第1話の24 「牛筋がとろとろにほぐれていきそうです~」
「ほえ~、何だかとっても高そうですけど、素敵な宿屋さんです」
手配してくれた宿屋は、主に旅の行商人やお金のある旅行者などが泊まる宿で、ここに来るまでに泊まったどの宿屋よりも、良い作りになっていました。
更にミノアが泊まる部屋は個室になっていて、プライベートもしっかり守られていました。
ベッドもふかふかでした。
一般客用の大きな大浴場もあり、たっぷり汗をかいた身体を洗い流すことが出来そうでした。
話によれば、天然の温泉とのこと。
なので荷物を置いた後、ミノアは早速お風呂に入ることにしました。
ただ高そうな宿とは言え石鹸は高級品なので、盗難防止に最初から備え付けられていませんでした。
代わりに少し熱めのお湯で身体の汗をしっかり洗い流しました。
それからゆっくりと、身体の疲れを溶かすように湯船につかりました。
「何だかビーフシチューの中にいるようです。牛筋がとろとろにほぐれていきそうです~」
あまりの心地よさに、ミノアはそんな感想を漏らしました。
さっぱりした後、あてがわれた部屋に戻り、簡素な肌着に着替えて、ようやくミノアは一息つくことが出来ました。
今はベッドに腰をかけ、窓辺に干した牛柄の服が、少し涼しくなった夜風に揺られるのを眺めていました。
手には実家から持ってきた自分用の金属製カップがありました。
中にはこの宿のサービスで入れてもらった温かいトウモロコシのお茶が入っています。
そのお茶をちびちびと、少しずつ味わっていました。
少し強めに香るトウモロコシの香と、少し甘い感じの味が特徴で、トウモロコシが大好きなミノアは直ぐに気に入ることとなりました。
「このお茶を飲むと、ますます朝のお通じが良くなりそうです。そう言えばいただいたトウモロコシさんがありましたね。ここでも良く採れるのかも知れません」
半分ほどお茶を残し、備え付けの机の上に置いてから、ミノアは大きくて、柔らかなベッドの上に大の字の寝転がりました。
「到着してから半日くらいで、色んな事が一気に起こって、さすがに疲れました。この子にも助けられちゃいました」
ミノアは首から提げているがま口を、お胸の上に載せて軽く撫でました。
今は手足も引っ込み、何の反応も見せていません。
これだけ見れば、ただのがま口でした。
「そう言えばあの子たちからいただいた金平糖がありました」
ミノアは起き上がると、荷物の中から金平糖の瓶を引っ張り出しました。
封を開け、中から何粒かの金平糖を手のひらに落としてから口に放り込むと、舌先でコロコロと口の中で転がしました。
「甘いですね。大事にいただきましょう」
金平糖の瓶をまた荷物の中にしまい込みました。
★
夜風に当たろうと、ミノアは窓辺に移動しました。
夜になっても、まだまだ祭の賑わいは続いていました。
ボンボンと軽い破裂音がしたかと思えば、幾つもの花火が夜空に向かって打ち上げられるのが見えました。
そして色華やかな大きな花が幾つも開きました。
「とっても綺麗な花火です。私の『オナランチャー』に負けないくらいの爆音です」
ふるさとでは滅多に見ることのなかった打ち上げ花火に、ミノアはしばし、目を奪われてしまいました。
(つづく)




