第八十二話 食らっちまったよ
洋市は、宝箱の毒を吸ったことで、新たな毒をラーニングした。
しかし、この毒は毒魔法でどう活用できるのか、詳細が分からない。
ステータス画面を見ようか迷っているところを、アサンの水源メンバーが取り囲む。
「ははは、ヨウイチさんには毒が効かねえのか!」
「ゴブリンスカウトってそんなだったか?」
「ピロウリザードのときもそうだったけど……それもスキルの一つなの?」
「ヌヘハ……い、いや、ヨウイチそれ毒魔法でしょ!?」
ガッタは安心し、セミーンとマンナは疑問をぶつけ、ノアは正体を看破する。
洋市は緊張を緩和するため、あえてクイズ番組のテンションでノアを指さし、今は亡くなってしまった名司会者のトーンを真似た。
「その通り!」
思わず吹き出すノア。
その後すぐに首を振り、いやそうじゃないでしょ、と切り返す。
「毒魔法使いって、人間種がなるの難しいのに!いつ覚えたの?」
洋市には確証がなかったが、可能性の一つについて述べた。
「エビルスクワロルという、爬虫類の毒を持っている魔物を、お腹が空いてそのまま食べていた時期があるんです」
驚く一同だったが、ゴブリンスカウトの生態を知らないので、どんな顔をすればいいか分からない様子。
ノアは何か心当たりがあるのか、顔に手を当てて苦悶の表情を浮かべる。
「……十中八九それが理由ね」
「なんで分かるんですか?」
「そういうのが、毒魔法のスキルが発動する条件の一つなの」
洋市の疑問に対してノアが答え、そこから毒魔法についての解説が始まる。
「毒魔法の使い手は、自分の身体の中に毒を取り込んで分析して、いろんな毒を覚えていくの。だから毒の耐性を作れる種族じゃないとなれないのね。あれだっけ、セミーンってどうなの?」
洋市はセミーンに対する唐突な質問に少し驚いたが、セミーンは兜の中からくぐもった声でそっけなく答えた。
「毒魔法はできねえよ」
軽く否定した後、ノアの説明を補足するように続ける。
「ヨウイチ、俺はシーマンと人間種のハーフだ。父親は亀のシーマンだから、多少強い身体と胴体に引っ込められる首がある。で、総じて魔法や毒の耐性があるんだが……肝心の魔力がねえのさ」
そう言うと兜を外し、スキンヘッドの頭を鎧の中に出し入れして見せた。
筋肉の中に隠れたツルツルの頭皮だけが、肩の高さに見えるのはとてもシュールだ。
「あっ、それでオオカミに襲われたとき、兜だけが脱げたんですね」
洋市は砦防衛戦のとき、セミーンが兜だけをオオカミに噛んで落とさせたのを思い出した。
セミーンは当時の状況を思い出しながら答える。
「やっぱあの時にはもう手助けしてくれてたんだな。そうだ。首を兜ごと折ろうとしてたような力だったから、あえて油断させたんだ」
「では、魔力さえあれば毒魔法も?」
「うーん、そこは分かんねえな。スキルとしては使えるのがあるけど」
そう言うと、セミーンはお腹に力を入れるような動きをして口を膨らませ、空に黄色い息を吐いた。
すぐに空気を読んだノアが風魔法で浄化して、セミーンの意外なスキルに驚く。
「そんなスキル持ってたんだセミーン!私全然知らなかった!」
「言ってなかったからな。本気で使えば結構遠くまで飛ぶんだろうけど、毒性がよく分かんねえから戦闘では使ったことねえ」
ここで洋市のフリーランスとして培った提案力が光る。
「では、私が“食らって”みましょうか?」
セミーンは洋市の意図を見抜いた。
「あっ、そういうことか、あんたやっぱり頭いいな。ノア、やっていいか?」
ノアは縦に首を振ろうとして、少し躊躇した。
「うっ、うーん、それって間違いなく毒なのかなあ……?」
セミーンは自分のマジックバッグを下ろし、中から巻物のような書類を出してノアに見せる。
「これ見て確認してくれ。半年前のだ」
