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特別編「ワークライフ&ライクバランス ~わくわくと地獄は紙一重~」

【登場人物紹介】

西江にしえ いく/通称:西さん

40代のおにいさん。

中間管理職らしいが、本人にその自覚は薄い。

マジック、ゴジラ、ダジャレをこよなく愛し、なぜか人生に迷う人を混乱させた末に救ってしまう特殊能力を持つ。

基本的にはボケているが、時々、本質を突いてしまう危険人物。


南さん

真面目。とにかく真面目。

仕事も丁寧で責任感も強い。

そのため、「働かない人の後始末係」になりやすい。

最近は「ジャーナリング」「マインドフルネス」「転職サイト巡回」が趣味。


北井きたい 士成しない/通称:北井くん

新人。

口癖は、

「それ、ペイできるんですか?」

「コスパ悪くないですか?」

PayPayの音マネが得意。


部長

最近、「エンゲージメント」「ウェルビーイング」「人的資本」という言葉を覚えた。

使いたくて仕方ない。

だいたい使い方を間違える。


西江にしえ あずま/トンちゃん

西さんの妻。

阪神ファン。

西さんをディスると腹が立ち、ダイエットが続くらしい。

最近では、西さんを“家庭用エアロバイク”扱いしている。


インちゃん(セキセイインコ)


西さんのペット。

おしゃべり上手だが、突っ込みも上手。

実は、異世界からの使者かも??




第一章 「わくわくライフ&ライクバランス?」

 ある日の昼休み。

 南さんは、食堂で静かにうどんをすすっていた。

 しかし顔が死んでいる。

 その様子を見た西さんが近づく。

 「どうした、南くん」

 「……最近、“ワークライフバランスとか、ワークライクバランス”って何なんだろうって」

 「ほう」

 西さんは座る。

 「仕事は好きなんです。」

 「でも、『やるべきと感じること(ワーク)』と『やりたいと感じること(ライク)』のバランスがわからないんです。」

 「働き方改革で、会社は“休め”と言う」

 「でも仕事量は減らない」

 「働かない人のフォローは増える」

 「結果、真面目な人が疲弊する」

 南さんは遠い目をした。

 「しかも最近、“やりがい”って言葉まで追加されてきて……」

(いわゆる、やりがい詐欺だな。)

 その瞬間。

 後ろから声。

 「エンゲージメントですね!」

 部長だった。

 出た。

 最近覚えた単語。

 部長はニコニコしている。

 「これからは、“わくわくしながら働く時代”ですよ!」

 北井くんが即座に聞く。

 「その“わくわく”、給料に反映されます?」

 「……」

 「それとも気持ちだけ?」

 部長、固まる。

 西さんが静かに言った。

 「北井くん。それ以上は危険だ」

 「なぜです?」

 「今、部長の脳内で“人的資本”が暴走している」

 「やめてください」

 部長が真顔になる。


第二章 「働く理由」

 会議室。

 本日のテーマは、当然、

 【ワークライフ&ライクバランス研修】

 である。部長のありがたいお話だ。

 しかし開始五分で、

 すでに方向がおかしい。

 部長がホワイトボードに書く。

 【働く理由】

 「皆さん、なぜ働くのでしょう!」

 北井くんが即答。

 「金です」

 早い。

 あまりにも早い。

 部長が苦笑する。

 「それは基本だけどね。いや、それだけじゃなくて、ですね……」

 南さんが静かに言う。

 「自己実現とか、達成感、承認欲求とかもありますよね」

 「素晴らしい!ライクですね~、ライクですね~。」

 部長、大喜び。

 西さんは腕を組む。

 「なるほど」

 全員が見る。

 「つまり人間は、“飯”だけでは生きられない」

 「はい」

 「しかし、“やりがい”だけでも死ぬ」

 「そして、“ワイフスキスキ”だけでも死ぬ」

 (本当は、怖い怖い)

 「急に重い」

 南さんがつぶやく。

 西さんは続けた。

 「“君の成長のためだ!”と言われ」

 「“仲間のためだ!”と言われ」

 「“会社は家族だ!”と言われ」

 西さんは遠い目をした。

 「“24時間働けますか?ライクだろっ”と言われ、気づけば休日も消えていた」

 「それ、普通に危険です」

 (昔は、そうだったんだって・・・)

