トラウマ回避は同盟で
タイトルが思い付かなかったです
次回やっと殿方登場するかな?
お母様の名前は歌恋。ビジュアルは幼く未だ女学生のように愛らしい、お父様一筋29歳の主婦だ。
陶器のように白い肌、月の光を浴びたような白銀色のフワフワした髪。桜色の可憐な唇に、溢れんばかりの輝きを放つ大きなローズピンク色の瞳…。
どちらかと言えば造形がヒロイン寄りだ。この部屋に居ることで、真っ白なAラインのワンピースが白衣の天使のように見える。
間違いなく惚れてしまうわ。
わたくしと言えばつり目とぐるぐるワラビ巻き髪以外のパーツは母親似のはずなのに、何故こうもイメージが違ってしまうのだろうか?あれか?テンプレのつり目が他を全て払拭してしまっているせいなのか?だとすればなんという恐ろしい呪いでしょう。
息を切らしているお母様の目は少し潤んでいる。
長い睫毛がプルプルと震えていて、なんだかほっとけない。こ、これが魔性?
「お買い物から帰ってきたら、咲沙良ちゃんが復活したって聞いて、そうしたら下の階の客間に移動してるって言うでしょ?心配で走って来ちゃったわ!も~寝込んでいたのよ?目覚めてすぐに動くなんて危ないわ~!」
興奮しているせいなのか、息継ぎもせずにこの部屋に飛び込んできた事情を説明する。プンスカ!みたいな擬音がどこぞから聞こえてくるのは何故だろう。復活とか気になるワードはあったが、やはりこの人も母親なのだと改めて思ってしまった。
…でも、ここまでのいつも通りの扱いは咲沙良の勘違いを余計に増長させるって分かってもらわないとな~。しつこいですけれと、今のわたくしは大丈夫ですよ?ご機嫌取りの大量のお土産とかもいらないし。
はあ、もちろんわたくしはお母様ともっと仲良くしたい。普通の子供だと思ってもらいたい。ううん、攻略対象者の聡史、それ以外の家族とも普通の家族関係を持ちたい。
最初は違和感を持たれたとしても、徐々に前世の記憶のある今のわたくしを新生咲沙良として受け入れてもらえるよう頑張りたいのですわ。卒業後(ゲーム期間終了後)の人生の土台はしっかりとしたものが欲しいですからね。
取り敢えず謝って、部屋を出た理由を話そう。
「お、お母様。心配をさせて、ごめんなさい!実は、黄金が目に染みて…すごすには無理かなって…」
「黄金…咲沙良ちゃん、自分で選んだコーディネートでしょ?んん?!えぇ?今あやまったの?!どーしたの?やっぱり変だわ~王立病院に…」
謝ったことで、お母様のオロオロが加速してしまった。
「だ、だ、大丈夫です!気が付いただけです!しゅみがわるいって!」
「ど、どうしましょう、おか、おかしな反応しているわ~!」
娘のまとも?な受け答えを不審に思い、お母様がスマホに登録してあるお抱え医師に連絡をとろうとする。何故だ!?
動揺しているのか指先が震えるのが見えた。
まともって言うか、普通に受け答えて『おかしい』とは…。この反応…これからこの先が思いやられますわね…。
「奥様、恐れながらご連絡なされますのはお考え直しください」
やり取りを見兼ねてか、南風さんが助け船?を出してくれた。
おお!マジか?!冷たく突き放した相手に対してこの神対応とは、やはり大人だけあるわね!
…だからって手助けはしないわよ?し、下心があるんでしょう?あ、でも…ち、違うのかしら?えぇ~!
ノォ!ちょっとした良心の呵責が生まれそうだわ…。
「で、で、でも~咲沙良ちゃんが謝ったのよ?!どう考えても打ち所が悪かったとしか…」
「無礼を承知の上で申し上げます。…打ち所が良かったとは考えられませんか?」
「えぇ~?」
「奥様…お嬢様はお目覚めになられたときに仰ったので御座います」
『あ~の~女かぁぁぁああいっっ!!!』って叫んでいたわね。それを言ったら互いにアウトですけど?
