第1話の8 「私もミノタウロスさんは初めて見たなあ」
ぼっふんっ!!!!
「わっ!?」
「きゃっ!?」
「何か、この世のものとは思えないすごい爆発音が聞こえたけどっ!?」
屋台のそばで何か獣の串焼きを頬張っていたハーピィの姉ケイは、その音にびっくりして振り返ると、視線の先で少しざわついているのが見えました。
「食べながらしゃべらないでよ。みっともない」
そのすぐそばでは妹のヒヨが、ケイの振る舞いをたしなめました。
「今あっちで、小さなトロールの男の子と女の子が飛ばされていくのが見えたけど……」
ちょうどそちら側を向いて食べていたヒヨは、指をさしながら説明しました。
この日、ハーピィの姉妹は、祭を楽しむため、『イシキリの町』を訪れていました。
二人とも日焼けしたような浅黒い肌で、露出の多い衣服をまとっています。
どちらも少し波のある赤茶けた髪の毛で、ケイの方はやや長く伸ばして束ね、ヒヨの方はすっきりした短髪に加えて、少し伸ばした耳元の髪をそれぞれ小さく三つ編みにしていました。
またその両腕にはたくさんの羽根が生え、翼と一体化していました。
ふくらはぎの辺りにも少し羽根が生えているようでした。
姉のケイはギルドの依頼で賞金を稼ぐハンターの仕事をしていることもあり、背も高く立派な体躯をしている一方、妹のヒヨはまだまだ少女で身体の線が細く、とても小柄。
二人はだいぶ歳の離れた姉妹でした。
お互い顔立ちは良く似ているものの、姉はきりりとした目元と凛とした顔立ちに対して、妹は少し目じりが下がったあどけない顔立ちをしていました。
★
「あら、牛さん柄の服を着てうずくまっている女の子は、きっとミノタウロスさんね? 角、ちっちゃいけど。ここいらじゃ珍しいから、お祭りに来たのかしら?」
尻尾を抑えてうずくまるミノアの姿を見て、相変わらず食べながらケイはそんなことを言いました。
「そうなんだ。私もミノタウロスさんは初めて見たなあ」
姉妹がそんな会話をしていると、吹っ飛ばされた小さなトロールの男の子と女の子が、元気よく起き上がって、そのミノタウロスさんの方に駆け戻っていきました。
その後ミノタウロスさんは、子どもたちから尻尾を守るように逃げていました。
「あの女の子、ヒヨちゃんと同じくらいの年頃かしらね。ミノタウロスさんの年齢ってよくわからないけど。ヒヨちゃんにもちょうどあれくらいのお友だちが一人でもいれば、人見知りも少しは良くなるかも知れないのにね。声、かけてみる?」
ケイはミノアの方を指さしながら言いました。
「余計なお世話!」
ヒヨはフクロウのように頬を膨らませました。
「そっか~。そうだよね~。ヒヨちゃんはお姉ちゃんっ子だから、お姉ちゃんはそれでも全然構わないけど♪」
ケイはヒヨの頭を優しくなでまわしました。
「撫でまわさないでっ!」
ヒヨは姉の羽根を数枚引っこ抜きました。
「痛っ! 悪戯に羽根を抜くのはやめなさい! ヒヨちゃんの悪い癖よっ! って、五枚もむしられてるっ!?」
ヒヨはむくれたまま、むしった姉の羽根を吹き飛ばして、そっぽを向きました。
しかしながら、その先にちらりと見えたミノタウロスの女の子のことが、ヒヨはちょっと気になっていました。
もう一度視線を向けると、大きな口を開けて、新たな大ウナギの蒲焼きを美味しそうに食べるところでした。
(つづく)




