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072[ジローナ包囲戦]

072

[ジローナ包囲戦]


 1285年6月、

マヨルカ王国首都ペルピニャン、フランス王国軍指揮所。


「では、作戦を説明します。」


シャルル・ド・ヴァロワは地図を広げました。

ジローナを中心とした広域地図です。


 ジローナ市は、

リウ川とそのいくつかの支流の合流地点に展開する大都市で、

その下流である北側は東西から丘陵が迫ってきており、それが天然の要害を成していました。

市域の北側には要害の地にモンジュイック城が建てられており、

ジローナ市を守る要となっていました。


「ジローナ市はテル川の支流が作るいくつもの段丘に守られています。

 ジローナ攻めの肝となるのが、

 北側にある丘の上のモンジュイック城です。

 城と市の中心地とはテル川と支流のガリガンツ川を隔てた向かい側にあり、

 西、北、東各方面からの唯一の侵入経路です。

 この城さえ落とせば、後はなだれ込むようにジローナを落とす事が可能となります。

 ただし、この要害性を可能な限り現状のまま確保したいと考えています。

 城の北側の地続きの場所や、周囲の山々に付け城を築き、

 南側には長大な横堀を掘り進めて侵入経路を遮断します。

 城と市を完全に包囲して飢えさせ、降伏を促そうと思います。」


国王フィリップ3世は満足そうに頷きました。


「よし!その作戦で問題無い。

 シャルルよ、計画を進めるが良い!」


1285年6月26日、ジローナ包囲が開始されました。


  ―――……‥‥・・・


 それから一ヶ月が経過……

ジローナを見下ろす山の上には既にいくつもの付け城が築城され、

補給路を遮断するように多くの兵が駐屯していました。

山上からはジローナ市の周囲にも穿たれた堀と陣場が見下ろせました。

食糧の運搬はもちろん、人の出入りも一切遮断するよう、

徹底的に包囲を実施していました。

市内にはフィゲラス地域からの避難民も収容していたので、

飢饉はより厳しい状況になっている事が予想できました。


 ―――ジローナ南部の普請場。


   「ヴァロワ様……。」


しかしその時、シャルル・ド・ヴァロワは密偵から耳打ちされた情報に顔色を変えました。


「本当か……!

 まずいな……。

 これは、絶対にジローナ方に知られてはならない……

 この事は私から首脳部のみに伝達する。

 絶対に口外しないように……!」


   「はっ!」


 ……ついにアラゴン軍が動きだしてしまったか……!!……


情報によると1285年7月27日、

ラウリア艦隊の先遣隊10隻がジローナ地域南部の海岸ギョクス沖に到着、

翌日までの戦闘で、フランス海軍には倍以上の艦隊があったにも関わらず敗退したというのです。


「この事がジローナに知られては市民に希望を与えてしまう。

 絶対に市内にバレないようにしないと……!」


   ―――……‥‥・・・


  ―――……‥‥・・・


 ―――1285年8月、

   アラゴン王国首都バルセロナ。


一方、国王ペドロ3世(1239-)の軍はトゥデラの牽制を終えて既にバルセロナに入っていました。


「ジローナからの連絡は?」


   「いいえ、完全に情報が遮断されているようで、

    全く状況が掴めません。」


  「おそらく我々の軍がバルセロナにいる事も伝わっていないでしょう。」


「連絡が無くなってもう1ヶ月以上か……。

 なんとか援軍が居る事を知らせて、

 城将に降伏させないようにせねば!」


ペドロ3世が地図を指差しました。


「ここから……、

 南西のこの丘陵地帯なら、

 フランス軍もそんなに多く兵を割けていないだろう。」


  「確かにこんなに山奥まではまだ手が届いていないかも知れません。」


「とりあえず南西から刺激して、援軍の存在を悟らせれば良い。」


アラゴン国王軍は8月始めにバルセロナを出陣し、

ジローナの南西の丘陵地帯へと進みます。

この丘陵はジローナの北から西、南にまで市を取り囲むように続いており、

この丘陵を横断する街道から、ジローナ包囲軍を西から急襲する作戦でした。


 ―――1285年8月15日。


   「敵襲!!!」「構え!!!」

   「ここから先は通さんぞ!!!」


丘陵上の付け城でアラゴン軍とフランス軍が衝突しました。


「我々はアラゴン王軍!ペドロ国王軍である!!」

「ジローナを解放せよ!!!」


アラゴン軍は口々に、王軍である事を叫んでいました。


   「王軍?!ペドロ王軍だと!!」

   「一卒兵たりとも逃すな!!」

   「ジローナ市に情報を漏らしてはならん!

