第1話 迷路
部屋を出るとそこは、左右に伸びる長い廊下の脇腹だった。
「ソリ姉、どっちに行く?」
ユリアさんが、何が楽しいのか、抱いたままの人形に話しかける。
ランタンの炎が揺れて、人形の手が一瞬だけ、姉妹の足もとを指し示したように見えた。
廊下の床には、右から左へ向かう足跡と、逆方向に進む足跡がついていた。
歩幅や靴の大きさからして、一人の人が行ったり来たりしたらしい。
「きゃはっ! もしこれが勇者ラリルの足跡だったりしたら面白いんだけどな」
「そんなに古くはないと思いますよ。まあ、ついさっきって感じでもありませんけど」
ユリアさんとセリアさんは、しばし足跡を見つめ……
「この靴は……」
「うん……」
二人だけでうなずき合って、あたしには何の説明もしない。
二人の態度が気に障ったのであたしから質問したりもしなかったけど、こんなところに足跡を残していきそうな人の見当ならばつく。
ベルナリオさんの靴はもっと大きい。
これはギロームの足跡だ。
それが、一人で。
あたしが何日も前から感じていた気配の正体は、きっとこれだ。
あの儀式の準備を、こっそり進めていたのだ。
「それでソリ姉、どっちへ行きます?」
セリアさんに訊かれて、ユリアさんは今度は人形を介さず自分で答える。
「良く見てセーちゃん。ほら、ここ。右へ行く足跡が左へ行く足跡を踏んづけてるでしょ?
つまり一度左へ行って、行き止まりか何かで引き返したってことだよ」
ユリアさん、見かけによらず鋭い。
右の通路をしばらく進むと、道は再び二手に別れた。
ランタンを掲げて照らしてみると、左右どちらも十字路に繋がっていた。
床の先人の足跡も、そうとう迷ったのか、行ったり来たりをくり返している。
「こっちね」
ユリアさんが、壁につけられたチョークの印を見つけた。
きっとギロームがつけたんだ。
そしてそこからずいぶんな距離を歩いた。
黒衣城の地下の迷路は、歩けば歩くほどその広さと複雑さに驚かされて……
あたし達だけではどうなっていたかわからない。
けれどギロームが残した印に皮肉な感じに助けられ、順調と言えば順調に、さりとて何を得るでもなく、ただひたすらに進んでく。
後ろのセリアさんは時々ちょいとあたしを追い越して、前を行くユリアさんに何やらささやき、二言三言ひそひそと言葉を交わしては、またあたしをはさむ位置に戻っていく。
姉が好きなら姉に引っついていればいいのに。
どうやら妹はあたしの後ろを守っているのではなくて、あたしを後ろから見張っているようだ。
あたしのこと、敵か味方かわからないって思ってるんだ。
でもそれはお互い様だ。
あたしだって、こんなとこに一人で居るのが嫌だからこの人達にくっついているってだけで……
そもそも二人が、ギロームの足跡の先に出口を求めているのか、ギロームとの対面を求めているのか、それさえどうにもハッキリしない。
訊いてみたら「両方」って答えだった。
ではギロームに逢ったらどうするのかと尋ねたら、うにゃうにゃとごまかされてしまった。




