第1話の22 「モウとっくに牛さんですよ~」
それからしばらくして、文字通りお祭り騒ぎとなった大捕り物は終わりを迎え、誘拐犯の魔族たちは全員とらえられました。
実際のところ、全部で十人もの逮捕者となりました。
参戦したハーピィのケイでしたが、さすがはプロのハンターともあり、三人の誘拐犯を確保しました。
それらを町を警備する兵士たちに引き渡し、ハンターとしての自分の素性を明かした上で、後日、ハンターギルド経由で、相応の謝礼金をいただくこととなりました。
思わぬ臨時収入に、ケイはホクホクした表情を浮かべました。
「ほんじゃ、あとはよろしくね」
そう言い残して、ヒヨのところに戻っていきました。
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言いつけ通り、待ち続けていたヒヨは、日陰の涼しさに心地よくなってか、うつらうつらと船を漕いでいました。
「ヒヨちゃ~ん」
名前を呼ばれて、ヒヨはハッと目を覚ましました。
「お待たせお待たせ~。一人にさせて悪かったわね」
「あっ、お姉ちゃん。お帰り」
ケイは妹の頭を軽く撫でましたが、ヒヨは少し寝ぼけているようでした。
珍しく手を払いのけようとしませんでした。
ケイはヒヨの隣に座ると、ヒヨが抱えていた紙袋から、ポップコーンを一つかみ取って、少しずつ口に入れました。
「動き回って汗かいたから、塩気が美味しい~♪」
そんなことを楽しそうに言ったケイでしたが、ヒヨの反応は違いました。
「ちょっと汗臭い…」
少し離れるように、ケイから遠ざかりました。
「お姉ちゃん、三人も捕まえたわ。後でギルドを通じて謝礼金が入るはず。そうしたら何か食べに行きましょう」
そう言ってケイは、ヒヨの方に近づきました。
「うん。ありがと」
返事をしつつ、ヒヨはやっぱり少しだけ遠ざかりました。
それを見たケイはニンマリと笑ってから…。
「それっ!!」
不意打ちにヒヨをぎゅっと抱きしめました。
「ヒヨちゃんで四人目の捕獲よ!」
「ぎゃあっ!? べたべたするから抱き着かないでっ!!」
ヒヨは姉の顔を押しやるようにして、必死に抵抗しましたが、ケイはびくともしませんでした。
★
あの後ミノアはもはやこの騒ぎで食べ歩くこともできず、結局トロールの小さな兄妹とともに、ザクロの経営する『らくせき食堂』へ戻りました。
「今度こそ食べに来てくれたんだね」
ザクロはそれ以上何も尋ねず、ミノアを迎えてくれました。
「えへへへ~。おばちゃんの他の料理、食べてみたくなったんで」
食べ歩きが中途半端になった分、ミノアはザクロのお勧め料理を幾つか堪能しました。
その後、眠くなったので、ザクロに許可を取ってからゴロンと長椅子に横になりました。
「食べて直ぐに寝ると、牛さんになるよ?」
コハクがそんなことを言っていましたが…。
「モウとっくに牛さんですよ~」
ミノアはそう言って、直ぐに眠ってしまいました。
元気に振舞っていても、やっぱりとてもくたびれていたのです。
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日の入りの少し前にミノアは目を覚ましました。
食堂はいつの間にかお客が増えていましたが、ザクロはそのままミノアを寝かせてくれたようでした。
誰がかけたのか、大きな毛布が身体にかかっていました。
トロールの小さな兄妹も、他の従業員の魔族と一緒に今はお店を手伝って、料理を運んだり、お皿を下げたりと、忙しく動き回っていました。
外から聞こえる喧騒からも、祭の賑わいを取り戻していることがわかりました。
取り敢えずミノアは裏の井戸を借りて顔を洗い、頭をすっきりさせました。
★
ミノアが戻ってきたタイミングで、約束通りコカゲが現れました。
相変わらずあまり感情のなさそうな顔をしていたが、今は少し疲れた様子でした。
「お待たせしてすみません。食事をしながらで構いませんので、先ほどの件、お話を伺いたく。ミノアさんも遠慮なく注文してください。私が来るまでの間に飲食した分も含めて、ごちそうしますよ。砦のお金ですけど」
「そんな、恐縮です」
と言いつつも、ミノアはコカゲが密かにドン引きするくらい、がっつりと料理を注文しました。
この町に到着してからというもの、ミノアは食べてばかりでした。
「とっても美味しいです~♪」
落っこちそうなほっぺを押さえながら、ミノアは極上の笑顔を見せました。
どんなことがあっても、しっかり食べられるタフな精神の持ち主でした。
「それだけ食べられれば大丈夫そうですね」
コカゲも少しホッとした様子でした。
(つづく)




