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作戦はすでに始まっている



 強化魔術の授業の日。

 この授業は人数が多い。

 俺はいつも通り、空いてる前の席に座る。

 しばらく先生が来るのを待っていると、隣に誰か座った。

 ミリアだ。

 こいつ、さては友達いないんだろうか。

 いや、俺のセリフではないな。

 今日は昨日に比べ、随分オシャレな服装をしているように見える。

 心なしか肌の露出も多い。


「あんた、昨日も一番前で一人だったわよね!もしかして友達いないの?」


 おうふ。

 随分と直球で俺のハートを抉ってきやがる。


「ま、まあ少ない方ではあるね」


 今のとこクリスだけです。


「じゃあわたしが友達になってあげるわ!」


 上から目線だな、おい。


「それはどうもありがとうございます。もしかしてミリアも友達いないの?」


 さっきのお返しだ。


「いるわよ!」


「例えば?」


「例えば……」


 おや?


「な、内緒よ!」


 いないんだな…。

 別に恥じることはない。

 俺も似たようなものさ。

 お、先生が教室に入ってきた。


「それでは授業を始めます。私は強化魔術担当のマイク・ラスターです」


 ラスター家なのに強化もできるのか。

 高性能だな、マイク先生は。


 マイク先生の授業は素晴らしかった。

 他の教師たちと違い、いきなり適正チェックに移らず、基礎知識から教えてくれた。

 これだよ、本物の授業というやつは。

 個人的にはさっさと全種類やってみせろと言いたいが。


 現在確認されている強化魔術の種類は五種類。

 身体強化、筋力をアップする魔術。

 視覚強化、視力や動体視力をアップ。

 聴覚強化、聴力をアップ。

 嗅覚強化、嗅覚をアップ。

 治癒力強化、治癒力をアップ。

 聴覚と嗅覚の強化は、人族よりも獣人族の方が適性がある。

 治癒力強化は、強化魔術で唯一、他人を強化できる魔術である。

 反射神経の強化は知られてはいないようだ。

 きっとカーマイン家の奥の手なんだろう。

 俺も黙っておこう。

 しかしなんでも強化できるんだな。

 きっと味覚強化とかもできるんだろう。

 必要性は感じないが。

 視覚強化はシロ探しに森で使ったはず。

 多分クリスが王都に来るまでの道中で使っていたからできたんだろう。

 治癒力強化もマリンダ先生のを見た。

 聴覚と嗅覚はあまり使えなさそうだな。

 というか俺の魔法は、一度使ったらキャンセルができない。

 身体強化もずっと効いてるみたいだし、そうなると聴覚と嗅覚の強化は最悪弱点になりかねないな。

 大声出されて一時的に無力化されたり、オナラで悶絶なんてしたら残念にも程がある。

 てことは、……あれ?

 強化魔術の授業、もういらなくね?

 まあ一応新しい発見があるかもしれないし、しばらく様子を見るか。


 午後からは実技の授業。

 強化魔術は使えてるのかがパッと見でわからないので全員参加らしい。

 内容はほぼ身体測定と健康診断のようなもの。

 そして筋力トレーニングだ。

 二人一組になり、持てるか持てないかのギリギリの重りを持ち上げたり、視力検査だったり…。

 俺はミリアと組んだ。

 良かった、ここでぼっちで相手がいなかったら泣いていたかもしれない。

 ちなみに嗅覚と治癒力はしばらくしないらしい。

 なんたって治癒力強化はケガ人がいないとできないしな。

 授業の収穫はせいぜい、ミリアの腕立て伏せを見れたことぐらいだ。

 あれはもはや腕立て伏せではない、乳立て伏せと名付けるべきだろう。

 あの光景は俺の脳内フォルダに名前を付けて保存だ。

 いやはや、絶景であった。






「あんた、この後予定あるの?」


 授業が終わると、唐突にミリアに聞かれた。


「特にないけど」


「じゃあうちにご飯食べに来なさいよ!」


「え?いきなり行ったら迷惑でしょ?行かないよ」


「大丈夫よ。お父様が呼べって言ってたんだもん」


「マイク先生が?なんで?」


「そりゃあもちろん………なんとなくよ!」


 なんだ今の間は。

 なんか怪しい……。

 壊した壁の修理費を要求されたりしないだろうな?


