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第九話:趣味をはじめよう

 ランダムに流れる最近流行りの曲を聞き流しつつ、私は本棚の列を右へ左へ奥へ手前へと歩き回っていた。小説のネタ探しである。


 私の地元は田舎ではあるが、少し足を伸ばせば生活に必要な店は大体ある。そう言っても自転車で数十分はかかるので自動車は必須である。今私が居るのは私の地元で一番大きい本屋だ。二階に別れており、二階にはゲームや漫画、ライトノベル等の娯楽関係の本があり、それ以外その他諸々が一階にある。


そして私は二階の漫画コーナーを歩き回っていた。


 本屋の商品棚は便利だ。人気順で作品が並び、ジャンル、出版社、作者がまとまって配置されている。レジの前にはオススメの商品が大きくスペースを支配して大々的に宣伝されている。これらを眺めれば何が流行っているのかは一目で分かる。とは言え、


「最近、似たような題名の漫画とかがやたら増えてないかね。これ」


 私は驚きのあまりそう呟いた。


 レジ前の人気商品が陳列されている本棚を端から橋まで舐めるように見渡したのだが、本棚の半分以上の物がそれらの作品に埋め尽くされていた。そして本棚にある本は往々にして同じ特徴を有していた。


「なんでこんなにタイトル長いの?」


 そう、背表紙のタイトルを見ていると皆一様にタイトルが長いのだ。場合によっては長すぎて背表紙に二列になって表示されている物まである。もはや、『これタイトルとして認識していいの?』と思うような物もあった。


私のイメージでは、タイトルは短くて良いとしても長くて良いイメージはなかった。タイトルとは作品の顔だ。タイトルを見て、自分の作品を見せたい『誰か』に読む気を起こさせなくてはならない。話の内容にそぐわないタイトルだと、内容を読んだ読者は自分が想像していたジャンルと違うと思うだろう。場合によっては最後まで見てもらえるだろうが、大体は即本棚に逆戻りだと思う。


タイトルとは、自分の作品を良く理解して自分に取って一番見てもらいたい部分に注目を向ける大切な名称だ。それが、作品のテーマなのか。主人公の名前なのか。物語の流れなのか。ひとそれぞれだろう。しかし、ひとそれぞれとはいえ……。


私はレジ前の本棚を再度左上から右下にかけてじっくりと見直した。


『~~最強』、『~~転生しました』、『~~令嬢の~~』、『異世界~~』etc


それらのワードを含まれた本が何冊もあった。作者が同じ人なのかと思い、作者名を確認するもそうではなかった。全くの別人同士が似たようなタイトルの作品を発表しているようだった。


「よくわからないけど。これ、著作権とか大丈夫なのかね?」


 頭をポリポリと掻きながらひとまず、ポケットからスマートフォンを取り出して検索をかける。


『漫画 似たような題名』


 検索。……出た。やはり私と同じ疑問を抱いた人は他にも居るらしい。知恵袋に私と同じような疑問を質問している人が居る。その質問に対してこう回答されていた。


『最近の流行りのようなものです。それらの漫画を《なろう系》と呼ぶ人も居ます。』


 なろう系。言われてみれば聞き覚えだけはある単語だった。そんなに有名だったのだろうか。少し前まで仕事以外の時間は死んだ顔で部屋に籠っていたとはいえ少し恥ずかしい。とりあえず、最近の流行りについて少しは分かった。あとは家に帰ってから調べるとしよう。


ネタ探しを終えた私は家に帰るべく、店を後にした。






「はぁー。最近は凄いねぇ」


 あれから自室に籠り、スマートフォンで調べてみたが、本屋で見た題名の長いあれらの本は『小説投稿サイト』に投稿された作品であり、人気作品が選ばれて漫画化したものと分かった。そして私は今、件の小説投稿サイトを眺めていた。


「しかし、これだけの人が小説を書いてるなんて。同じ趣味を持った者としてはなんか嬉しいなぁ」


 スマートフォンの画面を下へ下へとスクロールして行く。投稿された作品が次から次へと表示され、表示しきれなかった物が何ページにも広がっている。


 趣味を共有する人が欲しいと感じた事は無いだろうか? マイナーだったり、コアな趣味を持つ人程に強く感じる事だと思う。


自分が好きな漫画、小説、アニメ。アイドル等、自分が好きだと思った何かに対して語り合いながら談笑する光景を夢見た事は無いだろうか。私は有る。


あまり人と接するのが得意ではない私では有ったがそういった願望は持っていたのだ。しかし、身近な人物でそういった人を探すのは案外難しいものだ。自分が考えている以上に自分の世界は狭い。


しかし、ここでは自分と趣味を同じくする人が集まり、自分の作品を投稿して見せ合っている。そう考えただけでも胸がワクワクする思いだ。


小説を作った後の事を気にしていたが、ここなら良い気がする。人に見せると言っても見せるのは赤の他人だ。少々恥ずかしい思いをした所でその場かぎりの関係だし、そこまで気にやむ事ではない。自分の作品を見て貰えれば別視点から評価してもらえるし、ストーリーを考える練度も上がるだろう。そうなれば自信にも繋がるはずだ。


私は唯一懸念していた作品の公開について問題が解消され視界の霧が晴れたようだった。


私は勉強机に座り、コピー用紙を数枚取り出した。


「よし、まずは何かしら書いてみよう。クオリティーを求めるのはまだ先の話だし」


それから私は久しぶりに時間も忘れて熱中していた。それから何時間も物語の構想をし続け、仕事の疲れもあったのだろう。私はいつの間にか眠ってしまった。


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