ノアは巻物の内容を見て、詳細を確認する。
「……あー、確かにスキル【催涙毒】って書いてるわ」
洋市は二重の意味で気になった。
巻物の内容と、催涙毒という毒種についてだ。
「すみません、話の腰を折るのですが、その巻物は……?」
ノアが弾けるような顔を見せて答える。
「あっ、ヨウイチは知らないか。えーとね、冒険者は定期的に『能力診断』ってのを冒険者ギルドで受けるの。現在の能力について端的に確認できるんだけど、その結果が巻物としてもらえるのね」
セミーンが自分のスキルについて簡単に説明する。
「こいつは昔、アサンシャっていう俺の故郷で遊んでた時に覚えたスキルでな、酔っ払いに絡まれて使ってたらレベルが上がっていったんだが、別に致死性はなくて動きを止めるだけで、しかも効かねえ奴もいるからあんまし使ってなかったんだ。獣人種とか人間種にはてきめんだけどな」
ガッタはセミーンの意外なスキルが、自分たちに通用するものと知って驚く。
「そんな危険なスキル持ってたのかよ!?」
「ああ……ただよ、実際に使ってみたらシーマンとか魔人にはほとんど効かねえな。他の種族はよく分かんねえ」
ここまでの話を聞いて、洋市は冒険者ギルドの能力診断では、スキルの本質までは分からないようだ。
しかし、洋市の場合、ステータスを開けばある程度詳細が分かる。
試す価値はあると思った洋市は、セミーンに再度提案した。
「では、やっぱり食らってみましょう。私は多少であればスキルの詳細や毒の種類が確認できます」
セミーンは洋市の発言に目を光らせる。
「へえ……じゃあ頼もうかな。将来性があるなら使い込むからよ」
話が進んできたところで、マンナは自分のポシェットから札を2枚出す。
「一帯のアンデッドはやっつけたと思うけど、一応結界を張りましょうか」
そう言うと、マンナは現在パーティーがいる、かつて店だった建物の中で、二枚同時に札を発動させた。
すると、建物内の淀んだ空気が浄化されたように感じ、外から見る風景に比べて店の中が小奇麗になった気がした。
「じゃ、始めてちょうだい」
洋市は部屋の端へ、セミーンは鎧兜を脱いでもう一方の端へと立つ。
他の三名はセミーン側の壁際へと下がり、洋市から十分に距離をとって状況を見守る。
「行くぞ!」
セミーンの腹が一気に膨れると、口からまとまった黄色い霧が吐き出され、強烈なシャワーのように洋市へと向かう。
洋市がそれを全力で受け止めると、なんと激しい症状に襲われてしまった!!
「グハァッ!!ゲホッ、ゴホッ……!!」
洋市は、これまで吸収してきた毒とは違う激臭と、未だ経験したことがない辛さに鼻と喉をやられ、まったく動けなくなってしまった。
予期せぬクリティカルヒットを食らわせてしまったセミーンは焦って駆け寄り、ノアは慌てて周囲を風魔法で浄化しつつ、洋市を水魔法でケアする。
水の大きな玉が洋市の顔を覆い、洋市はその中で鼻や口を洗浄された後、軽くせき込みながら呼吸を整えていく。
「す、すまねえヨウイチ!まさかお前に効くなんて……」
他の三名も戸惑いを隠せない。
しかし、洋市はステータスを早く見たくて仕方がなく、メンバーが取り囲もうとするのを手で制して言った。
「だ、大丈夫です皆さん、ラーニングできたか確認するので、少しお待ちください」
息がちゃんとできるようになった洋市は、胸の紋章に左手で触れ、久しぶりにステータスを確認した。
そこには、洋市が思っていた通りの情報と、洋市の想定を上回る情報が記載されていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ページ下部からの評価(☆)、ブックマーク、ご感想など、いつも大変励みになっております。
これからも『ゴブリンマン』をよろしくお願いいたします。




