第八十一話 宝箱レクチャー
亜希が外出の準備を進めている頃。
アルトヤ界・死闘の森にできた新しいダンジョン。
洋市は、ノアの大規模魔法によって生まれた魔石・素材を集めているところだった。
討伐直後は回収方法をどうするのか思いつかなかったが、ノアは風魔法で周囲の魔石を器用に集め、洋市のそばにまとめた。
ノアが洋市に確認する。
「前と同じでさ、魔石はそっちにあげるから、素材はこっちで集めていい?」
洋市は素材の活用方法も価値も知らないので、純粋にありがたかった。
「助かります!亜希さ……アキも喜ぶと思います」
亜希がいない場面で、亜希のことをどう呼ぶべきか迷ったが、洋市は同じ職場で働く設定を思い出し、少し申し訳なく思いながら呼び捨てにした。
「いいっていいって、こっちも実入りがあるしね」
そう言いながら、再度風魔法で素材をガッタ、セミーンの方へ集める。
こうして、洋市は魔石を、ガッタとセミーンは素材を、それぞれのマジックバッグに収納した。
マンナは周囲を警戒するが、どうやらもうモンスターは出現しないと判断し、ノアに提案する。
「ノア、宝箱は漁る?」
ノアは少し躊躇したが、すぐに頷く。
「そうね、みんなで探せば怖くないでしょ。ヨウイチもいい?」
洋市は、宝箱を探すことのリスクについて知らなかったが、ノアたちがいいなら問題ないと判断した。
「私が邪魔にならないなら」
じゃあ決まりね、と言ったノアはニコリと笑い、魔石・素材を収集し終わったパーティーを集める。
「セミーン、時間見てくれる?」
ノアの指示で、セミーンがマジックバッグから魔時計を出す。
「今十二時だな。戦闘と回収で割と時間食っちまった。第二層からアンデッドって珍しいよな?街の跡ってのもそうだしよ」
「そうだね。今日はいったん見える範囲で宝箱回収して、無理しないで戻ろうか」
ノアの判断に全員が同意し、再びノアを中心に十字の隊列を組み、遺跡のような街を探索する。
商人か、あるいは貴族が住んでいそうな屋敷はなく、民家サイズの建物ばかりだが、一行は道具屋らしい建物を見つけた。
マンナが自分の推測をメンバーに伝える。
「このダンジョンで宝箱があるとしたら、こういうお店の類だと思う。ただ、あくまでもダンジョンだからトラップはあると考えてね。まずは私が入るわ。ヨウイチさんは私の後ろについて」
言われた通り、マンナの背中について仕事を見学する洋市。
まず、マンナは道具屋のドアノブや、ドア全体の建付けなどをチェックする。
物音をドア越しに確認した後、問題ないと判断してゆっくりと扉を開く。
道具屋には、割れたポーション瓶や汚れた靴、本、絵の描かれた巻物のようなものが散乱していた。
洋市がマンナと一緒に中に入り、周囲をよく観察すると、カウンター奥に輝く箱があった。
『あれが宝箱か』
廃墟にはふさわしくない、煌々と輝きオーラを放つ箱。
何かが入っているのは間違いなさそうだが、逆に罠を疑うほどに怪しく見える。
「そのまま開けていいんですか?」
洋市がマンナに尋ねる。
「ヨウイチさんなら開ける?」
「開けません」
洋市が、あからさまな怪しさを感じた旨を説明すると、マンナは素早く頷いた。
「賢明ね」
そう言うと、マンナはガッタ、セミーン、ノアを呼び、宝箱近くで陣取らせた。
「ヨウイチさんはノアの後ろにいて。私が宝箱を蹴るから、その後の対処をよく見ててね」
洋市が配置につくと、マンナは勢いよく宝箱を蹴飛ばした!
