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冒険者教育論  作者: ゆきつき
2章熱血体育祭、文化祭
20/30

19.君に決めた

「シューラさん、お願いしますね」

「うん、わかった」


 まあ、折角好きな人と急接近(物理)できるチャンスなんだ。これを逃す手はないだろ。


「えっと、アロウ。すまんけど、うん。他のペアを探して」

「そーする。はぁ」


 そ、そこまで落ち込まれると、流石に申し訳なさがね。俺も感情のない悪鬼羅刹って訳ではないのよ。ちゃんと人並みに可哀想とかそういう感情を持っているのよ。

 まあ今のアロウに可哀想、は絶対に違うんだけど。だって俺がアロウを選んでたら、可哀想って言う展開にはならなかったから、これは俺の選択のせい。けど、すまんな。俺にはシューラさんと言う、心に決めた人がいるんだ。


「登録は既に終わってる」

「え、ん?」

「ヴァン君が寝てる間にそこのハチマキを借りて、ペアの申請をしてきた。だからほら、もう私達用のハチマキがある」

「う、うん。まあ事後承諾感あったけど、うん。せめて一声かけて欲しかったかなぁ、なんて」


 まあどうせフォーセさんがペアを組んでくれるというのなら喜んでお供するのが俺だから、全然良いんだけど。なんというか、こう、せめて一声かけて欲しかった。


「じゃ、作戦会議しよう」

「えっと、なにか凝った事をするんです?」

「別に大した事ない。すれ違ったペアが敵対行動を取ってくるのであれば、それに応じるってだけ。ただどんな風にお互いが動くかの確認をする必要がある」

「ああ、紐がお互いについてないと失格だっけか」

「だから自分の思ってる行動ができない。それどころか、まともに戦闘行為を行えない可能性の方が高い」

「確かに、自分が思った風に動こうとして、ペアが思うように動いてくれなかったら、紐の長さの3mって制限は面白いぐらいにあっさりと迎える事になるか」


 普通に3mぐらい離れるってなると、意外と距離はあるけど、それだけしか離れずに自分がどんぱちしようとすると、流石に危ない。そもそもこう、流れ弾が当たるような距離感だし、なにより戦闘してる時にその3mを意識できるかの問題がある。


 そして多分盲点だろうけど、紐の長さが3mな訳であって、3m離れられる訳ではない。お互いに紐が離れてない状態を維持しないといけない。だからまあ紐を体に結ばずに手で持てば3mぐらいは離れられるけど、常識的に考えて、そんないつ手放してしまうかもわからない状態を維持するのはリスキーすぎる。

 ってなると、体のどこかに紐を括り付ける必要がある。そしてできる限り解けない程度には結びつける必要がある。そうなってくると、互いに2mも離れられないんじゃないのかな。まあどんな風に結ぶのかわからないし、第一どんあ風に結べば解けずに済むのかってのも全然知らんから、無駄に紐を使ってしまうかもしれないからな。


「これは紐での繋がりを絶てば、相手を失格にさせれる」

「え、そういうルールだった?」

「紐を絶てば互いを紐で繋ぐ状態ってのを維持できなくなる。つまりルール違反」

「いやでも、切られた部分を結べば、一応は、あ。1度でもって文言があるから、それだけで十分か」

「そう。だからあまり2人を繋ぐ紐に余裕を持たせたくない。それは脱落を狙う人の格好の的だから。それこそ普通の二人三脚みたいに密着するべき」

「そ、そうは言ってもですね?」


 こう、パーソナルスペースと言いますか。他人に近づかれたら不快に思うような距離感ってあるじゃん?あ、もちろん俺はフォーセさんならどれだけ接近してもらっても構わないんだけど。

 それでもさ。まあ赤の他人とまでは言わないけど、まあよく見積もって友人の俺とフォーセさんの関係を考えますとよ?男女ってのもあるんだから、それこそ1mぐらい離れろ、とか言われても不思議ではないのですよ。だって思春期女児がパパとかにそういう事言うじゃん。『臭い、半径3m以内に入ってくるな』って。パパだって臭くなりたくてなった訳じゃないんです。加齢臭です。歳をとるとどうしても臭っちゃうんです、仕方ないんです。


 だからまあ、そんな接近しちゃダメというか。


「えっと、フォーセさんは良いの?男と密着するって言う我慢を強いる事になるんだけど」

「大丈夫」

「ホントに?」

「大丈夫だから」

「じゃあまあ良いんだけど。自分で言いたくないけど、後悔しても遅いからね?」

「大丈夫。私は気にならないから」


 まあここまで言うのなら問題ないんだけど。


「問題は、そんな状態でどうやって動くか」

「えっと、どのぐらいの距離で紐を結ぶつもりなので?」

「え?……、このぐらい?」


 わぁお。ガチで密着、肩を並べる(物理)とはこういう事なのですね、神様。俺は真横にいる好きな人にドギマギして、心臓のバクバク音が聞こえないか、とても不安でございます。

 あと、周りの視線が、殺すを通り越して、なんか悟りを開きそうになってきてるんだけど。大丈夫?俺、殺されたりしない?あ、悟り開いてるし大丈夫か。


「これ、動けなくない?制限時間内にゴールって言う制限を果たせなくない?」

「大丈夫。最悪担げる」

「それは男の仕事かなぁ?」


 というか、何があろうとも好きな人に担がれるなんて無様を晒すわけにはいかない。周りが許してフォーセさんが許したとしても、俺の意地とプライドが許さない。


「まあ、走る1つに専念すれば、大丈夫かな」

「問題は、攻撃された時にどうするか」

「まー、嫌な事におつぼねの授業が活きるんじゃないの?余裕をもって躱す。流石に隣にまで気を遣えないけど、ギリギリの回避をしなければ、まあなんとかなるんじゃないの?」

「最悪、紐でがっちり固定してる」


 固定しちゃうんだぁ。汗の匂いとか大丈夫かな?臭いとか思われたりしないかな?大丈夫?男臭いとか思われたくないよ、俺。

 うわぁ、ガチで固定してる。え、待って、もう固定しちゃってるじゃん!まだ心の準備できてないよ。肩が当たっちゃってるよ。とても暖かいです、はい。人の温かみを感じます。


「危なくなった強引にヴァン君を引っ張って回避させる」

「ご迷惑をおかけします」

「いえいえ」


 あっ、案外ノリが良かった。


「戦うのは、基本私。ヴァン君は、なにもしないで」

「まあ、フォーセさんの足を引っ張るぐらいなら何もしないけど」


 多分、怪我の事を気遣ってくれてるんだろうなぁ。優しいなぁ。そういうところも含めて好きになったんだけど。

 でもこう、流石になにもしないで、は刺さるなぁ。心にぐさっ、よ。優しさ故の発言ゆえに、何も言い返さないけど。


『時間です!じゃあスタートラインに並んでください』


「行こっか」

「はい…」


 なんかときめいちゃった。

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