身柄拘束中
俺は今、牢屋の中にいる。
かれこれ一週間もだ。
身柄を預かるとは言われていたが、さすがにこれは不安になる。
一応飯は出るし、死ぬことはない。
しかし、食事を運んでくる人に話しかけても無視されるし、それ以外では誰も訪れない。
もしかして、俺はすでは犯罪者として牢屋から出られないのだろうか。
いや、もしかしてこのサバイバルゲームでの安全地帯は牢屋なのかもしれないが。
そんな終わることない思考を延々と繰り返していると、ついにお迎えが来た。
牢屋から出されると同時に頭から布を被せられての目隠し、両手は後ろで縛られた。
あれ、やっぱ扱いおかしくね?
いやいや、ギルドマスターにローブを一着要求してたから、これはローブの代わりなのかもしれない。
しばらく歩かされ、馬車のようなものに乗せられた。
どこに行こうというのかね?
まさか、海にこのまま流される流刑だったり、はたまたコンクリ抱いて水泳でもさせられるのだろうか。
もしくはこのまま断頭台に直行とか……。
いかんな、ビビり過ぎておしっこしたくなってきた。
何分くらい経っただろうか。
どうやら目的地に着いたらしい。
おそらく王都内だろう。
俺は馬車から降ろされ、目隠しされたままどこかに連れられて行く。
周りには人の気配もする。
今度は椅子に座らされた。
両手の縄が解かれ、ついに目隠しも解除された。
そこは部屋の中だった。
会議室だろうか。
俺は部屋の中心で椅子に座らされており、後ろには兵士、両サイドに長机が置かれている。
いかにも偉そうなおっさん達が座っている。
部屋の奥には一人だけ豪華な椅子に座ったおっさん。
社長っぽいな。
ここはどこかの役員会議か何かだろうか。
もしくは裁判でも始めそうな配置だ。
あの社長っぽい人が裁判長で。
……まさかマジで裁判なんじゃねーだろうな。
「ではこれより、自称異世界人、キラ・キイラの処遇を決めるため、いくつか事実確認をさせてもらう。キラ・キイラは質問に対してのみ発言を許す。良いな」
長机の端に座ったおっさんが仕切り始めた。
きっと司会進行役なのだろう。
てゆーかガチで裁判じゃなうですかコレ。
「……はい」
「我々は事前にキラ・キイラについて、すでに調査を行っている。嘘をついていると判断した際にはそれなりの処遇が行われるため、心して答えるように」
それなりの処遇ってなんぞ?
「わかりました」
「よろしい。まず、キラ・キイラがこの世界に現れたのは今から約三か月前。川で溺れていた所を、王都に期間中のマートン商会所属のトム・ルーカスとその護衛、パズ・ディランとクリスティーナ・カーマインによって救出された。間違いないな?」
「はい」
「記憶喪失であると説明したとあるが、これは事実か」
ああ、昔ついた嘘がここにきて俺の足を引っ張る。
この世界に嘘発見器はあるんだろうか。
もしかしたらそれに近い魔術があるかもしれない。
とりあえず本当のことを話すか。
「事実ですが、実際は記憶喪失ではありません」
「なぜ嘘をついた?」
「三人が敵の異世界人である可能性があったからです」
「では、川に流される前はどこにいた?」
「この世界に来た初めの場所はどこかの深い森の中でした。そこでブラックウルフに襲われ、逃げる際に誤って川に転落しました」
「ふむ。その後、一行と共に王都に随行し、冒険者登録をしてしばらくしてから行方がわからなくなっているが、どこで何をしていたのかね?」
「クリスの実家に世話になっていました」
「クリスというのはクリスティーナ・カーマインのことか?」
「はい」
「世話になったというのは、具体的には?」
「三食寝室つき、食事以外の時間はライアンさんと剣の稽古をしていました」
いままで静かだった人達がにわかにざわめく。
「カーマイン家の人間で、君が異世界人だと知ってる者はいるかね?」
「いえ、いないはずです」
「よろしい。世話になっていた期間は?」
「一か月くらいだったと思います」
「ふむ。その後、王立アベノ学院に入学。学院の寮に住み、授業は炎・氷・雷・強化・剣術を選択。各教員からの情報では、教えられた魔術はほぼ全てできたとあるが、これに間違いはあるか?」
「間違いはありません」
再びざわめくおっさんの群れ。
「雷魔術の実技の際に、防壁の一部を破壊、校長室にて取り調べ。ルイス・ラスター校長にはこの時に、自分が異世界人であることを話したとあるが間違いないか?」
あれ、校長ってラスター家だったのか?
