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073[メロリアの戦い]

073

[メロリアの戦い]


   ―――1285年9月下旬。


    ―――バルセロナ、ペドロ3世の執務所。


ペドロ3世がカタルーニャの地図を眺めていると、

王子アルフォンソ3世(1265-)の声が聞こえてきました。


  「陛下!陛下!」


ペドロ3世は手を止めアルフォンソ3世を待ちました。


  「陛下、朗報です!

   アグーラナからの密偵がやってきました。」


「なんと。アグーラナか!」


ペドロ3世は不敵な笑みを浮かべました。

アグーラナはパニサール峠の南西の麓の町。

そこに送り込んでいた密偵が来たという事は……


  「入れ!」


密偵が入室し、礼をしました。


   「陛下!

    報告致します!

    怪しい集団がアグーラナに入りました。」


「フランス王か?」


   「おそらくは。

    ヴァロワ伯と思われる無骨な少年が中に紛れていました。

    あの出で立ちは隠す事は出来ません!」


「ようやく見つけた!!ふはは!

 して、フィリップ王は?」


   「病気の男がいましたが、かなり容態が悪化しているようです。」


「病状は?どうなのだ?」


   「はい。

    ジローナ市内で蔓延している疫病の症状と、

    同じである可能性が極めて高いです。」


一同がゴクリと唾を飲み込みました。


「では……、フィリップ王は、死ぬのか?」


   「致死率は極めて高いものです。

    おそらく、数日中には……」


「なんと………!!」


諸侯らは複雑な表情を浮かべつつ、

その裏には確かに喜びを感じていました。


  「疫病がアラゴン軍内で流行る可能性もあります。

   このままペルピニャンに逃してしまうのが得策では?」


「甘いぞ、アルフォンソ。

 都心部に到着したら治療が進み栄養を得て治る可能性も無いとは言えない。

 病気の人間を抱えているなら行軍は遅くなるはずだ。

 アグーラナを出発したら、

 パニサール峠に差し掛かる前に急襲させよ!!」


   「は!!!」


アルフォンソ3世はやむなく父王に従いました。

ところが彼には考えがありました。


  ・・・‥‥……―――


 1285年9月30日夜、フランス軍はアグーラナを出発し、

8km北のパニサール峠を見下ろす要衝ベルガルド城を目指しました。

しかし、軍内には病の者も多く、行軍は間延びしていました。


     ――敵襲!!――


   「ヴァロワ様!!!後方が襲われています!!」


ヴァロワ伯は顔を歪めました。


「くそっ!!!もうすぐだと言うのに!!!!」


    「殿下は先をお急ぎください!!」

    「早く陛下を安全な場所に!!」


ところがアラゴン軍は、フランス軍本隊を襲わず後方のみの攻撃に集中していました。


    「おかしい……!

     数はいる筈なのに後ろしか攻撃していないぞ?!」

    「もしや逃してくれているのでは?!」

    「罠かも知れん!!」

    「だが今はとにかく先を急がねば!!」


その時正面からも軍が現れました。

矢が放たれると、それは後方のアラゴン兵に命中していきます。


「ルサリョー伯殿!!」


  「ヴァロワ伯殿!お急ぎください!

   後は我々ベルガルド軍が!!」


「サンチェス殿……!かたじけない……!!」


フランス国王軍は最悪の危機をルサリョー伯軍によって助けられました。

撤退戦は翌10月1日朝まで続いていました。


    ・・・‥‥……―――


   ―――パニサール峠要衝ベルガルド城。


城はフランス王族を迎え入れました。


   「患者のようすは?!」

   「早く医者を!!!」


多くの兵士が感染しており、城内は混乱しました。


  「国王陛下を早く!」


  「王家の者だけでも治療を優先しろ!」


 「これは……、まずい…、

  ここではどうする事も出来ない。

  直ぐにペルピニャンに搬送しませんと……。」


病状の酷い国王フィリップ3世は直ぐにマヨルカ王国首都ペルピニャンに移されました。


 ―――ペルピニャン。


   「凄い熱だ……。」

   「だ、ダメだ!近付いちゃいかん!!

