8-6.
第八章ラストです!
私が目を覚ましたのは、騎士団の宿舎のベッドの上だった。
魔力を使い果たして、どうなることかと思ったが、すぐに治療してもらえて大丈夫だったらしい。
あの事件では、生徒も騎士団も怪我を負ったが、幸い死者は出ていないという。
本当に良かった。
それに、魔物と合体していた少年の命も助かったと聞いた。
魔物が消えたあと、少年はその場に倒れていて、今は特別保護されることになったらしい。
――死者が出ていないということは、ソランティア王子も無事なんだ…!
魔物の攻撃を受けて倒れた姿が最後だったから、すごく心配だった。
よかった。
もう会えないかと思った。
また会えるんだ。
すっごく喜んでいる自分がいる。
怪我を負った人たちはどんどん回復していき、後日、王様から「戦ったみんなへ報酬を用意したい」という申し出があった。
回復を待って、王城で栄誉授与式が開かれることになり、私も参加することになった。
私はどんな褒美をもらうべきか――
授与式が開かれるまでの間、正直とても悩んだ。
ほかの人たちは報酬金や爵位をいただいていたけど、私にはどれもピンとこなかった。
この世界で、私にしかできないことは何だろう?
自分の心が、本当に求めるものは何だろう?
何度も、何度も、自問した。
わたしが望むものは……
わたしがこれから歩んでいく道で、必要なものは――
*
王城の大広間は、煌びやかなシャンデリアに照らされていた。
高座には王様が座り、華やかな衣装をまとう貴族たちがずらりと並んでいる。
私が礼をして会場に入ると、その視線が一斉にこちらへ注がれた。
「今回の事件では、生徒と騎士団を救ってくれてありがとう。君がいなければ、全滅していたかもしれない。本当にマミーナ・フェルには助けてもらった。」
「そのようなお言葉をいただき、光栄です。ですが、私だけの力ではありません。ソランティア王子の助けがなければ、私はなにもできませんでした」
「記憶魔法を使って、実際の状況は確認させてもらっているよ。君は偉大なことを成し遂げた。そんな君に、何か褒美を与えたい。君は何を望む?」
わたしは一呼吸おいて、口を開いた。
緊張で、言葉が少しだけ震える。
「……わたしは……騎士団には入らずに……魔法学校の教授になりたいです」
しん、と空気が静まり返り、わたしの声だけが大広間に響いた。
その瞬間、貴族たちの驚きが空気に伝わる。
――黒魔法は、世間が恐れるほど悪いものじゃない。
わたしがそれを学んだのは、絶望の中で光を見つけるためだった。
それは、自分と向き合い、心の奥深くにある真実を受け入れるための魔法。
王様の目がわずかに見開かれた。
そして、少し間をおいて、私の目を見つめながら問いかけてきた。
「それはどうしてかな?」
会場が再び静まり、ざわめきがかすかに立ち上る。
私はまっすぐに王様を見つめ、想いを言葉にした。
「黒魔法は、確かに強力で、扱いを誤れば危険です。けれど私は、その魔法の中に、もっと深い意味を見つけました。絶望の中にいたとき、黒魔法が教えてくれたのです――自分自身と真剣に向き合い、心の奥にある“本当の気持ち”を受け入れる強さを。
それは、争うための力ではありません。
自分と調和し、他者と愛と共感で繋がっていくための、静かな光です。
だから私は、黒魔法の正しい在り方を伝えたい。争いではなく、癒しと和解のために――その使い方を魔法学校で教えたいのです。それが、私の望みです」
そのときだった。
わたしの中で、あのときの女神のような方の声がよみがえる。
『あなたが選んだ“受け入れる”という行為が、光をもたらしました。
それは、これからの時代を照らす最初の灯火になるでしょう。
争いではなく、愛と調和で癒す世界。あなたの歩みが、その道を創るのです』
――そう、これがわたしにできること。
黒魔法の良さを伝えていくこと。
戦うのではなく、相手さえも包み込む世界を目指して。
わたしは、まっすぐ王様の目を見た。
これが、わたしの覚悟。
「君の想いを聞かせてくれてありがとう。君の褒美については、こちらでもしっかり検討し、後日連絡しよう。本日は、ご苦労であった」
「ありがとうございます」
*
後日、第二王子であるソランティア様も、褒美を受け取ったと聞いた。
なんと、王族を抜けて公爵になるというものだった。
最初にそれを聞いたときは、「それのどこが褒美なの?」と疑問に思った。
けれど、それは――第一王子との権力争いから降り、彼を支えるという、王族内での意味を持った決断なのだと知った。
一般市民のわたしには、すべてを理解するのは難しいけど、きっと王子なりに、すごく考えて決めた褒美だったのだと思う。
王族も、大変だ。
王族として生き続けるのも大変だけど、王族を抜けるのもまた、大きな覚悟がいる。
わたしたちには想像もできない世界が、そこにはあるのだと思った。
しかも――王族を抜ければ、結婚の相手も変わってくる。
王族のままなら、上位貴族との結婚しか許されないけれど、貴族になれば、その制限がなくなる。
婚約者の地位を狙って、令嬢たちが競い合っているらしいけど……
わたしには、まだその世界のことは、よくわからない。
明日から最終章です!