   「皆殺しにせよ!!!」


山中で激しい攻防戦が行われました。


   「アラゴン兵が逃げるぞ!!」

   「情報を漏らすな!」

   「一人も見逃すな!!!」

   「必ず息の根を止めるのだ!!!」


フランス軍は急襲したアラゴン軍を撃退。

アラゴン軍は、山中に撤退し、行方をくらましました。

戦い自体はフランス軍の勝利。

ですが、アラゴン国王軍が間近まで来ている事がフランス軍の卒兵に知られる事になります。

彼らの動揺が噂として広まれば、ジローナ市内に情報が漏れる危険がありました。


   ・・・‥‥……―――


  ―――フィゲラス地域南部の港町エンプリーズ。

パニサール峠手前のうちで比較的大きな町に国王軍がは滞在していました。


フランス国王フィリップ3世は腕を組んで唸りました。


「ううむ。ペドロ3世がバルセロナに戻ったか……。

 真偽はともかく、それなりに兵数に余裕があるという事は確かだ。

 ならば、私は町でのんびりしている場合では無い。

 我が国王軍もジローナ包囲に直接参加し、

 ジローナ内外の遮断を完璧にしよう。」


国王フィリップ3世が自ら包囲に参加すると宣言しました。


「陛下が?!」


聞いていた諸将も驚きました。


  「この包囲戦は大変厳しくなると想定されています。

   この夏は相当暑くなりそうですし………。」


「だが、人手が欲しいのだろう?

