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◆ 正式な先触れの手順…裏の人間用




 「東区ルースアベニューとバードストリート交差角から北…番目の……たぶん…こ、此処がルブラム邸…だね」

 シャラは若干自信無さげに、鉄柵に囲まれた邸宅を指差した。

 地階のある二階建て。

 建物自体は少々小振りだが、巨大な庭に囲まれている。

 富豪〜下位貴族向けの邸宅としては丁度よい規模。


 シャラが、登記簿に登録されていた幾つかの不動産の所在地から、ルブラム商会の会長本人が使用している可能性の高い邸宅を割り出した。

 ペトラ達の馬車は、建物に視線を向けない様に気を付けながら、目の前の通りをゆっくりと通り過ぎていく。


 「…所々に灯りが点いてる。庭園のガス燈も…。

 庭木の手入れも…綺麗に仕上がっているね…」

 シャラが言うには、庭園の飾り木(トピアリー)のデザインが東区流行りのものではなく、中央区で流行りの型。


 下調べで調査した時、この不動産の前の持ち主も確認してある。

 先の大教会崩壊時に巻き込まれて亡くなった男爵位を持つ司祭。


 「も…もし受遺者が男爵の縁者なら、わざわざ中央区のデザインに変更するとは思えない…。

 だ…男爵家の縁者ではなく、中央区出身者が所有してる…と、思う……」

 自信無さげに私見を述べるシャラ。


 「…中央の連中の関係者である可能性は…?」

 ペトラは馬を手繰りながら小声で確認する。

 「エ…エグダス配下の裏商会(同業者)ということ…?」

 シャラが尋ねると、キャビンの小窓を開けてドロシーが二人の会話に割って入った。

 「中央の連中は関係ないと思うわ。

 …あのクソヤロウもルブラム家を調べていたらしいし」

 「グリが…?何で今言う…」

 「会議の時に言うのを忘れてたのよ…」

 ドロシーは申し訳無さそうに視線を逸らした。


 「中央の連中も知らない中央の出身者が、この邸宅を購入したってわけ?」

 三人の会話にディルーティアも入ってきた。

 「馬鹿ね。

 これだけの邸宅を購入出来る奴を、中央の連中が把握してないわけが無いでしょ?

 買った奴は中央の貴族とか金持ちじゃない、と言っているのよ」

 ドロシーが吐き捨てる様に言うと、ディルーティアは涙目になってトルートに泣きついた。

 「弱々なドロシーに馬鹿って言われた〜」

 「弱々なドロシーに言われたか〜。

 しょうがないよ…ティアはお馬鹿なんだからさ♪」

 「ルーまで…酷い〜」

 「馬鹿共は黙ってな!」

 ドロシーの叱咤が馬車の外まで響いた。


 「…静かにしろってば…。

 つまり…出身を偽らないといけない様な奴が、この家を買ったと…?」

 「そうね…。

 ルブラム家が一般商会(きれいな店)ではない可能性が高くなったわね」

 「と…となると、登記簿の情報も…鵜呑みにしない方がいい…?

