狩り、そして強襲
最近、空いた時間をよくアーガイルと稽古をして過ごしている。
実力が近い相手とも稽古は楽しい。
お互い相手の駄目出しをして、一緒に強くなっていく感覚。
良き友であり、ライバルだ。
今までは格上に見下されていただけだったので、楽しくてしょうがない。
どうやらアーガイルの最強装備は槍らしい。
盾なし、槍の両手持ち。
対する俺の最強装備は盾無し、剣両手持ち。
これは師匠との特訓のせいかともいえよう。
というかどうやら俺は左右の手で違うことをするのが苦手らしい。
この辺は修行が足らんのだろう。
アーガイルは俺と同じで寮で生活している。
違うことといえば、俺は一人部屋、彼は四人部屋ということだ。
資金力の差だな。
アーガイルは休日は冒険者として稼ぎに出ているらしい。
なんとランクはD。
俺よりも上だった。
しかももうすぐCに上がるかもしれないと言っている。
俺はまだEになったばかり。
そう言ったら、戦闘力的にはCでもおかしくないと言われた。
アーガイルがデレた。
いや、きっと正当な評価なのだろう。
ちょっとうれしい。
今度の休日に一緒に狩りに行かないかと誘われた。
俺は二つ返事で承諾した。
この世界に来て初めて休日に予定ができた。
べ、別にワクワクなんてしてねえし!
当日。
アーガイルは弓を背負い、手には槍を持っている。
「アーガイルは弓も使えるのけ?」
「け?狩りなんだから、弓は必須だろ」
必須。
ひっす。
ヒッス。
「お、俺、弓使ったことないんだけど、大丈夫かな?」
「弓は数熟さないと上達しないからなあ。でも覚えといて損はない。なんなら教えてやろうか」
「マジすか、アーガイル先生!?」
「まあできるかどうかはキラ次第だがな。矢を買い足す必要があるから武器屋によるぞ」
「イエッサー!」
そんなわけで俺たちは武器屋に来た。
俺が前に来た武器屋とは違うところだ。
「キラは金持ってるか?」
「自慢じゃないが俺はなかなかの金持ちだ」
「Eランクのくせに生意気な。なら自分の弓でも買ったらどうだ?」
「そうだな。なんかでかいのと普通なのあるけど、どっちがいいの?」
「大弓は引くのに力がいるが、その分飛距離と威力がある。でもお前は近接戦闘がメインだから邪魔になるだけだ。普通のサイズのにしとけ」
「了解。ん?この弓だけ高いけどなんで」
「弦がオーガスパイダーの糸で作られてるからだな。切れない糸で有名だ」
あー知ってる知ってる。
今着てるし。
「よし。これにしよう」
「は?大銅貨八枚だぞ?」
「ふふ、俺はお金が湧いてくる魔術が使えるのだよ」
嘘は言ってない。
「何言ってんだか。矢筒と矢も買っておけよ」
「はーい」
買い物も済んだので、次は冒険者ギルドだ。
ここに来るのも久しぶりだな。
掲示板にはたくさんの依頼が張られている。
「キラは今までどんな依頼を受けてきたんだ?」
「依頼は受けてないよ?森で出会ったブラックウルフを持ってくるだけ」
「ブラックウルフは群れるからなあ。肉も不味いし」
いや、食べたことはないけど。
「アサルトボアなんてどうだ?こいつは群れないし、動きもまっすぐ突っ込んでくるだけだ。俺達のスピードなら躱せるし、相性はいいぞ。肉もうまいしな!」
こいつ、食うこと前提で考えてないか?