「わたくし、まちがっていました…と」
「ま、まあ!」
言ってないわい!!
え?なにこれ?寸劇始まったのかしら?
それとも辻褄合わせをしてるの?
唖然とするお母様を観察しつつ、南風さんの出方を待った。
「輝く光の中で主護様に出会いました、優しい気持ちになりました、わたくしバカでしたと涙をお流しになられて…」
「ま、まあまあ!主護様に?」
「頭を打たれて、正気になられたようで御座います」
「……そう、なのね…正気に…」
「専属医の石井様も脳に異常はみられない、外傷も残らないと仰ってくださったでは御座いませんか」
「そうだったわね!あ、そうだわ…咲沙良ちゃんにも主護様が付くということなのかしら…」
「予兆かもしれませんね…」(付きますよbyゲーム設定)
おい!何だそれはっ!力ずくだな?!もう頭打ったからでいいじゃん。
「まあ~それじゃあ、黄金宮殿はどうするのかしら~?」
「私から旦那様に、お嬢様が黄金宮殿のコーディネート変更希望をされていることをお伝えしに行くところでした」
…もうわたくしの部屋は黄金宮殿って名前なのね?
「咲沙良ちゃん、できることなら、真っ黒とか迷彩とか、や、や、やめてほしいの」
「しませんよう!」
お母様が疑わしそうに吃りながら、また極端な例えを挙げてきた。いや、ないから。絶対にしないから!
つくづくこのゲーム上の咲沙良のキャラ設定って、テンプレ過ぎて涙が出てくるわ!不憫すぎるわ、わたくし。
自分が普通の感覚を持つ女の子だと思わせることから始めなければならない現実に、もうひたすらめんどくせーと叫びたくなる。それも母親とか、身内からなんて…!
でもこれを怠ると、将来が不安だ。ゲームの修正力やら因果関係やらで何が起こるかわからない。だからこそ回避ゾーン作成の為の努力をしなくてはならないのだ。
めんどくせーは思うだけで放置はしないと決めている。
そこでわたくしは不意にピーンと閃いた。効果音ならキラリーンでも可だわ。
……そうだ、これだわ!お母様の心を掴み、なおかつ黄金宮殿を華麗にチェンジする方法は!
早速両手の指を組んでお祈りポーズをとってみた。一生懸命さがアピール出来ていていい感じではないか。ほほほ。
「…わたくし、お母様のお部屋にあこがれいます、の」
お母様のお部屋とはお母様の趣味用の部屋のことである。四畳半ほどの小さな一室を自分の趣味の部屋として改造し、使用していた。ザ女の子っていう感じの内装でわたくし的にはかなり好感度が高い。
淡いパステルカラーと控えめなレース&小花のコーディネートが可愛らしくて堪らんし、黄金宮殿と比べると天と地の差がある。とても羨ましいし何か悔しいじゃあないか!当たり前だけれどキラキラ感がまるで違うから!
わたくしの求めるキラキラはそっちなのですわ!
「かわいい、お部屋にしたいのです…」
「まああ!咲沙良ちゃん!あの部屋、可愛い?」
嬉しそうに興奮しているお母様に、恥ずかしそうにモジモジしながら上目遣いにニコッとしてみせた。
ああ、今恥ずかしすぎて心が挫けそうになったわ…(泣)
以前の咲沙良だったら絶対にしないダロー行動をとくと見るがいい!これがわたくしの覚悟、だけれどウフフは言わないわよ!わたくしのような悪役顔は大げさにやるくらいが丁度良いのよねぇ。
わ.た.く.し.は.アクトレェース!にこりんこ!
驚愕の表情をした二人が見えたけれども気にしない。視線が釘のように刺さるって、これぞまさに釘付けってやつ?
しかし使ってない表情筋がなかなか上手く動かないわね。ドンウォーリィー!挫けなーい!
