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おとめ座流星群の痕跡 不確定は屁理屈を増産させる

さらっと気持ち悪い表現があります


あいだがあったので咲沙良の喋りがおかしいのは気のせい


誤字とか文章少し修正。削除と追加も少し有り。


アップしてから直すタイプ。


 手の甲の治療を終えると、わたくし達は対面して再度ソファに座り直す。痛々しく巻かれた包帯が、いっそう白い部屋を病室のように見せた。


「……では、お話をききましょう、か?」


 正直に言えばプラマイの追加されたストーリーやシステムなど知らないところを知りたい。が、今は目の前にいる使用人の願い?を取り敢えず聞いてあげるのが優先だ。…取り敢えずね?



 1.何故勤め先を御星家にしたのか?


「まず、御久里家にしなかったのは海斗様のトラウマを回避出来るチャンスが訪れないからです」

「そうね」


 わたくしは同意をした。

 咲沙良の記憶を辿ってみても、現段階でこの二人に家を行き交うような関係は無かった。南風さんがどんなにエリート使用人だとしても、仲良しでもない他家のお坊っちゃまに会いに行くことは出来やしない。通報される。


「事件が起こるの、は、8さいの時でした、ね?」

「12月24日です」

「そうですか…」


 く、クリスマスイブ?…あー日本をベースにしてるからな。他にハロウィーンもバレンタインもあったわね…。めんどくさい。


「はい。それで勤め先についてですが、実は…記憶が戻って一番最初に考えたのは、お嬢様が仰った通り不破家へ就職することでした」

「そうよ、ね。それが一番良いとおもう、わ」

「私…本当は使用人ではなく家庭教師になりたかったのです」

「んん?海斗のかていきょうし、ですか?でも海斗にはすでにいたはず、ですよ?!」


 そうなのだ。海斗には5歳の時から家庭教師が付いていた。一般的な科目を雑賀さんという美人のお姉さまが一人で教えている。ガチオタなら知っていそうだけどな。


「存じております…その方がいずれ結婚を機に辞めてしまうことも。」

「え?そうなのですか?!海斗…落ち込むわね、きっと」


 海斗は多分、雑賀さんの事が大好きだ。初恋ってやつ?

 結婚=失恋とは分かりやすいぜテンプレ野郎…。


「さあ、どうでしょう?次に来た新しい家庭教師には直ぐに夢中になってしまうようですし…」

「まあ!」


 開いた口が塞がらない…という言葉を再現してしまい、慌てて口許を手のひらで隠した。

 しかしまぁ、傷心なところに優しい言葉をかけられてコロッといっちゃった感じ?…ムッツリテンプレ野郎かしらね(憶測)南風さんの言葉にも少しトゲがあるし。


「それはおいといてですね…雑賀様ですが、いつ辞めるかハッキリとは分かっていないのです…。ただ海斗様の回想シーンの中に()()()()()()()()()()()()()というのがありました。ですからそれらを踏まえて計算すると、私が学院を卒業してから事件が起こる前にタイミングよく不破家に家庭教師として就職し、防ぐように行動を起こすのは難しいと判断いたしました」

「たしかに」


 南風さんはトラウマを回避するために事件が起こる日より先に不破家で働きたい。だが今現在も雑賀さんは家庭教師として働いている。

 海斗は初等部一年でまだ6歳。誕生日は10月だから、あと4か月後に7歳になる。さっき仕入れた情報では事件が起こるのは来年の12月24日…。雑賀さんは初等部二年まで教えてくれていたらしいから、どちらにしろ一年前後は待たないといけない。しかしそれもハッキリとはしていない。

 そもそも不破家が家庭教師をいつ募集をするのかも分からないし、もしかして紹介されて決めてしまうかもしれない。ゲーム上では後釜がすんなり決まってしまったような節があるし、南風さんが言った通り、確かにタイミングが悪くて曖昧で読めないのだ。


