒的な速度で探索を進められる」
カイは風を切り裂きながら、獰猛な笑みを浮かべた。