はい、もう一度!
「お母様のお部屋…わたくし、可愛くて、だあい好き、です」
わ.た.く.し.は.アクトレェース!にここここっ!
「っ!さっ咲…!はびゅっ!」
ブシュウウッッ!!!
表現としてはそんな音であっていたのではないのだろうか。
大量の血吹雪が一直線に宙を飛んでいる。
お母様のお鼻、から?
「お、お、お母様?」
「お、お、奥様!!」
多分恐怖にだろう、わたくしと南風さんは同時に声をあげていた。肝心のお母様と言えば、美しい鼻の穴から血を滴らせ、頬を赤く染めている。
真っ白な部屋の真っ白な床に、真っ赤な鼻血がポタリポタリと小さな点々を作り、ちょっとしたホラーみたいだ。
え?これってどういう状態ですか?コワッ!
「さ、咲沙良ちゃんが、天使になってしまいましたわ~!」
お母様は天井に向かってそうひと言叫ぶと、南風さんに手渡されたわたくしの涙と鼻水が染み付いたハンカチで、滴る鼻血を拭き取り始めた。
スンと鼻血を啜ると(やめなさい)キラキラした目でわたくしを見つめて頬笑む。
「わかりましたわ!咲沙良ちゃんが望むように変えてあげましょうね。お父様には南風からではなく、わたくしからお願いしておきますから安心して頂戴♪明日中には終わっているはずよ」
「お、お母様。働き方かいかく…いえ、残業とかムリなことはさせない、でくださ、いましね?まちます、から」
明日にはって…!それは無茶ぶりだろうと焦った。
わたくしの為だとか言って、寝ずに作業とかさせたら「またあのワガママ令嬢のせいで!」とか言われかねない。そんな展開はお断りですし、ここは断固阻止しなくてはっ!
「だって、待つことも、楽しみのひとつ、でしょう?」
無理のない納期で対応願います、と困ったように笑ってみせる。
「ふわぁっ!!てっ天使降臨!!」
ブシュウウッッ!!!
「お、お、お母様?」
「お、お、奥様!!」
せっかく綺麗に拭き取った鼻の穴から、また血吹雪が飛んだ。もうお母様のキャラクターがわからない…。
天使って何が?
「ウフフ大丈夫よ~!多人数で決まっていることを一斉にやるだけですからね~」
「…そうですか、良かった。あの、それで、わたくし、マカロンカラーが良いのです、が…」
「まあ!任して頂戴!可愛いのにしましょうね~!」
「は、はい!ありがとうございま、す」
素直に嬉しくて、はにかむようにお礼を言った。お母様に任せておけばまず間違いはないだろう。
「て、天使!わたくしの天使がお礼を言ってくれ…ふをっ!」
ブシュウウッッ!!!
「お、お、お母様?」
「お、お、奥様!!」
なん回目だよこれ!!輸血必要じゃあないのか?!
どうやらお母様には、この悪役顔のニヤリとした笑顔擬きでも十分に効果があるらしい。
うーん。でもでも贔屓目が酷いのではないのかしら?
鼻血まみれのお母様を見ながら首を傾げていると、左背後から、南風さんが耳に手を添えてそっと囁いてきた。
これこれ、覚えがあるわ。
咲沙良専任の使用人に付いてからやっていたという囁きかたは板についている。
「可愛らしく微笑まれるのは…お控えになられたほうが宜しいかと…」
「…えぇ?!や、やはりだめでした、か?」
「ダメ、ではないですが…破壊力が思った以上にあります」
「……………っ?!」
自分の笑顔の破壊力とやらに衝撃を受ける。マジか。
そんなに悪魔的な恐ろしさがあった?お母様が鼻血吹き出したり、叫んだり天使とか言ってたのは素直に謝ったことに対してだったって訳なのかい!