 南さんが真顔。

 部長が慌てる。

 「いやいや! 時代は変わりました。そして~~、我が社は違いますよ!」

 その時だった。

 窓の外から、

 『ヤリガイー! ライクキター!タダバタラキー!』

 という声。

 全員固まる。

 窓の外。

 インちゃん。

 なぜかヘルメット着用。

 「なんでいるんですか!?」

 南さんが叫ぶ。

 『ワクワクー! サービスザンギョー!』

 「やめろぉ!!」

 西さんが焦る。


第三章 「わくわくライフ&ライクバランス」

 部長は咳払いした。

 「……えー、最近は“わくわくライクバランス”が大事でして」

 「なんですかそれ」

 北井くん。

 部長は得意げに語る。

 「仕事だけじゃなく、積極的な休養も必要なんです!」

 「積極的休養?」

 南さんが反応する。

 「そう!」

 部長は急に健康番組みたいになる。話もずれてきているし。

 「休みの日に、趣味や運動を楽しみ、心身を回復する!」

 西さんがうなずく。

 「なるほど」

 「ただ寝るだけではなく、楽しく回復することが大事なんです!」

 西さんは真顔で言った。

 「つまり、“ゴジラ巡礼”も休養だな」

 「違うとは言い切れません」

 南さんが困る。

 北井くんが言う。

 「でも、“休みの日も充実しろ”って、逆に疲れません?」

 一瞬、静かになる。

 部長が固まる。

 西さんがうなずいた。

 「鋭い」

 「え?」

 「最近、“ちゃんと休め”圧力もある」

 「……」

 「キャンプしろ」

 「筋トレしろ」

 「サウナ行け」

 「自己投資しろ」

 西さんは遠い目。

 「気づけば、“休み方”まで競争社会だ」

 南さんがつぶやく。

 「休んでるのに疲れる人、いますよね……」

 「それだ!」

 西さんが立ち上がる。

 「“わくわく”を義務化すると、人は壊れる」

 部長がメモを取る。

 珍しく真面目。


第四章 「真面目な人ほど壊れる」

 南さんがぽつりと言った。

 「結局……働かない人の分まで、真面目な人がやるんですよね」

 空気が少し重くなる。

 北井くんまで黙る。

 西さんが静かに言う。

 「組織には時々、“ワークライフバランスを盾に戦う者”がいる」

 「……」

 「定時ダッシュの達人だ。そしてライクの達人でもある。」

 「いる」

 南さん即答。

 「しかし、その後ろで誰かが残業している」

 西さんは続けた。

 「本来、“助け合い”で成立するはずの制度が、“押し付け合い”になると壊れる」

 部長が珍しくうなずく。

 「それはありますね……」

 西さんはホワイトボードに書く。

 【理想】

 みんなで支える

 ↓

 【現実】

 真面目な人が全部やる

 「悲しいほど見覚えがあります」

 南さんが死んだ目で言う。


第五章 「産業医からのありがたいお話」

~ワークライフ、ライクバランスは万能薬ではありません~


研修会場。

壇上には産業医の先生。労働衛生コンサルタントの資格もある先生。


その前には、

西さん

南さん

北井くん

部長

が並んでいる。


先生が静かに話し始めた。


「皆さん、ワークライフバランスそしてワークライクバランスという言葉を聞くと何を思い浮かべますか?」


北井くんが即答した。


「残業ゼロです。」


「違います。」


先生も即答した。


西さんが手を挙げる。

「妻との距離感です。」


「違います。」


部長が手を挙げる。


「会議中に寝ても許される権利です。」


「それはただの居眠りです。」


開始3分で先生が疲れ始めた。


先生は深呼吸した。


「まず大前提です。」


会場が少し静かになる。


①働きすぎて体や心を壊してはいけない


「当然ですが、仕事で体や心を壊すのは良くありません。」


南さんが頷く。


「その通りですね。」


西さんも頷く。


「私も妻に怒られると心が壊れます。」


「それは家庭問題です。」


②働きすぎて家庭を壊してはいけない


先生が続ける。


「仕事がいくら好きでも、家庭生活も大切です。」


西さんが真顔になる。


「先生。」


「何でしょう。」


「阪神戦の日に妻のチャンスマーチに強制参加させられるのは労災ですか。」