    他に熱のある者はいませんか?」


「薬はあるのですか??治療方法は………?!」


医師達はみな暗い顔で首を横に振るだけでした。


「カスティリアには薬の情報は無いのか?!

 ムスリムの技術は盗んでいないのか?

 ジェノヴァやヴェネツィアから情報は?

 モンゴルや中原から何か伝わっていないのか?!?」


    「探させます!!」

    「直ぐに取り寄せます!!」


フィリップ3世の発熱は激しく、昏睡状態が続いていました。

容態は刻一刻と悪化していました。

しかし新たな情報や薬を待つ事なく、その時は訪れました。


1285年10月5日、ペルピニャンにて―――

国王フィリップ3世、40歳で崩御―――。


   「陛下……!!」

   「父上!!」―――……‥‥・・・


      ―――……‥‥・・・


 ・・・‥‥……―――


   ―――フランス王国首都パリ。


   「国王陛下が!?」


騒然とした王室の中で、嫡男フィリップ4世(1268-)は大きく息を吸い込み、ゆっくりと目を瞑りました。

王室は15年前を思い出していました。

前国王ルイ9世が十字軍として遠征したチュニジアで病死した事を。


  「まさか!兄上が病死だと?!

   誤報だろう!朝廷を惑わすアラゴンの罠に違いない!!

   事実確認を!!!」


王弟のクレルモン伯ロベール・ド・クレルモンは騒ぎたてましたが、

続々と正確な情報がパリにやって来ており、信じざるを得ない状況となっていきました。


   「殿下、直ちに戴冠式を行なってください。」


 「急いてはなりません。アラゴンを刺激するだけです。

  戴冠式は陛下の葬儀が無事に終わってからが良いでしょう。」


   「ブルゴーニュ殿……!何を暢気な事を!

    早く次の手を打たねばマヨルカが奪われてしまいます!」


 「そもそもアラゴンへの出兵が間違いであった!

  アラゴン王国には謝罪しなければなるまい!」


   「そのような屈辱出来るわけないでしょう!」


 「このような事態に陥ったのは何故か!

  シャルル・ダンジューが各国に無謀な戦いを挑んだ結果であろう!

  シチリア王国の事ならまだしも、

  アラゴン王国への進軍は全くの無秩序で無駄な出費であった。

  その結果が国王陛下の死を招いたのだ!

  殿下!ここはヴァロワ伯殿を直ぐに帰国させ、

  内政を整える事こそが肝要。

  先ずは財政を立て直さねばならないのです!」


ブルゴーニュ公ロベール2世は王太子フィリップに進言しました。

フィリップは、何を考えているのか分からないような端正な表情のまま、

ブルゴーニュ公を見つめて、そして、頷くだけでした。


    ・・・‥‥……―――


パニサール峠の戦いと同じ9月30日、

マヨルカ島でもカタルーニャ艦隊による攻撃が行なわれ、

これもアラゴン王国軍が勝利していました。

マヨルカ島の首都パルマが降伏すると、イビサ島とメノルカ島もこれに従う姿勢を見せました。

アラゴン王国は瞬く間に殆どバレアレス諸島を占領してしまったのです。


 「国王陛下!!マヨルカ王国から降伏の使臣が訪れています!」


「降伏だと??」


ペドロ3世は大きく笑いました。


「はは!弟よ!アラゴン王国の力を思い知ったか!!

 お前の降伏は受け入れてやる。

 弟に、ジャウメ2世に直接王に会いに来いと伝えろ。っ!」


   「は!国王陛下の寛大な御心に感謝致します。」


その後、マヨルカ国王ジャウメ2世はペドロ3世に降伏、

忠誠を誓った上で、ルサリョー領主としてアラゴン国王の家臣の身に落ち着く事になります。

代償としてバレアレス諸島はアラゴン国王領として没収されてしまう事になります。


   ―――アラゴン王国首都バルセロナ。


アラゴン王国首都では勝利に湧き上がり、数日間宴を催しました。


「だがこれで終わりでは無い!

 アラゴンやマヨルカ国内には残存するフランス軍もいれば、っ!