 商会長が60代のお爺さんだとか…派遣契約している警護商会名も…嘘?」

 シャラの質問に、ペトラとドロシーは揃って頷いた。

 「己を偽る奴が、他人を家に入れるとは思えない」

 ペトラは、キャビン内のトルート・ディルーティア兄妹に視線を向ける。

 「自前の警護兵、若しくは非合法な護衛が居る…と考えて、用心しろ」

 双子は揃って頷いた。



 「ところでシャラ…建物の内部構造は分かるか?」

 ルブラム邸の全容がよく見える通りに入り、ペトラは小声でシャラに尋ねた。


 「う…うん。ちょっとまってね。

 た…建物の入り口…、階段の位置があの辺りだから…」

 シャラはウンウンと唸りながら、建物の内部構造を外観から()た。

 「排気口と煙突があそこで、窓の位置が…」

 そう言って、窓を端から数える。

 「…うん。この構造はパターン11だと思う。…たぶん…」

 「流石だな、シャラ」

 ペトラがシャラを褒めると、彼女は照れながら俯いた。


 「パターンって何?」

 「11って何?」

 連絡用小窓から双子の顔が覗く。

 「お前達は知らなかったのか?」

 そう言って、ペトラは双子にシャラの能力を教えた。


 シャラは昔、貴族や富豪の建物の構造に興味を持った事があった。

 裏の伝手を使って多くの図面を手に入れ、片端から暗記していたところ、ある特徴に気が付いた。

 どの建物も、一定の決まった構造基準があり、共通している部屋の配置法則がある。

 彼女は、パターン化が出来るのではないかと考えた。

 そこで、階段や暖炉の位置、窓の数から、内部構造を大まかに30パターンに分け、それを全部暗記した。

 パターンが判明すれば、何処にどの部屋が配置されているかを遠目で判断出来る。


 「…つまり、シャラちゃんは外観から建物内部を知る事が出来るの?」

 「うわぁ…どっかのドロシーと違って、凄く役に立つ能力じゃん」

 双子は目を丸くしながらシャラの事を見つめた。


 シャラは顔を真っ赤にして俯く。

 「わ…わたし、魔術式も使えないし、戦えないから…。

 せめて知識で役に立たないと、拾ってくれたチャプラお姉ちゃんに申し訳なくて…」

 指をモジモジさせながら、か細い声で独り言の様に呟いた。


 「シャラちゃんが居れば、片端から部屋を覗かなくても良いって事〜?」

 「無駄な手間が省けるのは助かるなぁ〜」

 ハイタッチしながら喜ぶ双子。


 「改めて、作戦の確認だ」

 ペトラは小声で双子に話し掛けた。

 「今回の任務では、出来る限り家人とは接触せずに成し遂げないといけない。いいな?」

 「見られたら、殺していい?」

 「…え?駄目に決まってるだろ?」

 「気絶させるのも?」

 「駄目だ…そもそも目的は敵対ではないと…。

 チャプラ姉から聞いてないのか?」

 「「言ってたかも〜?」」

 揃って首を傾げる双子。

 双子の方が年上の筈だが、ペトラに比べて思考が幼い。


 ペトラは腰袋に手を入れる。

 「敵対せずに、この封筒を執務室に置いてこなければならない」

 そう言って、二通の封筒を取り出した。


 表も裏も何も書いていない封筒。

 封筒は開封済みで、中には何も入っていない。

 ただ、開封する際に割れた赤い封蝋だけが、封筒の意味を知る手掛かりとなっている。

 これを、商会長の目に触れる所に置いてくる事。

 目的の部屋は執務室。

 これが今回の任務。


 「キビシュの空封筒を?」

 「置いてくるだけ?」

 「そうだ。人に見つからずに、見つかっても暴力的な手段で対処しない様に…!」

 呆れながら、ペトラは再度言い聞かせる。

 「やっぱり殴っちゃ…ダメ?」「ダメ!」

 「少しばかり、金目の物…」「ダメだ!」

 双子はがっかりした様に俯いた。


 キビシュの封蝋付き空封筒。

 もしも、北スラムの長の空封筒が、己の家の心臓部である執務机の上に置かれていたら?

 一般商会の人間ならば、何の反応も示さない。

 封蝋の意味を知らない者は、何も行動を起こさない。

 意味が解るのは裏の人間。


 『私達は、お前に興味がある』

 これは敵対、若しくは勧誘の意図があるという意味。

 『近く接触する』という意味の先触れ。


 先触れのみならば、非合法組織が一般商会に手を出したとして通報される様な事はない。

 まだ何もしていないし、何も盗っていないから。

 だが裏の人間ならば、直ぐ様、何かしらの行動を起こす。

 呑気に、受け身で待つ様な人間は生き残れない。


 封筒を見た相手の対応する様子や、連絡を取ろうとする相手先をチャプラ達が調査して確認する。

 それで、ルブラム家がキビシュ達にとって()()一般商会(カタギ)か、手を出しても問題の無い裏商会(同業者)かを判断する。そういう作戦。


 「成る程ね~。

 シャラちゃんが同行した理由がわかったわ」

 「でもでも〜

 ドロシーが来た意味は?

 こんなに街頭警備がザルなら職務質問もされないしさぁ…、要らなくない?」

 二人はドロシーの方を見ながらニヤニヤと嗤う。

 ドロシーは、無言のまま睨み付けた。


 「お前達、あまりドロシーを怒らせるな」

 ペトラが擁護するも、双子は相変わらず嘲笑う。

 「クソガキども…!

 私の能力(ちから)を見せつけてやる!

 ペトラ、目的地はまだなの!?」

 「すぐ其処だから…。お願いだから、静かにしてくれ…」

 ドロシーにせっつかれながらペトラは馬を走らせ、目的地である公園の前で馬車を停めた。




 

知能

シャラ>ドロシー>ペトラ≫双子

大人気 おとなげ

ペトラ>シャラ≫ドロシー=双子

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