先生は少し考えた。


「微妙です。」


南さんは吹き出した。


人によって働き方は違う


先生はスライドを切り替えた。


「人によって価値観は違います。つまり、ライクです。」


「お金を重視する人。」

「使命感を重視する人。」

「自己実現を重視する人。」

「社会貢献を重視する人。」


北井くん。

「私はコスパです。」


西さん。

「私はネタです。」


部長。

「私は出世です。」


先生。

「だから皆さんバラバラなんです。」


南さんだけがまともにメモしている。


長時間労働の本当の問題


先生が続ける。

「長時間労働そのものが問題というより――」

「なぜ長時間になっているかが重要です。」


南さんが顔を上げた。スライドには、


「楽しい仕事で時間を忘れる」VS「嫌な仕事を長時間続ける」

「人間関係が楽しすぎる」VS「人間関係が悪すぎる」

「仕事仲間を大切にすること」VS「ハラスメントがある」

「人余り」VS「人手不足」

「適切な線引きで自分の仕事に集中」VS「他人の仕事まで抱える」


「右側では心を壊します。」


西さんが手を挙げる。

「先生。」

「はい。」

「仕事しない人の分まで仕事している人はどうですか。」


先生がうなずく。

「典型例です。」


北井くん。

「つまりサボる人のワークライフバランスのために、真面目な人のワークライフが消滅し、ワークライクが破壊されると。」


「その通りです。」


会場が妙に納得した。


仕事中毒という別の問題


先生が話を続ける。

「逆に仕事が好きすぎる人もいます。」


西さん。

「いますね。」

北井くん。

「やりたい病ですか?」

(おいおい)


先生。

「使命感がある。」

「達成感がある。」

「やりがいがある。」


「しかし体力には限界があります。」


「仕事が楽しいことと、無限に働けることは違います。」


西さんがつぶやく。

「野球もも9回までですからね。延長しても12回まで。」


「関係ありません。」


やりがい詐欺に注意


ここで先生が少し声を低くした。

「最近増えているのが――」


『やりがい詐欺』


(どこかで聞いたなぁ)


部長がむせた。


先生は続ける。

「仕事に意味があることは大切です。そして、ライクも」

「また、優先順位も」

「しかし。」


『やりがいがあるから給料は安くてもいい』

『やりがいがあるから休みは少なくてもいい』

『やりがいがあるから我慢しろ』

『これは、やりがいです。』

(スライドの細長い貝のイラストが・・・)


「え~、これは違います。」


南さんが強く頷いたが、残りは全員、急に頭が、がくッと揺れた。


(ここは、吉本みたいに全員で転ぶところでしょ。)


先生。

「やりがいと待遇は別問題です。」


北井くん。

「つまりエンゲージメントで飯は食えない。」


先生。

「言い方はともかく、そうです。」


西さん。

「愛だけでは住宅ローンは払えませんから。」


先生。

「その通りです。」


では何が大事なのか

先生は最後のスライドを映した。


・自分の体を守る

・家族を守る

・仕事の意味を持つ

・十分な報酬を得る

・休養を取る

・メリハリをつけ、効率を上げる

・AIも活用する


「バランスです。そこに、愛はあるんかとも言います」


(先生も壊れてきた)

「仕事だけでもダメ。」

「遊びだけでもダメ。」

「大だけではダメ、小も必要」


「人生全体のバランスです。」


西さんが手を挙げた。

「先生。」


嫌な予感がした。


「ワークライフバランスではなく。」


「ワクワクライクバランスでは?」


(それ部長のパクリ!)


会場が静まり返る。


先生も黙る。


北井くんが言った。

「コスパ悪いダジャレですね。」


南さん。

「でも言いたいことは分かります。」


先生も苦笑した。

「そうですね。」


「人生に少しワクワクがあること。」

「休養を取れること。」

「仕事にも意味を見いだせる、わくわくして、ライクになること。」

「排泄物はしっかり出し切ること」


「それも大切です。」


(なんか汚い感じが)