「そうなんです。ですから、それならばとやはり使用人、しかも武装許可を取得したマイ☆スターになって、力の限りお側でお護りしたかったのですが…」


 滑らかだった口調が段々と小さく弱まっていく。言わずもがな、彼女が今現在わたくしの側にいるということは、計画は上手くいかなかったのだろう。


「機関みたいに、また知らない、こと、があった?」

「はい…予想外の事が…」

「………なるほど、予想外、とは?」


 ゲーム開始時よりも前の期間ならばそれは仕方のないことだ。何が起こるかも誰が何を考え行動するかも予測の範囲を出ないのだから。


「はい、…不破家でマイ☆スターを取得している使用人は…旦那様のお勤め先である水の守護館専任になってしまうんです。それでは一緒のお屋敷に住めないので意味がありません」

「あ~、それは…予想外でした、ね…」


 気不味い雰囲気を察してわたくしは何度も頷く。自宅と主護島はそのまんま天と地の開きがあるからだ。

 彼女は超優秀になりすぎてしまったために、逆にそれが仇となってしまった。何という皮肉!ゲームの強制力はねじ曲げるが御主人様の強制力には逆らえない。ルールのあるリアルを自己中にねじ曲げたりしたら、下手をすればお縄ですもの。


「そこで私は発想を変えてみたのです」

「発想を?」

「はい。対象を側で護る事が出来ないのなら、トラウマの原因を無くせばいいのだ、と」


 先ほどまでの悲痛な表情は何処へやら。南風さんはチラリとわたくしを見て、ニッコリと笑う。


 え?原因ってわたくしですか?違うわよね?


 恐る恐る自分を指差すと、フルフルと首を横に振って否定をしてくれた。た、助かった…。


「トラウマの原因…つまり発生を事前に防ぐ、いいえ、そもそも発生すら起こさないようにすれば良いと思ったんです。…お嬢様を使って!」

「はっ!?」


 あら?今さらっと使うとか言いました?


 もう一度恐る恐る自分を指差すと、今度はウンウンと首を縦に振って肯定をした。…えー?


「申し訳ございません語弊がございました。利用です」

「い、いっしょですわ!そもそも今のわたくしならまだしも、記憶がもどる前の咲沙良では役にたたない、のでは?」


 考えてもみろ。咲沙良は幼少期も期待を裏切らないテンプレ悪役令嬢のはず。言うことは聞かない、我儘で残念な子でしょう?


「いいえ。そんなことはございませんよ?私はお嬢様の性格云々ではなく、お嬢様のポジションに注目しておりました」

「?…ああ、それはわたくしと海斗が親戚だからです、か?たしかに会う機会はありますわ、ね。でも、わたくしと海斗とは仲が悪いので顔を合わせるどころかさけています、よ?」

「もちろん存じております。顔を合わせるのは年4回ぐらいですよね?」

「はあ、残念ながら」


 そうなんだよなー。特に向こうが嫌ってる。

 明良、海斗、多分弟の聡史…この歳でそんだけ嫌われているとはある意味大した才能である。せめて残りの奴らには嫌われないように生きていこう。わたくしは新たに誓いを立てた。


「でも大丈夫なんです。ゲームの流れだと、事件が起こる日にお嬢様は現場になるホームパーティーに参加しておりますので、そこは特に問題は無いはずです」

「……なるほど」


 テンプレ事項って訳ね?シナリオに合わせて強制参加しているのか…。


「ですが、やはり確実にイベント…事件を回避する為にはお嬢様のポジションだけではなくお嬢様の協力も必要だと思いました。正直に言いますと、放っておくとこちら的には余計なことをしかねないので怖かったのです」

「えぇ?…余計なことを、って…」

「いつも通り海斗様を怒らせたり、物語通りの行動をして事件のフラグを立ててしまうのではないか、ということです!私としては縛って隠しておくことも一瞬考えてみたんですけど…」

「ひょっ!」


 獲物を狙うがごとくキラリとした目に捕らえられ、身体がビクリと震える。こっわ!縄とか持っていないわよね?


「回避した後に御星家を首にされるのもなんですし、ずっとお世話になるとして、それでしたらやはり海斗様との関係性をもっと良くしていただかないと、私が会う機会も増えないだろうし…まあつまり結局のところ性格のお直しが必要かと」

「お、お直し…。咲沙良を、ですか?そんな簡単にいくとは」


 言っていることはわかるのだが、性格を直すってそんなに簡単な事ではないと思う。我儘だし子供だし。


「恋心ですよ」

「こ、こい?」


 いきなりなに?明良様への恋心?ポンコツだった恋心?


