第2話の5 「どうかされましたか?」
『イシノクツ砦』のある川の上流に向かって、ミノアたちはてくてくと歩いていきました。
途中、川辺で休憩した際に、ミノアはこの黒い仔犬を水浴びさせ、簡単に綺麗にしてやることにしました。
「あなた、男の子だったんですね。とっても可愛らしいタマタマちゃんです。せめて少しでもこぎれいにして、印象を良くしておきましょう。あなた、ちょっと臭かったですからね? 普段から綺麗にしていなくちゃいけません」
そう言いながらミノアは、丁寧に黒い仔犬の身体を洗いました。
水浴びを終えた黒い仔犬は、フルフルと身体を振って水分と飛ばしました。
「これでさっきよりだいぶましになりましたね。もし砦に受け入れてもらえたら、もっと綺麗にしてあげますから」
ミノアは軽く頭を撫でてやりました。
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それからまたミノアたちは歩きだしました。
辺りを見回せば、山の麓に広がる森林の方まで、作物を育てる畑が広がっていました。
その中を小さな風車がポツポツと建てられ、山の方から吹き下ろされる風で羽根車がゆっくりと回っていました。
ふるさとでは見られない光景でした。
そのうちの一つ、道から近いところにあった一基を窓からこっそり覗いてみると、誰かが住んでいる様子もなく、羽根車も飾りのようで、単に倉庫や休憩場所として使われているようでした。
「風車の仕組みはどうなっているのでしょうか。羽根車をずっと眺めていると、そのうち眠くなってきそうですね。いつか中に入ってみたいです」
そんな独り言をミノアは言いました。
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更に先に進むと、轍から少しそれた側溝に車輪がはまって、動けなくなっている小さな荷車を見つけました。
引っ張っているのはロバようでした。
荷車には取れたてのキャベツがこんもりと積まれています。
その荷車を頑張って押して、元の道に戻そうとしている農夫の魔族の姿がありました。
麦わら帽子をかぶり、小さな丸眼鏡をかけた顔がちょっと前に突き出るように長い獣人でした。
「こんにちは。どうかされましたか?」
ミノアの声に顔を向けたその魔族は、どこかアリクイのような顔立ちをしていました。
なのでミノアは『アリクイ獣人のおじさん』と認識しました。
「やあ、こんにちは。こんなところでミノタウロスのお嬢さんに会うとは。なに、畑で収穫したキャベツを運んでいたんだが、引っ張っているうちの子が、蜂に驚いたみたいでね。少し暴れたはずみで、横にそれてしまったら、溝にはまって動けなくなってしまったんだ」
見れば確かに、緩やかな斜面に作られた畑と砂利道の間にあった深い溝に車輪がはまって、どうにも動けなくなっていました。
黒い仔犬はロバに興味を持ったのか、目の前にやってきて、尻尾を振りながらじっと見上げていました。
ロバは大人しくしたまま、黒い仔犬を見下ろしていました。
「なるほど~。確かにこれは大変です。私で良ければお手伝いしますね。これでも力仕事には自信があります」
ミノアは袖をまくって、農作業で鍛えた太い腕を見せました。
「おお、それは済まない。是非お願いしたい。よろしくお願いします」
麦わら帽子を取り、アリクイ獣人は深々と頭を下げました。
(つづく)