「じゃあそれでいこう。アサルトボアはどこにでるんだ?」
「少し離れた森だが、俺は良く行く所だからまかせろ」
「俺、一番近くの森しか行ったことないんで、よろしく頼むわ」
「狼の森か?あそこに行って生きて帰ってこれるなら大丈夫さ」
「ん?あの森って危険なのか?」
「群れる魔物はそれだけで厄介だからな。あそこはブラックウルフの巣窟だ。わざわざ好きこのんで入る冒険者は少ないと思うぞ」
道理で誰とも接触しなかったわけだ。
実際俺も群れに囲まれてガジガジされたし。
そういうわけで、王都から少し離れた森にやって来た。
まずは軽く弓の練習。
「弓と引いた後に矢、右腕、左腕が一直線になるように、そうそう、矢を持つ手には力を入れ過ぎないで、左手で弓を押す力と右手で引く力を均等に…」
一度に叩き込み過ぎでは?とか思ったりもしたが、意外と筋がいいと褒められた。
始めは的の木にはなかなか当たらなかったものの、段々とコツも掴み始めた。
「あとは練習あるのみだ。とりあえずお前は相手のど真ん中を狙うようにしろ。俺は目を狙う。タイミングは俺が指示するから」
「お、おうよ」
獲物はアーガイルが捜索する。
目で足跡を探し、鼻で臭いを嗅ぎ分け、耳を澄ます。
俺はというと、金魚の糞の如く彼についていく。
「いたぞ」
小声でアーガイルが囁く。
目線の先にはデカい猪がいた。
あれがアサルトボアか。
鼻先には大きな角が一本ついている。
猪とサイのハイブリッドって感じだ。
「まずは矢で先制するぞ。こっちに気づいても、あいつら馬鹿だから、逃げずに突っ込んでくる。それを躱しながら斬りつける。この繰り返しだけで勝てる。ただし、角には一切攻撃は効かないから注意しろ」
すごいな。
攻略法が既に確立しているのか。
「俺が矢を放ったらすぐにお前も打て。その後、剣を構えて避ける準備だ」
「了解」
「よし。構え…打て!」
アーガイルの矢は正確にアサルトボアの左目を射抜いた。
俺の矢は尻にヒット。
致命傷とは程遠い。
「来るぞ!」
そこから先は簡単だった。
まっすぐ突っ込んでくるアサルトボアを躱しては斬り、躱しては斬る。
なかなかタフな相手だったが、しばらく続けると動かなくなった。
「よし。さっさと解体するぞ」
縄を後ろ脚に括り付け、木から吊るす。
首につけた傷から血が流れる。
要は血抜きだ。
それと並行して皮を剥ぐ。
皮を剥いだら内臓を取り出し、肉を切り分ける。
最後に角のついた頭蓋骨を砕き、角だけ回収する。
全部合わせるとかなりの重量だ。
二人で分配して運ぶ。
「森を抜けたら火を起こして肉を食おうぜ!」
「おお、いいね!」
BBQだ!
たき火で肉を焼く。
焼いていると肉から油が滴った。
アーガイルは生焼けがお好みのようだが、俺はちゃんと火を通す。
アサルトボアの肉は旨かった。
脂の乗った牛肉に近い。
塩などの調味料があればもっと旨かっただろう。
今度買っておこう。
冒険者ギルドに戻って来た頃には日が暮れかけていた。
「じゃあ換金してくるぜ!」
「おう、よろしく」
狩りは案外楽しかったな。
取った獲物を食べるという発想は今までなかったが、悪くない。
解体の仕方も覚えたし、早急に調味料を買う必要があるな…。
そんなことを考えていると、懐かしい声が聞こえてきた。
「おう、坊主!久しぶりだな!」
この髭面、忘れようがない。
「久しぶりですねバズさん」
「おう、坊主も元気そうだな!ランクは上がったか?」
「まだEランクですよ」
「なあに、急ぐこたあねえ。命あっての物種だからな!」
「パズさんは今何ランクなんですか?」
「おう、さっきついにBランクに上がったぜ!最近いい相棒を見つけてから調子良くてな!紹介してやるよ!おい、エイジ!」
エイジ?
日本人みたいな名前だな。
呼ばれて現れたのは、ローブを纏った黒髪の男だった。
まさかな。
パズも黒髪だし。
「こいつはエイジ・ナカバヤシ。最近俺と組んでる相棒だ。エイジ、こいつが前に話したキラだ」
エイジ・ナカバヤシ。
間違いない、日本人特有の名前。
やはりこいつは…。
「お前がキラか。いくつか質問がある。答えろ」
男のローブの隙間から拳銃がこちらに向けられている。
俺はギョッとして固まった。
「なるほど、その反応。お前にはこれが何かわかるようだな」
「お、おい、エイジ?」
パズが不安げにエイジを見ている。
パズもどうやら拳銃が俺に向けられている意味がわかるようだ。
向けられている俺は額から汗が止まらない。
「お前、サバイバーだな?」
死ぬ。
イエスと答えたが最後、あの拳銃から放たれた弾丸は俺の胸元目掛けて飛んでくる。
鬼蜘蛛スーツの性能で貫通はしないだろうが、動けなくなった俺のトドメを指すのは簡単だ。
「サバイバー?なんのことですか?」
しらばっくれるしかない。
それとも、相打ち覚悟で魔術で攻撃するか?
