第九十一話 英雄はこうやって作られる
バルカスの懸念はこうであった。
魔王戦時代の魔石が出ている、ということは、すでに魔法省が把握している。
それを踏まえた上で考えれば、魔王の刺客を倒せば似たような、あるいはより高純度の魔石が出る可能性が高いと踏む。
しかし、報酬を蹴って魔石だけ持っていても、いちパーティーにとっては宝の持ち腐れ。
そこで魔石を冒険者ギルド、あるいは商業ギルド経由で売れば、そこにマージンがあると推測するのは容易なことだとバルカスは考えている。
「……問題はよ、そこにヨウイチのパーティー加入が絡むことなんだ」
純粋に洋市だけを保護するなら、それは遭難者の今後を案じた冒険者の義侠心として理解される。
おまけに戦える能力があるともなれば、特段国が反対することもない。
しかし、魔王の刺客と戦うのに、Dクラスになって間もない冒険者、しかも遭難者出身の人材をあてがうのは理にかなっていない。
例えば、ネームバリューを求めた新人冒険者が商業ギルドの外国バイヤーと組み、ノアたちに法外なマージンを支払う代わりに、魔石を外国に売り払うという筋書きは十分あり得る。
Bクラスの冒険者は、国内外にその名を知られ、活動範囲や入出国審査もある程度の融通が利く立場。
冒険者の肩書を持ちながら、国境をまたぎ商売をしているケースもある。
ふう、とため息をついてバルカスが理屈をまとめる。
「こねくり回せば、つまるところ魔石の上がりを取るか、ヨウイチの身分を保障するか、ってところに落ち着く未来が見えるんだよ」
トゥイが補足する。
「知っての通り、魔石ってのは国の生活を支える財産で、どの国も良質な魔石だけを欲しがっている。魔王戦の惨禍なんてさ、僕自身も体感してないことだけど、それは他の国の国民や大臣、きっと国王なんかも同じ。だから、魔石の所在さえ決まって支払う報酬もないなら、どこぞの冒険者パーティーの事情なんか、きっと国もギルドもいくらでも目を瞑れるさ」
単純に、高価値の魔石争奪戦が国を挙げて行われるようになると、最悪の場合隣国との戦争も想定しなければならない。
それに加えて自国に新ダンジョン、それも魔王が絡んだものが出現したとなれば、資源確保に悩む国が勇み足を踏む可能性は十分ある。
それなら、せめて魔石だけは国内で押さえておきたいというのが、魔法省の内在的論理だとトゥイは説明する。
「とはいえさ、いちパーティー、しかもつい最近成果を挙げた人間に報奨を与えるとなると、魔法省だけじゃなくて内務省やギルドも慎重になる。しかもその内容がパーティー加入者の指定と国家権力からの保護。そりゃもう、その過程でヨウイチくんの素性もバレる、って話になるよね」
淡々と話してはいるが、トゥイは実働部隊が国の暗部であることも予想しており、内心は国に対するどす黒い感情が渦巻いていた。
「……汚ねえ…って言えねえのが……辛ぇな」
セミーン自身、納得のいく説明だったこともあり、打開策が頭に思い浮かばなかった。
この論理だと、仮に魔石を魔法省に譲ったとしても、洋市に禍が降りかかるおそれがある。
ガッタは頭が爆発寸前だったが、洋市と亜希を何とかして助けたいという気持ちから、せめて話だけは最後まで聞こうと歯を食いしばっている。
マンナは何か考え込んでいる。
『どうしてもダメだったら……頼るしかないか、時期尚早だけどね』
考えを口にする様子はないようだ。
全員が、レゾルグ王国という国の事情、冒険者ギルドという組織の事情に絡めとられ動けない中、ノアは覚悟を決めてバルカスに対案をぶつけた。
「……じゃあ、バルカスさんが手柄をかっさらってくれませんか?」
「……はあ!?」
まさか俺一人で魔王の刺客と殺し合いをしろ、という意味にもとれず、意図が理解できないバルカスは思わず大声をあげてしまった。
ノアが続ける。
「魔石もバルカスさんにお渡しします。ギルド絡みの報酬があるなら砦側がもらってください。その代わり、私たちはヨウイチとアキちゃんをもらいます」
そこまでの逸材なのか、と、バルカスはノアたちの覚悟を再評価する。
同時に、自分が事務仕事で助けられた恩もあり、ひょっとしたら洋市は勇者レベルの逸材の一人なのかもしれないとさえ思ってしまう。
トゥイは横で聞きながら『悪くない話だ』と検討し始め、ノアに説明を促す。
「ノアっち、詳細を聞かせて」
ノアは息を大きく吸って吐いた後、自分の考えを一気に伝える。
「バルカスさんには、新ダンジョン候補の『安全確認のための二次捜査』として、私たちアサンの水源を率いてもらいます。ヨウイチとアキちゃんも一緒です。この時点ではダンジョンブレイクの兆候があるという形で話を上に通してもらい、バルカスさん含め最小限のメンバーで再アタックするという認識です。魔王の話は一切出しません」
ノアが続ける。
「その後、第二層の『未知の異常階層』に突入し、魔王の刺客と遭遇、その後対処し魔石を確保。ギルドとの交渉でヨウイチ、アキ両名の身分保障が終了した段階で、報酬の調整が終わり次第、報告書を国に提出する流れで」
バルカスは、あぁ、と息を吐いた後、再び頭を抱えて脂汗をにじませる。
「……俺に“偉くなれ”って言ってんのか?」
バルカスは眉間にしわを寄せて、ノアの意図を見極めようと睨みを利かせる。
ノアはバルカスの意見を一部否定する。
「階級の話は分かりません。私はただ『国に頼らず自らの機転で災害を防いだ英雄』になって欲しいって言ってるだけです」
トゥイは吹き出し、バルカスに声をかける。
「いいじゃないっすかー、有能な守備隊長がいるなら、この砦にもいっぱい冒険者が来ますよー」
バルカスは青筋を立ててトゥイを睨む。
「……テメエ……他人事だと思って……!!」
バルカスとしては、老い先短い自分が捨て駒になるのは一向に構わなかった。
しかし、誰かの正義を自分の名誉だと言い張るのは、どうにも腸がかき回されるようで気に入らなかった。
トゥイがノアの提案を支持する。
「実際、僕はいいと思うんですよ。軍務省はもちろん、早めにダンジョン認定したい内務省にとっても悪い話じゃない。軍の編成を待たずにCクラスパーティーと調査に出かけて、そこで大手柄を立てたとなれば、たとえヨウイチ、アキ両名がポーターとしてそこにいたとしても、クラスアップ含め何らかの褒賞をギルドは用意すべき、という雰囲気になる」
バルカスは沈黙する。
それを見てトゥイが続ける。
「魔石を自国にもたらしたのが自国の兵士で、パーティーがその補佐をした、ってだけなら、まあ……Bクラスへのクラスアップも妥当じゃないですか。魔法省は被害ゼロでホクホク、軍務省は名誉を得てイケイケ、内務省はダンジョン認定できてウハウハ。パーティーに遭難者上がりの冒険者が二名加わったところで、誰も気にしない。そして砦にもいくばくかの報酬が入る」
「……あとは、砦の予算から冒険者への報酬を工面すればいい……ってか?」
トゥイとバルカスの間で、一つのシナリオが共有された。
最後にノアが締める。
「“剛悪のバルカス”の異名、久々に見せてください!」
調子のいいこと言いやがって。
バルカスは昔を思い出しながら、ノアの眼差しの奥に映る自分の姿を見て苦笑した。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。
これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。