「はい。恋心を利用して、お嬢様の性格や考え方をお直しするつもりでした。当日にトラウマ事件を発生させないよう、私が取る行動や言葉に疑いを持たれないくらいの関係性をお嬢様と築きたかったので、一にも二にもお直しです」

「ええと…どうやって?そんなことしていまし、た?」


 ぜんっぜん心当たりが…ないんですけど?明良様に対してお直しされた対応していた?


「そうですねー。例えばそうした方が明良様が喜びますよ、何々出来る子がタイプらしいですよとか、そんなことしたら嫌われますよ、そのような発言をする誰々様は睨まれていました…等々、やらかしそうな時に囁いておりました」

「まあ!…そう、言えば!明良さまが、明良さまならって…ささやいていたのは、そういうことでした、の?!」


 咲沙良の記憶の中で南風さんが囁いた数々のフレーズがプレイバックしてきた。あちらで囁かれこちらで囁かれ…咲沙良の隣で正解を囁いていた。ちょっと!それってなんだか洗脳みたいで可哀想じゃあないの!…ん?性格をお直ししてくれているのだから、良い、のかしら?


「私が就任してから矯正がまだ3ヶ月目だったので、全てが上手くいっていたわけではありませんよ?お嬢様が納得が出来なかった時やテンションが上がってしまった時には、やらかしておりましたので…つい二日前も…」

「ああっ!…今ならわかり、ます。明良さまを…うわぁ…」

「やらかしは久しぶりだったので、謝れば大丈夫だと思いますよ?」

「そう、かしら?…そう、よね?」


 記憶が戻った日…あの池に突っ込んだ日の午前中に、咲沙良は明良様を激怒させたのだ。なるほどなるほど恋心が空回りした挙げ句、それで相手が大爆発しちゃった件ね~。

 関わりたくはないが、まだ取り返しのつくフラグは早めにへし折っておいた方が良いだろうな…。近々謝らねばならないのか。あーやだなぁ。


「話が少し逸れてしまいました。…まあ、そんな風に思い直しまして、私は御星家に就職させていただいたのです。まだどうにか出来る位置にいたかったので」

「ものすごい、行動力、です…」

「ありがとうございます。丁度良いことにお嬢様付きの使用人は入れ替りも激しく、また取得した資格の事もあり直ぐに仕えることが出来ました」

「御星家ではぎゃくに有利になったんですね、しかくが」

「…複雑ですが、そういうことになりますね」


 本当に人生は儘ならない事ばかりですわね。


 言葉にはしなかったけれど、代わりに何度目かの小さなため息をついた。


 さて、次はいよいよ核心の『トラウマ』について聞こうではないか。


「つぎは…海斗のトラウマに、ついて教えて、くれる?」



 2.不破海斗のトラウマについて


「海斗様のトラウマになるべき事件は御親戚(奥様のお兄様)のホームパーティーで起こりました。12月24日のクリスマスイブです。海斗様とお嬢様の仲は最悪ですが、先ほども言った通りこの日はゲームの流れ上お嬢様も確実に参加しております」

「仲が最悪ですのにトラウマはっせい日に参加とは…もはやプレイしていなくても、悪い予感しかしません、ね」


 悪役令嬢として事件に一役買っているとしか思えない。あくまでもゲームではよ?今のわたくしなら絶対に買わないわよ?


「その日は裏庭で海斗様とお嬢様が口喧嘩していたんです。そこに海斗様付きの家庭教師が現れ、その場を収めます。ここまではいつも通りのやり取りでした」

「ここ、までは?」

「はい。その後に家庭教師は海斗様をゲストルームではなく、更に裏手にある勝手口へと誘導するのです」

「わたくし、なんだか、イヤな予感がする、わ…」

「そうです。家庭教師はそのまま海斗様を連れて勝手口を通り抜け、停めてあった車に乗せて連れ去りました」


 誘拐された!?それがトラウマ?あれ?でも


「ちょっと待ってください。家庭教師って、どういうことです、の?!」


 南風さんは本当は雑賀さんの後釜として家庭教師になりたかったと言っていた。海斗の近くで事件を防ぎたかったからと。…それじゃあ誘拐した家庭教師って!