ライジング、いやライトニングなら一撃で仕留められる。
だが、早撃ちでこいつに勝てるのか?
「ふん。この状況なら普通はそう言うよな。だが関係ない。サバイバーであろうがなかろうが、疑わしい奴は殺す」
心臓がバクバクいっている。
「エイジ!なんの真似だこりゃあ!」
パズがエイジ・ナカバヤシに弓を構えた。
こいつら仲間じゃないのか?
「パズ。お前こそなんの真似だ」
「相棒が馬鹿な真似しようとしてるんだから止めるのは当たり前だ!エイジ、お前こいつに恨みでもあんのか!?」
周りの冒険者達が俺達の様子に気が付き始めた。
「恨みなんかないさ。むしろ感謝してるぐらいだ。俺のためにわざわざ殺されに現れたんだからな」
ダメだ、こいつは完全に俺を殺す気だ!
「こんなところでそんなことしてみろ!次に殺されるのはお前だ!こんだけ目撃者がいるんだからな!」
そうだ!パズ!もっと言ってやれ!!
視界の端でアーガイルが戻ってくるのが見える。
今はマズい!
巻き込まれる!!
「ふ、確かにパズの言うことも一理あるな」
お?
「なら俺がこの場を去った後、こいつが死ねばいいわけだ」
は?こいつ何言ってんだ?
「ではさらばだ」
エイジ・ナカバヤシがギルドの出口に走り出した。
逃げるのか?
チャンス!
背中に雷魔術叩き込んでやる!
と思ったが、先程までエイジ・ナカバヤシが立っていた場所に鉄の塊が転がっている。
これは……。
「っ!!!!」
手榴弾だ!!
パズが真っ青な顔をしている。
ヤバい!!
俺は咄嗟に手榴弾に、物質化で生み出した分厚い鉄の箱を被せる。
一個じゃ足りないか!?
さらにもう一つの箱を被せた瞬間、爆発音がギルド内に響き渡る!
ドゴオォォン!!
俺は二つ目の鉄の箱と共に衝撃で数メートル吹っ飛び、壁に激突した。
「いってえ……」
爆音で耳鳴りが酷い。
口の中が鉄の味がする。
吹っ飛んだ拍子にどこか切ったみたいだ。
俺はゆっくりと立ち上がる。
ギルド内は煙と火薬の臭いが充満している。
「パズさん、生きてますか?」
パズは爆破地点の近くで尻もちをついていた。
床は爆発で黒焦げ、被せた一つ目の鉄箱は砕け散ったようだ。
「あ、ああ、なんとかな。坊主は平気か?血が出てるぞ」
「なんとか無事です。あ、アーガイル、なんともないか?」
「ああ、耳がいってえけど、まあ大丈夫だ」
「アーガイル、少しお願いがあるんだけど、いいか?」
「なんだ?」
「学院の校長に伝えてくれ。例の一人が現れたから、帰れなくなったと」
「…?そのまま伝えていいんだな?」
「ああ、それで伝わるから。悪いな」
「ああ。あとアサルトボアの取り分だが」
「それはいつか暇になったらもらいに行くよ。さあ、行った行った」
俺はその場から追い出すようにアーガイルの背中を押した。
「その時には説明しろよな!」
アーガイルが走っていくのを、俺は黙って見送った。
あいつに会うのもこれで最後かもしれないな。
「なんだこれは!?何があった!!」
ギルドの二階から偉そうな人が降りてきた。
さて、どうしたものか………。
手榴弾は大変危険です。
見つけた場合は速やかに遮蔽物に避難して下さい。