わたくしったらはっずかしー!悪役顔に決して贔屓目とかじゃなかったのね?!今のわたくしじゃあなかったら、またもやとんでもない勘違いが増長してしまうところだったわ。危なかった。
しかし謝っただけで天使って…。今までのおこないや態度に改めて涙が溢れそうですわ。とほほ…さすが悪役令嬢!!
普通→よゐこ
気を使う→天使
…こういう事ですか?
悪役令嬢としてのわたくしを知る人ごとに、最初は怪しまれる+疑われるという信用のなさが浮き彫りのオプションがついてくるのね。それ要らないわ!
…それでもトータル的に天使が上回るみたい?だけれど。
あ、ある意味楽かもしれないわ。だって普通に暮らしていれば好感度が勝手にソコソコ上がって行くみたいだし。少なくとも嫌われない、って事?うーん…何だか複雑。
「ああ~!そうだったわ!わたくしあまりの衝撃にうっかり忘れてしまうところでしたわ~。咲沙良ちゃん!グッドでビッグなニュースがあるのよ~!」
急に思い出したのか、お母様がテーブルの上に置いてあったハンドバックを取り寄せて中を探りだした。お目当てのスマホを見つけると、赤と白のまだら色になってしまったハンカチでさっと画面を拭き取ってしまう。
…お母様!それ、鼻血と涙と鼻水染み込んでますけど?!
「え~っと、ひいふう、あれ?明後日だったわ~!桜子ちゃんと明良君がお見舞いに来てくれるんですって~!良かったわね~咲沙良ちゃん!」
「え?明良さま、が?まさか…」
何で?無理やり?ああ、きっとそうだわ!だとしたらこれはやんわりお断りしたほうが良さそうねっ…て、あ!
そう言えば近々謝らなければならない予定だった。こっちから行くよりも受け身のほうがいいのかしら?
でも明後日?!あ~!もう、どうしましょう。
アワアワしているわたくしには気付かずに、スマホを操作していたお母様が画面の中の映像を見せてきた。
「ほうら、見て!咲沙良ちゃん!明良君の主護様よ~」
「え?う、生まれたのです、か?」
怒髪天を衝く程お怒りの時にはいなかったはずですけど?
「そうよ~生まれたのは2日前!咲沙良ちゃんが池に落ちちゃった時間帯ですって!わたくしびっくりしちゃって…」
それは確かにびっくりだわ。偶然にしてはできすぎている感があるわね。
…ドレドレ。主護様に罪はないもの、拝見させていただきますか。明良様の主護様は、真っ黒な毛並みに金色の瞳。スレンダーな野性味あるれる猫ちゃんだったはず。
目の前に差し出された、画面に映る明良様の主護様を、改めてマジマジと見てみた。
南風さんも、ん?という表情をして背後から覗いている。
「…………………………………」
明良様の主護様は………
短い手足。
大きな頭。
丸々とした身体。
つぶらな金色の瞳。
白とオレンジがかった赤のレッドタビー。
不細工。
マジ不細工。
猫?いいや、太めの仔だぬきちゃんのよう。
画面には『不機嫌な明良様』と『不機嫌な仔だぬき』のツーショットがあった。
明良様の美しさが、際立っている。
「……………………………………え」
ええええええええええええええええええっ?
「かっわいいでしょう?桜子ちゃんも可愛いって喜んでたわ~でも明良君はチョーッと苦手みたいで~」
相変わらずニコニコとしながらお母様は話を続けるが、南風さんは顔をしかめたまま首をひねっていた。そして、誰かに問うわけでなく、独り言を呟く。
「………この主護様じゃない、はず……」
「………………………そう、です、わよ、ね」
聞こえていたわたくしは肯定していた。この子は明良様の、主護様ではないはず、と。
だってこの子は………………このブサネコは………
覚えがある
「この子、は…」
なんなの?なんなのこれは?嘘でしょう?!
…この子も転生、したの?