「もしかしてあとがま?その人を近づけたくないから、家庭教師になりたかった、のね?」

「そうです。上手くいきませんでしたが」

「でも、悪いことをするのなら…やとわないようにおじさまかおばさまに言えばいいの、では?今ならわたくしから…」


 確実に安全にトラウマを無かったことにしたいのなら、雇わないようにしてしまえばいい。

 だが南風さんは駄目です、と首を振った。


「確かに犯人は分かっていますが、今の時点では何も出来ません。どのように説明なさるおつもりですか?私達がゲームで起こるイベントとして分かっていたとしても、他の方達にとっては到底理解されない内容です。逆にこちらが精神を怪しまれてしまいますよ?」

「………それは…そう、ですわね」


 只でさえわたくしは信用されていない。それに加えて妄想癖を足すだけになる、と。


「それにこの世界は基本的にゲームの物語に沿ってイベントや人物の行動も進んでいる可能性がある、と言ったのを覚えていますか?元に戻そうとする力が、選択を回避してもまた別の方向や方法で回ってくる、と」

「はい…イベント当日まではゆだんならないのです、よね」


 まるで次々と襲い来る刺客の様ではないか。あれか、子連れの侍みたいな感じか?


「そもそもお嬢様もトラウマの一端を担っていますからね」

「……え?」


 今、何と?ものすごーく恐ろしいことを言ってました?

 原因じゃないハズでは?


「あの、わたくしが…やはりトラウマの原因になりますの?」


 確かに誘拐前に口喧嘩するみたいですけど、咲沙良達にとってはいつも通りのやり取りって言ってましたよね?…わたくしではもうしませんけどね!


「一端です…人間不振のひとつになりますね。実はあの後お嬢様は二人の後をこっそりとつけていたんです。文句が言い足りなかったとかで…」

「…はあ…あら?では、現場をモクゲキしたので、は?!」

「その通りです。背中を突き飛ばされ、黒いワゴン車に乗せられ、ドアを閉める瞬間に海斗様と目と目が合ったんです。お嬢様はその場で何が起きたのか理解しました」

「では、では犯人はすぐにつかまった、のです、ね!」


 トラウマどころか役立ってるじゃん!なのになんで?


「いいえ。それではトラウマになるには弱すぎますでしょう?お嬢様は誘拐のこと、犯人のこと、事件に関する事実を一切黙ってしまいました。本人的にはバチがあたったのね!いい気味だわ…くらいだったんだと思います。そのせいで犯人逮捕や海斗様の救出が遅れました」

「………何て言うか、ああバカ、ですね…ごめんなさい…」


 ありえん!ゲームでの咲沙良!この悪役令嬢!テンプレ!!そうか。南風さんはこうならないようにわたくしのお直しをしていたのね!?


「お嬢様、覚えてますか?プラマイのR18はエロではなくグロ。その対象となる過去が攻略対象者のトラウマだ、と」

「はあ、いってまし、た…ね…まさか!!」


 攻略対象者のトラウマはR18の対象となってしまう程の内容だと言っていた。だがここまでの話を聞く限りでは、海斗のトラウマはR18に該当する内容では無かった、と思う。


「ま、まだ…何かあるの、です、か?」


 聞きたくはなかった。聞きたくはないが、聞かなくてはいけない。モヤシ並の白い肌に青ざめた顔色はさぞかしコントラストが素晴らしいのではないかと思う。


「ございます。…海斗様は…」

「ま、まって!さらっと、さらっとお願いし、ます!」

「…かしこまりました。ではさらっとで。トラウマ事件の不快感とおぞましさは実際にゲームをプレイしていただければと」

「けっこうです」


 絶対に嫌!そもそも手に入らないですからね!


