第1話の2 「おかしな噂ですか?」
「その右側の山並みですけど、何だかかなり大きくえぐれたような感じの場所が見えますね?」
ミノアはそちらの方向を指さしました。
その先には樹木があるはずの場所が大きく切り取られ、白い岩肌がさらけ出されていました。
「あ~、あれは採石した跡だな。この地方は上質な石材が採れる場所でな。古い時代はとても盛んだったと聞いている。この町だって、元々採石に携わった者たちとその家族が作ったから、そんな名前になったらしい。それまでは誰も住まない場所だったそうだ」
「そうだったんですね? どうりで、不思議な地名だなって思いました」
ミノアは感心したように頷きました。
「それにあんたが向かう『イシノクツ砦』も同じだ。採石が行われなくなってから、この地方の守りの拠点として砦に作り直したと聞いたことがある。まあ、辺境の土地だから戦なんてものは起こりづらいし、せいぜい時々大きな魔獣が暴れだしたとかで、討伐を行ってくれる。平和が一番だな」
ガタゴトと音をたてながら、緩やかな下り坂を幌馬車はゆっくりと進み続けています。
時折ほこりの混じった風がミノアの鼻をついてきました。
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「残念だが時代とともにここの産業も変わってしまった。今では採石も減り、代わりに農業や林業を行ったり、わしらのような行商人や旅人相手の商売が増えた。ちょうど複数の街道が集まる場所にあるから、自然と人と物が集まってくるんだよ」
「なるほど、それならばあまり不自由はなさそうですね。でもそれより、私は農家出身なので、どんな作物が採れるのか、そっちの方が気になります」
ミノアの位置からは、トウモロコシ畑やキャベツ畑、スイカやカボチャの畑などが広がっている様子が見えました。
種類は豊富そうでした。
「それと今の時期は、『石の祝祭)』というお祭りの時期だから、きっと町は賑やかだろうよ。わしは用事があるから先を急ぐけど、時間があれば少し覗いていくと良い」
「お祭りですか? それは楽しみです! 食べるのが大好きなので、お祭りならではの美味しいお料理をたくさん食べてみたいです!」
そう言ってミノアは元気いっぱいに大きな鼻息を吹き出しました。
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ガタンゴトンと荷馬車はゆっくりと進み続けていました。
「それとちょっとおかしな噂を耳にしたんだが、一応牛のお嬢ちゃんにも教えておくよ」
「おかしな噂ですか?」
ミノアは小首をかしげました。
「うむ。知り合いの行商人から聞いた話なんだが、最近、この地方では家畜を盗んだり、子どもの魔族を誘拐する強盗団が出没しているらしい。捕まえようと治安隊やハンターたちも躍起になっているんだが、中々尻尾を出さないんだ」
行商人の魔族は、片方の手をひらひらさせながら言いました。
「なるほど。それは怖いですね」
ミノアは相槌を打ちつつ、自分の尻尾をニョロニョロと動かしました。
「そんな時に『石の祝祭』だ。お祭りには他所からもたくさんやってくる。そうしたドサクサに紛れ込んでいることがあるから、こういったやからは非常にわかりづらい。それに牛のお嬢さんは『イシキリの町』じゃ、まだ誰も知らないだろうから、万が一さらわれても、いなくなったなんて誰も気づきやしない。だから十分に気を付けて行動するんだよ」
「かなり物騒ですね・・・。十分に気を付けます!」
そんな話をしながら、馬車はゆっくりと進み続けました。
緩やかな下り坂を折り切った後は、川に沿って街道は続いていました。
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やがてミノアを載せた荷馬車は『イシキリの町』の入り口までやってきました。
ミノアはそこでおろしてもらいました。
お祭りが始まっているのか、町の中からは笛の音や歌声、ポンポコとした打楽器など軽快な音楽が聞こえてきました。
「ここまで載せていただき、どうもありがとうございました。お陰で大変助かりました」
ミノアは深々と頭を下げ、荷馬車を引っ張ってくれた二頭の馬の首筋を、それぞれ優しく撫でました。
それに応えるように、馬たちも軽くいななきました。
「良いってことよ。通り道のついでだったし、わしも楽しかったよ。わしは何度もこの街道を往復しているから、またそのうち会うこともあろうな」
「はい。どうかお達者で~」
ミノアを載せてくれた幌馬車は町に立ち寄ることもなく、そのまま街道を進んでいきました。
その後ろ姿が見えなくなるまで、ミノアは手を振り、尻尾もフリフリと振って、しっかりと見送りました。
(つづく)