「間違いありません」
「ルイス・ラスターはこの時、王への報告義務を怠っている。何か特別な取引でもあったのか?」
あ、校長まさかのピンチですか?
「自分が口止めをしました。取引というか、一応学院で戦闘が起こらないように気をつけるという約束と、もしもの時は王都を去るという話をしました」
「よろしい。ここから先はラスター家が君につけた監視の報告になる」
監視!?
あいつら監視つけてたのか!?
なんかヤバいことしてないだろうな、俺。
「クリスティーナ・カーマインと街を観光した後、宿屋に一緒に入り六時間程出てこなかったとあるが…、君らは恋仲なのかね?」
は!?
何言ってんだこのおっさんは!?
クリスと俺が?
どっちが受けでどっちが攻めだ!
いや、クリスは女だったな。
てゆうか思ってもこの場で言うか普通!?
「そ、それは一緒に人探しをしていただけです」
「詳しく話したまえ」
ゲスめ。
「カーマインの屋敷を訪れたときに、クリス…ティーナさんが、王都で盗難事件が起きて困っていると話していて。どうやら犯人は透明化できる魔術を使っているようだと言っていたので、休日に一緒に犯人探しを手伝いました。観光ではなく犯行現場巡りで、宿屋は次の犯行場所と思われる通りの監視に適した場所だったので部屋をとって張り込みしていただけです。ちゃんと犯人も現れて討伐もしてます。っていうかそう報告されてませんか?」
ちょっとイラついた口調に言ってしまった。
「確かに、向かいの酒場で騒ぎがあったのをクリスティーナ・カーマインが制圧したとあるな」
ならわかるだろうがぁ!!
「では次だ。歓楽区の貧民街で君が金貨をホームレスや孤児院に落としていったとあるが、どういうことだね?」
いや、特に深い意味はないんだけど。
「ただの気まぐれです」
「ただの気まぐれで金貨を恵んだと?まあいい。次はギルドでの爆発騒ぎについてだ」
「ギルドマスターから聞き取りの際の証言は聞いている。それによると、エイジ・ナカバヤシという冒険者が君を殺そうとし、冒険者パズ・ディランがこれを弓で牽制して制止。エイジ・ナカバヤシが逃走する際に時限発動型の爆発物を置いていった。キラ・キイラがこれに魔術で対処。結果、軽傷者数名」
お、ここはちゃんと伝わっている。
「その後、取り調べにて、キラ・キイラは自分が異世界人であると自供。エイジ・ナカバヤシも同様に異世界人であるため、キラ・キイラの殺害を目論んだと。この時、異世界人についての詳しい説明をしているようだが、君の口からここでもう一度説明してもらえるかな?」
またかよ、めんどくさい。
「異世界人は全部で百人召喚されていて、全員神から能力や武器などの力が贈られているはずです。贈られるものはある程度は自分で考えることもできます。異世界人を神は『サバイバー』と呼んでいます。サバイバー同士が殺し合った末、最後に残った五人の願いを叶えてくれるらしいです」
周囲がまたもやざわめく。
「ついにきたか」とか「今回はサバイバーか」とかいろいろ聞こえる。
「では、君はどんな力を授かったのかな?」
この質問はきつい。
一日三魔をそのまま伝えた場合、最悪俺の弱点が知れ渡る可能性がある。
嘘はつかずに、ボカして話すか。
「魔法です」
「魔法?魔術ではなく?」
「魔術も一度見たものは使えます」
ざわざわ。
「ギルド内で爆発物に対処したのも魔法かな?」
「はい。物質化みたいなものです」
「では次の質問。君は貧民街で十枚近い金貨をばら撒いたり、学院の入学金や寮の一人部屋など、随分と羽振りがいいが、その金はどこからきいている?冒険者ランクもEだし、とても稼いだとは思えんが」
この質問はマズい。
何がマズいって、俺がやっているのは魔術で金貨を作ることだ。
貨幣偽造だ。
これはもうタイーホかもしれん。
最悪魔法で強行突破して逃げるしかないか?
