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おとめ座流星群の憂慮 使用人は反省する

あと一本!

おとめ座流星群の○○


スマホ打ちがこんなに辛いとは…

 

 白と金茶とこげ茶、三種の毛色をした主護様が、南風さんの背中の後ろに隠れてコチラの様子を伺っている。身体には瑠璃色の主護石がぐるぐると廻っているので、どうやらこの子の属性は水のようだ。

 主護様は性別が無いと言うけれど、「スピカ」ちゃんはメスっぽい感じがしてならない。小さくて高い鳴き声、細身でしなやかな身体つきの美キジ三毛猫ちゃん…。

 どうしても尻を触りたかったのだが、確実に殺られると分かっているのに手を出すほどわたくしはバカでも勇者でもない。今はただチラ見を繰り返すのみ。

 まあ、いい。いずれわたくしにも主護様が付いた時に思い切りもふれば良いだけの事!おひょひょひょひょ!


「コホン。それで…スピカちゃんが、付いたということは…南風さんはリングリンドリンナールを、卒業した、の?」


 邪念を払い、わたくしは質問を再開した。

 彼女が卒業生だと言うのならば、『マイ☆スター』の称号を所持する一流の使用人であり、勤め先は何処からも引く手数多だったはず。そうだとすれば、やはり先程わたくしが抱いた疑問については首を捻るばかりだ。彼女には選択肢が無数にあったはずなのだから。


 だが南風さんは更に予想外なことを言いだした。


「そうです。私はリングリンドリンナールの卒業生です。ゴールドマイ☆スターの称号を頂戴しました」

「…ご、ゴールドって!」


 驚きのあまり、つい大声をあげてしまう。

 さらっと言っていますが、ゴールドってスーパーエリートなんじゃあ?!選ばれし者でしょう?ゲームじゃあ何にも付いてなくても卒業してマイ☆スター持ってますってだけでスッゴいって設定だったでしょう?


 ……南風さんって、何者?


「お嬢様、プラマイの世界なのでゴールドの上にダイヤモンド、頂点がプラチナと新たに設定されております。それに私は単純に前世の特技と栞の素質がたまたま結果に繋がっただけです」

「それ、でも!ゴールドは見事で、す!」


 ダ、ダイヤモンドとかも追加されてんの?

 ナニソレどうせ攻略対象者とかが取得するんでしょ!プラチナだってヒロインが取得する設定だろうから…とすると、やっぱり南風さんのゴールドって超凄いんだわ!

 無印の時だって押しを攻略しながらゴールドマイ☆スターの称号を得て卒業するってかなり苦労したもの。なのにいちモブの一般人が努力で取れるなんて!

 あら?…だとすると、もしかして必ずしもヒロインがプラチナって訳でもないのかな?


「ありがとうございます。次に進む為にはゴールドマイ☆スターの称号がどうしても必要だったので頑張りました!」

「まあ、次…です、の?」

「はい…高等学院を卒業後、戦闘技術専門の王立主御特別機関へ進み学びたかったのです」

「そ、それも…プラマイの設定なの、ですか?」


 何なんだ!その恐ろしい機関は!


「設定、ですか?それはなかったですね!ヒロイン達のアフターストーリーはありましたけれど。卒業後に特定の学生が、王立主護特別機関に入れる…というのは、私も私自信が入学したその日に担任の説明を聞いて、初めて知ることが出来たのです」

「まあ…南風さんも、知らなかった、の?」

「はい。ビックリしましたけど…私の目標の為には入るべきだと思ったのです。ただし学ぶには資格制限があったんです。それがゴールドマイ☆スター以上の称号でした」


 王立リングリンドリンナール主護学院の進路の最終選択は高等部の最終学年、三年生の秋に決めなくてはいけない。一般的には遅いが、この学院においてはマイ☆スター制度と言う独自のシステムある為問題がないのだ。二年生になった時点で何の職のマイ☆スターを目指すかを確定し、後は目標のみに絞って学び続け一流の職人となる。ゆえに最終選択時に在籍する生徒はすでに出来上がっている状態なのだ。

 進路選択の少し前に最終試験を済ませ、赤点を取らなければ通常は問題なく自身が選んだ職業に付くか付属の大学へ進学する。

 それが本来のゲームの決まった流れだ。


 だけど南風さんはその通りにはしなかった。ゲームにはなかったはずの選択肢があったからだ。目的の為にそのなかったはずの選択をし、努力をしてゴールドマイ☆スターを得た。モブが努力をして未来を選び、未来を変えたのだ。


 やはりココはゲームがベースだけど、ゲームではなくひとつの存在する世界だということ…?わたくしの努力次第で新しいストーリーが生まれるということ?

