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☆第二章本編完結済/120話突破☆【ゴブリンマン】~40代限界フリーランスはゴブリンになっても人間味と仕事が欲しい~  作者: 広瀬
第二章 ゴブリンマン活躍編

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第八十七話 深まる謎、深まる関係

「……んと、もっかい最初から説明してくれる?」


「ですよねー」


 現代日本・須田市に無事戻ってきた洋市と亜希。

 ギャラリーに好き勝手言われ、スマホで写真を撮られていることに気付いた二人は、直ちに声も出さずにその場から逃げ出した。


 亜希を抱きかかえながら、神社の杜の方へと駆け抜けた後、何とか隠形で姿を隠して自宅まで帰ることができた。


 その後、SNSを確認しようと亜希がスマホを開いたところ、アプリ『アルトヤ界観光ガイド』から通知があった。

 内容を見ると、新機能・異世界チャットにおいて、ノアがチャット可能な状態になっているようだった。


 亜希は、新機能について洋市に説明する前に、とりあえずビデオ通話状態でノアとコミュニケーションをとろうと試みた。

 現在、ノアたちはダンジョンから脱出後、魔法で作った水鏡により、異世界間で洋市、亜希と近況を報告し合っている。


 あまりにも色々あり過ぎて、ノアも状況を理解し切れていない。


 洋市が再び、簡潔に状況を説明する。

 ノアもしっかり聞く姿勢を作る。


「ノアさんたちが追い出されてから、私はあの女性と逃げながら戦い、何とか首を刈れそうな状況にまで持って行きました。しかしそこで亜希さんに召喚されると、その亜空間にはゾンビが三体いたんです」


 淡々と、とんでもないことを言い出す洋市。

 鼻息も荒くせず、強さ自慢をしている様子はないので、おそらく事実だとノアは理解して話を進める。


「あ、あのさ、首を刈れそうな状況って……どうやってそうなったの?」


「後で説明します。それで、ゾンビを倒したところ、こちらの世界・須田市という私たちが住んでいる都市に戻ってきたので、今こうして亜希さんのアプリ……魔道具みたいなものの新機能で話せているというわけです。ここまではいいですか?」


 洋市は、どこか釈然としない表情のノアに理解度を確認する。


「うん……大筋は分かったと思う。ちゃんとイメージできてるかどうかは怪しいけど。うーんと、分かった!こっちからいくつか質問していい?」


 ノアは、今抱いている自分の疑問を洋市にぶつけることで、より理解度を高められると判断した。


「どうぞ」


 洋市も頷いて質問を受け付ける態勢であることをアピールし、問答が始まった。


「まず一つ目、ヨウイチはあの女に勝てたの?」


「結局とどめは刺せませんでした。油断を誘って催涙毒で動きを抑えたところで、亜希さんから召喚された形です」


「ふむ。次、二つ目、そのゾンビって、アンデッドのことでいいんだよね?」


「おそらくそうだと思いますが、こちらの世界に住んでいる人間の格好をしていたらしいので、私が戦った女性の部下というか、僕(しもべ)のような存在なのかもしれません」


 ノアが眼光を鋭くする。


「それだけで判断できる?」


 洋市はあくまで冷静なトーンで回答する。


「確度は高いと思います。彼女が自分が追い詰められた場合に備えて、亜希さんを人質にとろうとしていたのだと思えば筋が通ります」


「あーね、あーね」


 ノアは、亜空間の術理・特異性を鑑みると、洋市の世界で言う“地雷系女子”または魔王が亜空間を展開したものと考えていた。

 その仮説を洋市が補強する形で、事件の全体像がおぼろげながら見え始めていた。


 そして、ノアが洋市に最後の質問をする。


「三つ目、その女って、やっぱアキちゃんの同僚……ってことで間違いないね?」


 洋市は、ノアと亜希の緊張を肌で感じながら答える。


「はい。皆さんも聞いていたと思いますが、本人が自白した通りのようです」




『多分……ミナ……ちゃん……だ……』




 二人が話すのを見て、亜希はエミが教えてくれたことが事実だと理解し、恐怖よりもショックが勝った。


『私……どうしてあの子に恨まれてたんだろう……洋市さんのこと……どこで知ったんだろう……』


 洋市という、自分にとって絶対的な安心感を与えてくれる存在がそばにいることで、亜希は自分へのネガティブな想いを客観的に捉える余裕ができていた。

 同時に、なぜミナが異世界で洋市と戦うことになったのか、その背景についても考えを巡らせていた。


 泣き腫らした顔で、戸惑いを隠せない様子の亜希を水鏡越しに見たノアは、心を痛めながらも亜希に質問した。


「ごめんアキちゃん、一個聞かせてもらうね? 今ヨウイチが話したこと、心当たりある?」


 亜希は素直な気持ちを答えた。


「……私自身には心当たりはなくて、でも、職場の他の仲間とはそりが合わなかったみたいで。だから、みんなから助けてもらってる自分が疎ましかったのかな……って」


「え?」


 ノアもまた、亜希の話を聞いて素直に驚いた。


 亜希と直接の利害関係がない?