「咲沙良ちゃん!良かったわね!お見舞いも兼ねて主護様のお披露目してくれるそうよ~」
「!!」
お母様の言葉に、わたくしはハッとなった。
この世界は『かもしれない』で出来ているのかもしれない。
この子は
わたくしと南風さんだけではなく、一緒に死んで、この世界に転生してしまった、のかもしれない。
明良様の主護様に、なの、かもしれない。
かも、しれ、ない
「…っお母様…とても、うれしい、です…」
無意識に近い感覚で返事をしていた。わかってはいるけれど、理解が追いつかない、そんな感じ。
どうしよう。
「そうでしょう?ウフフ、ソレじゃあ咲沙良ちゃん!こっち向いて笑って~!」
「………え?」
「はい、笑顔!」
掛声に合わせてつい微笑んでしまう。あ、やべ!ヒール感出ていないかしら?ついさっき控えた方が良いと言われたのに。
「あ、アンニュイ~!こっちも良いわあぁ~っ!」
スマホの画面を見ながら悶えるお母様に、南風さんがさっと例のハンカチを差し出した。…やめなさい。
「ありがとう~!でも今回はなんとかこらえたから大丈夫よ!わたくし的には幾分か一撃能力が控えめな感じなの~」
「私もでございます」
「あら!南風は好みが一緒なのね~!」
……一撃って、わたくしそんなにヤバイの?なら何故写真を取るのか教えて頂戴。は!もしや、明良様の主護様も可愛いとか言っていたし…もしや二人は重度のブサハンター!?(女.子供.動物限定で)
…なるほど!なら納得したような、腹立つような?
「それじゃあ、わたくしは行きますね!お部屋の件は任せて頂戴!お見舞いの件も楽しみにしていてね~!」
ウフフ~バイバイ!と舞い散る小花のエフェクトを纏いながら、お母様が部屋を出ていった。去り際まで少女漫画チックとはやるじゃあないの。
…ちょっとだけ距離が近付いた気がした。
「ふう」
2日後はある意味わたくしにとって最初の試練、なのね。そう思うと大きなため息も自然に出てしまうと言うものだわ。
「南風さん。聞きたいことがある、の…」
「何でございましょうか?」
南風さんは深々と下げていた頭の位置を元に戻し、こちらに振り向いて視線を合わせてくれる。
「明良様の主護様は、何処に行ってしまったのかし、ら?」
スマホに写ったていた主護様は明良様に付く本来の主護様ではなかった。もう一度言っておくがシャープな黒猫ちゃんのはず。
「……それは、私の方でも確かなことはわかりかねます。ただ、イレギュラーのようなものが起きたとしか…。中身ではなく存在そのものが別もの、ということでしょうか?私はもうあのままだと思いますよ」
「修正力などの影響はあるのかし、ら?消えてしま、うとか入れ替わる、とか…」
「物語のようにはいかないと思いますよ?イベントに当てはめるなら生まれた時点でそれは終わった感じですかね?」
「そ、そうですか」
どうしよう。もう少し聞いてみようか?
わたくしの新.生き方はそれ次第だ。
「トラウマ、を、回避することは…主護様にとって、幸せ?」
本当は逆のことが聞きたかった。
トラウマを回避しなければ主護様は不幸になってしまうのか。
「それはもちろんそうでございますよ?長い時を得て意味合いは変わっていったと言うことですが、基本は変わらないと思います」
「基本…『 聖霊は己の存在と力を安定させる為 』ですか?」
「ふふ、流石話が早いですね。そうです、主護様は付いた者の環境や精神、はたまた関係性に大きく左右されるんです」
「左右?ですか?」
「はい。まず主護としての力が弱くなります。それから性格は付く人間に影響されますし、存在事態が消滅しかねません」
「ま、まあ!」
そういえばそうだったわね!
わたくしの主護様は極悪タカビーな性格になってしまって、愛とかなくても図々しく居座っていたかしら?結局は断罪寸前で消え去られちゃって、咲沙良は駄目人間にされてたものね。
つまりそれは、性格と環境、大事!ってコト。
主護様は
明良様が辛ければ、辛くなるの?