「じゃあいいけど、その『あんた』っての、やめてくれない?」


「じゃあなんて呼べばいいの?」


「普通にキラでいいよ」


「じゃあわたしのこともミリアって呼んでいいわよ!」


 いや、元から呼んでるっつーの。


「じゃあ行くわよ!」







「ここよ!」


 ミリアの家は意外と学院から近かった。

 これまたでかい屋敷だ。


「帰ったわ!」


「おかえりなさいませミリア様、いらっしゃいませお客様。ミリア様、お客様はどちらにお通ししますか?」


「わたしの部屋に行くからいいわ」


 え?


「かしこまりました」


 いきなり女の子の部屋とか、緊張するんですけど。


「こっちよ、キラ」


「お、おう」


 とにかくついていこう。



 ミリアの部屋は意外と質素だった。

 壁がピンクとかだったらどうしようとか思ったが、さすがにこの世界でピンクはないか。


「わたし、お風呂入ってくるわね」


「はい?」


「キラも入りたい?」


「いえ、自分は大丈夫であります」


「そう、じゃあ行ってくるわね」


 唖然。

 マジで行きやがった。

 普通友達を家に呼んでおいてまず風呂か?

 そんなバカな。

 俺はこのあとどうすればいいんだ?

 と思ってたら扉がノックされた。


「ど、どうぞ」


「失礼します。お茶をお持ちしました。おや?ミリア様はどちらに?」


 メイドだった。


「お風呂入るって言って出ていきました」


「それは失礼いたしました。ミリア様がお客人を連れてくるのは初めてのことですので、多少の御無礼があるかもしれませんが、どうか気を悪くなさらないで下さい」


「やっぱミリアは友達いないんですか?」


「ミリア様は学院に入学するまで、ほとんど屋敷を出ることはありませんでしたので、ご友人はお客様が初めてだと思います」


「じゃあ大目に見てやりますか」


「ありがとうございます。只今お茶菓子をお持ちしますので、少々お待ちください」


 どうやらミリアは筋金入りのボッチのようだ。

 俺よりも上だな。

 少しのミスは、まあ寛大に受け止めてやろうかな。

 だが一時間近く待たされた。

 さすがにイラッとした。

 その間、机の引き出しやクローゼットに近づかなかった俺は、自分でも結構えらいと思う。

 じっと待ち続けていると、やっとミリアが戻ってきた。


「遅い!」


 さすがに言わざるをえない。


「待つのが嫌だったなら、キラも入ればよかったじゃない」


「ミリアの家、風呂二つもあるのか?」


「一つよ」


 こいつ頭イカレてんだろうか。


「それより夕食の準備ができたって。行きましょう!」


 く、こいつは!

 いや、待て待て。

 メイドさんと約束したばかりじゃないか。

 大目に見てやるのだ。

 俺は寛大な男、そう、俺は寛大な男…。


「わかった。行こう」


 食卓にはすでにマリンダ先生が座っていた。

 肩から胸元まで露出したドレスを着ている。

 なんて破壊力だ。

 俺には刺激的過ぎる。


「いらっしゃい、キラ君。さ、ミリアも席について食事にしましょう」


「あれ?マイク先生は?」


「急な用事ができたみたいで、今日は帰ってこないそうよ」


「へ~、学院の教師って意外と忙しいんですね」


 マイク先生が呼んだのにいないとはな。

 働く大人は大変だな。


「その点、わたしは実技の授業はあなたたち二人だけだから、午後はいつも暇なのよねえ」


 おいおい、そこは旦那の仕事手伝えよ、とはさすがに言わないでおこう。


「ではいただきましょうか」


「はい」


「もうおなかぺこぺこよ!」


 どうもミリアは体は大人だが、中身が子供っぽいな。


「ミリアは今いくつなんだ?」


「十六歳よ!」


 まさかの年上でした。

 いや、俺も今年で十六歳だ。

 タメということにしておこう。


「キラ君は今いくつ?」


「今年で十六になります」


「出身は王都じゃないんだっけ?」


「はい、遠いところです」


 そりゃもう遠いとかいうレベルじゃないぐらい遠くだ。


「今までは何してたの?」


「王都に来てからは冒険者ギルドに登録して、森でブラックウルフを狩ったりしてましたね。その後はカーマイン家で修行してました」


「「え?」」


「ん?」


 肉を一生懸命小さく切り分けていたミリアも手が止まった。


「キラ君、カーマイン家と仲良いの?」


「クリスとは…クリスティーナさんとは友達ですよ。ジェイムスさんは仕事が忙しいらしくて、会ったことないですねぇ。ウィリアムさんとはまあ普通かな。どっちかというとアンナさんとライアンさんとの方が仲良いかもしれないですね。修行してくれたのはライアンさんですし」