 フランスに味方し続けているマヨルカ艦隊もいるのだ。

 これらを全て掃討しなければ本当の終わりとは言えぬぞ!」


   「ですが、陛下……、

    春から絶えず戦争は続いており、兵士達は疲れています。

    フランス軍はもう動けないでしょう。

    今年はもう撤兵し、来年に備えた方が……」


「アルフォンソ!甘えた事を言うな!っ!

 アンジューの帝王とフランス王の死でアラゴンの民は皆士気が高揚している!

 今フランスを討たずいつ伐つのだ!

 宴が終われば直ぐに新たな海軍を準備せよ!」


アルフォンソ3世は、仕方なく父王に従う事にしました。


1285年11月、アラゴン国王軍はバルセロナの西隣のペネデースに移動していました。


 ―――11月10日。


「がっ……!」


ペドロ3世は、突然胸を押さえて苦しみだし、倒れました。


「うっぐ……、ぁ、ぁうぐ……」


それは突然の事でした。

倒れたペドロ3世は一晩苦しみ、そして、

11月11日、アラゴン国王ペドロ3世(1240-1285)、崩御―――。


宮廷は騒然としました。


  「何が起きたのだ!!??」

  「病気だと??ふざけるな!!」

  「毒でも盛られたのか!!給仕を連れてこい!!」

  「数日前より奇妙な咳をしたいた気がするが??」

  「誰の差し金だ!!」

  「宮廷の安定を計らねば!」

  「アルフォンソ殿下を速やかに即位させよ!!」


アルフォンソ3世は動揺していました。


  「陛下!早急にバルセロナへお戻りください!」

  「王位を狙う者が居るかも知れませんぞ!!」

  「早くお発ちください!!」


「うむ、分かった……。」


アルフォンソ3世は周辺貴族の言葉に頷く事しか出来ませんでした―――……‥‥・・・


   ―――バルセロナ王宮。


ペドロ3世の死でバルセロナは騒ついていました。

諸侯らは新たな王権の安定に努めなければなりませんでした。

新アラゴン国王アルフォンソ3世は、遺言を発表しました。


「これより父の言葉を伝える。

 アラゴン国王位は長男であるこの私、アルフォンソ3世が継承する。

 我が叔父マヨルカ国王ジャウメ2世はその王位は維持するが、

 バレアレス諸島は没収となる。

 次男である我が弟ハイメは、シチリア島とバレアレス諸島を領有し、

 トリナクリアの旗を掲げてシチリア国王位を宣言せよ。

 また、三男フェデリーコはまだ至らないシチリア国王ハイメを補佐せよ。」


シチリア国王ハイメ(1267-)、シチリア摂政フェデリーコ(1272-)は兄である新国王に忠誠を誓いました。


「だがハイメよ、マヨルカ国王は屈服しているが、

 バレアレス諸島は未だにアラゴン王国に逆らっている諸侯がいる。

 これを確実に従わせなけならない。」


   「はい……。

    そちらは分かるのですが……。

    兄上、シチリア王国の始末はいかが致しましょう。

    シャルル・ダンジューの息子カルロ2世は未だに捕虜の身。

    ナポリ側は教皇庁が支援しており、

    アンジュー家による支配が続いています。」


「王位にある者をこのままに捕虜として留めておく事は批判も多く、

 アラゴン王国にとっても負担となる。

 釈放する方向で考えねば。

 こちらとしてもフランスとの戦争を継続するよりも、

 バルセロナ家内部の問題であるマヨルカ王国の問題を先ず片付けたい。」


   「フランス王国も国王が崩御し、今は内政を安定させたいはず。

    ならば、釈放の条件は、現状の維持、

    即ち既に我々が固めたシチリア支配を認めさせるのみで良いのではないでしょうか。」


「うむ、そうだな。

 他は深く責任を追及しない方が良い。

 これは恩を売る事になり、後々の為になるかも知れない。」


アラゴン王国の新政府が誕生していました。

しかし、アルフォンソ3世では、諸侯らを取りまとめるには余りに若輩に思われていました。


   ・・・‥‥……―――


     ・・・‥‥……―――


 ―――これよりも3年前……、1282年。


  ―――コルシカ島西岸の港湾都市アジャクシオの港。


「シチリア島が蜂起しただと?」

「フランス貴族への不満が爆発したようだ、ついに。」