いやでもここがどこかもわからんし。
「魔法で稼ぎました」
「稼ぐとは?」
「物質化魔術を使ってです」
「具体的には?」
はわわわわ。
どないしょう、どないしよう。
「説明するより、見せた方が早いですけど、いいですか?」
「我々に危険が及んだ場合は、後ろの兵士が君の首を刎ねる。それでよければ見せてみろ」
冷や汗が止まらない。
どうするか。
馬鹿正直に金貨を作ったら、即逮捕の可能性がある。
死刑か?
死刑は嫌だ。
こいつらに、「こいつを殺すのは惜しい」と思わせる作戦でいくか。
幸いどいつも権力者っぽい謎の威圧感がある。
どでかい金塊でもだすか。
いや、インパクトが足りないな。
付加価値をつけるか。
アートな金塊を作ろう。
あの偉そうな社長に媚びを売るスタイルでいくか。
金色の社長像。
これでいこう。
「ではいきます!」
ドンッ!!
俺の目の前には自信作、等身大社長っぽい人オン・ザ・豪華な椅子が現れた。
純金製だぜ!!
どないやぁ!!
ってあれ?
みんな唖然として固まっている。
社長っぽい人は「え?俺?」って顔をしてる。
ち、あんまり偉い人じゃなかったかもしれない。
人選ミスだ。
「な、なるほど、理解した。では、キラ・キイラの処遇については後日、追って伝える。もう下がってよい」
て、手ごたえがない。
俺は兵士に連れられて、追い出されるように部屋をあとにした。
キラが去ってから、部屋の中では鼻息を荒くしたおっさん達の論争が始まっていた。
「異世界人は見つけ次第殺すべきだ!前回の戦いの被害は尋常ではなかった!街一つ消えたこともあったではないか!」
「だが、キラ・キイラの魔法があれば、王都が抱える資金問題の全てが解決します」
「エイジ・ナカバヤシを見ろ!あいつを捕らえようとした結果、警備隊十二人殺害、重軽傷者七人の大損害だぞ!しかも逃げられるとはな!」
「だが、調査結果でもわかるように、キラ・キイラ個人に関しては被害はない。むしろ、盗難事件の解決や、我々が見放した貧民街の救済まで行っている。悪人ではあるまい」
「だが、九十五人さっさと始末してしまえばリスクが危険が減るのもまた事実」
「だが本当に殺せるのか?」
「監禁して金だけ製造させ続ければいいのでは?」
「聞いていなかったのか!あいつは学院の防壁を破壊できるんだぞ!大人しくしてるのも今のうちだけだ!」
「国賓として扱うかわりに金塊をたんまりと作らせれば?」
「女でもあてがって骨抜きにするか?」
「そんなことして他の異世界人が王都に集まってきたら手に負えんぞ」
「敵対せずに、金を出来るだけ回収、尚且つ王都から出ていってもらうのが理想だな」
「だが王都には今後、他の異世界人が集まってくる可能性がある。その者達への対応も今のうちに決めておかなければならん」
「いっそのこと全員保護してしまえば?」
「五人までは可能だろうが、それ以上増えた場合殺し合いは避けられまい」
「異世界人からは王都で滞在する際に多くの税金を取る、といのはいかがですか?」
「それなら金にならない異世界人は自ずと出ていくな」
「黙って潜伏されたら意味がないじゃないですか」
「騒ぎを起こさないのであれば問題はなかろう」
「なるほど、何かが起きて異世界だと分かった際には、税金を要求。払えない奴には穏便に出ていってもらうと」
「そんなの、誰も名乗りを上げないでしょう」
「税金を納めれば生活の保障するとか」