明良様に嫌われたら、辛くなるの?
明良様を嫌いになったら、消えてしまうの?
「あ、明良さまの主護様は、トラウマでどうか、なる?」
「………明良様のトラウマは、気になります?」
あ、やべ!忘れてたわ、海斗のコト。
「もちろん、海斗の主護様のこともで、す!」
「まあ…いいですけど?お嬢様は猫ちゃん好きですものね?」
「は、はい!」
特に斜め下から見上げた時の尻のラインとしっぽが大好物ですが。
「ペンネちゃんはトラウマのせいでヒロインに会うまでの3年間程、存在を無視されますね。消えてほしくて。駄目人間と言われても良いくらいに」
「え?消えて、ほしく、て?」
ペンネちゃんとは明良様の主護様の名前である。
可愛らしい名前付けといて、トラウマでそんな仕打ちをしちゃうの?!明良様!プラマイ!余計な追加しないでよ~!
「そうです。自ら主護様と契約を切ることは、人には出来ません。ですから主護様から去る、もしくは消滅するように」
「そ、そんな…トラウマのせいで、消えるようにする、の?」
「はい。ですが、主護島を管理する7代グループは王家に次いで、聖霊と主護様との絆がとても強くて深いのです。どんなに冷遇されても、結局ペンネちゃんは明良様の元を去ることはしませんでした」
「そうしてヒロインに出会い、幸せになる…の、」
「かも、しれませんね?ヒロインの相手になれば」
「…あ」
また、かもしれないだ。でも、確かにそうだ。
あと、わたくしはこんな風にも思っていた。
『ヒロインに選ばれないとしても、もれなく取り巻き1として幸せのおこぼれくらいは貰えるでしょうね』
…実際にそうかもしれないが、当事者だったらおこぼれで我慢ができるのだろうか?
それを切っ掛けに彼らは前を向いて歩いて行けるのだろうか?
かもしれないし、そうじゃないかもしれない。小さな変化かもしれないし、大きな変化かもしれない。全員がかもしれないし、一人だけかもしれない。
うわあ!だめだ!前向きになれない!!
「…それじゃあ、それじゃあダメ、です!」
少なくとも『ペンネちゃん』だけは、確実に幸せに過ごして欲しい。トラウマの3年間など無しに!
「お嬢様?どうなされました?」
急に頭を抱え出したわたくしを見て、南風さんが心配そうに真横へ歩み寄った。
「………わたくし、昔の人の言葉を噛み締めていま、した」
「?昔の、ですか?」
「因果応報、後の祭り、情けは人の為ならず…」
「ええ、と。それはつまり…?」
わたくしは今、とてつもなく後悔をしている。どうにかして時間を巻き戻せたら良いのに、と。でもそんなこと出来ないのも知っている。
なら、あれだ。
彼女がしたように土下座までするべき?
でもそれは違う気がする。わたくしは彼女を見下していないし、頼るべき存在だとわかっているのだ。
だから一度逃げて断った事を謝るしかない。
後は取引だ。交換条件だ。
覚悟を決めると、ギュッと目を瞑り頭を深々と下げた。
「海斗のコト、謝ります!!本当にご免なさいっ!」
「お、お嬢様?突然どうなされたのですか?」
南風さんは急に頭を下げたわたくしを見て、寄せていた身体をさっと離した。
それはそうだろう。不可解だものね。自分勝手だものね。
分かってるわ。でも、これは譲れないのだ。
「大事なものができました」
この世界には自分の命より大事なものはないと思っていた。
ついさっきまではそうだって思っていたのに。
「自分の命と同じ位、まもりたいもの、です」
頼まれなくてもお助けしたい。
…きっと彼女はこんな気持ちなのだろう。
「…急ですね?先程とは異なるお気持ちになられたと、仰っていらっしゃる、と言うことでしょうか?」
「…はい」
丁寧な物言いだが、やはり冷たさを感じる。
「それは私に協力を求めていらっしゃると、言うことですか?」
「……ええ、明良様のトラウマを知りたい、です」
「お嬢様は随分と勝手なことを仰るのですね?」
「……わかって、いま、す」
だからこそ昔の諺や四字熟語を噛み締めて後悔していたんです!でも、こんなコトが待ち受けているなんて誰も分かりはしなかった!それに貴女だって勝手なこと言っていたもの!
