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雷魔術は難しい



 本日は雷なり。

 正確には雷魔術の授業の日。

 いつもの癖で一番前の席に座ったが、心なしか人が少ない。

 炎魔術はみんないたのに、雷魔術は受けない人が結構いるみたいだ。

 確か一番難しいのが雷魔術らしいから、きっとそのせいだろう。

 しばらく待つと金髪ロンゲの巨乳美女が現れた。

 わお。


「雷魔術担当のマリンダ・ラスターです。どうぞよろしく」


 日本じゃ考えられない容姿だな。

 けしからんボディだ。

 こんな綺麗な人の授業を受けない輩がいるなんて、もっとけしからん。


「みなさんご存知の通り、雷魔術は習得が大変難しく、ここ十年適正を持つ生徒は現れていません。ですが、あきらめずに頑張れば使えるようになるかもしれませんので、一緒にがんばりましょう」


 はい、マリンダ先生!と心の中で叫ぶ。


「雷魔術はイメージが困難ですので、まずは雷魔術がどんなものかをお見せします」


 そう言って先生が教卓にナイフを突き立てた。


「今からこのナイフに向かって雷魔術を打ちます。一瞬ですので見逃さないように。今からは瞬きも禁止です」


 先生が教卓から少し離れて、ナイフに人差し指を向けた。


「いきます!」


 バリリッ!!

 閃光がナイフに向かって走った。


「今のが雷魔術、ライジングです。見逃した方はいますか?」


 眩しかったが、指からナイフに一本の光の線が走ったのが一瞬見えた。


「みなさんにはまず、今の魔術をごく小規模で行う練習をしてもらいます。みなさん、両手の人差し指の先同士をくっつけて下さい」


 先生が指と指をくっつける。

 しょぼーんって感じに見える。

 今後ろ見たらみんなこのポーズなんだろうか。

 ちょっと見てみたいが我慢。


「くっつけたら、少しだけ離してください」


 指同士を少し離す。


「その指の間に、小さな雷を作るようにイメージして魔力を指先に集めて下さい。ピリッとした痛みを感じたら成功です」


 カミナリカミナリと言っているが、要は電撃だな。

 この世界には電化製品がないから、電気という概念がないのだろう。

 とにかくやってみるか。

 さっきの先生の魔術の小さいバージョンを。


 バチッ!


「いってえ!!」


 何がピリッとした痛みだ!

 めっちゃ痛いわこれ!!

 指先が少し黒ずんでいて、まだヒリヒリするいる。


「すごい!この授業始めて十年経つけど、できたのはあなたが初めてよ!良かった!辞めないで!ねえ、もう一回やってみせてくれない?」


 誰もできない授業を十年続けたあなたには敬意を表するが、それとこれとは別だ。


「痛いんで嫌です」


 まだ指先がプルプルする。


「まあ大変、火傷してるわ!」


 そりゃ火傷もするわ!

 やらせたのあなたですよ!


「大丈夫、わたし弱いけど治癒力強化の魔術使えるから」


 そういってマリンダ先生の手が俺の指を包んだ。

 え、なにこれ、ドキドキするんだけど。


「どういう魔術なんですか?」


「自然治癒力を強化する魔術よ。わたしも小さい頃、よく魔術の練習で火傷して、その時に偶然できるようになったの」


 雷魔術の授業でまさかの治癒力強化を見ることができた。

 これはラッキー。

 今度練習しよう。


「すごいですね、すぐに治るんですか?」


「強化魔術はあまり得意じゃないけど、五分くらいこうしてれば治るわ」


 五分て…長いな。

 その間ずっと指を握られているのはちょっと恥ずかしい。

 そんな風に考えていたらとんでもないことに気づいた。

 座ってる俺の手を前かがみになって握ってる先生の胸元の谷間が見え…。


「ゴクリ…」


「どうしたの?」


「なんだかドキドキするんですけど、魔術のせいですか?」


「それは…、多分魔術のせいではないわね」


 笑われてしまった。

 我ながらとんでもないことを口走ってしまった。

 ハズい。

 ダメだ、ピュアボーイの俺にはこの光景は目に毒だ。

 いや、毒でもうまく使えば薬になるとかならないとか…。

 いかんいかん、見るな、見たら負けだ。

 教卓に刺さったナイフを見つめて、気を静めよう。


「キミ、名前は?」


 平常心、平常心…。


「キラ・キイラです」


「どこかの貴族の子?」


 昨日も聞かれた質問だな。


「多分平民です」


「多分?」


「両親は(この世界には)いないので」


「そう…婚約してる人はいる?」


 はッ!?

 何その質問?

 いやいや落ち着け、落ち着くのだ俺よ。


「いませんけど」


「じゃあ彼女は?」


 お、おおお落ち着け、どうどう。

 教卓のナイフから目を離すな。

 きっとこの人と目を合わせたらもっと動揺する。


「…いません」


「好きな人はいる?」


 ななな、なんなんだちくしょう!