 考えがまとめられるほど、わたくしはまだ知っていることが少ない。ゲーム通りに生きないとしても、プラマイの情報があるとないとでは全然違う。


 そもそも南風さんの『目的』ってなんなのかしら?


「それでしたら、南風さんは、ぶじに特別きかん、に入れたのたのです、ね?」

「はい!希望通り入門することが出来ました!」

「まあ、凄いわ。そこで何を学んだ、のですか?」


 武闘技術専門って言ってたから大体想像がつくけれどねっ!


「護身術と射撃です。特別機関で学べるのは1年間で、機関を無事卒業出きると、武装も可能な使用人の資格を得ます。」

「それって、つまり…拳銃もつかえるの?」

「はい。簡単に言えば、SPも兼ねた使用人ですね」

「とても、強い…のです、か?」

「そうですね…恐ろしく強い方達ばかりです」

「……………………ですよね」


 ホワイトボードを見ればわかりますとも。レディースが拳と竹刀以外に射撃の技術を得てしまった…。


「機関を卒業し、その後自ら御星家の使用人となりました」

「…みずからの、いしで、ですか」

「はい。ゲーム通りでしたら本来私は普通の学園を卒業し、御久里家へ一般の使用人として就職します。十年後は奥様付きまで出世しております。」

「ひと言だけセリフがある、といって、たわ…ね」


 南風さんはその通りですと頷き、まずは一つ目と人差し指を立てた。


「なのに何故か、主護様が付き…前世の記憶が戻りました」


 次に二つ目と中指を立てた。パッと見ピースだ。


「突如主護様が付いたことで、行くはずのなかった学院の小学部へと編入いたしました。高等学院では考えた末にマイ☆スターは同じ使用人を選択しましたが、就職先は変えることにしたのです」


 一度話を止め、自身の肩に乗って休んでいたスピカちゃんの頭を優しく撫でてあげる。スピカちゃんは目を細めて気持ち良さそうに喉を鳴らした。

 うおおお!羨ましい!わたくしにも尻を!


「ですが、高等学院の最終選択時、私が選ばなかった御久里家を担任から是非にと推薦されました。第三者に薦められた時は、物語の修正力が働いたのかとも思いましたが…私はそれを断り、特別機関への進学を選択しました。そして最終的に自分が望んだ通りになり、御久里家の使用人になるというシナリオが完全に消えました」

「それは、つまり…?」

「ゲームの強制力はさほど無いとしても、この世界は基本的にゲームの物語に沿ってイベントや人物の行動も進んでいる可能性があるということです。なんとなくですが、元に戻そうとする力…私の場合は先生から御久里家への就職の話しがそうだったと思います」

「自分で選択しなくても、別の方向から、さけた選択がまわってきたわけですね…元に戻そうと…修正力が…」

「ええ、それでこれは私の推測なのですが、修正の力がおよぶ期間はイベントが起こる当日までではないかと」

「…規則性、ですか。でも…確かではない、と」

「それを実感できる対象が私だけでしたからね。それでも…私は今こうして自分が選択した場所におります。決してゲーム通りにはならないし、未来を変えることも出来ました。意思を曲げないことや、何度もチャレンジすれば望むべき方向へ進めるということではないでしょうか?」

「……なるほど」


 未来を変える…。でも、言ってはなんだか、南風さんは転生してそのまま普通に過ごしても特に問題のない設定『モブ』なのに、何故そこまでするのだろうか?