 それに私も直接包囲戦に参加したいのだ。

 ジローナ獲得は重要な場面となる。

 是非ともこの目にその光景を焼き付けたい。」


「父上が行くと言っているのです。

 断るわけにいかないでしょう。」


国王軍は、直ぐにジローナ包囲に加わり、

ジローナの包囲はより強固に、そして慎重になりました。

先のアラゴン側の策も水泡に帰しました。

包囲から50日近くが経とうとしていました。

避難民で溢れていたジローナは、追い詰められていました―――……


     ・・・‥‥……―――


  ・・・‥‥……―――


「くっ………」


 ―――モンジュイック城将カルドナは顔を歪めました。


城兵らもかなり憔悴していました。


   「将軍……、このままでは、危険過ぎます……。」


カルドナは頷きました。

風向きによっては城内にまで市内からの腐臭が漂っていました。

真夏で腐食も激しく、蝿が至る所で飛び交っていました。


「食事を与えなければ餓死者が増え、

 疫病の拡大を促進してしまいかねない。」


   「ヘタをすれば軍内にも疫病が拡がり、全滅の可能性も……。」


「うっ……、うぅ……」


流石の城将も市内の惨状を思い出して吐気を催しました。


「フランス側と、交渉しよう……。

 兵士や市民が全滅するよりは、

 明け渡してしまった方が良いはずだ……。」


   「仕方ありません………。」


  ―――……‥‥・・・


1258年8月19日。


フランス国王フィリップ3世と城将カルドナの会談が行われました。


「休戦交渉だと?」


フィリップ3世の問いにカルドナは頷きました。

カルドナは飢饉の状況を説明し、

これを知ったフィリップ3世は絶句さました。

集る蝿を振り払いなが、カルドナの顔を伺いました。


   「あと20日。

    あと20日以内にペドロ3世陛下からの補給が無ければ、

    ジローナはフランス国王陛下及びヴァロワ伯殿下に明け渡しましょう。

    それまで休戦を提案する。

    ここには優秀な造船所もある。

    あなた方もアラゴン王国の技術者を失いたくないはずだ。」


 「お言葉ですが、城将。

  そのような状況なのであれば、一刻も早く開城をお願いしたい。」


   「そのように市民を心配なさるのであれば、

    速やかに兵を撤退させて貰いたい。

    ヴァロワ伯殿、我々はあなたをアラゴン国王と認めているわけではない。

    あくまで市民の事を思って降伏する交渉に及んでいるのだ。

    あなた方が何と言おうと、あなた方の言葉を信用する事は無い。

    もし20日間の休戦を約束し、

    我が主君であるアラゴン国王ペドロ3世による補給が行われなかった場合には、

    降伏してフランス軍による市民への補給をお願いしたいと考える。」


フランス方の諸将は頷きあっていました。

その様子を確認したフィリップ3世は返答しました。


「うむ。20日だな。

 9月7日までにペドロ3世が来なければ、

 ジローナはフランスに明け渡すと約束してくれるのだな。」


   「ジローナの大事な市民を絶滅させるわけにはいかぬ。

    厳しい飢饉から脱する為に止むを得ず降伏するのだと、

    ペドロ3世陛下に伝えて欲しい。」


「分かった。あと20日待ってやろう。」


カルドナらは、全ての荷をおろしたかのように深呼吸しました。

この交渉が成立し、契約書を交わしました。

カルドナは契約書に押された印を確認して頷きました。

ここに、20日間の休戦が締結されました。


  ―――……‥‥


   ―――バルセロナ、ペドロ3世の指揮所。


「どうだ?ラウリアの艦隊の状況はどうなのだ?」


ペドロ3世の問いに、王子アルフォンソ3世(1265-)が答えます。


   「はい。弟ハイメの報告ですと、

    シチリア島の統治はプローチダ殿と共に概ね完了し、

    周辺の島民も皆陛下に忠誠を誓いました。

    艦隊の修理は問題なく、間も無く出航できるとの事です。」


「うむ。良かろう。

 まだアンジュー家の残党が教皇軍と共に襲ってくるかも知れん。

 シチリアは引き続きハイメとプローチダに警戒をさせておけ。」

 

   「はい。」


「ジェノヴァ軍は動いているのか?」


   「バルセロナに向けて航行中との事です。

    ですが、休戦中ですので攻撃してくる事は無いでしょう。」


「いいや。その艦隊は利用しよう。

 ラウリアにその艦隊を奪わせる。

 さすればジローナ周辺の港を襲う足しになるであろう。」


   「えっ……?

    今は休戦中ですので、

    ジローナ近くから直接補給すれば良いのではないのですか?」


「アルフォンソよ、馬鹿を言っては困るぞ。

 相手がただで引き下がるわけが無いだろう。

 仮にその場は引き下がったとしても、

 必ずまたその艦隊を使って反撃してくるに決まっている。

 フランス軍は既にローゼス港を掌握しているから造船技術者も多く奪われている可能性が高い。

 それに、良く考えてみろ。

 今ジローナ市内では疫病が蔓延していて、

 フランス軍も下手に市内には近寄れないはずだ。

 休戦期限が過ぎて降伏しても構わん。

 こちらにはその後でもフランス軍を駆逐するだけの力があるのだ。」


   「な……!そんな……、

    民は今疫病で苦しんでいるのですよ?!

    フランス方は詳しくその状況を知っているとは思えません。

    遠征してきているフランス軍に、

    ジローナに分け与える食糧や薬があるとも思えませんし……」


「だからこそ、艦隊を襲撃した後に、フランス軍の食糧を奪わせるのだ。

 休戦期間の事は気にせず、

 ジローナを攻めよとラウリアに伝えるのだ!」


アルフォンソ3世は渋い顔をしつつ、父王に従うのでした―――。


 ・・・‥‥……―――


   ―――1285年8月24日。


  バルセロナ沖。


赤十字の旗が靡く艦隊40隻余りが接近していました。


―――ジェノヴァ軍が来たぞ……!―――

―――フィレンツェの軍も居るぞ!―――

―――だ、だが、休戦期間に入っている。

   攻撃してくる事はないよな??―――

―――で、でも、ペドロ国王陛下は攻勢に出るという噂もあるぞ?―――

―――それをフランスが知っていたらエライ事になる!―――


バルセロナ市は、大艦隊の接近を知って怯えました。

密かに市内に入っていた間者が艦隊に接近しました。


   「マリ提督!大変です!!」


「おお、お主は。バルセロナに来ていたのか。

 フランス軍の状況は分かるが?」


   「はい!

