◆ ジェシカの軌跡14 這々の体で二匹は…
「モグモグ……まっはふ…モグモグ…」
「いひはひふはひ……モグモグ……」
二匹の妖精たちは、グチグチと文句を垂れながら、大きな腸詰めを口いっぱいに頬張っていた。
「喋るか食うか、どちらかにしろ!」
「「……ハグ…ハグハグ…!…モキュ…」」
二匹は黙って口をモキュモキュと動かしながら、滴る肉の汁を堪能。
ほぼ同時に呑み込むと、ほぼ同時に口を開いた。
「「どうなってんの!?」」
「帰ったら、ボク達のおウチ、無くなってんだもん!!」
「ニンゲンのおウチって、こんなに早く無くなるもんなの!?」
…そう言えば、こいつらに侵入者の追跡を任せてたんだったわ。
帰って来るのが遅かったから…すっかり忘れてた。
「ところで、アンタ達…どうして此処に?」
「んとねー……」
追跡結果を報告しようと意気揚々と帰還したら、何故か屋敷は煤の塊。半壊状態。
焼け朽ちた現場以外にも知らない大人達が大勢入り込んでいて、皆を探そうにも近寄れない。
「調査と遺体の捜索かしら?」
…仮にも貴族籍を持つ者の屋敷だもんね。貧民街とは違う。
放火か失火か判らない。生き残りが居るかもしれない。流石に人が入る。
あ…気絶してた警備兵達はどうなったのかしら?忘れてた。死んではいないと思うけど…。
前金を支払っているとはいえ、死んでたら寝覚めが悪い。
「困ってたらねー、メロディが声を掛けてくれたの。助かったわ…」
誰かに接触する訳にもいかず、近付き過ぎれば『姿隠し』してても発見されるかもしれない。
困り果てて焼け跡の上をウロウロしていた時、現場に戻っていたメロディエラに発見されたらしい。
「…貴女達…こんな場所で他の人に見つかったら、どう言い訳するつもりだったの?」
二匹は突然何かに掴まれて、彼女の元に引きずり降ろされた。
直ぐに焼け残ったカーテンに包まれ、運ばれて、人の居ない場所で解放された。
「あ…大丈夫よ。アタシらに気付いたのはメロディだけだったからね!」
…あの子、隠れた妖精も発見出来るのか。
私の親友並みの探知力。流石親戚。血筋か?
あの血族は皆、そうなのかしら?
「完璧に姿を消していたアタシたちを見つけるなんてね。ちっ…ニンゲンのくせに……」
何故か悔しそう。
変なプライドがあるのよね。エインセル。
「メロディが、焼けちゃったおウチに戻ってる理由を教えてくれたんだ」
ルブラム商会と本当の私たちとの直接的な繋がりが判る様な証拠は置いてないが、間接的なモノはある。そして、ベネフィカ関連も。
「変わった制服を着てね〜、回収した書類を片端から隠してたよ」
どうやら、メロディエラは捜査官に変装して現場に乗り込み、片端から証拠を処分していたらしい。
何処からか手に入れた身分証まで引っ提げて、堂々と。
あれ?…なら、今チャプラの執務室にある封筒は何?
…彼女が回収する前に奪われた…ということよね?
消火中?消火後すぐ?煤の中から?…そっかそっか…、成る程。どうりで、こんなに早く来るわけだ。
「今、私忙しいの。頼るなら主人の所に行って頂戴…」
メロディは解放した二匹に私の行き先を教えた後、直ぐ現場に戻っていった…とのこと。
「それで…難しいニンゲン文字の看板を読みながら、頑張って此処まで辿り着いて…」
這々の体で、教えられた住所まで来たそうだ。
昨晩から何も食べてない二匹。近くから良い香りが漂って来て…。
匂いの元に目をやると、美味しそうな腸詰めの挟まった黒パンが、直ぐ傍の男の手に…。
彼はエールをがぶ飲み中で、手元から目を離していた。
「魔が差したというか…ね?」
「盗まれる間抜けが悪いのよ」
『姿隠し』のまま抱えて逃げた。そして今に至る。
「元はと言えば、ボク達を忘れてたジェシカが悪いんだからね!」
「そーよ、アタシたちの落ち度じゃないのよ!
アンタと、あの男が悪いのよ!仕方ないの!」
責任転嫁。
人を罵りながら、再度、残った腸詰めに齧り付く二匹。
窓の外、私達の足下では、殴り合いの喧嘩が始まっていた。大勢の野次馬まで集まっている。
更に、店主までも麺棒片手に参戦。
私は喧騒から目を逸らし、静かに窓を閉めた。
◆
気を取り直し、チャプラの商会の方に視線を戻す。
丁度あちらでも何かあった様で、捜査官の一人がチャプラに詰め寄っていた。
でも、彼女に激昂する様子は無い。慌ててもいない。
…打ち合わせ通りに進めてるみたいね。安心したわ。
幾ら捜査官達が詰め寄ろうとも、当の被害者である私自身が彼女のバックに居るのだから。
彼女は、捜査官達がルブラム家と話し合いをしてから来た訳では無い事を知っている。
そして、被害者達の証言が無ければ、公権力といえども無理強いが出来ない事も。
だから、捜査官達が嘘八百を並べようとも、彼女を逮捕する事は出来ないと判っている。なので、焦りは無い。
…しかし、やはりというか当然というか…。
根が深いわねぇ……。
予想通り、捜査官達は彼女を逮捕する事までは出来ず、部屋を出て行った。
「ねぇ、エインセル!」
お腹いっぱいになり、満足そうに横になっているパックとエインセル。
私はエインセルを声を掛けて、叩き起こした。
「あの捜査官達の乗る馬車を追い掛けて頂戴。
あそこの趣味の悪い馬車よ!」
膨らんだお腹を擦りながら横になっていた彼女は、苦しそうにしながら上体を起こした。
「…えっ?」
「今、やっと戻って来たばかりなのに?」
パックも顔を上げた。
「昨夜の…双子達の報告はどうするのよ?アンタの指示でしょ?」
「あ…そうだ…でも…、クソ…」
「報告ならボクがやっておくよ?」
腹を叩きながら、パックも起き上がった。
「そ…そうね。報告はパックで十分。
エインセル!エインセル様!お願い!!」
意図的に瞳を潤ませて、首を15度程傾ける。
上目遣いで彼女を見つめる。
…どうだ?可愛らしいだろう?
思わず頼み事を聞いてしまうだろう?
「うげっ!!キッ……」
…うげ?キ??
美少女に対して発する音では無い…わよね?
「…やってやるわよ!…だから!それ、やめろ!」
そう言って、エインセルは飛び上がった。
…それ…?
「行ってきてあげるわよ!!
代わりに追加報酬ね。宝魔石2個!」
彼女は指を二本立てた。
「げ!……宝魔石1個…なら…」
全て燃やされ、金が無い。二個はキツイ。
「…ちっ…。品質FLなら良いわ」
「くっ…、SI…で、どうか…お願い…します…」
「ふざけてるの?VVSで最低限よ!」
「ベ…VS…に……ヴァネッサの魔力込み…」
「…ふん!…まぁ、いいでしょう…」
不服そうに呟くが、エインセルは直ぐに飛び出して行った。
…ヴァネッサ大好きっ子で良かった…
宝魔石
宝石の様に輝く魔石。極稀に、強力な魔獣の体内から取れる。
魔石は勿論、宝石よりも高価。
魔力のこもった宝魔石は、妖精にとっても垂涎の品。




