他責思考と自責思考
私は、西江 郁、40代のおにいさんだ。
人は成長するとき、だいたい迷う。
そして迷っている人の横には、だいたい私がいる。
(なぜだ)
――最近。
南さんが疲れている。
目の下にクマ。
動きがスロー。
ため息がBGM。
(来たな)
原因は明白だ。
北井くん。
「それ、ペイできますか?」
「コスパは?」
「その作業、意味ありますか?」
(新人にしては角度が鋭すぎる)
そして南さん。
「意味はあるよ!!」
「どのくらいですか?」
「えっと……」
(詰められているな)
さらに追い打ち。
「南さん、この資料、非効率です」
「どこが?」
「全部です」
「全部かい!!」
(いい勝負だ)
――さらに。
南さんは転職活動中。
履歴書、面接対策、企業研究。
その合間に――
北井くん暴走。
「この会議、ペイしてます?」
「今はやめて!!」
(追い込まれているな)
そしてそこに――
『インコー』
インちゃん登場。
「出た……」
南さん、完全に諦めの顔。
私もいる。
「南くん」
「はい……」
「指導とはな」
「はい……」
「“シドウ”だ」
「また始まった……」
「“死”と“導き”だ」
「不吉!!」
インちゃんが続ける。
『シナナイデ』
「余計怖い!!」
私は続ける。
「他責と自責の話をしよう」
「やっとそれっぽい」
「他責とは」
「はい」
「他人のせいにすることだ」
「はい」
「自責とは」
「はい」
「自分のせいにすることだ」
「そのまま!!」
(よし)
私はドヤ顔でうなずく。
「つまり」
「はい」
「どちらも“責める”だ」
「……」
「責めるのはよくない」
「……」
「だから」
「……」
「無責だ」
「無責!?!?」
インちゃんが即ツッコミ。
『ムセキニン』
「それダメなやつ!!」
南さん、頭を抱える。
「もう無理です……」
(来たな、限界)
そのとき。
北井くんが冷静に言う。
「南さん」
「……何?」
「今の状況、どう思います?」
「どうもこうもないよ」
「他責ですか?自責ですか?」
(核心だな)
南さん、止まる。
考える。
そして――
「……最初は他責だった」
「はい」
「北井くんのせい、西さんのせい、インちゃんのせい」
「だいたい合ってます」
「でも」
南さんはゆっくり顔を上げる。
「今は違う」
「……」
「これ全部、“ネタ”にできるなって思えてきた」
「……はい?」
「もうどうしようもないなら」
「……」
「面白がったほうが勝ちだ」
沈黙。
インちゃんがつぶやく。
『キタナ』
「覚醒だな」
私はうなずく。
「それが“第三の思考”だ」
「第三?」
「他責でも自責でもない」
「……」
「娯楽思考だ」
「そんなのあるか!!」
だが南さんは笑っている。
「いや、あるかもしれません」
「あるのか」
「だって今……」
周りを見る。
北井くん。
私。
インちゃん。
「……だいぶ面白いです」
「それはよかった」
北井くんが言う。
「じゃあこの指導」
「うん」
「ペイしてますね」
南さんが即答する。
「してる」
「理由は?」
「笑えるから」
「……」
インちゃんが締める。
『サイコー』
そのときだった。
南さんのスマホが鳴る。
「……あ」
「どうした」
「第一志望から内定出ました」
「……」
沈黙。
私はうなずく。
「なるほど」
「はい」
「これは完全に自責だな」
「いや違います」
「他責でもない」
「はい」
南さん、にやりと笑う。
「“たまたま思考”です」
「それが一番強い」
――その瞬間。
北井くんが一言。
「その内定、ペイします?」
「……」
南さん、笑顔のまま固まる。
インちゃんがつぶやく。
『ブーメラン』
私は静かに言う。
「戻ってきたな」
南さんが天を仰ぐ。
「……なるほど」
「はい」
「これが本当の意味での」
間を置いて、
「“自分に返ってくる指導”か……」
――これが本当の意味での、
他人に言ったことは、だいたい自分に刺さるという現象である。