    既に先月末、ジローナを包囲するはずのフランス艦隊は、

    ギョクス沖にてラウリア先遣隊によって壊滅状態……!

    海側がガラ空きとなっています……!

    ラウリアの艦隊が到着してしまえば、

    おそらく補給庫が奪われ約束の期間となってしまいます!

    直ぐにジローナへ向かって欲しいとの事です!」


「なんと……!既に先行部隊が壊滅……!?」


   「ラウリア艦隊が到着してしまったら一大事です!

    包囲網は瓦解してしまうでしょう。

    敵の動きを阻止して下さい!」


「情報助かった!

 直ぐにジローナ救援に向かうぞ!!」


マリ提督率いるジェノヴァ艦隊はバルセロナを離れて北上し、

ジローナに向かいました。

彼らは、8月28日、ジローナ南部のフォルミガス沖に到着しました。


   「周囲に敵船は見当たりません。」


「ラウリア艦隊はまだ到着していないようだな。

 なんとか間に合ったようだ。」


ところが、それは間違いでした。

夜になり、偵察船が海原に繰り出すと、

その船は、遥か遠くに留まっていた30隻もの艦隊と合流したのです。


    「よし。時が来た!」


ラウリア提督はにやりと笑いました。


    「敵船は僅か40!ジェノヴァ軍だ!

     我々より若干多いだけの素人軍だ!

     今夜、直ぐに攻撃を仕掛ける!」


        ―――おう!!!!―――


 夜中、ラウリア艦隊は、真っ直ぐジェノヴァ艦隊に接近しました。


  「?!!?敵船が接近中!!!」

  「真っ直ぐ向かってくるぞ!!!」


弓矢の攻撃など御構い無しにラウリア艦隊はジェノヴァ艦隊の中央に突き進み、

ジェノヴァ艦隊を分断しました。


  「敵襲だ!!!」「撃て……!!!?」


しかし、海岸に向けて設定されていたカタパルトでは飛距離が長く、

敵船のその先にいる味方の船の近くに着弾してしまいます。


  「くそっ、どこをめがけて撃っている!!」

  「角度を変えろ!!」


そうこうしているうちに、次々とクロスボウでの攻撃が兵士を襲いました。

小船から甲板に乗り込まれ、ジェノヴァ騎士たちが次々と殺されていきました。


     「出来る限り船に傷をつけるなよ!!