「それでは弱いな」
「魔術師系の異世界人なら、貴族が欲しがるのでは?」
「確かにそうだな。そうなると今回のラスターのように肩入れする貴族がでかねん」
「なんとかして異世界人をあぶりだせんかのう」
「いいことを思いついた」
「なんだ?勿体ぶらずに言え」
「このところ、魔族の動きが活発化してるのは聞いておろう?」
「今その話はやめてくれ、また頭痛薬と胃薬が必要になる」
「魔王が現れたという話か?」
「その魔王が異世界人だという噂を流すのだ」
「それで?」
「魔族領の偵察と魔王撃破に異世界人を使う」
「そんなのうまくいくのか?」
「異世界人はみな恐ろしく強い。その辺の冒険者とは比べ物にならん。奴らが使う不思議な術は、見ればすぐに違和感でわかるだろう」
「まあ、始めから疑って見る場合はそうかもしれんな」
「そこで、勇者選抜大会と称して、多額の報酬で異世界人を呼び寄せる」
「勇者?そういえば前回の異世界人の中には自称勇者が十一人いたらしいな」
「うむ。どうやら異世界人は勇者という言葉が好きらしい。そこでそれを利用する。勇者募集中とな!報酬につられて有象無象も集まるだろうが、戦いを見れば異世界人はすぐに見つけられるだろう。王都の闘技場で戦わせ、こちらが選んだ異世界人を勇者に認定し、魔王討伐に行かせる。あわよくば魔王と倒せればよし、負けて死んでも異世界人なら痛くはない」
「しかしなあ、それ結構な額が飛びそうな話じゃないか」
「参加料を取ればいい。それに幸いにも我々の目の前には金貨千枚以上は作れそうな金塊もある」
「確かにそれなら行方の知れない異世界人をあぶりだし、しかも最終的には王都から追い出せるな」
「魔王がただの噂で、本当はいなかったら?」
「魔族領までの道のりで死ねば御の字、それまでに異世界人同士で殺し合ってくれてもよし。どのみち帰ってこれたとしても数年はかかる。その頃には異世界人の数も減ってるだろう」
「王都に人が集まって金を使っていけば、結果的に王都経済も上向きになるな」
「しかし、異世界人よりも強い猛者がいたらどうするのだ?」
「そいつには別で金を払って依頼をしよう。王都で暴れる異世界人がいたら殺してくれと」
「なるほど、対異世界人用の掃除屋か。悪くない」
「表向きは異世界人なんて知らない風を装い、あくまで敵対はしない。王都の風紀を乱す輩は別だがな」
「だいぶ脱線したが、キラ・キイラの処遇はどうする?」
「釈放でいいだろう。敵対は避けねば」
「その前に、なんとか金を作らせないか?」
「そうだな。あの金塊がもう一つあればかなり助かる」
「学院に通っているようだが、退学にするか?」
「いや、行方が知れなくなるほうが面倒だ。余計なことはするな」
「しかし、監視はつけておいたほうが良いのでは?」
「しかし、バレた時がめんどうだ」
「なら、いっそ始めからバラシてしまえばいいだろう」
「というと?」
「異世界人が王都で野放しは危険だから護衛をつけるとか言えばよい。それか釈放の条件として監視として従者をつけると言ってしまってもいいかもしれん」
「なるほど、名案ですな」
「では、エイジ・ナカバヤシについては?」
「王の勅命で王都最強クラスの二名が只今討伐に向かっている。もうそろそろ接触する頃だろう」
「アルガリド・グランドーとライアン・カーマインだ」
次回、エイジ・ナカバヤシの戦闘回です。