 あれか?

 俺は口説かれてるのか!?

 いや、待て待て、慌てちゃいかん。

 相手の思惑が分からんのだ。

 早まって勘違いしちゃいかん。

 いかんのだ!!


「い、いませんよ?」


「ふーん、そう…」


 あら、終わり?

 なんだったんだ?

 俺の男心は弄ばれたのか?

 くそう、反撃してやる!


「先生にはいるんですか?」


 さあ何がいるかという質問でしょうか。

 くくく、考えるがいいさ。


「わたし?わたしは夫を愛してるわよ?」


 も・て・あ・そ・ば・れ・た!!!

 ぢぐじょう!!!

 もう誰も信じないっ!!


「あ、そっすか」


 まだ五分経たないのかよ。

 なんか喋んないと気まずいじゃねーかコレ。

 弄ばれた仕返しに意地悪な質問してやる!


「なんで十年も適正ある人がいないのに、雷魔術の授業してるんですか?」


「…ベルベゴードには四大貴族がいるのは知ってるわよね?」


「すみません、王都には最近来たもので、その辺りの常識は知りません」


「四大貴族は各家ごとにそれぞれ特化した魔術があるの。

 炎魔術のドルベール家。氷魔術のグランドー家。雷魔術のラスター家。強化魔術のカーマイン家。

 この四大貴族の義務は、有事の際は王の守護、要は戦えってことね。それともう一つが魔術の血筋を絶やさぬこと」


「血筋?」


「魔術適正は遺伝するのよ。魔術が使えない人同士の子はほぼ魔術が使えない。魔術が得意な人同士の子はもっと魔術が得意になる。

 四大貴族は一族特有の魔術に置いて、常に最高峰であることが求められるの。

 そのため対応策として、ドルベール家は常に血縁同士でしか子供を作らない。

 グランドー家とラスター家は、氷・雷共に適正者が少ないので、学院で自ら指導し、適性の高い人間を探して一族に加える。

 カーマイン家は独自の指導と教育で他者を圧倒している。

 わたしはラスター家だからうちの子の旦那さんを探してるってわけ」


 あー、なるほど。

 さっきの質問の意図が少しわかってきましたわ。


「レイ・グランドーも雷の適正があるらしいですよ?」


「あの子はグランドー家の次期当主よ?もらえるわけがないわ」


「あ、そりゃそうか。」


「うちの夫がもう五十二歳で、もう子供が作れないからピンチなのよねぇ。

 子供も女の子一人しかできなかったから、次期当主がいないのよ」


 夫五十二歳!?


「え、マリンダ先生今いくつなんですか?」


「三十四よ。てゆーか普通女性に迷いなく歳聞く?」


「あ、ごめんなさい。もしかして、旦那さんってマイク先生ですか?」


 授業の選択について説明してくれたのがマイク・ラスター先生である。


「そ。マイクもお父様もかなり焦ってるみたいでねぇ。まあ自分の代で四大貴族の一つが消えそうなんだから当然よね」


「貴族って意外と大変なんですねえ」


「あら、他人事ね」


「いや、俺平民ですし」


「…そろそろ治ったかしら。どう?」


「あ、もう痛くないです」


 便利な魔術だ。


「よかったわ。キラ君の雷は威力も十分だったから午後の実技にでていいわよ」


 合格らしい。

 やったぜ。


「他にできた人はいますか?いたら手を挙げて下さ~い」


 そう言ってマリンダ先生は他の生徒を見に行ってしまった。

 しかし、あれだな。

 話を聞く限り、俺はラスター家の婿候補になってしまったようだ。

 どうしたものか。

 俺が使ってるの、魔術じゃないんだよなぁ…。

 言い訳を考えておこう。





 そして午後の授業。

 いるのは俺とマリンダ先生、そしてマリンダ先生によく似た金髪巨乳が一人。

 こっちはポニーテールだ。

 若くて生意気なマリンダ先生って感じの顔。


「では雷魔術の実技の授業を始めます」


「あれ、レイは?」


「彼は適正はあったけど威力が足りなかったわ。でも練習を続けていれば少しづつ威力が上がってくるかもしれないから、今後に期待ね」


 まあ電気のない世界で雷魔術をイメージできるんだから十分天才か。


「じゃあ二人とも自己紹介からしましょうか」


 マリンダもどきがこっちを見ている。

 俺からしろということか?

 ふん、よかろう。


「キラ・キイラです。平民で冒険者を少しやってました。よろしく」


 よし、前より少しはまともな自己紹介だ、多分。


「ミリア・ラスターよ」


 ラスターってことはやっぱりコイツがマイク&マリンダの子供か。


「…………」


 え、終わり?