      確実に船を奪取する!」


ラウリア隊の動きは見事。

瞬く間に数百の兵が死に、数百の兵が捕虜となりました。


8月29日、フォルミガス沖の海戦でジェノヴァ艦隊は壊滅。

ほぼ全ての船がラウリア隊に奪われてしまいました。


     「我々が向かうのはローゼス港だ。

      フィゲラスへの補給を断つ為だ!」


ローゼス市は先にフランス軍に奪われたフィゲラス地域北側の港湾都市。

フランス側の補給基地となっていました。

ラウリア艦隊は、ジェノヴァ艦隊に偽装したままローゼス港に向かいました。

ローゼス港の人々は目前まで、その艦隊がラウリア隊だと気付かずに無抵抗でした。


9月3日、ローゼスに難なく寄港したジェノヴァ艦隊、

もといラウリア隊は、駐屯していたフランス兵を殺害しました。


   「なにっ??」「何をする!!」

   「俺たちはフランス軍だぞ?!?」


素早い動きのラウリア隊はあっという間にローゼス港を掌握しました。


   「ラウリア提督の兵士達だ!!」

   「騙された!!!」


 「倉庫を開けろ!!」「食糧と武器を奪え!!!」


フランス軍の包囲軍の為に貯蔵されていた食糧が奪われました。

ローゼスはラウリアに降伏しました。


しかしこの時点で既に9月4日。

3日後までジローナ包囲網を抜ける事は距離的に不可能でした。


  ・・・‥‥……―――


 ―――9月7日、モンジュイック城。


「期限です。」


シャルル・ド・ヴァロワは城将カルドナに告げました。


   「はい。確かに約束しました。」


「では鍵を。」


   「鍵を。」


城将はジローナの鍵をヴァロワ方に渡しました。


「確かに。

 しかし残念ですね。ペドロ3世殿の助けが無いとは……。

 ジェノヴァ艦隊がローゼス港に入ったとの報せがある。

 しばらくすれば、フランス軍からの補給が行なわれるだろう。」


   「罪も無い市民に危害を加えない事を祈る。

    では、我々はこれにて。」


カルドナ方は静かに礼をし、退室していきました。


「良くやった。ジローナはフランスが制した。」


「はい。」「おめでとうございます、国王陛下!」


「市内の様子を早く見て回りたい。」


「では、明日は早速市内の視察をしましょう。」


 ―――翌日、国王フィリップ3世、シャルル・ド・ヴァロワらはモンジュイック城を出て市内に入りました。


そこには、悍ましい光景が広がっていました。

道中至る所に遺体が転がり、悪臭を放っていたのです。


「飢饉の死者とは、こんなにいるものなのか??」

「おかしい……、流石にこの死者の数は変だ……!」


街中を進んで行くと、息のある者が水を求めて近寄ってきます。

衛兵が剣を構えてそれを制します。

悪臭は酷く、鼻が曲がりそうな程でした。


  「この様子は尋常じゃない……!」


  「肌の色が!!これは……?!」


  「陛下!市民に近付いてはなりません…!」


  「戻りましょう!!これはやばい……!」


  「疫病が流行っているのかも知れん!早く城に戻ろう!!」


  「これ以上ここに居ては危険です!」


  「ぉぉぉ……、なんという事だ……」


    ・・・‥‥……―――


      ・・・‥‥……―――


    ―――モンジュイック城周囲の付け城。


  「フランス国王陛下及びヴァロワ伯殿下の命令が下りました。

   市内の建物の被害が酷い為、修復の為の人員を欲しています。

   城砦の兵士は速やかに退去せよとの事です。」


    「この砦はどうなるのです?」


  「ジローナ市は既にフランス領であるので不要となります。

   破却については我々が受け持つ事になるので、

   城将方はモンジュイック城へお戻りください。」


    「うぅむ?」


  「この通り、フランス国王陛下の印もあります。」


書状には、確かに見覚えのあるフィリップ3世の印と思しき印が押されていました。


    「うむ、了解した。」


  「では、安心して退去の準備をお願いいたします。」


    ―――……‥‥・・・


  ―――モンジュイック城。


さて、慌てて戻って来た国王軍に、城に残っていたフランス諸将も動揺しました。


   「市内に疫病が?!?」

   「それは大変だ……!!」

   「フィゲラスから補給が届くが、薬は十分にあるのか?」

   「無闇に市民を城に近付けてはならんぞ!」


問題はそれだけではありませんでした、


       「陛下、

        周囲の砦の兵が続々と戻って来ていますが、

        どういう事なのでしょうか?」


「付け城の兵士が戻ってくる??

 そんなはずは……??ジローナの守りはどうなる?」


       「破却を命じられた別の兵が来たと……」


  「そんなはずは無い!!

   騙された!!!それはアラゴン軍に違いない!!」


   「陛下!大変です!

    付け城で戦闘が始まっているとの事です!!

    陛下の命令と偽って城を乗っ取ろうとしたようです!!」


「という事は、まさか、ジローナは囲われた?!?」


さらなる急使が駆けつけました。


      「陛下!!!大変です!!

       ラウリア軍が既にローゼス港を掌握しているとの報せが!

       フィゲラスが寝返る可能性も……!!」


「な!なんだって?!」

「ジェノヴァ艦隊が来たのでは無いのか?!」


   「また騙されたようです……!

