盾を使ってみよう
雷魔術の授業の後、ミリアとマリンダさんに夕食に誘われたが断った。
あの授業のせいで変な気分になってしまった。
今日は部屋に戻って、気を静めるとしよう。
そのかわり、明日には行く約束をした。
明日なら大丈夫、一旦寮に戻れば俺は賢者になれるのだから。
強化魔術の授業は、前回とほぼ同じ。
新しい魔術も特になく、マイク先生には悪いが実りのない授業だった。
放課後はラスター邸で夕食をごちそうになった。
今回はミリアの部屋で一人きりで待つのは御免だったので、あらかじめ遅れて参上した。
なんだかマリンダさんがやたらと俺にお酒を勧めてくる。
だがしかし、俺は学習する男。
同じ過ちは繰り返さない。
お酒はおいしいが、少量で我慢だ。
その後、やたらとカーマイン家との関係を聞かれた。
前回も話したはずなのだが、覚えてくれていないのだろうか。
少し悲しい。
食事後は泊まっていくように強く勧められたが、明日も授業だ。
お断りしておこう。
今回は醜態を晒さずに済んでよかったぜ。
剣術の授業では変化があった。
盾持ちの訓練が始まったのだ。
俺も初めは盾を買おうとしたものだったが、結局盾にも使える幅広のグラディウスで代用している。
しかし、片手に武器、もう片手に盾というのは鉄板らしい。
来週には対人稽古も始まるので実感できるはず、と言ってた。
師匠以外と剣を打ち合うのは初体験だ。
来週が楽しみでしかたがない。
授業や予定のない日はマートン商会に訪れるのを忘れないようにしようと思う。
なんだかんだでトムの情報収集能力は役に立つ。
俺にはそっちの才能はまったくないので大助かりだ。
そんなトムから、放っておけない情報が入った。
冒険者ギルドの解体屋(持ち込まれた魔物を解体する人)に穴だらけの魔物が持ち込まれているという情報が入ったそうだ。
思い出すのは、王都に来る際に見つけた盗賊の死体。
銃撃されたことは落ちていた薬莢から疑いようもなく、俺の中での危険人物堂々一位のサバイバー(通称マシンガン野郎)である。
どうやらそいつは冒険者として生きているようだ。
それ以上の事は冒険者ギルドによって情報が守られていてわからないらしい。
しかし成果としては十分。
マシンガン野郎は王都にいる。
これがはっきりとしただけでもかなりでかい。
しかし、銃撃なんかしたらうるさくてすぐに目立たないだろうか?
マシンガンにサイレンサーはつけられるのか?
俺の貧しい知識ではわからない。
だが少なくても奴は装備を人目につかない工夫はしているはず。
冒険者には結構そういう人が多い。
ギルドにはローブで装備ごと覆って現れるのだ。
逆に考えれば、装備を隠してる冒険者はサバイバーの確立が低くないということだ。
もしそんな奴が現れたら警戒しないといけないな。
マシンガン野郎以外にも、恐ろしいギフト持ちの可能性もある。
ここで決断しなければならない、大事なお題が一つある。
マシンガン野郎を探しに行くか、否かだ。
冒険者ギルドに魔物を納品しているからには、本人が冒険者ギルドに顔を出している可能性が高い。
相手の顔を見るチャンスだ。
しかし、同時に相手にも顔を見られるリスクが伴う。
ならいっそ、変装していくか?
