第2話の4 「あなたもついてくるんですか?」
その時。
「ウォン!」
不意に足元から犬の鳴き声が聞こえました。
下を見やればいつの間にやってきたのか、耳が折れ、全身がぼさぼさの黒い毛並みをした仔犬がいました。
だいぶ汚れていて、独特の獣の臭いも放っています。
その黒い仔犬が人懐っこそうに舌を出して、ミノアを見上げていました。
何だか嬉しそうな顔にも見えました。
ミノアはしゃがみこむんで黒い仔犬の頭をそっとなでてやると、仔犬は嬉しそうに尻尾を振りました。
「こんにちは。あなたはどこかこの辺のおうちの子ですか? それとも野良犬さんですか?」
返事をする代わりに、黒い仔犬はミノアからまだ滴り落ちているしずくを、ぺろぺろとなめ始めました。
「あなた、喉が渇いているんですか? ちょっと待っててくださいね」
ミノアはもう一度釣瓶を落として水をくみ上げました。
そして両手ですくって仔犬の前に差し出すと、ごくごくと飲み始めました。
「やっぱり喉が渇いていたんですね」
そんなことをミノアは何度か繰り返しました。
★
のどを潤して満足した仔犬は、今度は甘えるように顔を近づけて、ミノアの頬をなめ始めました。
「お礼ですか? くすぐったいですけれど、ありがとうございます。よしよし」
ミノアは丁寧に仔犬の頭をなでてやりました。
「クォ~ン」
黒い仔犬は甘えるような鳴き声を上げ、ごしごしと自分の匂いをミノアにこすりつけました。
この行動を見る限りは、普通の犬の習性そのものでした。
「さてと、私はもう砦に行かなくてはなりません。あなたもおうちがあるのなら、早く帰るんですよ?」
「ウォン!」
返事なのか、どうなのかわかりませんでしたが、黒い仔犬は相変わらず嬉しそうに尻尾を振りながら一声吠えました。
ミノアは荷物を背負いなおし、落とし物がないか確認すると、出発しました。
「じゃあ、また会いましょう」
軽く手を振ったミノアでしたが、黒い仔犬は当たり前のように尻尾を振りながらミノアの後ろについて歩き出しました。
一旦立ち止まって、ミノアは振り返りました。
「あらら? あなたもついてくるんですか? おうちは無いんですか?」
ミノアはしゃがみこんで、黒い仔犬の頭を撫でながら言いました。
「ワン!」
「う~ん。『ワン』だけじゃわからないですね…。首輪も何もないから、ホントに野良犬なのかも知れません。でも、砦でお世話して良いものか、コカゲさんにお尋ねしないとわかりませんし…」
ですがしっしと追い払うわけにもいかず、そのうちいなくなることを考えて、ミノアはそのまま歩き出すことにしました。
「取り敢えず直射日光が厳しいので、あなたも頭に何かかぶっておきましょう」
ミノアは別の小さな手拭いを取り出すと、黒い仔犬の頭にほっかぶりのようにかぶせた。
「これでよしです。じゃあ、行きましょう」
「ワォ~ン!」
最後は顔を空に向け、オオカミの咆哮のような鳴き声を上げました。
それはどこか、普通の犬とも違う感じでした。
(つづく)