「ライアン様が、修行を?」


「はい。あのジジ…ライアンさんは強かったですね。結局一太刀も入れられませんでしたよ」


「ライアンって、元『王の盾』のライアン・カーマイン?」


「なにミリア、その王の盾って」


「王直属の護衛の事よね、お母様」


「正解よ、ミリア。ライアン様ったら、引退後にお爺様が何度頼んでも学院で人に教える気はないって言ってたのに…」


「あ、でも師匠って呼ぶと『弟子はとらん』って言いますね」


「キラは強化魔術も使えるから気に入られたんじゃないの?」


「え?キラ君、強化魔術もできるの?」


「一応、身体強化と視覚強化は問題なく。ライアンさんに一太刀入れられれば、なんかすごい魔術を教えてくれるらしいんですけどねえ」


 あと反射神経強化も使えるけどね☆


「そうなの……マズいわね」


「え?なんかマズいんですか?」


「いえ、こっちの話」


「?」


「キラ君、お酒は好き?」


「飲んだこともないです」


「そうなの、このお酒おいしいわよ~。飲んでみてくれない?」


「お酒は二十歳からなのでは?」


「なによそのルール。わたしももう飲んでるわよ?」


 え、ミリアお酒飲んでるんですか!?

 犯罪だ!

 あ、もう異世界だから関係ないか…。


「じゃあ少しいただきます」


「注いであげるね」


「あ、こりゃどうも」


 お、お、お?

 ジョッキにドンドン酒が注がれる。

 表面張力でギリギリ零れないところまで注がれてしまった。

 なんて無駄なテクニックだ。


「あの、マリンダ先生、少しと言ったのですが」


「マリンダ、でいいわよ?なあに?わたしが注いだお酒は飲んでくれないの?」


 そうゆーのはね、もう古いんですよマリンダさん。


「あ、おいしい」


「でしょ?ミリアは飲み過ぎちゃ駄目よ?」


「え!どうして!?」


「ミリア、飲むとすぐに寝ちゃって起きないじゃない」


「わたし明日授業内から大丈夫よ」


「…ミリア、何か忘れてない?」


「ん?」


 なんの話だろうか。

 きっと明日用事でもあるのだろう。

 しかしこのお酒は旨い。

 スッキリとしていて喉越し爽やかだ。

 これならいくらでも飲めそう。


「そうそう、キラ君。炎魔術と氷魔術の授業も受けたんでしょ?どうだった?」


「炎はファイヤーボールまで、氷はアイスランサーまで習いましたが、やっぱりレイの方が魔術はうまいですね。あいつは簡単に的に当てますよ」


「あら、キラ君もすごい才能だと思うけど?あら、ジョッキが空いてるわね。ささ、もう一杯」


「俺のは才能とは違いますよ~。おっとと、また大量に注ぎましたね」


「いくらでも飲んでいいからね」


「にゃによ、きら。あんた、ほのおとこーりもできるの~?」


「ミリア、もう酔ってるの?」


「酔ってなぁいわよ。あんたよりさきにぃ酔うわけなーじゃなー」


 後半何言ってるかわからなかった。

 これは酔ってるな。


「わたし一回飲み比べぇってゆーのやってみたかったぁのよね~。きらぁ、勝負よぉ」


「こらミリア、はしたな……いえ、おもしろそうね。どっちがお酒強いのか、わたしも興味あるわ」


 まさかのマリンダさんも乗ってきた。

 いやいや、一気飲みは良くないんですよ。

 嫌だなあ。


「いいじゃない、キラ君。お・ね・が・い」


 マリンダさんのおねだりだと!?


「この勝負、受けて立つ!!」


 こうして俺はミリアと飲み比べを始めたのであった。






次話0時更新です。

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