同じ土俵に立って初めて互いの気持ちがわかるの!交渉が出来るのよ!この表現があっているのか知らないけれど、この勝負をおりてはいけないのよ!
わたくしの愛は貴女の愛に決して負けてはいない!!!
(暴力振るったら権力で社会的制裁してやるわ)
「貴女だって、かってなこと、言ってました!」
「……っ」
「とうてい、理解できないから、怖いから、無理っていったんです!同じ立場にならなくては、わかりませんでした!」
「確かに…そうです、ね」
わたくしの強気な発言に、南風さんが薄い下唇を噛み締めているのが見えた。
違うのよ、南風さん。逆ギレしている訳じゃないのよ?
「でも、同じ立場になれたから、貴女の気持ちも少しわかったの!」
「お嬢、様…」
「怖いよりも、大好きで大切な子を助けたいっ!て気持ちが…溢れてしまうから、かってになっちゃうの、よ」
ゴメちゃん
明良様の主護様はゴメスだ
「あのブサ主護様は、間違いなくゴメスです。あの子がこの世界に生きていて、このままだと不幸になるかもしれない、救えるかもしれない、とわかった以上は手をうちたいのです」
「成る程…それで、ですか。…少しどころかお嬢様は殆どお分かりのようですね」
「…はい。どうでしょうか?協力をしてくれます、か?わたくしも可能な限り協力を、します」
「……………………」
南風さんは腕を組んだかと思うと、いきなりテーブルの上にドカリと座った。そのまま長い右足を上げて、左足の上に組む。
え?雰囲気がヤンキーにチェンジしたわよ?!態度が三段ギアチェンジとかあるの?
背後に並ぶ幾つもの大きな窓の位置を確認する。ひとつだけ開いているのが分かって、ホッと息をついた。…逃げ道は一応確認しておかないとね。ほ、ほほ…。
「同じ立場になれたから、同等になり交渉が成り立つ」
「南風、さん?」
「確かにそうだなーって…あ、ここからは転生者ってだけじゃなく…同じ立場の同士として喋っていいですか?」
「え、ええ、いいです、わ」
「ありがとうございます」
そう言うと、雰囲気が一気に変わるのが分かった。
だるそーな、でも重そうな…あ、そうだわ!テレビの烈怒魔血婁荼だわ!リアル魔血婁荼に恐怖と歓喜が入り交じった気持ちになって、つまり興奮してしまった。わたくしはやはりミーハー!(え?死語?)
「考えてみれば、こっちも感情のまま打算的にお願いして勝手なこと言ってたよね」
ですよね?いきなり何を言ってんのって感じですよね?
「でもまあ…そっちはゴメスの登場で事情は変わった、と」
「は、はい」
「随分と調子の良いことを言ってるってムカついたけど、それはお互い様だってあんたは言い切ったよね?」
「そうです、わね…」
「うん、確かにそうだ。だから今はお互い様で、交渉の余地もある、…いいや、出来るって訳だよな?」
「協力しあえ、ます、か?」
大きく頷き、わたくしは真っ直ぐに涼やかな黒い瞳をじっと見つめた。強く握りこんだ手のひらに指先の爪が食い込んで痛い。どうする?やっぱり土下座か?
「良いよ?」
「……え?いいの、ですか?」
以外にも即答してくれたことに、呆気にとられてしまった。
「あたしは今の方が気持ち的にも実際にも頼みやすいから、問題ないよ」
「そうです、か」
「お嬢様はゴメ…現ペンネを救うために、あたしは海斗様を救うためにトラウマを回避する」
「はい。回避するために協力いたし、ます」
例のパーティー参加ですよね?
