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王立アベノ学院入学




「師匠!今までお世話になりました!」


 俺は今、カーマイン家の屋敷の前でお別れの挨拶を行っている。

 ライアンとアンナさん、そして執事とメイド達だ。


「アンナさんとアルベルトさん達も、今までありがとうございました!」


 ちなみにアルベルトとは、カーマイン家の執事を務める男である。

 他のカーマイン家のみなさんはすでに朝から仕事に行っている。


「またいつでも遊びに来てね、キラ君」


 アンナさんはいつでも優しい。


「はい、暇になったら師匠に一太刀浴びせに来ます!」


「十年早いわ」


 結局俺は師匠ライアンに一発かますことはできなかった。

 だがその過程で、反射神経の強化を体得した。

 ていうか目の前であれだけ超反応されれば、さすがの俺も感づく。

 師匠が反射神経の強化を使っていたことに。

 気づいて試せば、すぐできた。

 俺の『一日三魔』は、一度見てさえいれば、イメージできる魔術は使用できる。

 とはいえ反射神経の強化はイメージするのに苦労した。

 今の俺はだんだんと強くなってきた実感がある。

 特に、師匠との稽古で剣術を学べたことも大きい。

 俺の魔法は一日三回まで。

 その手数の少なさを剣術でカバーできたかもしれない。


「キラ様、またいつでもお越し下さい。

 ライアン様は基本暇ですので」


「アルベルト、その言い方はなかろう」


「でもお義父様、キラ君と稽古しているときは楽しそうでしたよ?」


「あのように生き生きとされたライアン様は久しぶりでございます」


「てことは師匠も普段は普通に年寄りなんですね」


「誰が年寄りだ馬鹿者!いいからとっとと行け!」


 俺もこの一か月で随分この家の人間と仲良くなったものだ。


「ではいってきますみなさん!」


 俺はみんなに見送られながら屋敷を後にした。

 今日は待ちに待った王立アベノ学院の入学式である。








 入学式には、およそ百人くらいの人が集まっていた。

 ちなみにみんな私服である。

 フリーダムな学院だ。

 だいたい男女比は男が七、女が三ってとこだ。

 そのほとんどが人族で構成されており、それ以外は獣人族っぽいのが二人だけだった。

 始めに校長の白い髭がチャーミングな、ルイスなんちゃらとかいうおじいさんが挨拶とした。

 正直何言ってんのかイマイチ聞こえなんだ。

 彼が喋っていたのは実際五分くらいだろうが、体感時間は三十分。

 その後、レオナルド・グランドーなる男が、学院の詳しい説明を始めた。 

 気になったセリフは、『この学院には貴族や平民、多種族の人々が、同じ立ち位置で学ぶ場所です。学院内では外での家柄・地位は忘れ、同じ学友としてお互いに学び合う姿勢を常に忘れないように。また、学院内の風紀を著しく乱す者は、誰であろうと退学にする場合があります。その際、入学金の返金は一切行いませんので、あらかじめ肝に銘じておくように。』だ。

 ってことはあれだ。

 生徒同士はため口でいいんだよな?

 正直なところ、この世界に来てからあった人が年上ばかりだったから、結構きつかった。

 敬語は苦手なのです。

 疲れるのです。

 その後は、備品は壊すなだとか、所持品の管理は自己責任だとか、どうでもいい話だ。

 そんなことより俺は、後ろの男のひそひそ話に敏感に反応していた。


「おい、知ってるか?今年の新入生に『魔術の天才』って言われてる奴がいるらしいぜ?」


 おいおい、もしかしてそれ、俺の事じゃないだろうね。

 確かにパズには天才と言われはしたが、まさかこんな早く噂が広まるとは、パズめ。

 それともクリスから漏れたのか?

 もー、しょーがないなあ。

 もっとひっそりとする予定だったのに。


「やっぱ貴族か?」


「ああ、グランドー家の男らしい。今あそこで説明してる人の息子らしいぜ」


 あ、俺じゃなかった。

 なにこれ、俺馬鹿みたい。

 おっさん、クリス、疑ってゴメン。


「なんでも炎、氷、雷の三属性全部に適正があるらしいぜ」


「なんだよそれ、モテモテじゃねーか」


 モテモテ?

 魔術ができるとモテるのか?

 それともなんかの専門用語か?

 俺もできますよ、きっと!

 一日三回だけだけど!


