↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/145

第八十九話 帰ってきた、ひと時の日常

 洋市の部屋。


 トン、トン、トンと、包丁がまな板に当たる音。

 亜希は鼻歌を歌いながら、キッチンを借りて野菜を切っている。


 洋市は自分の部屋のデスクに陣取り、パソコンと向き合い、記事の優先順位を再確認する。

 次に、生成AIに独自のプロンプトを打ち込み、構成案を急ピッチで作成する。


 電子レンジの音が鳴る。

 豚肉の解凍が終わったようで、亜希は鍋に油をひいてジュージューと炒め始める。


 キーボードが忙(せわ)しなく音を立てる。

 出力された構成案をもとにAIがドラフトを作成した後、それを洋市はプロの目で見極め、資料や参考URLと付け合わせてリライトを行っていく。


 亜希はいったん炒めた肉を皿に戻すと、その中に油を少し加え、焦げを油に溶かしていく。

 流水解凍したオニオンソテーを鍋に入れ、乱切りした人参とじゃがいもを加え、再度炒める。


 洋市は誤字脱字、違和感、文法、センシティブな表現などのチェックを目視で行い、AIにいったん記事評価をさせて目視のアラを洗い出す。

 記事のデータを保存し、バックアップフォルダに同じファイルが残っていることを確認して、二本目の記事作成に取り掛かる。


 すでに亜希はビール一缶を鍋に入れており、調味料棚にあったコンソメや冷蔵庫のニンニク、ショウガ、どこから見つけたのかローレルなどを入れて、ぐつぐつと煮込んでいる。

 焦げ付かないよう、定期的にシリコンのヘラで攪拌する。


 洋市は、一記事目と同じ手順で、二記事目の原稿を途中まで作成する。

 すわこれから仕上げ、といったところで、亜希が火を止めて洋市を呼びに来た。


「洋市さん、できました! 渾身のビール煮ですよ!」


 かなりの自信があるようで、軽く汗ばんだ顔は、洋市が知る限り、ここ最近で一番清々しいように思える。


「ありがとうございます。鍋敷きにはそこの通販雑誌を使ってください。今お皿と食器を用意します」


 亜希が鍋を配置している間、洋市は自宅の利を活かし、テキパキとローテーブルにスプーンとフォーク、多少底の深い取り皿を並べる。


「ビールは一本残ってますか?」


 洋市が亜希に聞く。


「はい! 洋市さんの分はちゃんとありますよ!」


 洋市は仕事と送迎があるので、今度飲むのはいつだろうか、と思った。




「「カンパーイ!!」」


 ロックグラスに炭酸水を分け合い、洋市と亜希は無事生きて帰って来られたことに乾杯した。

 ゴクゴクと喉を鳴らし、わずかな炭酸の爽快感を味わう。


 飲み終わりとともに、洋市は壁掛け時計に目をやる。


 午後六時二十分。


 これから食事を終えて、須田市の繁華街まで車で向かうなら、約十五分といったところ。


『午後八時の出勤に……間に合うか?』


 洋市は亜希に、出発前にシャワーを浴びるのかどうか確認しようと思ったが、それも失礼かと考え言わずにいた。

 亜希は洋市の表情と、今日一日の忙しさから推測し、見事心配事を言い当てる。


「大丈夫ですよ、ビール煮は軽くいただいて、それからサッとシャワーに入りますから」


 洋市は、隣の部屋にいる間に亜希がさらわれないか不安を覚えたが、そこは亜希も同じだったようだ。


「一応、お風呂セットはバッグに入ってるので……」


「ああ大丈夫です。汚くなければ使ってください」


 もはや阿吽の呼吸で、亜希は洋市の部屋の浴室を使う許可を取り付けた。



『さて、それではさっそく……』



 取り皿によそったビール煮を、洋市がスプーンですくう。

 緊張の面持ちで感想を待つ亜希。


「……うまい!!」


 芳醇な香りとビールのほろ苦さ、そしてコンソメと野菜、肉が織りなす旨味の相乗効果が、洋市の舌に至福を届ける。

 塩気も決して強くなく、しかし口の中で存在感を主張する味わいに、洋市は一口で虜になりそうだった。


 洋市の率直な、しかし引力のある感想に、亜希は心から充実感を得た。


「美味しいですよね!? これ、二日酔いのときに食べたんですけど、飲むビールと同じもの使ってるとは思えないくらいグッとくるんですよ!」


 もし自分がお店を持つことがあったら、ビール煮の出品はマストだと熱く語る亜希。

 洋市もまた、自分の新しい扉を開いたような気持ちになった。




 美味しくビール煮をいただいた後、洋市は洗い物を片付けていた。

 亜希は浴室でシャワーを浴びている。


『人様にご飯を作ってもらうのも、なかなかにありがたいものだな』


 齢四十を過ぎて、二回り近く年の離れた異性に食事を作ってもらう経験はそうそうないと、感謝の気持ちを反芻(はんすう)する。


 つい数時間前まで、洋市は異世界でトチ狂った地雷系女子と命のやり取りをして、亜空間でゾンビを斬り伏せ、不意打ちのように登場した下世話なギャラリーから姿を隠していた。


 今は人間の姿で皿洗いをしており、残り時間も確実に減少はしているのだが、そんな非日常だらけの時間を過ごしたからこそ、こんな日常をしみじみと味わいたいと思った。


 洗い物を片付けた後、時計を見ると午後六時五十分。

 脱衣所から聞こえるドライヤーの音に、洋市も外出に備えて少しずつ準備を始めた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。

これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。