第1話の11 「これじゃ、ほっぺた落ちるのもわかるな~♪」
「やっぱり、何度食べても美味しいです~。落ちたほっぺたが、二度と戻らなくなりそうです~」
ミノアは満面の笑みを浮かべて左側の頬を抑えました。
「い~ね~。その幸せいっぱいの笑顔! 美味しさがよく伝わってくるよ~! 玉のような汗が宝石のようにキラキラ輝いているね~!」
あの後ニーハは『ごちそうするから食べている姿をもっと撮影させてほしい』と願い出て、ミノアはそれを承諾しました。
ミノアは相変わらず、焼きあがったエレキエル大ウナギの蒲焼きを次々と食べ続けるだけ。
ニーハはそれを撮り続けるだけ。
焼いているザクロは儲けるだけ。
それぞれがそれぞれ、文字通り『美味しい』思いをしていました。
そんな三人の姿をよそにトロールの小さな兄妹は、ニーハから借りた『なぞ×まぞライフ』をペラペラとめくっていました。
ミノアと同様、二人が見たことのない魔族たちがたくさん載っていて、とても興味深そうに見ています。
まだあまり外の世界を知らない二人にとっては、ページをめくるたびに目を輝かせていました。
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「ほい。これで完売だよ。普段だったら売れ残るんだがね。お嬢ちゃんのお陰で、売り切ることが出来たよ」
「え~、なんて勿体ないっ! 私だったら焼いただけ全部食べきれる自信がありますっ!」
ミノアは拳を握って、力いっぱい鼻息を吹き出しました。
「そうかい。まだ他の屋台で焼いているかも知れないから、余っていたら食べてやっておくれ」
「はいっ! モウマンタイですっ!」
自慢げに大きく張った胸を揺らし、その振動で頬の汗を飛ばした瞬間を、ニーハは逃さず魔道具・写真機にしっかりと収めました。
この日、最高の一枚になりました。
★
「ニンゲンのお嬢ちゃんも、せっかくだから少し食べてごらんよ。これは切り落としだから、お代はいらないよ」
そう言ってザクロはニーハに差し出しました。
竹串に一口サイズのものが、五つほど連なっています。
「ありがとう。それじゃ遠慮なく、いただきます。あっ、悪いんだけど、写真機を持っていてくれるかな?」
「はい。お預かりします」
ニーハは写真機をミノアに渡すと、合掌する仕草を見せてから、串を受け取って一口かじりました。
「うお~っ、こりゃ確かにうまいっ! これじゃ、ほっぺた落ちるのもわかるな~♪」
思わずニーハもほっぺたを押さえた次の瞬間。
ビリビリビリビリ。
「んっ!?」
ニーハは急に直立不動になり、動きが止まりました。
「どうかしましたか?」
ミノアの問いには答えず、その代わりにニーハの身体の表面がプルプルと波打ちました。
そしてニーハの髪の毛が逆立ったかと思うと。
シュポンッ!
「ひゃっ!?」
最後に軽い音を立てて爆発し、頭のてっぺんからうっすらと煙が上がりました。
「ニンゲンの姉ちゃん、煙を出したぞ?」
「お姉ちゃん、面白~い!」
音に反応して、トロールの小さな兄妹もニーハの方に顔を向けました。
「ダイジョブですかっ!?」
「だ、ダイジョブじゃないかも……。まだ身体がビリビリしてる・・・」
「ありゃ、そいつは悪かったね。調理しちまえば触れても食べてもビリビリしないもんなんだが、ニンゲンさんには合わなかったのか」
まさかの結果に、ザクロも申し訳なさそうに頭をかきました。
「……えっとミノアちゃん? 記念に一枚…、撮って…くれる? レンズを向けて…、ボタンを押すだけ…だから」
ニーハは動きも口調も硬いまま、ミノアにお願いしました。
「はい。やってみますっ!」
ミノアは預かっている魔道具の写真機を構え、言われた通りにレンズを向けました。
「はい。いきますよ~」
「いえいっ!」
パシャ。
ニーハが最低にひきつった笑顔を浮かべてVサインを出した瞬間、今度はミノアが最高の一枚を撮りました。
(つづく)