「だがその蜂起、アラゴンに亡命していたプローチダが関わっているという噂もあるぞ。」

「と言う事は、いよいよアンジュー家とバルセロナ家は戦争に突入するか……。」

「ギリシアがヴェネツィアとの取引を辞めてジェノヴァ中心の貿易にしてからというもの、

 この辺り一帯の海はジェノヴァ商船の独断場だ。

 カルロ・ダンジョ王もジェノヴァとの取引を重要視しているため、

 その海路はカルロ・ダンジョ王が掌握しているようなもの。

 アラゴン王国は港に困るはずだ。」

「アラゴンにはチュニス経由しか道が無いのは大きな支障だ。」

「うむ!これは、好機ですな!」

「よし、ではピサに密使を送ろう。アジャクシオは味方であると。」


  ―――……‥‥・・・


 もともとラテン帝国とヴェネツィアの繋がりから、

ギリシアから追い出されていたジェノヴァはニカイア帝国との繋がりを強めていました。

ジェノヴァはニカイア帝国との関係を強化し、

1261年に、ラテン帝国を滅ぼして東ローマ帝国を復活させる事に助力しました。

パレオロゴス家がギリシアを掌握してエーゲ海の制海権を有するようになると、

ジェノヴァは東ローマ帝国から地中海の自由貿易権を獲得しました。

逆にヴェネツィアの経済力は低下する事になります。

シチリア国王シャルル・ダンジュー(カルロ1世・ダンジョ)は当初はヴェネツィアと協力的立場であったものの、

経済力を強めたジェノヴァとの関係を強めるようになりました。

1282年に教皇がフランス派のマルティヌス4世となると、

概して教皇派であるジェノヴァはフランス王国との関係も強化され、

地中海はほぼジェノヴァの商圏となりました。

ジェノヴァはさらに黒海にまで進出し、クリミア半島をもその手中にしました。


  ―――ティレニア海の港湾都市ピサ。


    「ジェノヴァに負けてばかりだ!」

    「ヴェネツィアに協力したのが間違いだったのではないか?」

    「そんな事はない!我々の方針は間違っていない!」

    「教皇派の横暴にはうんざりしている!

     ジェノヴァに味方するのはあり得ない!」

    「アレッツォのようにフィレンツェの朝貢国のような運命にはならん!」


内陸にあるフィレンツェにとって、ピサはジェノヴァとの交易に重要な拠点でした。

しかしピサはそれを利用し、そもそもヴェネツィアと同盟関係にありました。

ところが自由貿易権を獲得していたジェノヴァの商圏が拡大すると、ヴェネツィアとピザの経済状況は悪化。

そんな時、シチリア国王カルロ1世・ダンジョの失態でアラゴン王国にシチリア島を奪われるシチリアの晩鐘事件が発生したのです。


    「コルシカ島から密使です!」

    「コルシカはピサ及びヴェネツィアとの貿易を開始したいと。」

    「ううむ、アラゴン王国にとっては、

     バルセロナとシチリアの間にあるコルシカとサルディーニャは目障りな島。

     しかしその内で味方となる港があれば、

     アラゴン王国はその港に金をつぎ込むはずだと言うのだな。」

    「我々の商圏回復にも繋がります。」

    「だが、ジェノヴァとの軍事衝突は避けられないだろう。」


この状況を見越していたジェノヴァは、

ピサが有する一部の港を封鎖して商業上のダメージを与えました。


    「ジェノヴァの暴挙を許すな!」

    「兵士を集めよ!ヴェネツィアから船を集めよ!」


1283年、ピサは艦隊の建築や徴兵を開始しました。

軍事的衝突の機運が高まると、

ジェノヴァ艦隊はサルディーニャ島の重要な港サッサリの包囲を開始しました。


「サルディーニャを確実にジェノヴァのモノに!」

「ヴェネツィアの商圏拡大に協力するような姿勢を見せればただでは済まぬぞ!!」


1284年、ジェノヴァとヴェネツィアの間には小競り合いも起こるようになっていました。


    「ピサにはまだ兵数が足りない。」

    「トスカーナからなら集められないだろうか。」

    「教皇派のトスカーナに要請するのは忍びないか、

     ジェノヴァの専横に不服であるのは変わらない。

     トスカーナなら力になる!」

    「優秀な指導者も不足しているが?」

    「ウゴリーノ・デッラ・ゲラルデスカを呼び戻すのも手です。」

    「何を馬鹿な?!