「では、かいつまんでさらっと…質問は随時受け答えます」


 南風さんは左上に視線を向けると、海斗のトラウマとなる原因を淡々と語りだした。



 ◇◇◇海斗のトラウマ◇◇◇ ※『』内は咲沙良


 事件が起きたのは12月24日のクリスマスイブ。実行犯は雑賀さんの後釜として雇われた家庭教師の女Aと恋人の男B(医師)で、主犯者は性的倒錯の成金実業家Cでした。


『せいてきとうさく?主犯者って黒幕、ということですか?』


 成金Cの性的倒錯はヘマトフィリア(血液性愛)とサディスト、おまけにショタコンです。

 慈善パーティーで見かけた海斗様に一目惚れをして、どうしても手に入れたくなりCは闇サイトで実行犯を募集しました。条件は医師の資格を持つもの、家庭教師の経験者。借金で首が回らなかったBは高額の報酬に釣られて、家庭教師の経験があるAを言葉巧みに誘い応募したのです。

 海斗様を虎視眈々と狙っていたCは、雑賀さんが辞職する件を何処からか聞き付けていました。そこで自分の息のかかった手駒を家庭教師として潜り込ませ、誘拐することを考えついたのです。


 二人は誘拐した海斗様をCに引き渡すと、報酬を受け取ったにも関わらず逃げずにCの屋敷にとどまりました。まだ追加で別の仕事があったからです。


『追加の、しごと?あ、医師にかんけい、が?』


 Cは自分の性的倒錯を長く楽しめるよう、専門家の指示を求めていました。人が死なない1日に流しても大丈夫な血の量、針の刺し方、…切り取った肝臓が再生されるのにかかる時間、腹の開き方…部分的麻酔の仕方を詳しく知りたかったのです。

 Cが海斗様に対して犯す罪の指示とフォローをさせる為に医師であるBが必要でした。


『さ、さ、さ、さらっと、と、と…で』


 はい。

 海斗様が保護されたのは、二日後の12月26日でした。

 元々初歩で綻びが出ていた計画です。警察組織のモデルは日本なので超優秀なはずですし、捕まらない訳がなかったのです。


『初歩のほころび?』


 供述によると…本来Aはパーティー会場に残る筈でした。でも、Aは海斗様を突き飛ばした時に、お嬢様に見られてしまった事に気付き一緒に車に乗ってしまったのです。もちろんそのことはCには誤魔化して伝えませんでした。Cの狂気に恐れをなしてしまった、と。

 そこから足がついて犯人は逮捕に至りましたが…発見された海斗様は既に重傷を負っていました。


『ま、まあ!ヒドイ!ですが、命に問題はなかったのね?』


 …はい。ですが心が重体でした。

 吊るされた状態で血を死なない程度に抜かれ続け、足元には大きな血溜まりができ、腹は不器用に裂かれ中にある肝臓の…


『す、す、すとーっぷ!ですっわ!さ、さらっと、で!』


 はい。申し訳ございません。


 発見されたのは海斗様だけではありませんでした。

 血溜まりの中に、傷だらけの小さな主護様がいたのです。生れて間もない海斗様の主護様でした。淡い光を放ち、海斗様を守るように指先にしがみついていたそうです。

 海斗様の主護様は恐怖と絶望の中で生まれたのです。


『な、な、な、なんて、けなげ!しゅ、しゅごさまっ』


 お嬢様、泣かないでください。


 以上が追加で語られていた海斗様のトラウマでございます。

 キャラクター設定で身体が弱いのはその時の怪我が原因ですし、不登校で人間不審なのも誘拐でのショックでです。性格もガラッと変わってしまったのです。

 海斗様がご自分の主護様に冷たいのも主護様を見るとトラウマを思い出してしまうからです。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ですから、お嬢様… もう泣かないでくださいまし」

「えぐっ…えぐ…ぐす…こ、こわかった…」


 南風さんの解説は終わったが、わたくしの涙は止まらない。元々グロい話は苦手だか、幼いせいか抑制が効かないようだ。アラフォーの知識と無駄に豊かな想像力も余計に恐怖を大きくさせていた。

 って言うか乙女ゲームでそういうのオーケーなのにもショックだった。もうついていけないんですけど。


「それで…」


 言いにくそうに一度言葉を切ると、南風さんはエプロンのポケットから白いレースのハンカチを取り出し、溢れだす涙を拭き取ってくれた。


「…ご協力はしていただけるのでしょうか?」

「………………………………」


 その質問に、嗚咽をなんとか押さえて、黙る。

 悩むように、考えるように、何度も瞬きをした。


 ………………同情は破滅へのプレリュード!!


 わたくしのこの中途半端な同情と憐れみを気の迷いだと言いきれる質問をしなくては!

