第1話の7 「ほんぎゃっ!?」
「牛の姉ちゃん、お尻、でっけ~な~」
「牛のお姉ちゃん、面白いしっぽ~」
いつの間にか小さなトロールの男の子と女の子が、ミノアの両隣に立っていました。
その肌にはザクロと同じように、ポツポツと小石のような突起物が見られました。
男の子の方は少しぼさぼさした髪型で、女の子の方はおかっぱのような髪型をしています。
どちらも元気な子どもらしく、日焼けした肌を存分にさらした薄着でした。
「ほらっ! お客さんに悪戯するんじゃないよっ! すまないね。この子らはあたしの子どもたちだ。ちゃんと挨拶するんだよっ!」
「そうなんですか? こんにちは。私はミノタウロスのミノアと言います。今度、『イシノクツ砦』で働くことになりました」
少し身体を曲げて、目線を下げてミノアは自己紹介をしました。
「こんにちは。俺はテツっていうんだ。そのエレキエルの大ウナギは昨日、うちの父ちゃんや他のおっちゃんたちが、山奥の湖で捕まえてきたやつだな。ビリビリしびれるやつを食らって、みんな今もノびてるけど」
「こんにちは。私は妹のコハクだよ。ねえねえ、牛のお姉ちゃん、にょろにょろした尻尾、触っても良い~?」
コハクは目をらんらんと輝かせて、ワクワクが押さえきれないような仕草でミノアにお願いしました。
「触っても良いですけど、絶対に引っ張らないでくださいね。絶対にですよっ?」
ミノアはスタンプのように念を押しました。
「わかったっ!」
コハクは言われた通り、付け根から先まで、優しく撫でまわした。
「ちょっとくすぐったいですね」
と言いつつも、ミノアはされるがままにして、次のかば焼きが出来上がるのを待っていました。
★
ですがコハクとテツは顔を見合わせて、何か決めたようにお互いに頷くと、ミノアの尻尾をしっかりと握りました。
「せ~のっ!」
「それっ!!」
二人呼吸を合わせて、ミノアの尻尾を思い切り引っ張りました。
「ほんぎゃっ!?」
ぼっふんっ!!!!
「きゃっ!?」
「わぁっ!?」
びっくりしたミノアのお尻からとても大きなおならが噴射されると、小さなトロールの兄妹は、その勢いで大きく吹っ飛ばされました。
「すごいおならが聞こえたけど、どうしたんだいっ!?」
ザクロが顔を上げると、その場には尻尾の付け根を抑えてへたりこむミノアと、随分と後方でひっくり返っている子どもたちの姿が目に入りました。
「何だいありゃあ…?」
ざわざわざわ。
ザクロだけではなく、周囲にいた他の魔族たちからもざわめきが起こりました。
「いたたたたっ! だから絶対に引っ張らないでって言ったじゃないですかっ! って、子どもたち、大丈夫ですかっ!?」
随分と後方でひっくり返っている二人の姿がミノアの目に入りました。
「あ~、大丈夫大丈夫。こんな程度で怪我するようなやわな子たちじゃないよ。悪戯したんだから、痛い目を見るのは当然だ。けど、うちの子がごめんね。牛の嬢ちゃん、尻尾、千切れていないかい?」
「それはモウマンタイです。でも尻尾を急に引っ張られると、びっくりして大きなおならが出ちゃうんです。小さなときから」
特に恥ずかしがることもなく、むしろおならをする仕草を見せながらミノアは告白しました。
「はっはっはっ。笑っちゃいけないんだけど、牛のお嬢ちゃんは面白い子だね。おわびにこの蒲焼きはあたしからのご馳走だよ」
「えっ!? ちゃんとお金を払いますって!」
ミノアは尻尾の付け根をさすりながら、もう片方の手をパタパタさせました。
「良いって、良いって。牛のお嬢ちゃん、とてもうまそうに食べてくれるんだからさ。こういうとき、子どもは遠慮するもんじゃないよ」
そう言ってザクロは、大ウナギの蒲焼きを焼き続けました。
★
すくっと立ち上がった小さなトロールの兄妹は、全身に乾いた土をべったりつけたまま、何事もなかったように元気よくミノアに駆け寄りました。
ザクロが言った通り頑丈なのか、二人とも擦り傷一つ見当たりません。
「牛の姉ちゃん、すげ~っ!! もっかいやってくれよっ!!」
「牛のお姉ちゃん、今度はもっと遠くまで吹っ飛ばしてっ!!」
「私の尻尾はオナランチャー噴射スイッチじゃありませんっ!!」
ミノアは蒲焼きが焼きあがるまで、もう一度尻尾を引っ張ろうと、両手をにぎにぎしながらまとわりつく二人を、身体をひねってよけ続けました。
見た目によらず、動きの柔らかいミノアでした。
(つづく)