フルフェイスの兜を被っていれば、顔は見られまい。
でも逆に目立つんだよなあ。
大抵みんな街中などの安全エリアではそこまでの完全装備をしていない。
たまにいるが、そいつらはとっても目立つ。
目立ってしまっては本末転倒だ。
変装はなしでいこう。
堂々としていれば、サバイバーだとは思われまい。
ただ、探しに行くのはやめておこう。
正直近寄りたくない。
冒険者やってるなら、勝手に死んでくれる可能性もある。
そうだよ、別に無理に殺しに行かなくても、ラスト五人になるまで生き残れば勝ちなんだから。
強敵との戦闘は回避する方向でいこう。
もし勝てる自信がついたなら、その時は挑めばいい。
焦って無理は禁物だ。
いのちだいじに。
今は強くなることが優先だ。
というわけで、師匠の元を訪れた。
「師匠、盾を使った稽古をしてみたいのですがどう思いますか?」
「なんじゃいきなり」
「剣術の授業で盾持ちの稽古をするんですよ。でも師匠はいつも剣一本じゃないですか。どっちがいいのかなと思って」
「まあ盾を持つだけで手っ取り早く防御力は上がるからの。少し待っておれ。アルベルト!」
しばらくすると、アルベルトさんとメイドが数種類の盾を持ってきた。
「まずは小盾。比較的小さいため、誰でも装備しやすい反面、防御面が小さく技術が必要になる。使い方は、受けることよりも弾く、または受け流すのが基本じゃ。盾で殴るのにも使いやすい。冒険者なら、機動性の落ちない小盾を使うやつは多いのう」
師匠がバックラーを指して説明した。
「次に中盾。上半身が隠れるほど大きいため、ある程度の機動性と防御力の両方が得られ、バランスがいい。盾を構えながら突進して、間合いに入ったら斬る。これだけでもなかなかな戦術となる。王都警備隊で採用されているのも中盾じゃな」
ああ、そういやいつも背中に背負ってるね。
「そして最後に大楯。これは槍と非常に相性がいい。集団戦闘においても大楯使いは重宝される。が、どうしても動きが阻害されるため、一人で戦うのには向かんな」
なるほど。ぼっちウォーリアーの俺とは相性が悪いな。
「長槍と大楯は軍で採用されておる。大した技術のない集団でも、長槍と大楯を持つだけでそこそこの戦力だからな。突破するのも容易ではない」
きっと槍術の授業では大楯を使うんだろうな。
「警備隊や軍では、避けてはならん時がある。後ろに守るべき仲間や一般人がいるときじゃ。それ故に盾が必要となる」
警備隊は街中でファイヤーボール打たれたら、避けずに受け止めないといけないのか。
大変な仕事だ。
「まあ口で言っても良く分からんじゃろ。儂が実践してやるから打ってこい」
師匠が中盾を構えた。
「あれ、師匠、剣は?」
「剣無しでも問題ないじゃろ」
野郎、舐めてくれる。
後悔させてやらあ!
結果発表。
鉄壁。
俺の剣は一切通らず、おまけに盾で俺の体制をうまく崩してから殴る蹴るのサービス。
「げふっ…師匠は、ごほっ…なんで今まで、はあはあ、盾を、使わなかったんですか?」
盾持ったら最強じゃねえかよ!
「盾にも弱点はあるからのう」
なんと!
「例えば?」
「死角じゃな。中盾や大楯には必ず死角が存在する。その死角で、例えば籠手に毒付きの仕込みクロスボウなどがあった場合、どうなる?」
「…まともにくらいますね」
「あとは氷魔術。盾に触れられた場合、盾ごと腕を凍らされる」
なんて恐ろしい使い方だ。
しかしいいことを聞いた。
その手があったか。
「でもそんなことできる相手、そうそういないんじゃないですか?」
「人族相手ならな。魔族は違う。奴らは人族の何倍も魔力が強く、使える魔術も多彩じゃ」
「師匠は魔族と戦ったことがあるんですか?」
「儂が若い頃は、戦争の生き残りの魔族がまだあちこちに潜んだおった。魔族は何をしてくるかわからん。敵対した場合、最速かつ一撃で仕留めればいいんじゃが、それができん輩が多くてな。数多くの被害が出た」
そりゃ、あんたはできるかもしれないけどさ。
しかし、魔族か…。
出会ったら気をつけよう。
「ほれ、今度は貴様が好きな盾を使ってみろ」
「俺は剣も使いますよ?」
「当たり前じゃ」
「う~ん。じゃあこれを」
俺はとりあえず師匠と同じ中盾をチョイスした。
師匠のあまりの鉄壁っぷりを見ての選択だ。
しかし、後悔した。
稽古が始まると、盾の死角で足を踏まれたり、片手で持ちが甘くなった剣を飛ばされたり。
なにこのいじめ。
「ちなみに師匠の本気装備はなんなんですか?」
「状況によるのう」
器用な男だ。
「見たいか?」
「ぜひ」
「う~む、見せるだけならいいが、小僧だけでは相手にならんし…」
その言い方、ひどくない?
