表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れじの戦花  作者: なよ竹
第5章 少年と己が護るべきモノ 〜千日紅の戦花〜
93/141

第93話(閑話) 微睡みの中で

 昔。


『手、離せよ』


 ずっと昔、まだ彼らが少年だった頃。


『嫌です......』


 病に絶望した少年は、死に場所を決めた。味方を大勢護れるだけ護り、力尽きて、カッコつけて死ねる最高の死に場所。


『お前も落ちるぞ。話しただろ、俺は病気だって。このままカッコよく死なせてくれ』


 見上げれば、崖の上から手を伸ばし、最高の死に場所を台無しにしようとする少年がいた。お互いこれ以上、余力なんてないのに、彼はまだ諦めない。


『......54回』

『あ?』

『54回、何の数字かわかりますか?』

『今回の戦死者数か? そりゃあ良い。俺は大勢護れたんだな』

『私が知る限りで、貴方が失敗したナンパの数です』

『......』

『......』


 上から落下してきた小石が少年の頰を掠めた。


『貴方はまだ......一度もナンパを成功していない』

『よ、余計なお世話だぁッ! つーか、なんで数えて――』

『死ぬなよッ!』


 目を見開く。彼がここまで取り乱し、叫んだのを見るのは初めてだから。


『人を勝手に仲間呼ばわりしてッ! 友達呼ばわりしてッ! 死ぬなよッ! これ以上私は仲間を失いたくなんてないッ!』

『......だから病気だっ――』

『だって......まだ生きています。病だってそうだ。このまま後、十数年持つ。言い訳をするな、責任を取れよアイゼン・フェーブル。ナンパ成功させて、結婚して子供作って、自分の好きなように精一杯生きて......そして死ね』


 握られる手が痛かった。心臓が痛かった。でも何よりも心が痛かった。


『私が引っ張れば、まだ生きれるんだ......こんなダサい死に方、私は絶ッッ対に許容しない』


 奥で声が聞こえる。仲間が助けに来てくれたのだろう。あろうことか自分は、生き残ってしまった。


『まだ俺に苦しめってか? あー、こんな外道仲間になんかするんじゃなかった』

『自業自得ですね』


 普段はへらへらして、仕事サボって、罪を人になすりつけるクソ野郎だけど、本当は誰よりも――



 ◆


「やはり汝がトドメを刺しに来たか」

「あぁ、死んだ以上、後は私が受け持つというのが筋だろう」


 横たわる2人を見下ろし、グラジオラスは剣を抜く。


「冷酷な男よ」

「貴様にだけは言われたくないな」


 霞は動かなかった。いや、動けなかった。戦える力は全部、アイゼンが持っていったのだ。


「言い残すことはあるか?」

「......まだ死ねぬな」

「何?」


 と、言いつつも動く気配を見せない霞。天候も落ち着いていた。それは彼が衰弱している証拠であり、彼は去勢を張っているに過ぎない。そうグラジオラスは判断する。


「その男の善悪など、私には区別つかない。だがおそらく私は誤っていた。......あまりにも空虚だった。それだけはわかる。だからこそ、生きなければならない。生きて償い、新たなる答えを探さなければならない」

「崇高な探求に浸るのは貴様の自由だが、私の剣を止められぬ以上、死は避けられん」


 グラジオラスが剣を構えたその時、


「だからこそ、命懸けで提案をしよう。交渉だ、キングプロテアの王族。私を殺すか否か、それは後で定めるが良い」

「......何?」


 彼から思いがけない提案が寄せられた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