     ゲラルデスカ家はヴィスコンティ家と縁続きとなった裏切り者ではありませんか!!」

    「既に彼は無実は証明された。

     今ピサには彼のような軍事的才能を持つ者が必要だ。」

    「トスカーナの兵を扱うのに慣れています。

     一艦隊を指揮させるのに都合が良いでしょう。」

    「うむ、確かに一理ありますな。」


軍の準備はどんどん進み、開戦は免れない状況になっていました。


  ―――……‥‥


 多くの本が積み重ねられた一室。

本棚にはラテン語はもちろんフランス語やアングロ・サクソン語の書籍も多数積まれていました。

本棚には多くの研究書や歴史書と共に、彼の執筆した小説も並んでいました。

ルスティケロは物音を聞いて手を休めました。


   「先生……。ピサはいよいよ戦争するそうです……。」


助手は、アングルテール国王からの書信を手渡しました。


「エドゥアルド陛下から?」


エドゥアルドは第八回十字軍で渡仏した折りに愛読書でもあるアーサー王伝説を所持しており、

ルスティケロは、それを翻訳してエドゥアルドを大変喜ばせた事を契機に仕えていた事がありました。

いくつかの伝説を元にした『円卓騎士物語』はルスティケロの有名な著作となりました。

ルスティケロはかつて仕えたエドゥアルドからの書信を読んで悩みました。


  『フランス及びイタリアとアラゴンは戦争を起こすそうではないか。

   もし亡命する気があるのならば連絡してくれ。

   我が国はウェールズとの戦争も終わり安定した。

   先ずはボルドーを頼るが良い。

   道は手配してやろう。』


「……そうですか。心遣い本当にありがとうございます。

 ですが……、おそらく故国に残るかと思います……。」


ルスティケロは1人呟きました……。


 1284年春、教皇庁とフランス王国は、アラゴン十字軍を組織する事を決定。

バレアレス諸島を有するマヨルカ王国はアラゴン王国を裏切ってフランス王国に味方しました。

6月5日、ナポリ湾にてシチリア王国軍とアラゴン王国軍が激突。

結果は、当時は王子であったサレルノ公カルロ2世が捕虜に取られるフランスの敗退に終わりました。


   「アラゴンの勝利だ!アンジュー家と教皇庁の専横を許すな!!」

   「ジェノヴァを図に乗らずな!!!」


ピサは艦隊70隻以上をアルノ川河口に配置。敵軍の待ち伏せました。


 1284年8月6日、ジェノヴァの艦隊88隻がメロリア島の前に現れました。

メロリア島はピサのアルノ川河口正面に浮かぶ小さな島。

ピサ艦隊は既に二列横隊に布陣していました。

艦隊の数はジェノヴァ88に対してピサは72と言われています。

ところが、ピサ艦隊の半数が規模の小さい小船であり、

脆弱性を隠す為に小さい船は全て後列に配置されていました。


「おのれピサめ!なかなかの数を用意したな!」

「若干我々が多そうですが、兵力に大差は無いでしょう。」

「艦隊の数はそれ程関係ない!

 ピサは寄せ集めの軍隊であろう!

 我々ジェノヴァ艦隊の組織力を味わうがいい!!

 攻撃開始!!突入せよ!!!」


ジェノヴァ艦隊の攻撃が始まりました。

突撃するジェノヴァ艦隊は、敵陣の奥まで入っていきました。


「見よ!思った通りだ!