「お、説明終わったみたいだぜ」


 お、やっと終わったか。


「では最後に、寮に入る方の案内をします。男性は私に、女性はあちらの教員について行って下さい。それ以外の方は、今日はこれで解散となります。学院の見学などしたい方は、女子寮に近づきすぎると命に保証はできませんのでお気を付けください」


 女子寮に近づいてはいけない、今はこれだけ覚えておこう。






 寮の一人部屋はかなりいい部屋だった。

 小春亭とよりも広い。

 家具などの持ち込みは自由。

 ただし壁に穴を空けたりはするな、と言われた。

 ポスターとかは貼らないほうが良さそうだ。

 いや貼らんけど。

 少しづつ俺好みの部屋にカスタマイズしていこう。

 その後、食堂などの場所はチェックしておいた。

 なんだか新しい生活が始まると思うとワクワクする。

 魔術を習いに来たんだけど、まあ少しぐらい楽しんでも大丈夫だろう。

 明日からの授業が楽しみだ。

 友達百人できるかな…。





 そんな風に考えていた時期が俺にもありました。

 現実はだいぶ違っていた。

 案内書で指示されていた教室に入った俺は衝撃を受けた。

 みんな知り合い同士で固まっていたからだ。

 会話も弾んでいる。

 あそこに入り込んでいく勇気は、残念ながら俺にはない。

 空いてる席は一番前しかない。

 ち、ちくしょうめ!

 いいさ、俺は魔術を習うために学院に来たんだ!

 べ、別に友達作りに来たんじゃないんだからね!

 一人だって寂しくないんだから!

 早く来いや教師!




 そんな俺の願いが通じたのか、教師らしい人はすぐに現れた。

 コンコンと教壇と叩くとうるさかった教室が静かになった。


「全員揃ってるみたいですね。私の名前はマイク・ラスター。担当は強化術です。みなさんよろしく」


 五十歳くらいの男性だ。

 なんとなくだがいい人そう。


「今日はまず、みなさんが授業を選択する際に、最低限必要なことを教えます。何を選択するか、おおよそ検討をつけている人がほとんどだと思いますが、私の話の後でわからないことがあったら質問して下さい。」


 なんにも知りません、教えてください。


「まず、この学院で教えている授業は六つです。剣術、槍術、炎魔術、氷魔術、雷魔術、そして強化魔術。

 剣術は、王宮警備隊、王都警備隊の標準装備が剣ですので、これらの仕事に就きたい方にお勧めです。

 槍術は、ベルベゴート軍の兵士の標準装備であるため、軍志願者にお勧めですね。槍は他の武器よりも間合いが広いので、武術初心者にも適しています。

 炎魔術は、人族の一番適性の高い魔術である点から、今使えなくてもとりあえず受けてみるのがいいでしょう。習得すれば軍の火炎部隊からお声がかかるかもしれません。

 氷魔術は、使い手の多い炎魔術の対抗手段として有効ですが、習得できる人が少ないことが特徴です。

 雷魔術は、学院の授業の中で最も習得率が低い、難しい魔術です。しかし、一対一の勝負に置いて無類の強さを誇る強力な魔術です。これをマスターできれば他の魔術はいらない、とさえいう人もいます。

 強化魔術は、一般の人でもいつの間にか習得していることもある魔術で知られていますがが、強化といっても、ポピュラーな身体強化の他にもいろいろな種類の強化があり、これらをうまく使いこなすことができれば恐ろしいまでの戦闘力の上昇が見込めます。

 当学院では、七日間を一つのサイクルとし、その内六日間の間に授業を行います。一日に行う授業は一つのみです。全ての授業を選択すると、七日間で休日は一日。逆に一つしか選択しなければ七日間の内、休日は六日となります。ただ、みなさんお金を払って授業を受けに来ているのですから、なるべく多くの授業を選択するべきでしょう。

 もしも、途中で受けたくなくなった場合は、その授業担当の教師に言っていただければ、次から受けなくても構いません。

 ここまでで何か質問はありますか?」


 物凄い情報量だったが、疑問が一つある。

 聞いちゃおうかな?