「イテェ!?」
宝箱は、まるで人間の言葉をしゃべるようにリアクションし、セミーンのそばに飛んで行った。
「袋叩きだ!」
セミーンの指示のもと、ガッタは剣で宝箱の中を突き刺し、ノアは火魔法で宝箱を燃やす。
「グアアァァ……」
断末魔のような声を上げた後、宝箱はほどなくして燃え尽き、その跡にはネックレスが落ちていた。
セミーンが見た目を確認すると、すぐにバッグへと収納する。
洋市は、マンナたちの慣れた対応に驚きつつ、誰にともなく罠の素性を聞いた。
「こ、これは、どういうことですか?」
マンナが罠について説明する。
「宝箱の罠は、大きく分けて二種類あるの。中に毒やトラップが仕込まれているケースと、宝箱自身がモンスターであるケース。鍵が付いている宝箱があるんだけど、これはダンジョン内で鍵を見つける必要があるわね」
ま、斥侯ならスキルで開けちゃったりするんだけど、と独り言ちてマンナが総括すると、セミーンが宝箱について解説する。
「そもそも宝箱に入ってるものは、基本的に値打ちもんだ。ポーションとか瓶ものが入ってる場合もあるが、宝箱は開けるまで中身を守るもんだから、多少乱暴に扱ったって中身に影響はねえ。で、手っ取り早くモンスターかどうか把握するなら、ダメージを与えるのが楽ってわけだ」
洋市にはまだ疑問があった。
「でも、毒とかトラップがあったらどうするんですか?蹴ったら飛び出しませんか?」
「そこでノアの出番なんだ」
セミーンは、洋市の質問に対する回答をノアに引き継いだ。
「もしトラップが発生したら、いったん土魔法か水魔法で宝箱の周囲を覆うの。んで、罠の中身を確認してから毒なら消滅させるし、トラップなら潰して終わり!」
ノアが話した、パーティーで宝箱の罠に対処する技術に、洋市は目から鱗が落ちる思いだった。
「説明ありがとうございます。パーティーで協力体制が築けているんですね」
「そんな大層なもんでもないけどね。色々やってみて、これが効率良かっただけだから」
マンナがふふ、と笑いながら補足する。
「一応、見極めのコツはあるの。これから色々なお店を見て、宝箱ごとに一緒に確認しましょう」
その後、一行は酒場、武器防具屋、菓子屋、八百屋など、店らしき雰囲気の建物を一通り見ていく。
探索中、マンナは洋市に宝箱の見分け方をレクチャーしていく。
「……ほら、留め具が錠前みたいになってるでしょ?こういうのは少なくともモンスターの可能性はないわ」
洋市が宝箱の前にある、天板と身の間にある留め具を観察すると、確かに先ほど討伐した宝箱には付いていなかったように感じた。
「なるほど、逆に留め具自体がないのがモンスターだと」
「そうそう、大事なものが入ってるのに、鍵も留め具もないのっておかしいでしょ?」
一つひとつ、論理的に、宝箱の構造について洋市はマンナから説明を受けていた。
その様子を見ていたガッタがノアに話しかける。
「なあ、マンナはヨウイチさんをウチに入れるつもりなのかな?」
懇切丁寧な説明をしている様子は、ガッタの感覚だと、普段のどちらかといえばドライなマンナにそぐわないと思っていた。
「うーん、私はいいけど、アキちゃんどうすっかなあ……」
「だよなあ」
ガッタとノアは、率直に言えば戦闘に関して亜希の存在を『足手まとい』だと思っている。
魔道具を使わなければ会話が成立しないし、一人で戦える能力も持っていないので、臨機応変に戦闘を任せられないからだ。
その点を踏まえれば、洋市と亜希が二人で手の届く範囲で冒険者をする中で、あくまでもゲストパーティーとして一緒に活動するくらいがいいというのが、ガッタのノアの見解である。
もっとも、洋市だけをスカウトするのであれば、その限りではない。
一方、セミーンはダンジョンの構造について思考を巡らせていた。
『第二層からアンデッドってのが珍しい。バンパイアワイバーンも出てこない。ダンジョン構造がなぜこう変わる?つい最近までバンパイアワイバーンが外に出ていたなら、第一層からワイバーンたちと戦っていてもおかしくなかった。やっぱり遭難者のイレギュラーか?』
ダンジョンのセオリーを覆す層の構造に、セミーンは少し困惑していた。
同時に、事情が分からないうちは、少しでも情報を集めて帰還することを優先した方がいいと気を引き締める。
一通り宝箱のレクチャーが終わった後、洋市は宝箱を開けるのにチャレンジした。
「さっき説明した通り、ゆっくり開けて、臭いや煙、眩しい光を警戒して。何かあったら私がサポートするから安心して」
「はい!」
気合いを入れて、洋市はゆっくりと宝箱を開ける。
すると、紫色の煙が出始めた。
「離れて!」
マンナの指示とともに横へ飛びのく洋市。
しかし、その際に宝箱に足が当たってしまい、開いた宝箱から出た煙がマンナへ向かう!
「マンナさん!」
自分のミスを直感し、思わずマンナをかばうようにして毒の煙から守る洋市。
煙が洋市の身体に絡みつく。
「ヨウイチ!」
「ヨウイチさん!」
パーティーの面々が洋市の安否に注目する中、洋市はその毒をすべて吸い込んだ。
> 宝箱「罠毒」を吸収
> 毒魔法リストに「罠毒」が追加
『……罠毒ってなんだ?』
毒を真っ向から吸い込んでも何ともなさそうな洋市を見て、マンナ、ガッタ、セミーンは胸をなでおろし、ノアは目を輝かせていた。
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