「む?ちょうどいい所に適役が来たぞ」
クリスと、もう一人、ウィリアムそっくりだが、少し若返った感じの人が現れた。
きっと彼がクリスの兄、ジェイムスだろう。
「キラ、また来てたのか?」
「おじゃましてます」
「ああ、君がティナと一緒に犯人を見つけてくれたキラ君か!」
「あ、はい。初めまして」
「いや~おかげで助かったよ!こうして家に帰ってこれるのも君らのおかげだ!」
「いえいえ、仕留めたのはクリスですから」
「ちょうどよい、ティナ、ジェイムス。小僧が儂の本気を見たいらしくてのう。少し相手をしてくれんか?」
「え?」
驚くジェイムス。
「いいですよ」
クリスは乗り気のようだ。
「僕も構いません」
ジェイムスさんは言葉とは裏腹に顔が嫌そうだ。
ごめんよ。
「では、準備するとしようか。アルベルト!」
「はい、ただいまお持ちします」
すぐにアルベルトさんが訓練用の鉄剣を三本持ってきた。
クリスとジェイムスさんに一本ずつ。
残り一本を師匠に。
しかし、師匠は元から一本持っている。
てことはまさか……二刀流!?
なにそれカッコいい!!
「さて、やるか」
師匠の雰囲気が変わった。
何が変わったかはよくわからないが、明らかにいつもと違う。
「どこからでも来なさい」
そう言って二つの剣先を、孫二人に向けた。
クリスは上段に構え、少しづつ右へ。
ジェイムスは正眼に構え、少しづつ左へ。
二手に分かれ、両サイドから攻める気だ。
おいおい、身内相手にガチだな。
そしてじりじりとすり足で距離を詰め始める。
まず動いたのはジェイムス。
恐ろしく速い踏み込みと共に、正眼の構えから鋭い突き。
師匠の首を狙っての突きだがギリギリで躱された。
しかし、躱した所にクリスが脳天目掛けて剣を振り下ろす。
こいつ等、殺す気か!?
師匠は片手で受ける様だが、そりゃ無理だ!
そうと思われたが、師匠が剣で柔らかく受け流し、クリスの剣は頭から逸れた。
その間に師匠のもう一つの剣がジェイムスの側頭部にヒット。
あのジジイ、どんだけ視野が広いんだ!
そのままの勢いで師匠がクリスに蹴りを放った。
クリスは突き飛ばされ、起き上がる前に師匠の剣が顔に突き付けられる。
「…参りました」
なんですかコレ。
これが王の護衛を務めた男、元『王の盾』ライアン・カーマインか。
師匠が規格外なこともそうだが、孫二人が爺一人に対して殺す気満々の剣を放った。
刃がないとはいえ、鉄パイプで殴るようなもの。
頭に当たれば致命傷だ。
いかれてやがるぜ、カーマイン家。
「ティナはなかなか悪くなかったが、ジェイムスは少し鈍ったかの」
判断基準がさっぱりわからん。
「面目次第も御座いません」
ジェイムスさんは「だから嫌だったんだ」って顔をしている。
ホントにごめんよ、俺が変な事言ったせいで。
「小僧、儂も今のは結構本気だったぞ。どうじゃった?」
「凄過ぎてまるで参考になりませんでした。俺なら始めの突きで死んでますね」
「いつでも一撃で殺しに行くのが最も単純で強い。これがカーマイン家の剣術の基本じゃ。稽古の時は受けてやってるがの。まあ覚えておいて損はないぞ」
なるほど。
先手必勝、殺られる前に殺れ。
戦いにおいて真理だな。
覚えておこう。
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