 それなのに、亜希や関係者への殺意を研いでいた?


 魔王と接点がありそうな女の思考回路が理解できず、再度亜希に質問する。


「あの、全然疑ってるわけじゃないんだけど、例えばアキちゃんの親族がその女が住んでる村を焼いたとか、家族を処刑したとか……」


「してません!!」


 現代日本における重犯罪を羅列されたことで、亜希は自分が何を疑われているのかと不安になった。

 しかしノアは、人間関係のもつれというただ一点だけで、人間種の女性が魔物に変わる動機になり得るのかが全く理解できなかった。


 ノアが質問の方向性を考えあぐねていると、亜希よりも多少人生経験を積んだ洋市が代わりに答える。


「ノアさん。私たちの住んでいる国は、どこか同調圧力が強いところがあるんです。自分よりも共同体の利益を優先する空気が、時に個人の自尊心を傷つけ、精神を病ませるほどに過剰な一面が」


「……なるほどね」


 ノア自身は冒険者として長くキャリアを積んでいたため、そのあたりの機敏に疎いが、各国を放浪する中で確かにそんな空気の場所もあったと思い直した。

 例えばエルフの里の中には、旧魔族に対するえげつない差別が今も残るところがあり、そんなイメージだろうとノアは一応の納得をした。


 これに対して亜希は、洋市の複雑な言い回しがあまり理解できなかったが、


「集団行動にミナが馴染めず、孤独感を強めたところを魔王にそそのかされた」


 という、自分の持論を洋市が支持したのだろうと理解した。


 亜希自身は、自分のせいでミナが追い詰められたのだとしたら、一度会って話したいという気持ちもあった。


 とりあえず、現状で確認できそうな情報を集めたと判断したノアが総括する。


「少し分かってきた。とりあえず、みんな奇跡的に無事で何よりだったわ。どうなるかと思ったよ……本当に……」


 気持ちが落ち着いたところで、ノアがほろりとなって涙をローブで拭う。


「他のみんなにも、ヨウイチとアキちゃんが無事だってことは伝えとくから。何か新しい動きがあったら……」


 亜希がノアの意図を汲む。


「はい、さっきお伝えした感じで、その水鏡? から『話したい!』って念を送ってくれれば、私のスマホにつながると思います!」


 ノアは亜希のスマホ画面越しに頷く。


「分かったよー。ごめん、みんなと話したいだろうし、みんなも話したいんだけど、ちょっと急ぎでやることできたから、水鏡消すね!」


 そう言うと、ノアは挨拶も早々に切り上げ、通話を切った。





「……何だか、悪夢みたいな一日だった……」


 洋市は、つい先ほどまで命のやり取りをしていたのを思い出し、背中を振るわせる。


「……そうですね……これから洋市さん、仕事ですか?」


 亜希は、社会人なら誰でも思いつくであろう、日本式の気遣いの言葉をかける。


「ええ……少し寝てから仕事しようと思います。とりあえず、火、水までにやらなきゃいけない仕事は一通り終わらせないと」


「じゃ……じゃあ、私帰りますね!」


 亜希は気を遣って、洋市の部屋から離れようとする。


「ここにいてください」


 洋市は、女子への声かけとしてはぶっきらぼうなトーンで、亜希を自分の部屋にとどめようとする。


「……えっ?」


 久しぶりの塩顔から、意図しない言葉をかけられて、少しドキッとする亜希。

 洋市が言葉の意味を補足する。


「勘違いだったらすいません。でも、一人でいるの、怖いんじゃないですか?」


 図星だった。

 戸惑いながらも、どこか胸の奥が暖かくなっていく。


「今日は私、疲れているので、きちんと起きられる自身がありません。夕方五時になったら起こしてもらえますか?」


 部屋にある壁掛け時計を指さしながら、表情を少しだけ柔らかくして、洋市は亜希に目覚ましを頼んだ。


「……はい!!」


 亜希はこみ上げる感情を抑えながら、満面の笑顔で返事をした。



 ──────────



「終わったのか?」


 セミーンがノアに確認し、ノアは頷く。


「これから忙しくなるよ、この国も、ギルドも、他の国もね。まずはバルカスさんに報告しないと」


 深くため息をついて頭を抱えるバルカスの姿を想像して、ノアは少し気が重くなるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。

これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。

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