 早速プラマイで確認しなければいけない質問をチョイスする。


「あの…先にいくつか質問にこたえてもらってもいい、ですか」

「はい。もちろんですお嬢様」

「では…」


 質問したいことは一にも二にも追加部分である。これによって選択肢が左右されると言っても大袈裟ではない。それから…。

 わたくしは頭の中で更に質問を絞っていった。


「…プラマイに追加されたストーリーとは、どれくらいあるのです、か?」

「はい。まず攻略対象者のトラウマ、トゥルーハッピーエンド後のアフターストーリーとトゥルーバットエンド(R18)ですね」

「トゥルーバットエンド?」


 トゥルートゥルーってあれか、鳩か?


「攻略対象者がトラウマを拗らせた状態で恋人になるエンドです。お嬢様への断罪がR18になります」

「…………それ、いらなくね?攻略対象者、犯罪者になっちゃうの?ヤンデレ?デレなくない?」


 余計なエンドの追加に、あらゆる負の感情が6歳児を押し退けアラフォーの口調を全面に出した。


 くそう!そう来たか…。こ、怖いから詳細なんて聞かないわよ?!何なのよ!追加するならヒロインとのイチャイチャエロとかにしとけよ!そっちのが需要あるだろーに!


 わたくしは冷静を装い心のなかで制作会社を罵倒しまくった。まあいい…。追加されたストーリーがわかったのだ。気を付けるのはやはり出会い!人間関係なのね。

 とすれば、残りのもうひとつを聞きましょうか。


「コホン。では、新しいシステムなどは…どう、です、か?」

「システムですか?お嬢様に関わりあるような追加は特に無かったですね。ヒロインの選択コマンドが増えてました。勉強や美容などの内容が細かくなったんです。デート先と、作れるお菓子も増えましたよ。」

「本当ですか?」


 ちょっと嬉しくて声が弾んだ。だって安堵したんだもの。どうやら追加システムはヒロインだけみたい。となれば…。


「あ~、後はスマホの通信連絡専用アプリみたいなシステムもありましたね。ラブ度が上がると攻略対象者や友人から連絡が増えるんです」

「あっ!ラから始まるヤツみたいなの、ですか?」

「そうです。『打って!ポン』という名前でした」

「……………へえ。そのままです、ね。」


 …ワッカリやすう~。

 嫌いじゃないけど、乙女ゲームとしてはやはりどうなんだ?と言いたくなるようなネーミングセンスだわね!

 まあどうせそれも悪役令嬢のわたくしはカヤの外なんでしょうけど。ともかくシステムは気にしなくても大丈夫なようね。


「お嬢様?後は…」

「いえ、ありがとうございます。きめました」


 質問をし、話を聞いて、わたくしは心を決めた。


 どう考えてもこの世界で一番に守りたいものは自分だ。

 何もかも不確定なのは恐い。


「わたくし、は……」


 そうよごめんなさい!だから無理!


 バットエンドに関わるモノは人だろうがイベントだろうが御遠慮するわ!(主に攻略対象者とかヒロインいじめね)


 修正力はねじ曲げダッシュで逃げる!(アイラブインドア)


 わたくしは運命の日まで大人しく暮らして断罪されずにどこか手堅い会社に就職するわ!(恋愛で食えるか!)


 迷惑をかけずに自立を目標としましょう!そうしましょう!


 強い決意を秘めた眼差しで、大人しく待つ南風さんを見つめた。


「わたくしには無理、です」

「あぁっ?!」


 特捜警察31536000秒でよく聞いた生怒声に思わず感動してしまったが、やはり本物。こちらの震えもガチになる。


「ピょ!や、やっぱり、怒るじゃないです、か!自信がないとは言ってました、けど…」

「あ、いや…これはつい。申し訳ございません」


 南風さんは明らかにしまった!という顔をしていた。まさかトラウマの話を聞いて断られるとは思わなかったのだろう。

 …確かに可哀想で泣いてしまいましたからね。


 でも、彼女は知らない。わたくしの中で可哀想だと思ったのが、海斗ではなく主護様の方が大きかったことを。確かに海斗も可哀想ですよ?ですけれどね。


「わたくしはやはり、攻略対象者とは、キョクリョク会いたくありません!」


 まず会わないことが幸せへの第一歩だよね。これ以上嫌われないし(好かれもしないけど)変なフラグも立たないだろう。修正力が何度立ち向かって来ても何度もへし折ってやる。