 やっぱり目的っていうのが気になって仕方がない。


「あ、あの…南風さ、ん。その…目的って聞いても…?」

「あら?まだ言っておりませんでしたわね!申し訳ございません!」


 …このやり取りもさっき似たようなのがあったわね!どうやら大事なポイントいい忘れちゃう人らしい。


「お嬢様、私の目的はもちろん()()()()()()()からデスっ!それだけデス!」

「は?いやソレ、ヒロインの仕事でしょう?」



 わたくしは思わす素でつっこんだ。



 特に何もしなければ基本的にゲームの物語に沿って進むのでしょう?だったらそれはヒロインの役目だわ。あなたの押しがヒロインに選ばれないとしても、もれなく取り巻き1として幸せのおこぼれくらいは貰えるでしょうね。


 わたくしは自分のバットエンドを回避する行動しかしないわよ?おヒョヒョヒョヒョ…



 ドゴンッ!!



 ものすごい音にまたか!とホワイトボードを確認した。

 残っていた半面も歪んで潰れ、もはや役割を果たさない不燃物の塊だ。…これは粗大ごみになるのだろうか?

 心配してスピカちゃんを探せば、もうどこにも見当たらなかった。可哀想に…驚いて姿を隠してしまったようだ。


「え、と、南風さ、ん?」

「…申し訳ございませんお嬢様。ホワイトボードは給料から天引きでお願いいたします…」

「わ、わかったわ…」


 どうやらマイボードではなく御星家の備品らしい。わたくしの答えが気に入らなかったのだろうか?でも間違ったこと言ってないと思うしな~。ヒロインへのジェラシーだろうか?


 よく見ると南風さんの右手の甲から血が滲んでいる。ここは一度お開きにして治療をしてもらおうと、頭を下げたままの南風さんの肩をそっとつついてみた。ピクリと小さく肩が跳ねて反応をするが、それ以上は動こうとしない。


「……?南風さん、ケガをして、いるわ、よ。手当てしに、いきましょ?」

「お嬢様はお優しいのか…冷たいのか分かりかねます、ね」

「え?」


 どういう意味?と聞く間もなく、南風さんが突如床に身体を突っ伏した。いいや、土下座をした。


 ど げ ざ ?!


「な、な、な、な、何して、るの?!」

「お嬢様!!本当に申し訳御座いませんでしたっ!」

「え?あ、ホワイトボードなら天引きするからだいじょ」

「違うんです!!!」


 違うって何が!?

 土下座、しかもものすごい全身全霊でしている土下座を前にして、どうしていいのか分からなくなる。なんで急に謝っているの?説明がないし…、そうだわ!説明よ!


「あの、南風さん、説明を…して?」

「…せつ、めい…あ、はいそうです、よね?」


 少し落ち着いたのか、南風さんは土下座を素早く正座に直し、ふぅと息を吐いてから目の前に立つわたくしを見上げた。


「私は、勘違いをしておりました」

「かんちがい、ですか?」

「はい。私は前世でも、今世でもこの世界をあなたより知っています。多分、想いもとても強いんです」

「それは、そうです、ね」


 多分ではなくガチガチですね


「10歳の時に記憶が戻った時から、私はだからこそここへ転生したのだと思い込んでいたのかもしれません…でも、思い込んだからこそ努力し続ける事が出来たのだと思います…」

「確かに、ゴールドマイ☆スターはすごい、です」

「お嬢様もいずれ実感されると思いますが…()()()()()()()()が共存?しているから出来たのだと思います。私は運動神経、栞は勉強…のような感じで」

「つまり、いいとこど、り?」

「それについてはまた後日説明させていただくとして…とにかく、私は卒業後更に1年かけ武装許可まで取得しました…このように」


 そう言うと正座から膝立ちになり、黒いワンピースの右裾を太股までめくり上げる。黒いガーターベルトに細身のナイフが一本装備されていた。白銀のやけに綺麗なナイフだった。


 え?え?なんで?コレ、乙女ゲームの世界が元だよね?

 武装許可ってそういう意味?

 よく考えたら武装許可を与える機関とかおかしくね?


 とは言え今は南風さんの理由を聞く方が先だと思い直し、わたくしはゴクリと言葉を飲み込んだ。


「私の目的は…先程も言いましたが押しを『不破海斗』を救うためです」

「…………………」

「確かにいずれはヒロインに救われるかも知れません…彼女に選ばれれば。それとも、もしかしたら攻略対象者との友情かもしれません」

「…………………」


 わかってはいたのね?なら、何故?


