第1話の9 「ところで写真って、何ですか?」
「う~ん、最高に美味しいです~♪ ほっぺたが落ちちゃうというのは、正にこのことですね~♪」
ほっぺたを押さえながら、ミノアは極上の笑みを浮かべました。
その笑顔はまさにA5ランク級でした。
元々柔らかくて美味しそうなほっぺたをしていたので、本当に落ちそうになっていました。
燃え盛る炭火の炎で周囲の温度は更に熱くなっていましたが、そんな熱さをしのぐ食欲で、汗をたっぷりかきながら、ミノアは美味しそうに食べ続けました。
「牛のお嬢ちゃん、ホント、うまそうに食べてくれるね~」
「美味しさが尻尾の先まで染みわたるようです~♪」
その時、少し離れたところで『パシャ』と小さな音が聞こえ、ミノアは少しだけ首を動かしました。
そこでもう一度、『パシャ』と小さな音が聞こえました。
口にくわえたまま、眼鏡越しにミノアの目が大きく開かれると、更にもう一度、『パシャ』と小さな音が聞こえました。
「?」
見れば少し離れたところに、何やら見たことのない二つ目の小さな箱のような魔道具を持って、こちらをとらえている黒髪短髪の若い女性の姿がありました。
旅人というよりも、探検家のようないで立ちで、背中には随分と大きなリュックを背負っています。
丸まっているのは、野宿をするための簡易テントでした。
やや背が高く、細身だがむしろ無駄なく引き締まった体型で、筋肉もしっかりついていそうでした。
長い旅をしてきたのか、肌も少し日焼けしています。
そしてどの魔族の種族でもなく、明らかに彼女はニンゲン種族でした。
「あ~、ごめんごめん。驚かせちゃったかな? あなたがとっても美味しそうに食べているから、つい写真を撮りたくなっちゃってね~」
パタパタと手を振りながら、屈託のない笑顔を見せてその女性が近づいてきました。
「こんにちは。アタシはニーハっていうんだけど、魔族さんたちの領土に入らせてもらって、色んな写真を撮らせてもらっているんだ。もちろんちゃんと、旅人の許可証を持っているよ」
そう言ってぶらさげている札を、ミノアの方に突き出してハッキリと見せました。
ミノアにとっては見たことのないものだったが、何かそれっぽいことが書かれていました。
「こんにちは。私はミノアです。ところで写真って、何ですか?」
疑問を投げかけつつも、相変わらずはむはむと蒲焼きを食べながら、ミノアは尋ねました。
ミノアの食欲は、こんなことでは止まらなかったのです。
「あ~、見たことがないんだ。ちょっと待っててね・・・」
ニーハと名乗った若いニンゲンの女性は、ごそごそと自分の荷物の中を探り始めました。
「あれ? どこ行ったかな? うちら人間種族には、こういうのがあるんだけど…」
ニーハはリュックの中にしまってあるものを、一つ一つ外に出しながら、調べていきました。
大きめのリュックの中には、随分とミノアの知らない品々が押し込まれているようでした。
「とても美味しいです♪ 私、うなぎの蒲焼きさんに、恋しちゃいました~♪」
その様子を見守りながら、ミノアはロマンチックなコメントを添えて食べ続けました。
(つづく)




