26.試験官ごっこ
この学園は、アルバイトが禁止されていない。流石に赤点を取るような、学業に支障をきたす場合がある生徒がアルバイトなんてしようものなら、かなり怒られるけど。
まあそれぞれの家庭の事情ってのがあるから、そういう事情があれば怒られる事も、まあ怒られるけど、アルバイトが禁止される訳ではない。だってそうしないと学園に通えないから、アルバイトをする事は許される。けど成績が悪すぎたら、流石に色々とあるらしいけど。
で、まあなんの理由もなく赤点とか取るような奴がアルバイトをしてたら、その時はアルバイトなんてするなと怒られ、強制的にバイトを辞めさせられると聞いた。
っと。ちょっとばかし話が逸れたけど。とりあえず、この学園はアルバイトを禁止されていない。
で、凄いのは、この学園、アルバイトをちょいちょい用意してくれる。それこそ、体育祭とか文化祭の準備も、生徒を強制的に働かせるのではなく、バイトを雇う。生徒から。
まあ生徒会に入れば、強制的に働かされるんだけど。
で、今日、俺が参加させてもうのも、学園がアルバイトとして募集していたのに応募して、合格を貰えたから、ここにいる。ちなみに1年のみと言う条件もある。
なにをするのか。簡単に言えば、試験官ごっこ。まあアルバイトとしてやってきている訳なので、ごっこは違うけど。
まあとにかく、俺は現在、試験官として、学園に雇われている。同僚にはリヒトもいた。
「にしても、よくこれをやろうと思ったな」
「まあ、体育祭の準備とかより割のいい給料だったから。だって体育祭とかの準備は時給換算で600Gにも満たない程度の金額なのに対して、試験官は時給で1200Gちょっとじゃん。まあちょいと条件は厳しいけど、俺はちゃんと満たせたし、時給も良いし、やらない理由はないだろ」
「けど、有名な話があるじゃん?」
そう。この試験官ってのは、特進の受験。つまり実技試験の試験官。だから試験官ごっこ。
で、有名な話とは。まあ簡潔に述べれば、実技試験を受ける受験生に、この学園在学生徒が負けて、自信喪失するって話。
で、1年だけってのは、まずは受験生との実力差が開きすぎていないだろうという点。まあ言っても優秀な生徒であれば1年だろうが2年だろうが大差がある訳でも無いけど、まあ実戦での経験値の差があるから、やっぱり2年3年の方が強くなる。だから比較的実戦経験の浅い1年が、実戦経験のない受験生の相手をすると言う訳だ。
あと1年の時点で学園をやめられてもそこまで学園側にとっては損失が少ないという点。優秀な生徒の自信を失わせる訳にはいかないのである。だって、もしこの学園の卒業生が冒険者として大成功したら、あれよこれよとこの学園の評価も上がる。だからもしもがあってほしくないから、優秀な2年とかは使いたくない。
まあその他色々とあるけど、とりあえずこの試験官は1年しかいない。生徒会は準備と、筆記試験の試験官をする。
「まあ大丈夫だろ。俺には失うような自信ってのはないし。なにより、体育祭の時にフォーセさんに何もさせてもらえずに負けた事の方が、俺にはショックだった!あの時に俺の僅かに残ってた自信がすべて失ったよこんちきしょー」
「ま、まあ、あれはフォーセさんが特別というか、能力を使えないヴァンが悪いというか」
「それにしても、懐かしいなぁ。俺も受験生の時に試験官を狙ったっけか。いやぁ、強かったなぁ」
「おい、その話しぶりは、倒した奴だけがしていいんだけど?」
「ん?ちゃんと試験官の右肩、左胸、背中と全部を点滅させてやったよ。いやぁ、楽しかったぞ、あれは」
「お前のような容赦のない受験生がいるから自信を無くす生徒が出るんだよ」
「いやいや、こちとら受験を受けに来ている訳で、手加減なんてする余裕はないんだよ」
必死な状態で戦ってる訳だから、自分が想像していない実力とかも引き出されたりする。
座学の方は勉強してない事はいきなりなんてできないけど、実技、まあ運動の方だったら、火事場の馬鹿力的なあれで、普段した事なかった事でも、なんか本番で初めてできちゃった、みたいな事もあったりなかったりする。
「自信を時給1200Gちょっとで買われるなんて、可哀想な先輩がいたもんだな」
「さ。時間だ。受験生たちの元へ行こう」
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「はい、静かに」
今回は、俺が司会進行を務める事になっている。
本当ならリヒトの方がこういう事は慣れてると思うんだけど、残念ながら、2学期での実技の成績が俺の方が上だったという事があり、今回は俺が司会進行を務めさせてもらう。