その瞬間。

後ろで、

ぐぅぅぅ……

という音。


全員振り返る。


部長が爆睡していた。


先生が言った。

「部長。」


部長が目を覚ます。


「はい!」


「今の研修どうでした?」


部長は胸を張った。


「大変勉強になりました。」


「何がですか?」


部長は真顔で答えた。


「適切な休養の重要性です。」


会場全員。

「寝てただけだろ!!」


先生は最後に、


「実は心理学には有名な研究があります。」


部長、再び寝た。


先生は続ける。


「人は罰だけでも動きません。」


「ご褒美だけでも動きません。」


南さんがうなずく。


「加点法と減点法ですね。」


「そうです。」


先生はホワイトボードに書いた。


【減点法】


ミスを叱る



失敗を隠す



挑戦しなくなる


【加点法】


褒める



挑戦する



伸びる


北井くんが手を挙げた。


「つまり会社は褒めればいいんですね?」


先生は首を横に振る。


「違います。」


「え?」


「褒めるだけの組織は危険です。」


西さんがうなずく。


「なるほど。」


「私が証拠だ。」


「説得力が強い。」


全員一致だった。


先生は笑う。


「本当に大事なのは、」


『できたことを認める』


『問題は改善する』


その両方です。


「心理的安全性とは、甘やかすことではありません。」


「安心して意見を言えることです。」


南さんが小さくつぶやく。


「なるほど・・・」


先生は続ける。


「だからワークライフバランスもワークライクバランスも同じです。」


「残業ゼロを目指せばいいわけでもない。」


「長時間働けば偉いわけでもない。」


「単に仕事を好きになるだけではない」


「自分と組織、みんなで楽しく同じ価値観でいい結果を目指す」


「それが本来の目的です。」


その瞬間。


後ろから声。


『ホメテー!』


インちゃんだった。


『ダレカ ホメテー!』


先生が苦笑する。


「インちゃんは何をしたんですか?」


『ナニモ シテナーイ!』


会場全員。


「じゃあ褒められないだろ!!」


こうして研修は終了した。


第五・五章 「ワークライフ? ワークライク?」

研修終了後。


先生が帰ろうとしていた。


すると西さんが呼び止めた。


「先生。」


「何でしょう。」


「最近、“ワークライクバランス”という考え方があるそうですが。」


先生が振り返った。


「ああ。」


「実は私は、ワークライフバランスよりこちらの方が本質的だと思っています。」


部長が反応した。


「新しい横文字ですか!?」


メモを取り始めた。


嫌な予感しかしない。


先生はホワイトボードに書いた。


【Work】


やるべきこと



仕事

家事

育児

介護

税金

会議


【Like】


やりたいこと



趣味

旅行

ゲーム

昼寝

ゴジラ

阪神


部長が言った。


「つまり仕事と遊びの話ですね!」


先生は首を振った。


「違います。」


「え?」


「仕事の中にもLikeがあります。」


「?」


南さんが考える。


「達成感とかですか?」


「そうです。」


先生はうなずく。


「例えば医療職なら人を助けること。」


「研究者なら発見すること。」


「職人なら技術を磨くこと。」


「それはLikeです。そして、”どうだ!俺ってすごいだろっ!”ってやつです。」


西さんが言った。


「つまり私のゴジラ愛と同じか。」


「たぶん違います。」


北井くんが手を挙げた。


「先生。」


「はい。」


「私の場合。」


「仕事はWorkです。」


「給料はLikeです。」


先生は少し考えた。


「正直ですね。」


先生は続けた。


「実は多くの人は、」


『Workだけ』


になった時に苦しくなります。


やらなければならない



終わらない



疲れる



意味を感じない



壊れる


南さんがうなずく。


「分かります・・・。」


しかし逆もある。


先生は続けた。


Likeだけ



楽しい



責任がない



収入がない



生活が壊れる


北井くん。


「無職ルートですね。」


「言い方。」


先生は苦笑した。


すると西さんが腕を組んだ。


「なるほど。」


「つまり人生とは。」


全員が嫌な予感を覚えた。


「月曜日はWork。」


「土曜日はLike。」


「日曜日は現実逃避。」


「違います。」


先生が即答した。


西さんは続ける。


「いや。」


「人間はな。」


「WorkとLikeが重なった時が一番幸せなんだ。」


会場が少し静かになる。


珍しく真面目だった。


「好きなことだけでは飯は食えない。」


「やるべきことだけでは心が死ぬ。」


「だから両方必要なんだ。」


南さんがつぶやく。


「なるほど・・・。」


「ワークライフバランスより。」


「ワークライクバランスの方が分かりやすいかもしれませんね。」


先生もうなずいた。


「そうです。」


「人生の満足度は。」