 ピサ艦隊は偽装だ!!ガレーは前列にしかいない!」

「多く見せる為の作戦だったのだ!!」

「怖れるな!ジェノヴァ艦隊の方が数段有利である!!!」


    「見破られた!」

    「船の質は関係ない!我々は十分戦える事を忘れるな!!」


ところが―――


  ………これでは戦えるわけがない。………


―――と、ウゴリーノ・デッラ・ゲラルデスカは、自分の小隊を連れて戦線離脱してしまいます。

これも影響して、メロリアの戦いはピサの敗退。

また同時に陸からも、フィレンツェ軍とルッカ軍により攻め込まれ、

ピサは大打撃を受けました。

ピサ市内に住む影響力のある人物が多数捕虜となりました。

その捕虜の中に、ピサ出身の小説家ルスティケロ・ダ・ピサが含まれていました。

その後ルスティケロ・ダ・ピサはジェノヴァの獄舎内での生活を余儀無くされたのでした。


ピサの経済的損失は計り知れなく、都市としての再生までに時間を要しました。

その後、フランス王国軍によるジローナ包囲戦の失敗とフランス国王フィリップ3世の死、

及びマヨルカ国王ジャウメ2世の降伏によって、フランス王国の地中海での勢力は大きく後退します。

しかしその反面で、ジェノヴァは地中海のほぼ全域の商的制海権を得たのでした。


 ―――……‥‥・・・


   ―――アレッツォ。


   「ピサの状況を聞いたか?」

   「酷い話だ……!」

   「下手をしたは俺らアレッツォも一瞬で彼らに潰されてしまう…」

   「じゃぁジェノヴァの横暴を黙って見てろってのか!!」

   「そんな屈辱耐えられる訳がない……!」

   「原因は教皇庁にある!教皇庁を変えねば何も変わらん!」

   「ルドルフ王に上申しましょう!」

   「帝国の助力が必要だ!

    帝国はブルゴーニュ伯領やネーデルラント地域を巡ってフランスと対立関係にある。

    乗ってくれるに違いない!」

   「先ずはグリエルモ・ウベルティーニ司教に相談しましょう!」

   「必ずや力となってくれましょう!!」


    ―――……‥‥・・・


 「待っていた甲斐があった!

  諸侯らはついに立ち上がろうとしている!

  蜂起の準備をしよう!

  教皇派に不満を覚える者はこのウベルティーニの屋敷に集まるがいい!!!」


教皇派(ゲルフ)皇帝派(ギベリン)の対立は今も続いており、

戦乱の機運が少しずつ高まりつつありました―――……


      ―――……‥‥・・・


  ―――……‥‥・・・


 1286年1月6日、フランス王国首都パリ王宮。


先王フィリップ3世とイザベル・ダラゴンとの間の息子、

フィリップ4世(1268-,17歳)の戴冠式が挙行されました。

王妃はナバラ女王フアナであり、新王はナバラ王位も共有していました。


   ――国王陛下万歳!!――

   ――フランスとナバラに栄光あれ!!――

   ――フランスとナバラの繁栄を願って!!――

   ――国王両陛下万歳!!――


ブルゴーニュ公ロベール2世は大きな笑みを浮かべていました。

クレルモン伯やヴァロワ伯を抜いて、

ブルゴーニュ公は一挙に王国の最重要官職の座に輝いていました。

国王フィリップ4世は無言で僅かに頷くばかりでした。

緩めた口元、幼く端整な顔立ち、この金髪の美男王が、

この時どのような考えで国民の前に立っていたのか窺い知る事は難しい―――


    ―――……‥‥・・・


 1286年2月2日、アラゴン王国首都バレンシア王宮。


アラゴン国王アルフォンソ3世(1265-,20歳)の戴冠式が挙行されました。

マヨルカ国王ジャウメ2世(1243-)も列席し、アルフォンソ3世を讃えました。

アルフォンソ3世は諸侯の顔を確認していきました。


 ……皆、野心が見え見えだ……。

    彼らはこの王国を一体どうするつもりなのか……。……


  ―――国王陛下万歳!!アラゴン王国万歳!!―――


諸侯らの声が一際大きくなっていました。


  「国王陛下!このままで終わるわけではありますまい!」

  「そうです!アラゴン王国を愚弄した行為は許せません!」

  「多くの指揮官が犠牲になりました!復讐するのです!」

  「ラウリアの艦隊がまだ優に動けます!

