第1話の5 「私は『オチチチ村』からやってきたミノアと言います」
ここで再び、ミノアの鼻に先ほどの美味しい匂いが届きました。
「そうでしたっ!!」
匂いの方向を振り向くと、『らくせき食堂』という看板がある店の前では、かなり大きな七輪で何かを焼いている主人の姿が目に留まりました。
パタパタととても大きな団扇で仰ぎ、香ばしい匂いでミノアを誘っていました。
風向きを頭に入れて、明らかにミノアの鼻先に届くように。
「この美味しそうな匂いは、いったい何を焼いているんでしょうか・・・?」
今度こそミノアはその匂いに引っ張られるように、口の端っこから少しよだれを垂らしながら、牛歩よりもずっと早い足取りで近づいていました。
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「いらっしゃいっ! 近くで見りゃ、こいつはまたうまそうな牛のお嬢ちゃんだこと。じーさんが見間違えるのも無理はないねえ。ここいらじゃ珍しいけど、どこから来たんだい?」
ミノアを出迎えたのは、先ほど横槍を入れた声の主、大柄でだいぶふくよかな感じのトロールの女性でした。
炭を焼く業火にも負けず、肩まで袖をまくった太い腕っぷしで、先ほどから豪快に何かを焼き続けています。
ところどころ、肌には小石のようなものが浮き出ていました。
口元が少し開くたびに牙が見え隠れして、今にもミノアをガブリとかじってしまいそうでした。
「こんにちは。私は『オチチチ村』からやってきたミノアと言います。今度、『イシノクツ砦』でお仕事することになって、ここまでやってきました」
「こんにちは。あたしゃザクロってんだが、牛のお嬢ちゃんのふるさとは『オチチチ村』かい? 聞いたことはないけど、きっと随分と遠くから来たんだねぇ」
「はい。てくてく歩いてきて、最後の方は荷馬車に載せてもらって、ここまで十日くらいかかりました。ところでこの美味しそうな匂いのするお魚さんは、どんな食べ物でしょうか? 何か香ばしい感じのタレを付けて焼いているみたいですが?」
そう言ったミノアは、更によだれを垂らしていました。
そんな様子を見て、女性のトロールは苦笑いを見せました。
「お嬢ちゃん、ホントに牛さんみたいだねえ。今焼いているのは、山の奥にある湖で採れたエレキエルって名前の大ウナギの蒲焼きだよ。今日は良いのが入ってねえ。肉厚で、ふっくらしている。こいつはぶつ切りに身をさばいて、蒲焼きにするのが一番、贅沢でうまい食べ方さ。牛のお嬢ちゃん、一つ食べてみるかね?」
そう言ってザクロは、更にパタパタ仰いで匂いを送りました。
ミノアは返事をする代わりに、よだれを垂らしながらコクコクと頷きました。
「まいどっ! 後ろがうちの店だから、適当に荷物を置いてから食べな。あと、ちゃんとよだれを拭いてからね」
「はっ!?」
そう言われてミノアは慌てて頭の手拭いを外し、大急ぎで口元のよだれを拭きました。
蒸れた頭の癖毛が、もじゃもじゃに跳ねていました。
(つづく)




