第1話の4 「牛違いですっ!!」
通りを進んでいくと、やがてミノアは少しいびつになった大きな広場に到着しました。
見れば広場を取り囲むように食事処の店舗が並び、同じくその前には屋台も出展されていました。
ところどころで旅する大道芸人の魔族や、演芸歌劇団の魔族たちが、祭を彩るように何らかのパフォーマンスを見せていました。
一つ一つのパフォーマンスが終わるたび、心付けのおひねりも飛び交っていました。
しかしそんな様子には全く興味を示さずに、ミノアは美味しそうな匂いを敏感に嗅ぎつつ、キョロキョロと辺りを伺っていました。
「どれも美味しそうですけど…。おやおや、このちょっと甘く香ばしいタレで川のお魚さんを焼くような匂いはどこからでしょうか? 私のお腹がこれを食べたいと言っています」
そうひとり言を言ったミノアのお腹が、『も~』と可愛らしい鳴き声を上げました。
★
ミノアがその匂いにつられて一歩踏み出そうとしたときのこと。
「これ、待ちなさい」
「ふんぎゃっ!?」
後ろからリュックサックを強く引っ張られ、ミノアはのけ反るようにして止まりました。
「何じゃお前さん、こんなところにおったか~。ま~た、勝手に散歩なんぞに出かけて~。ささ、おとなしく牛舎に帰るべ~。市場で買ってきたトウモロコシでも食べさせてやっからぁ~。早く大きくなって、たっくさんお乳を出すんだぞ~」
「え? ええっ!?」
少しなまった声が聞こえたかと思うと、今度は左手を掴まれ、そのまましょっ引かれていきました。
「違います違いますっ!? 牛違いですっ!! ノー・アブダクション、ノー・ミューティレーションですっ!!」
大慌てでミノアは掴んでいる何者かの手をタップしました。
その手の持ち主は、髪の毛と眉毛が真っ白い小柄なコボルトらしい男性の老人で、パイプを口にくわえながら、ぷかぷかと白いたばこの煙を上げていました。
ミノアと同じく眼鏡をかけていたが、こちらはレンズの小さな丸眼鏡でした。
「あんら~? うちの仔牛はいつから人の言葉を話すようになったんだべな~。けんど、そりゃあ異世界の言葉かの?」
「お~い、じーさんやっ! その子はお宅の仔牛ちゃんじゃないよ~。仔牛ちゃんはさっき、川の方に降りて行ったから、そっちへ行ってごらんよ~」
その時、別の方向から声がかかりました。
ちょっと野太い感じの女性の声でした。
殆ど開いていなかった目が大きく開き、少し近寄ってミノアの顔を確認しました。
「はあ、どうも、こんにちは…」
「あんれま~、ホントだっ! こりゃ、失礼じゃったっ! うちの可愛い仔牛の『鳴き声』によ~っく似ていたもんでな~。わっしもモーロクしたもんだ~。お詫びにこのトウモロコシ、やるでな~。ほんじゃ~」
一方的に言ってミノアに、紐で束ねられたトウモロコシ三本を押し付けると、スタスタとした足取りでまた仔牛を探しに行ってしまいました。
「よくわかりませんが、大好きなトウモロコシさんをいただいちゃいました。とても甘くて美味しそうです。砦に着いたら、茹でて食べましょう」
ミノアはスンスンと匂いを嗅いでトウモロコシの鮮度を確かめました。
(つづく)