「でも、それでは遅すぎる…」

「……………遅すぎ、る…とは?」


 ヒロインとの出会いはおよそ10年後。長いと言えば長いがその間に何かあるのだろうか?ゲームで言うところのその10年間は不明だ。


「トラウマに苦しむ期間が長すぎます!心に、傷だって残ります!」


 唇をギュッと噛みしめ、悔しそうに顔を歪める。でも直ぐにハッとしてわたくしに視線を戻した。


「お嬢様は詳しく御存知ないと思いますが、プラマイには攻略対象者のトラウマとなる過去の回想が詳しく追加されております!この作品がR18になってしまう理由の一部です」

「…えっ?と、トラウマ、が?ええ?」


 攻略対象者の過去って年齢によっちゃヤバいんでないの?まったく予測がつかないわ!


「あ、安心してください。この作品のR18ってエロではなくグロですから。暴力的表現の方です。20寄り?」

「………そ…………ソレハヒドイワネ」


 まーじーかー!ならまだエロが良かった!って言えないけどホラーもスプラッタも本当にわたくし駄目なのに!!酷い!気持ちが少しだけ同情に傾いたのは言うまでもない。だがしかし!だからこそ関わりたくない!


「トラウマを抱えるのは殆どの方が幼い頃で…遅くとも13歳までです。海斗様に於いては8歳でした」

「あ、あら、でしたら来年、です、のね」


 海斗はまだトラウマを抱えていない…そりゃそうか。でなければ南風さんが今ここでこんな話していないよね。


「私は海斗様のトラウマを避けることが目的なのです!お救いしたいのです」


 海斗のトラウマも気になるが、それよりも聞きたい。それならば何故不破家へ行かなかったのかと!

 太股に煌めくナイフは海斗を護るために使うべきだ。


「なら何故…あなたは、海斗のそばに、いない、の?」

「…それはイロイロとタイミングが悪くて!考えた上で私が取れる最善の策だと思ったからです」

「御星家へ来るのが、です、か?」

「はい、ご説明させてください。その上で協力していただけるかお答えくださいませんか?」

「それでいいのですか?ことわっても、怒りません?」

「それは自信がないんですけど…気持ちを入れ換えます」

「んん?それは、どのような、いみ?です?」


 怒るけどドツクかもしれないけど更に気合いを入れて…何する気ですかね?あら?また地震が…

 ガタブルしてきたわたくしの小さな手を、白魚のような手が優しく包み込んだ。これがホワイトボードを廃棄物にしたとは思えねーなぁ…。あ、血…!

 白い手の甲に滲む血を見て、手当てがまだだったと思い出す。


「……私が勘違いしていたのは…自分の態度とお嬢様です」

「わたくし?」

「はい。…この世界で私はゲームの物語をお嬢様よりも知っている。だから、自分の方が()()()()()をしているし、自分の方が()()()()なのだ、と無意識に思い込んでおりました」

「…………………なるほど」

「今のお嬢様には、ゲームとは違う私よりも長く生きてきた経験や知恵があるんですよね…考えだってある」

「…………………アラフォーですからね」

「ですから…」

「土下座ですか?……あながち、正しいせんたく、うんぬんは間違っていない、とおもいます、よ?」

「え、でも…」


 わたくしの答えにナンチャッテクールな(たまに熱い)南風さんが顔をキョトンとさせた。

 悪いことしてたわ、と反省してくれたならそれでいい。わたくしにとって、南風さんに距離をとられてしまう方が問題だ。グロとか言ってたし、知らないことが多すぎる!


「じっさいにわたくしは、プラマイの追加ぶぶんをしらない、のです。それを知らずにたいさくだって、たてられませんよ。イロイロとおしえてくれないと、困ります。その上で、こわいけど、たまにならヤンキーになってもいいで、す」

「お嬢様…ありがとうございます!」

「ではまず、海斗の件から、お話して、くれ、る?」

「はい。それでは順を追ってお話させていただきます」


 でもその前に


「南風さん、さきに、手当てをしましょう、か」


 そう言って、わたくしはカウチソファから腰を上げた。







 数分後、人間の心と調子の良さ、そして立場の変わりやすさを実感するのである。


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