「そうそう。海斗様のトラウマは1度なんだけど、明良様は2度あるって…知ってる?」
「に、2度?!」
そんなの知らねえよ!そもそも知ってたら聞いてないから!今のこの状態になってないから!
ゴメス絡むのってどっち?!無視はヒロインに会うまでらしいから2度目かしら?!
「お嬢様、対等でないとやる気も覚悟も出てこない、よね?」
「………………」
「2に対して1ではなく、2に対しては2、だろ?」
「ど、ど、どうすればいいんです、の?!」
対価を求めているのは明白だった。そんなカッコいいものじゃないわね、彼女のは1回は1回ってシンプルなポリシーだ。
「あら?お嬢様…」
不思議そうに言う南風さんの雰囲気が、使用人のモノに変わるのが分かった。
「先ほどお話させていただいた通りでございますよ?」
ニコニコニコニコと頬笑む姿が、こんなにも恐ろしく感じた人間は初めてかもしれない。
「海斗様とお泊まりしあうくらい仲良くしてください、です」
「?!え?うそ『関係性を良くする』ってそう言うこと?」
「……ハイ」
「本当に?!ハードルあがってません?!何ですの、その間は!」
「同じです!それぐらい気合い入れろってコトだよっ!」
「ぴょっ」
こ、こえええ!気合い入れろって言い方がこっわ!何度聞いても本物は怖いわ~。ドキドキする~!
「ごほん。お嬢様、トラウマ事件を時系列にすると明良様の1つ目が最初になります。近々に起こります」
「えぇ?!本当です、か?」
誤魔化したわね…
でも、まさかの海斗の事件よりも先に?
「ではその対策を……」
「いいえ。まずお嬢様は明良様に陳謝して、怒りを抑える方が先かと思います」
「ちんしゃっ?」
マジか。謝るだけじゃなく具体的な理由を付け加えるよのね?!6歳児がタメに陳謝?
「これから先、海斗様を含め攻略対象者との関係性を友好的なものにしていかなくては回避に支障が出るかも知れません」
「た、確かに」
「トラウマの回避もそうですが、結局の所お嬢様が悪役令嬢の立場にならなければ、海斗様が多感な時期に不快な思いをすることもないのでは、と今さっき思い付きました」
いや、だからそれは元々わたくしもとっくに考えていましたし。関わらないって方向でだけど。
「思い付……わたくし的にはありがたい、です、けど」
「ご安心ください。打算もありますので」
ハイハイ。お泊まりに来てくれるように努力しますよ。
色々あったが、どうにかなるかもしれない可能性が上がったのは確かだ。
このまま明良様との関係を良好にし、トラウマを避け、悪役令嬢のイベントフラグを折ってかわし、無事に卒業出来れば!ゴメ、ペンネちゃんとの楽しい未来が待っているかもしれない!(明良様とのラブとかじゃないよ?)
くそ~相変わらずかもしれないだらけだな。でも希望は見えた!
「お嬢様、もしもの時の為に土下座もマスターしましょうか?」
「え?」
んん?急に凄いことを言い出したわね?
「ここはいっそのこと土下座にしましょう。お怒りは確実に鎮まると思います」
「それは…一般的に、ひいたというので、は…??」
「心からの土下座は心に響きますからね」
「いやいや今のご時世、勘違いクレーマーがSNSにアップしちゃったのしか見たことない、ですよ?」
「このように、両手を垂直にあげまして…」
「いや、ですから、ね…マジか?」
南風さんがわたくしの返事も待たずに、あの素晴らしく見事な土下座のレクチャーを始めた。なんだこれ。
結局土下座に着地しちゃうの?!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おいコラッ!!お嬢様、お前は何処ぞの舎弟かよっ」
「はひぃっ!すんませんっ…あっ!」
そして2間後…
冒頭のやり取りに繋がるのであった。