    船がラウリアに奪われたようです!」


「おのれ……卑怯な真似を………!!」


「まずい……!ジローナは包囲されている!」


城から南に市内に向かう事は出来ず、

自らが築いたジローナ包囲網は既に完全にアラゴン軍が掌握している可能性が高い。

つまり、フランス軍はモンジュイック城に完全に孤立している状況になってしまったのです。


「退却を!急がねば完全に袋の鼠だ!!」

「リウ川沿いなら抜けられそうか??」

「ラウリア隊がどこまで接近しているか分からない!」

「急げ!!!アラゴン軍が迫っているぞ!!!」

「私が殿(しんがり)を務めます!陛下は早く準備を!!」


フランス軍はアラゴン兵の攻撃を振り払いながらモンジュイック城を脱出しました。

およそ400の騎士と2000の歩兵による、撤退戦が始まりました。

フランス軍はリウ川の谷間を抜け、山中に入ります。


   「まずいぞ……、フィゲラスが奪われた可能性が高い……!」

   「海方面は危険だ……!」


   「北西のベサルーから峠を越えてルサリョー領に入る経路があります。」


   「安全なのか?」


   「敵もこの経路は想定するでしょう。

    ですが、急げば通過できるはずです!」


しかし、国王直属の軍が既にベサルー城を掌握しており、

周辺に兵を差し向けていました。


 「フランス王を逃がすな!!!

  必ずひっ捕らえよ!!」


    「まずい!!城主に騙された!!」

    「逃げろ!」「王室の者が最優先だ!!!」

    「やむを得ない……!!陛下!!衣装をお脱ぎください!!」

    「陛下を逃せ!!」


王室の重役の者は衣を取り替え、囮を立てて逃亡、

フランス軍はほぼ身一つで山中を逃亡する羽目になってしまいました。


 「くっ!!卑怯な!ペドロ王がこんなにも非道とは思わなかった!!」


  「陛下!!大丈夫ですか?!お急ぎください!!」


「うむ……、問題ない……。」


フィリップ3世はかなり疲れて弱っていました。


「陛下をお守りするのだ!」

「陛下は体調が優れないようだ!輿の準備を!」

「まずい!!敵襲だ!!」

「早く!!」


絶体絶命の状況でしたが、突然敵が弓矢に倒れていきました。


   「フランス国王を救出せよ!!」

   「ご安心ください!我々はマヨルカ軍!味方です!」


「おお、誠にありがたい……!」


シャルル・ド・ヴァロワらも知るマヨルカの城将でした。


   「こちらへ!!!道が確保出来ています!」


「すまない!」


   「後方は我々に任せてください!早く!」

   「一先ずエンプリーズに逃げるのが安全です!」


「遠回りでは???」


エンプリーズはフィゲラス地域南部の港町で、

再びリウ川に戻って東へ向かわなければならない場所でした。


「だが、敵は我々がマヨルカに向かっていると思って捜索しているはず。

 敵の目を欺くには、またジローナ近くにまで戻るのも手だ。」


9月半ば、フランス軍はマヨルカ軍らフランス側に降伏した町の助けを借りて、

ジローナ出発前にも滞在していたエンプリーズに到着しました。


  「ですが、ヴァロワ伯殿、のんびりはしていられません。

   一刻も早くマヨルカ国内に逃げた方が良い。」


 「港町ならば、海路でペルピニャンに進めば良いのでは?」


  「海は今や完全にラウリア海軍が見張っております。

   奪ったジェノヴァ艦隊も有るので、相当数所持しています。

   戦闘になったら、勝ち目はありません……!」


「陸路で行くしか無いのか……。

 陛下の身体の具合も悪いというのに……


  ―――……‥‥


   けほ、けほ………


     「陛下……。具合はいかがですか?」


フィリップ3世は頭を押さえて言いました。


「うぅむ、頭が重い。発熱が治らん。

 目眩がひどい。喉も通らない……腹痛がひどい……」


     「………陛下……!」


医師が病状を診ると、深刻な事態である事を知りました。


「直ぐにペルピニャンに戻らなければならない。」


   「ヴァロワ伯殿……、もう少し様子を見てからでも?

    まだアラゴン軍は周辺を探っているはずです。」


「しかしその間に完全に退路を失われる可能性もある。

 パニサール峠のベルガルド城が我々を迎える準備を進めている。」


  ―――急ぐ必要がある……―――


ヴァロワ伯の様子からでも、フィリップ3世の容態の悪化が伝わりました。

9月下旬、フランス軍はアラゴン王国用の商団や奴隷商などに扮しながら、

這々の体でパニサール峠に向かったのでした―――


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