第1話の20 「この様子、ここで何かあったようですが?」
「これでみんな助け終わりましたけど、あとはどうしたら良いのでしょうかね」
手足を縛られていた子どもたちは解放したものの、檻の中でぐったりしていた動物たちは様子の確認だけして、取り敢えずそのままにしました。
その動物がどんな動物なのか、よくわからなかったからです。
幸いミノアの荷物は全部見つかったが、それ以外のことはミノアたちではどうにもなりませんでした。
その時、ミノアたちのところに闇エルフの女性、コカゲが近づいてきました。
「失礼します。ひょっとしたらなのですが、もし何らかの事情を知っていたら、少々お伺いしたいのですが?」
「はい。何でしょうか?」
「あっ、コカゲの姉ちゃんじゃん。久しぶり!」
「お姉ちゃん、またうちのお店にご飯を食べに来てよっ!」
トロールの兄妹も、どうやら顔見知りのようでした。
「二人とも久しぶりですね。お店の方も時間を見つけて食べに行きます。でも今は私も仕事中ですので…」
軽く話して二人との会話を切ると、ミノアと面と向かいました。
「こんにちは。私は『イシノクツ砦』の砦長代理、コカゲと申します。今日は私も祭の警備を行っていました。この様子、ここで何かあったようですが?」
コカゲは慌てず、冷静に言葉を選んで尋ねました。
「『イシノクツ砦』ですかっ!? 私はミノアと言いますが、今日この町に着いたばかりで、これからそちらで働くことになっています」
「ああ、そうだったんですね。一人、新しく採用された方が近々来ると、本部の方から連絡が入っていました。何でも、『女の子に良く似た美味しいお肉の牛さん』だとか、どうとか」
「美味しいお肉は認めますけれど、言葉が入れ替わっていますね。多分私のことだと思います。こんな場面でご挨拶することになるとは思いませんでした」
ミノアはぺこりと頭を下げました。
「牛の姉ちゃん、うまそうだもんな」
「うちの食堂だったら、特上ステーキにして出せるね」
「牛肉のなべ物の方が、母ちゃんは得意そうだな」
「お肉がプニプニしている~。私は牛丼も食べたいな~」
そんなことをトロールの小さな兄妹は言いながら、ミノアのお肉をつまんでその肉質を確かめました。
「こちらこそ、こんな格好で失礼いたしました。砦に着いてから改めて、色々細かいことはお話をさせていただきます」
「よろしくお願いいたします」
ペコペコと交互に頭を下げる二人の様子を、小さなトロールの兄妹は、不思議そうに眺めていました。
★
コカゲはぐるりと辺りの様子を伺いました。
「ところで、この大爆発したような惨状はいったい?」
「実は私、誘拐されそうになったんです。縄で縛られて、身動きが取れない状態で、荷台に突っ込まれました。脱出するために、私のおならで中からぶっ飛ばしたんですけど、ちょっとやりすぎちゃったみたいで。逆に木っ端みじんになっちゃいました。あっはっはっ!」
そう言ってミノアは、お腹を抱えて笑いました。
「おならで?」
コカゲは一瞬、『ちょっと何を言っているかわからない』ような表情を浮かべました。
「そう。牛の姉ちゃん、尻尾を引っ張ると、すっげ~威力のおならが出るんだよ。さっき、俺たちも吹っ飛ばしてもらった」
代わりにテツが説明しました。
「あっ、さっき走っていったお姉ちゃんのがま口が尻尾にくっついてる」
プラプラと揺れる尻尾を、コハクは指さしました。
「そうなんです。この尻尾に食いついているがま口、実はこれでも小さなミミックらしいのですけど、この子に思い切り尻尾を引っ張って貰いました。ブチッって言ったから、千切れたかと思いましたけど」
ミノアは付け根の辺りを軽くさすりました。
やっぱり理解に苦しむコカゲは、ちょっとだけ反応に困ったような仕草を見せましたが…。
「へ~、へ~、屁~」
殆ど表情を変えず、右手で何かを軽く叩くような、どこかの異世界であったかも知れないようなリアクションを見せました。
(つづく)