あ。現在2月14日。腕の怪我は固定しなくても良くはなったけど、まだまだ怪我は治っていない。もうちょっとで治ると、医者は言っていた。
「これから、試験内容について話します。聞き逃さないようにしてください。それと、質問は最後に聞きますので、話を遮らないように」
因みに俺でも司会をちゃんと務めていられるのは、カンペがあるから。カンペと言うか、テンプレートがあるからというべきか。
全く関係ないけど、なんで重要な話は一回しか話さないとか言うんだろうね。重要なんだから、何回でも話してくれて良いのに。
「えー。君達には、3つの的を付けてもらいます。利き腕の方の肩、左胸、背中の三か所です。付ける時にもう一度説明しますが、利き腕じゃない肩には青色の的を、左胸には赤の的を、背中には黄色の的を付けてください」
横ではリヒトがそれぞれの的を取り出して、これから試験を受ける受験生に見せている。これがここですよーってのを見せている。
「えー。では試験内容です。皆さんはこれらの的に当てられないようにしつつ、相手の的を狙ってもらいます。合計15ポイント集めれば、クリアとなります。青色の的は1点、黄色の的は3点、赤色の的は5点となります。そしてこれらのポイントの集め方は、各自に支給するこちらのボール。これを的に当てる事で、ポイントゲットとなり、一度当てられた的はこのように光ります。光っている的に当てても、それはポイントにはなりません。自分の体についている的すべてが光れば失格となります。失格したものは、速やかに控室に戻ってもらいます」
いやぁ。去年はこれを聞く側だったと考えると、なんだか感慨深いなぁ。
「15ポイントを集めた方は、失格者とは別の控室へ戻ってもらいます。ですが。15ポイントを獲得したからと言って、控室に戻る必要はありません。ポイントはいくらでも稼いでもらって構いません。勿論、ポイントが高ければ、それだけ評価も高くなります」
これね。これが意地が悪いポイント。
15ポイントを稼げば合格なんだけど、いくらでも稼いでいいと言ったせいで、合格点がいくらなのか分からなくなる。
まあさっきも言ったけど、15ポイントあれば、クリアなんだけどね?失格者が出るから、もしかしてポイントの高い順で合格者を決めるのでは?15ポイントしかなければ失格となってしまうのでは?と勘ぐってしまって、結局15ポイント以上稼ごうとする。
そして稼ごうとした結果、周りから狙われて失格となる、ってな感じ。
まあ勿論沢山ポイントを稼いだ方が評価が高くなるのはそう。でも15ポイントでもクリア。でもまあ詳しい合格基準は学園が決めるから、結局なんだかんだ学園に合格するには30ポイント必要、とかはあるかもしれない。
まあ簡単な話、チキンレースをしている感じだ。どれだけポイントを集めれば良いのかもわからず、自分の的は守りながら戦う。んーん。イイね。
「更に。ピンク、緑、紫、黒の4つの的もあります。これらは試験官が付ける的となります。ピンクは2点、緑は6点、紫は10点。そして黒は50点あります」
会場がざわめきを起こす。まあ当たり前だよな。なんで黒だけ、1つ当てるだけで即クリアになる点数があるのか、と。まあ当然、驚きだとか色々と感情が湧いて出てくる。
俺も当時はそうだった。じゃあ受験生を狙わずに試験官を狙えば良いじゃん、とも思った。
「ピンクは利き腕とは逆の肩に、緑は背中に、紫は左胸についています。まあ単純に、君達のポイントに2倍のポイントを、試験官が持っているという事ですね」
ちなみにこっち側の試験官は、補習を受ける生徒。アルバイトではなく、補習と言う名目で、受験の手伝いをやらされる。
ちなみにこの学園に入ったからには、普通科だろうがなんだろうが、実技が出来なくてはならない。まあダンジョンに入れとかは言われないけど、能力を一般人よりかは使える必要があるとか、最低限剣道ができるとか柔道ができるとか、まあ運動ができる必要がある。
で、その中でもダメな生徒が、補習として試験官を任される。いくら補習を受けるとは言っても、この学園に入って、1年はそれなりの練習を受けたんだ。受験生に負けるようなやわな教育は受けていない。
まあ、可哀想な物言いだけど、受験生が自分の的を1つ2つ犠牲にする覚悟で行けば、試験官の3つの的を点灯させる事ができるはず。
なんたって、冒険者になる事ができる学校の中でも、特に難しいとされるセイチ学園の特進を受けようとする中学生たちだ。いくらその特進崩れとかがいる普通科と言えども、その普通科の中でも更に下の補習生たちが相手じゃ、正直受験生より残念な可能性も無きにしも非ず。
