第2話の9 「懐かしいわねえ」
お茶会がお開きになり、ユーリンに見送られて、ココットとドルコナはお店を後にしました。
その後で、少し時間を置いて古書店の常連客が入ってきました。
入ってきたのはとても小柄で、少し歳を重ねたようなノームの女性でした。
日よけの帽子をかぶり、足腰が弱っているのか杖をつき、丸い眼鏡をかけています。
顔や肌はしわだらけで、少し伸ばした殆ど白い髪を、玉のようにまとめていました。
「こんにちは。もうよろしいのかしら?」
「こんにちは。大変お待たせいたしました。ロウビィさん」
ユーリンは軽く頭を下げ、店内に招き入れました。
ロウビィと呼ばれたノームの女性は、顔に深いしわが浮き出るほどにっこり笑って、ゆっくりとした足取りで入ってきました。
「私より前にお客さんが来ているなんてね。珍しいこともあるものね」
「はい。お店を開ける前に蚤の市を一回りして、その時に会いました。友人の友人で、お話してみたかったから、お誘いしました」
「さっき連れ出していった子の友人かしら? あの子、私のことにも気づいた様子で、中に入っていったわね。今度よろしく言っておいてちょうだい」
「はい」
「それはそうと、蚤の市で何か掘り出し物でも見つけたのかい?」
「ええ。ロウビィさん好みの本も何冊か。今、お持ちしますので椅子に座ってお待ちください」
★
さっきまでドルコナが座っていた椅子に、ロウビィは腰掛けました。
丸テーブルの上に置かれたままの古い貨幣の山が目に留まりました。
「おや、これは珍しい。懐かしいわねえ」
置きっぱなしになっていたドルコナの持ち込み貨幣を、何枚か手に取って確かめました。
奥に消えたユーリンが、何冊かの古書を抱えて戻ってきました。
「あっ、すぐに片付けますね」
「いえ、このままで結構。もうちょっと見せて頂戴」
ロウビィは一枚一枚、裏表を確認していきました。
ユーリンは本を抱えたまま、もう一つの椅子に座りました。
「ありがと。面白いものを見せて貰ったわ」
ロウビィは一つ、小さな息を吐きだすと、眼鏡の位置を直しました。
「さっきまでいたお客さんが持ち込んだものです。旅人さんでしたけど、この辺りで使えるお金がなかったようなので、私が引き取りました。もっとも、ホントはこの大きな金貨が欲しかっただけなんですけどね♪ ジャイアント族の硬貨だそうです。王女様っぽいデザインが素敵なので、外枠を作ってもらって、私の部屋に飾ります」
そう言ってユーリンは、先ほどの大きな金貨を持って、自分の顔の横に並べました。
ジャイアント族というイメージに似合わないほど、とても綺麗な女性の肖像が彫られていました。
「相変わらずゴールドには目が無いのね。変わったエルフさんだわ。他の硬貨も色んなものがあるわね。この旅人さんは、随分と色んなところを回ったようだわ」
「そうみたいですね。お話を伺う時間まではありませんでしたけど、しばらく滞在するようでしたら、話を聞く機会はあるでしょう。ところでさっき、硬貨を見て『懐かしい』とおっしゃっていたみたいですけれど、何か気づく点がありましたか?」
ほんの少し呟いたことを、ユーリンの耳はしっかりと覚えていました。
「さすがエルフさんの耳。聞き逃さないのね。この中には何枚か、私が生まれ育った辺りで共通に使われている硬貨が混じっていたわ。旅人さん、その辺りも旅をしたのでしょう。ここからだと随分と遠くになるし、私ももう、ここに来てから一度も戻っていないわ。だからちょっと懐かしくてね」
「そうでしたか。だったら差し上げますよ。いつもごひいきにしていただいているので。どれですか?」
ユーリンは置いてある硬貨の山から見つけるため、ロウビィの方に視線を向けました。
「それはいけないわ。これはあなたが購入したものなのだから。けど、もし許されるのなら…。この銅貨一枚だけ。一緒にペンダントにでも加工してもらってほしいわ。もちろんそれは私への売り物として。きちんとお代は払うわよ。あなたの利益分も含めてね」
そう言ってロウビィは古びた銅貨を一枚、山の中から引っ張り出して、ユーリンの前に置きました。
硬貨は多少傷がつき、かなりくすんでいたが、比較的状態は悪くありません。
「それで良いんですか? もっと綺麗なものや、オシャレな感じのものもありますけど?」
「ええ。これが良いの。これだけは、私が生まれた場所で作られたものだから」
「そうだったんですか? それは驚きました。ドルコナさんが旅の中で手に入れて、どれくらい旅してきたのかはわかりませんけれど、こうして今日、私のお店にやってきた。そして直ぐに次の出会いが待っていた。なんて思うと、不思議で仕方がありません」
ユーリンは驚いたように、その特徴的な耳をピンと立てました。
(つづく)




