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ジャーナリングを西さんと語らう

私は、西江 郁、40代のおにいさんだ。

最近、南さんの顔色が悪い。


もともと真面目だが、最近は“真面目の煮込み”みたいな顔をしている。


(煮詰まっているな)


原因は知っている。


――転職活動だ。


もちろん秘密である。


もし知られたら大変だ。


小田さんには、


「えぇっ!? 南さん辞めるの!? 私のせい!? ねえ私!? ねえ!?」


と泣かれるだろう。まさか、狙われている??


北井くんには、


「その転職、ペイします?」


と真顔で刺されるだろう、きっと。


(地獄だな)


――そんな南さん。


最近、“ジャーナリング”を始めたらしい。


ノートに感情を書く。


頭を整理する。


さらにマインドフルネス。


呼吸に集中。


「今、この瞬間」に意識を向ける。


(意識高いな)


だが、問題が起こった。


――昼休み。


南さん、会議室で静かに目を閉じている。


「吸って……吐いて……」


(やっているな)


すると突然。


「……ペイできますか?」


「!?」


目を開く南さん。


誰もいない。


再び目を閉じる。


「今に集中……」


『インコー♪』


「うわっ!!」


(侵食されているな)


さらに。


ランボー部長の顔。


プーさん部長の笑顔。


小田さんの「ねえ私!?」。


北井くんの「コスパ」。


全部が脳内をぐるぐる回る。


(完全に雑念フェスティバルだな)


そのとき――


ガチャ。


西さんが、入ってきた。


「……南くん」


「西さん……」


「瞑想か」


「はい……でも全然集中できなくて」


「なるほど」


私は座る。


「ジャーナリングとはな」


「はい」


「“蛇”だ」


「違います」


「心の蛇を外へ出す」


「たぶん違います」


そのとき。


『ヘビー♪』


インちゃん登場。


「なんでいるんですか!?」


『マインドフル♪』


「お前は逆にノイズだ!!」


私はうなずく。


「南くん」


「はい」


「今、何を考えている」


「転職のことです」


「うむ」


「失敗したらどうしようとか」


「うむ」


「会社にバレたらとか」


「うむ」


「新しい職場でやっていけるかとか……」


私は静かにうなずく。


――バックトラッキング。


相手の言葉を繰り返す。


すると南さん、少し落ち着く。


「……はい」


「つまり」


「はい」


「不安なのだな」


「……はい」


インちゃんも小声。


『フアン♪』


「お前は黙れ」


私は続ける。


「だが」


「はい」


「人は不安があるから動く」


「……」


「不安ゼロの人間は」


「……」


「だいたい危ない」


「それはそうです」


私はうなずく。


「だから安心しろ」


「はい」


「不安なのは正常だ」


南さん、少し笑う。


「……西さんに言われると、なんか複雑ですね」


「なぜだ」


「西さん、不安なさそうだから」


「ある」


「あるんですか!?」


「毎日ある」


「例えば?」


私は静かに言う。


「妻の機嫌」


「重い」


インちゃんが補足。


『ハンニャ♪』


「リアルだな!!」


南さん、吹き出す。


少し空気が緩む。


私は続ける。


「南くん」


「はい」


「今から質問する」


「はい」


「転職したいか?」


「……はい」


「今のままでいいか?」


「……よくないです」


「変わりたいか?」


「はい」


「なら」


私はうなずく。


「進め」


南さん、止まる。


(イエスセットだな)


小さな“はい”を積み重ねる。


すると、不思議と最後の“はい”も出やすくなる。


南さんが静かにつぶやく。


「……あ」


「どうした」


「なんか今……」


「うむ」


「頭の霧が晴れた感じがします」


「ほう」


「ずっと“失敗しない理由”探してたんです」


「……」


「でも、“進みたい理由”のほうが大きかった」


沈黙。


インちゃんが静かに言う。


『キタナ』


私はうなずく。


「それがジャーナリングだ」


「違う気もしますけど……」


そのときだった。


南さんのノートが風で開く。


そこに大きく書いてある。


『やりたいこと』


その下。


『西さんみたいにはならない』


沈黙。


「……」


「……」


私は静かにノートを閉じる。


「なるほど」


南さん、真っ青。


「ち、違うんです!!」


インちゃん、大爆笑。


『ハンメンキョウシ♪』


私は遠くを見る。


(まあいい)


「南くん」


「はい……」


「それでこそ正常だ」


「……」


――今日も南さんは、ある意味救われた。


そして同時に、

「人は比較対象を間違えなければ成長できる」

という確信を深めたのであった。


――これが本当の意味での、

ジャーナリングとは、自分の本音を書いた瞬間に、たまに事故る行為である。

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