 聞いちゃおう。


「はい」


「はい、どうぞ」


「知り合いの冒険者が『魔力の物質化』とかいうのをやってたんですけど、それはどの部類の魔術なんですか?」


「物質化魔術については、現状詳しく解明されておらず、意図的に習得することは今のところ不可能と言われています。

 氷魔術に優れたものは水のない空間に氷を作り出すことができることから、氷を魔力で物質化したのではないかという学者もいます。

 物質化の他にも、エルフが使うとされている風魔術や、魚人族が使うとされる水魔術などは、未だ人族には理解が及んでいないものです。

 その昔、王都の壁を作ったという偉大な魔術師や、剣を魔術で作る鍛冶屋などがいたらしいですが、その技術を真似できたものはいません」


「なるほど、ありがとうございました」


 どっちかというとエルフという単語に反応してしまった。

 ごめんよマイク先生。


「他に質問のある人はいますか?いなければ、今から用紙を配りますので前の人は後ろに渡してください。その用紙に名前と受けたい授業を書いたら提出して下さい。

 選択についてアドバイスが欲しければ、手を挙げてください」


 ふむ、どうしようか。

 魔術は全部取るとして…。

 槍術はいらないかな。

 もう剣術始めちゃってるし、どっちもなんて器用な真似は無理だ。

 というわけで槍術以外は全部取ることにした。

 ちなみに授業の順番は、炎・氷・雷・強化・剣・槍・休日のサイクル。

 俺は槍術は取らないので、剣術が終われば二連休だ。

 明日は炎魔術の授業の日。

 楽しみだ。







 炎魔術の授業は、新入生はほぼ全員受けているようだった。

 授業の始めは、魔術を使うときの注意点。

 炎魔術の練習をする際は、必ず外で行い、バケツに水を汲んできてからやるように。

 結構めんどくさい。

 まずは木材を燃やす練習から。

 残念なことに呪文を詠唱すれば使えます、とかではなかった。

 バケツの上に木材を置いて、両手を木材に向ける。

 木材の表面の一点に集中して、温度を上げることと、頭の中で火をイメージしながら両手から魔力を放出。

 この魔力の放出のイメージがポイントだそうだ。

 実際に燃やすことができれば合格。

 午後の実技の練習に参加が許されるそうだ。

 炎魔術担当のルアン・ドルベール先生は簡単に木材を燃やしていた。


「ではみなさん、やってみて下さい」


 言われた通りにやってみる。

 すると簡単に火をつけることができた。

 どないや!と思って周りを見たら、他にも結構できている人がいた。

 俺が密かに期待していた高校デビュー、いや、学院デビュー作戦は失敗。

 まあいい。

 できた人は先生に名前を言って、後は昼休みまでこの練習を続けなさいと言われた。

 冗談じゃない、俺の魔法はあと二回しか使えない。

 俺はその後は水晶玉に何かを見出そうとする占い師のごとく、ひたすら木材を見つめて時間を潰した。




 食堂で昼飯を食い、午後からは実技の授業。


「では、午後からはこの二十名でファイヤーボールの練習をします。まず、手本を見せるので見てて下さい」


 ルアン先生の手のから少し離れたところに、小さな火の玉が現れた。

 これがファイヤーボール?

 ちっさ!


「最初は小さいものでいいので、さっきの木材のように一点に集中して、何もない空間に火を作り出すようにイメージして下さい」


 先生のファイヤーボールが段々と大きくなってきた。


「火の玉を作り出すことに成功したら、今度はもっと大きなファイヤーボールを作ってみましょう。炎を大きくするコツは、魔力の流れを切らさないようにすることです。人の頭部くらいの大きさまでできれば次のステップ。そのままファイヤーボールを作っている魔力ごと勢いよく放出して、あちらの的に飛ばして下さい。的に当たれば合格です」


 先生の大きくなったファイヤーボールが的まで飛んで行った。

 か、カッコいい…。


「では、始めて下さい」


 なるほど、魔力を流れっぱなしにするイメージにすれば大きさを自由に変えられるのか。

 おお~これはおもしろい。

 ちょっと大きすぎるけどまあいいだろう。

 これを的に向かって……。


「ふん!」


 なかなかな速球でファイヤーボールが飛んで行ったが、的を外れて後ろの壁に当たってしまった。

 壁が木製じゃなくてよかった。

 ゲッ!

 隣の奴が涼しい顔して的に命中させてやがる!

 負けてたまるか!


「先生!的に当てる秘訣とかありませんか?」


「発射する前に、自分の腕とファイヤーボールと的が一直線上になるようにしてから発射するといいですよ」


「なるほど!」


 右腕をまっすぐ伸ばして、左手で手首を支える。

 右腕自体がライフルになったようなイメージで狙いをつけて…。

 ボン!


「やった!当たった!」


「もう二人も成功しましたか」


「先生!」


「なんですか?」


「魔力切れなんですけどどうしたらいいですか?」


「え?そうは見えませんが…」


 え?普通は魔力切れたらどうなるの?


「魔力切れの人は、見学しているか今日はもう休んでも構いませんよ」


「じゃあ見学してます」


 その後の俺は、みんなが一生懸命ファイヤーボールを作ろうとしているのを、端で体育座りをして一人で見ていた。

 なんという疎外感。

 ……別に寂しくなんかない。

一人ぼっちは、寂しいもんな。

次話、明日18時でおじゃる。

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