6.生命のペンダント?
闇司祭が現れた、と思ったら消えた!
テレポーテーション、たしかソーサラー魔法のレベル7じゃなかったかな?
室内には、多少の調度品はあったが、抜け道らしいものは全く見つからなかった。
「畜生、逃げられたか」
誰かが悔しそうに呟く。だがどのような手段で?
あり得るとすればソーサラー魔法の「テレポーテーション」くらいだが……唱えられるのは非常に高いレベルのはずだ。あるいはその機能を有するマジックアイテムを使ったのか。いずれにしろ、まともに相手にするには極めて危険な相手と判断された。逃げてくれて助かった、というのが本当のところか。
エアがきょとんとして、
「生命のペンダントって? そんな話でもあったのか?」
「いや? 無かったと思うが」
ドワーフも短い首を器用にひねる。
「彼女なら知っているかな?」
その彼女はと見ると、いつの間にかエルグがちゃっかり側についている。
「お嬢さん、あのペンダントにはなにか秘密が?」
「ペンダント? 私が着けていたものですか」
「ええ、なにかいわくつきなのですか」
「いいえ」
娘はエルグをうっとりと見上げながら答えた。黙って見ていればそのままキスしそうなほど目が潤んでいる。
「先日父が買ってきてくれたばかりですわ」
娘の答えに冒険者たちは顔を見合わせた。
いったい、今のヤツはなんだったんだ?
「ま、いい。後で村長に訊いてみよう。
それよりまず、エルグの出番だぞ」
捜索の最中にまだ新しい宝箱をひとつ見つけていた。
「ちょっと難しい罠だが、まあ見てろ」
「へへ~ん、女の子の前だからって張り切っちゃって」
キルシュが舌を出してからかう。こんなところはあまり一般的に言われる「優美で優雅」なエルフではない。無論生れた森を出て冒険者稼業に飛び込むエルフが一般的なわけもないが。
そんなキルシュを横目にエルグは平然と言い返す。
「爆発するかもしれないぞ。下がってろよお嬢ちゃん」
キルシュは慌ててほかの三人の陰に隠れた。
エルフは元々膂力も体力も低いものだが、彼女のそれは輪を掛けて低い。ちょっとした怪我でも命取りだ。また呪文の詠唱中に衝撃があれば、高位の術師の集中も容易く砕ける。だからこそ戦士たちが彼らを守る盾となる。
エルグが宝箱に屈み込む。村長の娘が覗き込むのを、キートンが後ろに下がらせた。
痩せた背が、一瞬緊張した。
「しまっ……!」
盗賊の俊敏さでエルグが飛び退る!
どむっ
鈍い破裂音。
白煙。
……沈黙。
「で?」
キルシュが冷たく言った。
「いやその……」
少々煤けたエルグの前で宝箱は口を開き、中から緑色のふかふかしたものが飛び出してびよよんと揺れていた。
緑色した、カエルのぬいぐるみ。
「まー可愛いカエル。
あたしこれ貰った! いいでしょ? ね、いいでしょ?」
本気なのかそれともエルグへのあてつけなのか。判別つかなかったが、エルフの少女はいそいそと自分の荷にぬいぐるみを詰め込んでいた。
「で、これだけなの? ほかに何か無い?」
キルシュの問いかけに、毒気を抜かれた様子でエルグが箱の内部を検めた。残っていたのは、小粒の宝石が四粒だけだった。宝飾品としても小さな飾り石程度、盗賊の目で見ればカス同然だ。ゴブリンの宝とすればそんなものかもしれない。そうでなければ換金用の余りといったところだろう。
それでも松明の灯にきらめく石にしばし見入る。
ふと、思いついたようにキルシュが皆を見回した。
「ダメよ、均等に割れないじゃない」
パーティの人数は五人。宝石は四粒。換金すれば割り切れなくもないが。
「じゃ、俺要らない。あとから割り込んだんだしさ、いいよ」
エアが一歩引く。村長の約束した報酬を均等に貰う話になっている。安物の宝石がなくても何とかなると思っていた。
「そういうわけには行かない」
ローマスが珍しく強気に言って一粒押し付けた。
「いらねーったら!」
傭兵らしからぬ科白を吐いてエアはその手を払った。
「先輩、受け取ってくださいよ」
プレイヤーのM氏が勧めた。
「いらねーよ。そんな約束したわけじゃないしさ、だいたい後から入ったんだし、いいよ」
自身の名誉のために申し添えるが。別に格好つけようとか、欲が無いとか、そんなことじゃない。これ一回で終わるキャラクターに、そこまで優遇しなくてもいいと思っただけだ。報酬だって、貰う話をするのが当たり前だからそうしただけで。
「あたしのあげますってば。あたしカエルのぬいぐるみ貰ったし」
A嬢も身を乗り出す。
だから、いらないってば。
「先輩、ローマスはNPCなんですし、取ってくださいよ~」
「NPCったって、要る時ぁ要るだろ。今回は取っときな」
固辞する俺に諦めたGMは、
「じゃあひとつ増やしましょう。五つ見つかった、ということで」
結局その時には、換金分配なんて誰も(GMさえ)思い至らなかったらしい。
「良く探しなさいよ。
ほら、あった!」
箱の隅に埋没していた宝石をキルシュが見つけ、五人が一粒ずつ(五十銀貨の安物だったが)受け取ることにした。
「それで、こいつはどうする?」
ローマスが示したのは、眠ったところを縛り上げたダークエルフだ。ソーサラーやシャーマンの魔法と異なり、暗黒魔法を含むプリースト魔法は口さえ利ければ発動する。そのうえ理力などたった一音だ。尋問することさえ危険ということだ。そのため猿ぐつわまで咬ませてあった。逆に言えば、それ以外の魔法を使う者であれば、身体拘束してしまえばいいわけだ。
「殺しちまえよ。生かしておいても後々面倒なだけだ」
エアが肩を竦める。
「このまま置いて飢え死にさせるってのは趣味じゃない」
「じゃあさ、村に連れ帰るのは?」
キルシュが意地悪く言う。
「村の人がしっかり『歓迎』してくれるわよ」
「そりゃ悪趣味だよ(汗)」
「いいの。どうせダークエルフだし暗黒神官なんだから」
エルフというものはダークエルフに対する慈悲は無いらしい。そんな理由でダークエルフは哀れ先ほどの宝箱に詰め込まれ、キートンに背負われてお持ち帰りされることになってしまった。
一行は村長の娘を連れて村へと引き返した。
ダークエルフ、どう見たって魔物サイドでしょ。
解放するわけにならないし、尋問も危険だし。
・・・尋問されても、背後をそこまで固めてなかっただろうのも確かなのでね・・・