「仕事と私生活を分けることだけでなく。」


「やるべきことの中に、どれだけ“やりたい”を見つけられるか。」


「そして。」


「やりたいことをやるために、どれだけ“やるべきこと”を整えられるか。」


そこが重要です。


その瞬間。


窓の外から声。


『ゴジラー!』


インちゃんだった。


『ゴジラハ Likeー!』


『シゴトハ Workー!』


『ザンギョウハ・・・』


全員が固唾を飲む。


『ケースバイケースー!』


先生が吹き出した。


南さんも吹き出した。


目覚めた部長は感動していた。


「素晴らしい!」


「今のを次回の朝礼で使おう!」


全員。


「やめてください。」


帰り道。

南さんは少し考えていた。

ワークライフバランスもワークライクバランスも、

働かない理由でもなく、

働き続ける言い訳でもない。

どちらも結局は、


「自分が壊れないための知恵」


なのだろう。


ただし、部長、西さんは例外かもしれない。


すると横で西さんが言った。

「南さん。」

「はい。」

「私は今日、大事なことに気づきました。」


「何ですか?」


「妻とのワークワイフバランスを改善するため。」


「はい。」


「阪神戦の日は残業する。」


南さんは空を見上げた。


それは改善ではない。

単なる現実逃避である。


しかし。

なぜか少しだけ羨ましく思えた。



第六章 「翌日」


部長は、知らぬ間にまた新しい言葉を覚えてしまう。


「皆さん!」


朝礼で叫ぶ。


「これからは心理的安全性です!」


嫌な予感しかしない。


「どんな意見も否定しません!」


「素晴らしいです!」


「最高です!」


「チャレンジです!」


「エンゲージメントです!」


北井くんがつぶやく。


「部長・・・」


「何かな?」


「今それ全部同じ意味で使いましたよね?」


部長は黙った。


南さんが言う。


「心理的安全性、死にましたね。」


西さんが遠くを見た。


「大丈夫だ。」


「何がです?」


「次の流行語が来れば忘れる。」



しかし翌週。


部長は見事に変わっていた。


「皆さん!」


「今日からは!」


「ワークライスバランスです!」


「何ですかそれ。」


「仕事とご飯の調和です!」


北井くん。


「それ昼食ですよね。」


その後、

「ワークライクバランス」会議で部長が話題を変える。

 (ライクのみに変わった!)


 「そこで重要なのが、“認めるマネジメント”です!」

 「出た」

 北井くんが小声。

 部長は続ける。

 「最近は“加点法”が重要なんですよ!」

 西さんがうなずく。

 「確かに、でも、この前も、加点法、減点法の話はあったよね」

 「減点ばかりだと、人は疲弊する」

 南さんが真面目に補足する。

 (研修の時の話は忘れたのかよ。。。)

 「でも加点法だけでも危険ですよね」

 「その通り」

 西さんが立ち上がる。

 (

 ホワイトボードに書く。

 【減点法だけ】

 ↓

 心が折れる

 【加点法だけ】

 ↓

 事故る

 「例えば私だ」

 「説得力が強い」

 北井くん即答。

 西さんは続けた。

 「“西さん、自由ですね!”

 “西さん、発想が独特ですね!”

 “西さん、唯一無二ですね!”」

 西さんは遠い目。

 「気づけば誰も止めなくなった」

 「ただの野生化です」


最終章 「家庭内ワークライクバランス」

 その夜。

 西さん宅。

 阪神戦。

 嫌な予感しかしない。

 東さんが立ち上がる。

 「チャンスね」

 (来た)

 東さんが歌い出す。

 「レッツゴー! レッツゴー! レッツゴー、アズマー!!」

 スクワット開始。

 西さん、巻き込まれる。

 「なぜ毎回こうなる」

 「あなたも運動!」

 「これは休養ではない!」

 東さんはニタニタしている。

 「でもね」

 「何だ」

 「あなたをディスると、腹が立ってダイエット続くの」

 「最悪の内発的動機づけ!」

 阪神、無得点。

 空気が凍る。

 東さん、低い声。

 「……今、何か言った?」

 「言っていない」

 「“ブヨブヨ”って聞こえた」

 「幻聴だ」

 『ブヨブヨー!』

 インちゃん参戦。

 どこから来た。

 東さん、般若化。

 西さんは静かに立ち上がった。

 「……なるほど」

 「何が」

 「ワークライクバランスとは」

 間を置く。

 「“仕事と人生の調和”ではない」

 「……」

 「“どこまで壊れず、笑いながら生き残れるか”の技術だ」

 一瞬、静かになる。

 そして。

 東さんが言った。

 「じゃあスクワット追加ね」

 「なぜだぁぁ!!」

 『ワクワクー!』

 インちゃんが叫ぶ。

 西さんは踊る。

 スクワットしながら。

 人生とは、

 時に理不尽である。

 しかし。

 少し笑えているうちは、

 まだ何とかなるのかもしれない。

 ――今日も西さんは、

 誰かを救ったのか、

 ただ巻き込んだだけなのか、

 よく分からないまま生きているのであった。



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