「何よ」


「いえ、なんでも」


 俺よりコミュ力低いんじゃないかコイツ。

 なんだかうれしいぜ。


「あんた、ホントに雷使えるの?」


 なんですかこの人、ごっつい喧嘩腰ですわ。


「多分、ちょっとだけ」


「見せてみなさいよ」


 なんなのこの人。

 助けてマリンダ先生!

 どうしていいかわからないのでマリンダ先生に目で助けを求めた。


「まあまあ慌てないでミリア。どうせ今から教えるんだから」


 マリンダ先生はコホンと一息ついた。


「ではまずはスタンライザーから始めます。これは対象に直接触れて雷を流し込む魔術です。お手本を見せるわね」


 マリンダ先生が人型の的に触れた。

 ビビビビビッ!

 的がパチリパチリと音を立てている。

 まるで拷問用魔術だな。


「これがスタンライザー。コツはあらかじめ雷がどこを流れるのか明確にイメージすることね。雷魔術は制御が難しく、流れる経路を明確にしないと、最悪触れている自分自身にも雷が流れ込んでくるわ。もし少しでも痛みを感じたらすぐに魔術を停止してね」


 ミスったら自分にあの電撃がくるのか。

 こ、こわいな。


「あんたビビってんの?」


「そりゃあビビるでしょ」


 適正診断でかなり痛い目にあったからな。


「ではやってみましょうか」


「ふん、わたしが手本見せたげるわ!」


 ミリアが自信満々に的に触れ、すぐに的にパチパチと電気が流れる。

 さすがはラスター家の子。

 雷魔術には絶対の自信があると見える。


「おー!」


 ささやかにペチペチと拍手をすると、自慢げな顔をしている。


「次はあんたの番よ!」


 俺は少しビビりながら的に触れる。


「失敗しても私が治癒してあげるからがんばってね!」


 マリンダ先生の治癒は魅力的だが、俺は痛いのは嫌いです。

 自分には間違っても電流が来ないように、人型を電流がぐるぐる回るようにイメージする。

 痛くありませんように…せい!

 バチチチチッ!


「やった!」


「すごいわ!一発で成功するなんて!」


 マリンダ先生はうれしそうだ。

 しかしミリアは舌打ちしている!

 なんでや!


「ふん、少しはできるみたいね」


 なんだその敵キャラが言ってきそうなセリフは。


「スタンライザーは完璧ね!じゃあ次の魔術に移りましょうか」


 的から先生が離れていくので俺達もついていく。


「次はライジング。授業でも一度見せた魔術ね。雷による遠距離魔術です。この魔術は、一瞬で完結する魔術だから、一瞬で多くの魔力を込める必要があるわ。まっすぐに的に向かって魔力を放出します。こんな感じで…」


 マリンダ先生の指先から一筋の光が走る。

 的の中心は黒く焦げてしまった。

 恐ろしいスピードだ。

 これを見てから避けるのは師匠ライアンでも難しいだろう。


「この魔術はとても難しいから、できなくても挫けずにがんばりましょうね!」


 なんだか遠回しに俺にはできないと言われている気がする。


「ミリアはできるの?」


「当たり前じゃない!ラスター家はこれができれば一人前なんだから!」


 少し気分を害したようだ。


「見てなさいよ」


 ミリアの指先からライジングが放たれ、的に命中。


「おお~、お見事」


 ふふん、と鼻を鳴らすが満更でもない顔だ。

 どうやら褒められるのが好きらしい。

 単純なヤツめ。


「あんたもやってみなさいよ。わたしより威力が高いライジングが打てたら、あんたのこと認めてあげるわ!」


 認めてあげるってなによ。

 まあいい、乗ってやろう。

 しかし正直一瞬過ぎて威力がどんなもんなのかよくわかんなかったな。

 どうせ次の一発で本日の一日三魔は終了だし、かなり強めのをぶっぱなすか。

 イメージは手から落雷。

 その後、『くっ、魔力切れか…』と息を切らして跪く。

 よし、このプランで行こう。


「オッケー、行きますよ~。フン!」


 カッ!!とまばゆい光が視界を埋め尽くすと同時に『ドゴオォン!!』という凄まじい轟音が響き渡る。

 視界がぼやけ、キーンという耳鳴りがうるさい。

 それに混じってガラガラと何かが崩れるような音がする。

 段々と目が見えてきた。

 的がなくなっている。

 それどころかその後ろの分厚い鉄の壁が崩れ、大きな穴が開いている。


「あ、やべっ…」


 どうしよう、これ。

 後ろを振り返ると、尻もちをついたミリアと、茫然としているマリンダ先生。


「なんだなんだ!何があった!!」


 音を聞きつけたのか、開いた壁の穴からマイク先生が現れた。

 そして俺達三人は事情聴取に校長室に連行されたのであった…。

次話、明日0時更新します。

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