まあ試験官なんていう硬い肩書があるから、生徒から狙われにくいという特性もあったりするけど。
「そして黒の的は、利き腕とは逆の肩、背中、左胸の3か所に付けます。私達がその、黒の的を付ける試験官です」
ここで宣言する必要がある。狙われやすくするためである。普通の試験官、まあ補習を受けさされてる試験官の方は、自分で見つけないといけないけど、黒を付ける義務として、誰が付けているのか明かしておく必要がある。
まあ簡単に言えば、お前ら程度じゃ俺達はやられないから、明かしても問題ない、って言う宣戦布告。
「黒は私達二人しかいません。ですので、黒は合計で6つしかありません。早い者勝ちです」
まあ受験生に負けるはずがない、って言う自意識過剰っぷりを持って挑めば、受験生に負ける事もあるんだけど。俺が受験生の時の試験官もそれだった。いや後半は本気だったかな?まあ今更考えたってわかるはずもないし、どうだっていい。
「私達は挑まれない限り攻撃はしません。ですが他の試験官は、本気で君達を脱落させようとしてきます。敵は君達だけではなく、試験官もいる、という事ですので、くれぐれも背後には気を付けてください」
ちなみに補習生は、自分の的がすべて光る前に、どれだけ受験生の的にボールを当てれるのかが、補習内容になっていて、その当てた的の数が、そのまま成績、成績?とにかく補習の出来を決める。
試験官はポイントでは考えない。的の数である。だから肩にだけボールを当てたら、また別の受験生を狙ったり、どこかに忍んで背中の的を狙うってのもあるし、とにかく色々ある。
まあ簡潔に、一言で言うのであれば。試験官も成績が懸かってるから本気。
「と、ここまで話しましたが、質問はありますか?」
「はい」
「どーぞ」
「攻撃に制限などはあるのでしょうか?」
「はい、良い質問ですね。えー。殺す事は勿論禁止として、相手の腕を切り落としたりと言った、治らない怪我を与えるのもダメです。骨折や打撲等は、やりすぎない限りはありとします。ただし、的を狙わず、あえて怪我をさせようとする危険な人が居た場合には、私達が失格にさせます」
まあ、強制連行させる。
けどまあ流石に、そんなスポーツマンシップが無い奴がいないと、俺達は信じている。じゃないと試験が上手く進まないし。
「えー。他」
「ポイントを沢山集めるメリットは?」
「先ほども言いましたが、合否を判定する時にポイントが高ければ、それだけ評価が高くなります。それだけ自分の実力をアピールする機会が増えますので」
とは言ったものの、詳しい話はただの生徒に聞かされているはずもなく。しょーじき、心の中で、「そんなの知るかバーカ!」って叫んでた。
「じゃあ300溜めても、確実に合格になる訳じゃないんですね」
「まーそーですね」
随分と自信があるようで。ぼく好きよ。そういう自信たっぷりな子。俺もどっちかと言えばそっち側だし。とは言ったものの、口に出すような舐めた真似はしないけど。常識ってのを知ってるから。
まあ俺達も受験生を舐めた真似してるし、受験生側にもああいう人が居ても良いのかもしれない。
まああそこまで堂々と300溜めるって言ったんだ。じゃあ俺の事も狙う、ってか俺の方が先に狙われるかな。一応冬だから冬服だけど、手首ぐらいまで包帯が巻いてあって、チラッと見えてるから、怪我人だと思われていそうだし。まあ事実だけど。
包帯を巻いてるのは、まだ完全に治りきっていないからであって、使っちゃならん訳ではない。まあ今の怪我の度合いを言うのであれば、骨の近くまで切れちゃった、って感じかな?抉れた肉もほぼ治ってくれた。あとちょっとで怪我は治る。
それと包帯を巻いているのは厨二病だからって訳でもない。なにかが封印されているとか、力を抑える為とか、そんなんじゃない。ただ怪我をしているだけ。
「他に質問はないですか?」
「「「……」」」
「ないようですね。ではこれから的を配りますので、言われたところに言われた色を付けてください。それとボールも配ります。1人6つです。最初は6つのみです。ですが落ちているのを使ってもいいですし、奪って自分のにするのもいいです。じゃ、配りますね」
この章はとても短い予定です。だってやる事ほとんどないし。まあいわゆる、後輩キャラの先だしみたいな?そんな感じです。
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