「ヒロインともかかわりません。もちろんいじめたりしません」


 これが一番大事だ。虐めなければ断罪エンドなくなるでしょ?プラマイで追加されたトゥルーバットエンド?やらも攻略対象者に憎まれるほど嫌われてなければオーケーなはず。


 ここまで考えて何だけと、わたくしの思考パターン、まさにテンプレではありませんか?…いーえ!仕方ないんです。お土産は定番が一番なのと同じです。


「で、で、ですが、お嬢様。イベントが起こる当日までは物語の修正力があるんです。たとえ選択を回避してもまた別の方向や方法で回ってくるんですよ?お嬢様の断罪イベントだって例外はないはずなんです。協力していただけるのでしたら、私は」

「この世界はきほんてきににゲームの物語にそってイベントや人物の行動も進んでいるかのうせいがある、でしたわ、ね?」

「はい」


「でもそれはかていですわよ、ね?それにもしかていが正しかったとしても、いぜんの咲沙良のままならばマズイってわかりますけど、今は中身がアラフォーなので…人間関係においては、まず設定からおおはばに変わらざるを得ないでしょ、う?せってんがなく、関係性も変わればイベントじたいが成り立たないか、消えます、わ。多分」

「で、で、でも、それも仮定ですし…積み重ねでの結果ですよね?海斗様のトラウマ事件は起こる可能性が…」

「ありますわ、ね。物語にそって行動を起こすかもしれないのですから。かていです、が。わたくしが言っているのは、あくまでもわたくしの断罪イベントのかいひ。ゲーム開始の時間わくに対してです、わ。15さいまではおとなしーくしていたい、のですわ」


「……ですが…………トラウマがある限りトゥルーバットエンドの可能性は残りますよ?」

「ヒロインをいじめず、攻略対象者との関係性とけんおかんがうすい状態、そもそもわたくし自身がちゅういし、さけまくる。特に卒業式。ヒロインがだれかとラブラブ状態になれば、その相手がようちゅうい人物だとしぼれます!」

「………………それはっ」


 自己中心?は、自分の保身に走って何が悪いというの?せっかく生まれかわったんだもの(あり得ない場所でしたが)天寿を全うしたいと思って何が悪いんじゃ!


 南風さんの言葉を思い出して、今度はわたくしがそれを告げてあげた。


「決してゲーム通りにはならないし、未来を変えることも出来る。いしを曲げないことや、何度もチャレンジすれば望むべき方向へ進めるということ、とあなたは教えてくれまし、た」

「………………っ」

「わたくしにとってそれはようちゅうい人物の方々とかかわらないことです、わ!缶詰め作業もひどい目に合うのもやっぱり、イヤなん、です!ごめんなさいっ」

「……………」


 説得するネタが無くなったのか南風さんは黙ってしまう。何をどう言えば良いのか考えているようだ。

 …手っ取り早いのは実力行使(暴力)だろうに、彼女がそれをしないのが少し意外だった。


「性急に答えを得たく、お嬢様の気持ちも考えずに私と同じ感覚でお話してしまいました。申し訳ございません」

「………そうです、か。なら…この話はもう」


 ついさっき思い出したばかりのわたくしと南風さんでは、感覚と言うか、戸惑いや恐怖等の気持ちの量みたいなものが全然違うと思う。こっちとしてはまだ混乱し、現実だと納得しきれていない所にそんなディープな話をされても困るのだ。


「………また、後日お話を聞いてくださいませんか?」

「南風さん…」

「海斗様と仲良くなさってくださいとは申しません!せめて、ホームパーティーに参加だけは!」

「こわいから嫌です~!」


 凄い。諦めていない。どんだけ海斗のコト好きなの?