   是非ともフランスへの攻撃を!!」

  「フランスに復讐を!!」


アルフォンソ3世は彼らの声を聞き辺りを見回しました。


 ……民も、それを望んでいるというのか……?……


家臣の筆頭にいた弟ハイメは兄の不安を感じ取っていました―――


  ―――――………‥‥・・・


    ―――――……‥‥・・・‥‥……―――


    ―――東ローマ帝国首都コンスタンティノポリス。


「ううむ!実に美しいな!」


パレオロゴス朝2代目のアンドロニコス2世パレオロゴス(1259-)は大きな絵画を見上げて満足そうに頷きました。

旧時代の美術の復興(ルネサンス)に熱心であったアンドロニコス2世は、

壁に何枚も飾られた絵画を見て歩き、同時に自分で設計した修道院の出来にも満足していました。


   「皇帝陛下、やはりこちらに居ましたか。」


「うむ。この絵を見てみろ。

 光と影、色使い。実に美しくなったものだ。

 絵画や建築、音学の研究も進み、作家や技術者も、

 古き良き時代のレベルにようやく追いつく勢いであると思わないか?」


   「あ……、はい……。いえ。

    シチリア国王がナポリに帰国されるという事で。」


「ああ、そうであったな。

 彼も音学好きであった。良き作曲家(ミンストレル)を抱えていると言う。

 私も是非その作品を聴いてみたいものだ。

 ナポリには祝いの品を送っておいてくれ。」


   「はい。承知いたしました。

    ところで、アナトリアの動きが騒がしくなっているので、

    帝国議会の参集をお願いしたく……。」


「ううむ。軍務は大将軍に任せてある。

 彼を信用している。

 議会も大将軍に一任する。」


   「………はい。そう伝えます。」


東ローマ帝国は、ミカエル8世パレオロゴス(1225-1282)が崩御してからは、

長子のアンドロニコス2世が即位していました。

アンドロニコス2世の治世は、初めから苦境にありました。


 彼が即位する前年の1281年、

アナトリア西北ソユトを中心に活動していた遊牧民の大首長エルトゥールル(1198-1281)が没していました。

それは、東ローマ帝国の新たな危機の始まりを意味していました―――……


 ・・・‥‥……―――


   ・・・‥‥……アナトリア北西部カラジャ。


「偉大なる我が父エルトゥールルは、

 セルジューク朝の支配から脱し、自ら部族を率いて我々を導いてくれた!!

 辺境の一部族に過ぎなかった我々は、父のお陰でここまで拡大した!

 周辺遊牧部族と同盟を組み、

 キリスト教国やムスリムと時に戦い、時に利用して支配地を拡張してきた。」


    「我らの国を建てよう!!」

    「国を造りましょう!我らの手で!!」


「拡大した我々には生活基盤が必要な時となった……。

 ここカラジャ城に代わるより良い場所に首都が必要だ。

 守るに易く攻め難い場所、そして貿易に有利な場所を。」


    「首都となる場所を探さなくては!」


「我々と同じ遊牧民であったモンゴル族も、

 大都という都を拠点に元という帝国を築き上げた。

 だがクビライ皇帝は多くの土地も失った!!

 我々はそのような道を辿る事の無いように確かな国家を築きあげるのだ!!」


    「我々の帝国を!!!」


「私はこのアナトリアを中心に一大帝国を築こうと思う!!

 アナトリアの民を一つにまとめあげ、これまでに無い巨大帝国を築いてみせる!!

 皆の者!!私に付いてきてくれるか!!!」


    ―――オスマン大首長!!!万歳!!!―――

    ―――オスマン!オスマン!!オスマン!!!―――


「父の志を受け継ぎ、このオスマンがこの地を導く!!!」


   「オスマン様!!貴方の帝国を築くお手伝いをさせて下さい!」

   「オスマン様!!我らの安住の地を求めて戦いましょう!!」


トゥルク系遊牧民の一部族を束ねて拡大させたエルトゥールル。

これを引き継いだオスマン(1258-)は、この数年で確実に周辺諸国をまとめていき、

東ローマ帝国の辺境地への侵蝕も進みつつあったのでした。


    ―――……‥‥・・・・・・‥‥……―――


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