「お嬢様が行かないと私もいけないんです!」

「わ、分かりました、わたくしの担当をはずすようお父様につたえま、す。そうしたら…」

「もっと駄目です!今お嬢様から外されたら、首になってしまいます」

「なぜ?南風さんのようにゆうしゅうな人ならそんなことは」

「お嬢様の癇癪を避けるためです。今のお嬢様は違うかも知れませんが、今世間に認識されているお嬢様は前のお嬢様です。外したはずの私の存在をお屋敷で確認した途端に怒り狂う方です。ですから、私は確実に首にされるでしょう」

「………あー」


 確かにそうね。南風さんの前にいったい何人もの聡明で優秀な使用人が去っていっただろうか?池に落ちる前のアホなわたくしに蹴りをいれたい。


「で、では、ホームパーティーのすんぜん、では?さすがに一年もたてば、今のわたくしでの考えや行動を通常のものとしてとらえてくれます、でしょう?それなら…」

「…………確実かもしれない、です、か?」


 そうですよ?不安ですよね?曖昧ですよね?かもしれないが多すぎますよね?だからわたくしは不確定なことは恐いから嫌だと言っています!


 ……矛盾しています、わね…


『意思を曲げないことや、何度もチャレンジすれば望むべき方向へ進める』つまりそれはどちらとも受け取れる。


 都合よく信じて、こうやって揚げ足を取って…。


「…あの、色々と教えてくれてありがとうござい、ました。…ひとりで、考えてみたいの、で、今日はもう…」


 実際に色々な事を教えてもらい、頭の中が情報でぐるぐるとしていた。整理をするためにもひとりになって、今一度ジックリと考えてみたかったのだ。


「それは…気が付かずに申し訳ございません。それでは、一度下がらせていただきます。お嬢様のお部屋の件は旦那様にお伝えいたしますのでご安心ください。それから…お食事はお時間になりましたらお部屋までお持ちいたします………」


 南風さんはまだ何か言いたそうな口を閉じ、深々と頭を下げる。それでも顔を上げた時に見せた表情は一流の使用人の微笑みをたたえていた。


 小さい小さいそりゃ小さい言葉を囁きながら…。



「チッ…ババア頑固でマジ厄介…」



「っ!?」

「あら、何か聞こえましたか?」

「い、い、今!…っ」(ババアとか厄介とか!このこっ)


 わたくしは最後まで言わずに言葉を飲みこむ。

 聞き間違えな筈がない。生前は気にしていたからこそ、その筋のワードには敏感だったのだ。暴力は暴力でもセクハラとは!


 でももうこれ以上は精神的にキツいので争うのは止めたい(相手は元ヤンだし)そもそもこのくらいのことスルー出来なくては、これからが大変だもの。


「っいいえ…なんにも…」


 せめてもの抗議に南風さんを半目で見送ろうとしていると、ドアの外から足音が聞こえてくる。小さかった足音が段々と大きくなってきて、明らかにこの部屋に向かって走っているのだと分かった。


 ……これは、あれだ。かなり慌てているわね。

 心配で仕方がないのだろう。

 突然あの部屋からこの部屋へと移動してしまったから…。

 何かしていたらどうしよう、と。



 バッターーーーンッ!!!



「咲沙良ちゃーーん!?」



 大きな声を上げ、勢いよく扉を開け放ったお母様が興奮しながら部屋に飛び込んで来た。やっぱり…。


 ドタドタドタと駆け込む姿は、歴史ある一族の奥方がとる行動とはとても思えなかった。

 ノー!その美しい顔でその鼻息はヤメテ。いくら心配だからってヤメテ。貴女の娘はもう直ぐにキレて怒ったり叫んだり暴れたりしないから。


 お母様、そしてお父様の心配は()()()()()()()なのだ。


 だからって鼻息が荒くなるほどダッシュはヤメテちょうだい。


 なのに何故だろう?彼女の背後に可憐に舞い散る桜の花びらが見えるのは…。幻~?エフェクト~?

(正解:廊下の窓から差す太陽光に小さな埃が反射したから)


 ハアハアと乱れた息を落ち着かせようと、お母様は小さな胸(わたくしの胸はお母様ですけと何か?)を押さえて深呼吸を数回してみせる。


「はあぁ、目が覚めたって聞いたのよ~!大丈夫なの~?」


 手には咲沙良がお気に入りのショコラ専門店のロゴが入ったショップバッグを持っていた。



「おかあ、さま…」



 皆~!わたくしの前に、残念な美人その2が登場だよ~っ!



 …もうHP残り少ないので出直してくれませんかね?

メンドクセーから。



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